食を通じた世界征服を企んだブンドル団の野望を阻止し、世界を救ってプリキュアの役目を果たし終えた菓彩あまね。彼女は高校生に進学していた。
成績優秀で人望に厚く中学で生徒会長を務めていたあまねは、高校でも次期生徒会長の最有力候補とみなされている。そんな彼女だが、プライベートではとても気にしていることがった。
「なあ、品田。お前はいつになったらゆいと付き合う様になるのだ?」
11月のある日の放課後。下校途中の道であまねは品田拓海に尋ねていた。
品田拓海と和実ゆい。1歳差の幼馴染男女がいつ恋人同士になるのか。プリキュア時代からずっと気になっているところだった。気になったまま、進展したという話も聞かず、高校に入学して半年が経過していた。
拓海はあまねの言葉が聞こえていないふりをして歩き続けていた。
「プリキュア後輩の犬飼いろはと兎山悟は特別なわんだふる。つまり、恋人同士になったと聞くぞ。お前たちはどうなんだ?」
「うぐっ!?」
中学2年生の後輩たちが付き合い始めたという話が出て拓海はよろけてしまった。
片想い男子の後輩が、いつの間にか前に出ていた。拓海のダメージは大きかった。
「それで、いつ付き合うんだ?」
「分かんねえよ」
プリキュアを助けた謎の戦士元ブラックペッパーは不貞腐れた声を出した。
「ゆいはお前に懐いている。後はお前が告白すれば良いだけだろうが」
「そんな簡単な話じゃねえんだよ……」
少年は俯いたまま愚痴った。
ゆいが拓海に心を許しているのは誰もが認めるところ。だが、幼馴染で距離が近過ぎてゆいは拓海を異性としてなかなか認識しない。一人っ子である彼女にとっては兄ポジションの存在となっていた。
「大体、ゆいは今受験生で勉強に集中しないといけない時期だ。彼氏彼女だとかなったら、勉強に身が入らなくなるかもだろうが……」
「確かにもっともな言い分ではある。だがな──」
あまねは瞳を細めた。
「そうやって放置していると、学習塾で知り合った男とかにゆいを横から掻っ攫われるかもしれないぞ。クリスマスとか特に危ないな」
「ぐあぁああああああぁっ!?」
あまねの一言に拓海は大ダメージを受けた。
「ゆいは見た目可愛いし、正確は人懐っこい。彼女はモテる。断言しよう」
「ぐびゃあああああああああぁっ!?」
「届かなくなってしまう前にちゃんと恋人の座を射止めておけ」
「クリスマスに届かなく……」
拓海の頬が赤く染まった。高校生らしいピンク色な妄想をしていることは見て取れた。
「やれやれ。これだから男は……」
あまねは呆れて鼻息を吐き出してみせた。
そんな2人に近付く女子生徒がいた。2人の同級生だった。
「あの、菓彩さん」
「何だ?」
クラスメイトに声を掛けられてあまねが振り返る。少女の瞳は興味津々を体現してきらきらに輝いていた。
「菓彩さんは品田くんとよく2人で一緒にいるけれど……もしかして、付き合ってるの?」
「はぁああああああああぁっ!?」
あまねより先に激しく反応を示したのは拓海の方だった。
「いや、違うからぁっ!」
顔を真っ赤にして否定していた。そのムキになった否定の仕方を見て、同級生少女はニヤニヤしている。照れ隠しだと見ているのがあまねにはよく分かった。
「私と品田が恋人同士。そう見えるか?」
「うん。クラス内でもすっごく噂になってるよ」
「なるほどな」
あまねの脳内演算装置はこの誤解をどう有効活用するのが効果的か演算し始めた。
「それで、どうなの? 付き合ってるの?」
「違……」
拓海の言葉は無視されていた。少女の瞳は真っ直ぐにあまねだけに向けられていた。
それを見てあまねは一つの答えを導き出した。
「ここで答えを出してしまうのは味気ない。君のご想像に任せることにしよう」
保留。或いはぼかす。それがあまねの返答だった。
「おっ、おいぃいいいいいぃっ!?」
「否定しないんだ。きゃぁあああああああぁっ♡」
あまねの含みを十二分に持った返答に少女は大興奮だった。クラス中に広めていくことは容易に想像して取れた。
「お幸せにね~♪」
「おっ、おいぃいいいぃっ!? 話を聞けぇえええええええぇっ!?」
少女は楽しそうな笑みを浮かべながら走り去ってしまった。拓海の言葉は最後まで聞いてもらえなかった。
そんな少年のやるせなさはあまねへと向けられた。
「あのなあっ! 誤解させてどうするんだよっ!」
少年は涙目だった。対して少女は不敵に笑ってみせた。
「品田がヘタレなのはよく分かっているからな。ならば、ゆいを焦らせる方が効果的だと思ってな」
「あのなあ……」
「彼女の誤解が校外を越えて広まれば……ゆいの心境にも変化が生じるかもしれない」
あまねは不敵に笑ってみせた。
「安心しろ。私の方が品田に惚れて積極的なアプローチを仕掛けているという体裁ぐらいは取ってやる。ゆいの嫉妬心を引き出すのが目的だからな」
「積極的なアプローチ……」
拓海の頬がまた赤くなった。またピンク色の妄想をしているのは間違いなかった。
「やれやれ。これだから高校生男子は。ゆいが高校生でお母さんになっても知らんぞ」
あまねは再び呆れてみせた。
「あっ、あまねちゃんと拓海だ。お~い♪」
トピックとなっているゆいが2人を見つけて駆け寄ってきた。ぶんぶんと大きく手を振りながら近づいてくる。そして、あまねと拓海の中間に飛び込んできた。
「2人とも、今帰り?」
あまねは気付いた。ゆいの身体が盾となって拓海の姿がよく見えなくなったことに。
拓海は何かをモゴモゴ喋っているが、あまねにはよく聞こえなくなっていた。
「ゆいも帰りか?」
「うん♪ 今日は塾がないから家に帰って勉強なんだぁ」
ゆいは拓海の前にさり気なくたったまま退こうとしない。本人にどこまでその気があるのか分からないが、あまねと拓海を隔てる役割を続けている。
そんな少女の姿を見て、あまねは少しだけ安堵した。
「私は商店街に買い物があるのでここで失礼する。ゆいはそこで落ち込んだり怒ったり情緒不安定で騒がしい男を家まで送ってやって欲しい」
「うん、わかったよ♪」
ゆいは大きく頷いてみせた。
「何で、自宅に帰るだけでゆいに送られないといけないんだよ……」
拓海は不貞腐れて、あまねの思惑やゆいの心情に気付いていない。
鈍感男が。あまねは心の中で愚痴った。
「それでは、ゆい、品田。私はこれで失礼する」
「バイバイ、あまねちゃ~ん♪」
元気よく手を振って見送るゆいと肩を下げて落ち込む拓海。あまねは背を向けて2人から離れて来た道を引き返し始めた。
商店街に用はないが、拓海とゆいを2人きりにさせる為には口実が必要だった。
「……ゆいも私を警戒しているという訳か」
思わず笑みが零れた。
クラスメイトに流した含みは、ゆい本人の耳に入る前に効果をもたらしていた。
「だが、2人とも自分の想いに鈍感すぎる。恋人同士になる為には……今後も私自身を使って、ゆいの恋心を強く自覚させていく必要があるな」
誤解を解かない。むしろ加速させていき、幼馴染を恋人同士に変えていく。
ゆいにとっては悪女となる自分の働きぶりを想像しながらあまねは楽し気に遠回りルートを歩いて行くのだった。