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枡久野恭(ますくのきょー)
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SS 俺いも 2024長編16 高坂桐乃


SS 俺いも 2024長編16 高坂桐乃


「今日ほど貴方のことを頼もしく思い、自分のことを情けないと思ったことはないわ」


 アメリカLAの郊外にある世界各国の優秀な少年少女アスリートたちのトレーニング施設。その寮を目の前にして高坂瑠璃はとても大きなため息を吐いていた。成田空港の保安検査場からここまでの道中を思うと自分が情けなくて死にたい気分だった。


「初めての海外だからな。緊張してテンパってしまうのも仕方ないさ」


 京介はあまり気にした様子を見せずに陽気に笑ってみせた。


「私一人だったらここまで絶対に辿り着けない。ううん、アメリカ行きの飛行機に乗ることさえもできなかったに違いないわ」


 京介の励ましも通じない。瑠璃はまた一層落ち込んでみせた。

 保安検査場に入るまでは良かった。だが、身体検査をしたときに後ろ髪の留め金が引っ掛かってしまった。更にハンドバッグの中の裁縫セットの糸きりハサミが引っ掛かってしまった。2つの用件で職員に呼び止められてしまい、瑠璃はパニックを起こした。




 京介がすぐ後ろにいたので助けてもらいその場は何とかなった。だがその後はずっと京介の背中に隠れる様にして付いて行き、京介と同じ言葉を返すだけの存在になってしまった。

 初体験の飛行機やLA市内の移動を楽しむ余裕はなく、アメリカに着いてからは京介の背中ばかり見ていた。寮に到着したことでようやく人心地着いたところだった。


「でも、京介は全く迷いなくここまで辿り着いたわよね。凄いわ」


 瑠璃は自分とは対照的に迷いなく目的地まで到着した夫に感心していた。


「世界的に有名なトレーニングセンターだからサイトに訪問の仕方が細々と書かれていた。英語サイトも簡単に日本語に翻訳できる時代だから苦労はなかった。タクシーに乗る時でさえ、翻訳アプリを使えば行先ぐらいは伝えられる。デジタルの力サマサマだ」

「…………もう令和なのだものね」


 瑠璃は最初の時間軸で京介がアメリカに向かった時は、まだ大部分がアナログだったことを思い出しながら頷いていた。桐乃の留学先は当時はまだ未知で得体の知れない存在と呼んで差し支えないものだった。


「デジタルの力を借りたにせよ、貴方の迷いない行動は私をここまで導いてくれた。感謝しているわ」

「ハッハッハ。瑠璃にここまで素直に褒められると照れくさいを通り越して居心地が却って悪いな」


 京介は頭を掻きながら空を見上げた。雲一つない青い空が広がっていた。


「これから悪いことが起きなきゃいいんだが」

「それ、全くシャレになっていないと思うわ」


 瑠璃はまたまた気分が重くなってしまった。

 京介のおかげで、道中はさしたる問題もなく目的地に辿り着いた。

 だが、本当に問題となるのはこれからであることを2人はよく分かっていた。


**


 寮に入った2人が桐乃に会う為の手続き自体は円滑だった。京介が事前にメールで連絡を取っており、瑠璃たちの訪問は公式に認められていた。また、家族が訪ねてくるという旨は桐乃には既に伝えてあるということだった。話は事前に済ませてあったので、職員の話に対して京介たちはスマホアプリの力を頼ることなく片言の英語で返して切り抜けることができたのだった。

 桐乃が現れたのは瑠璃たちが寮に入って約10分後のことだった。

 瑠璃と京介の時間感覚では約3か月ぶりの対面となる桐乃は、兄と義姉の顔を見るなり言い放った。


「アタシ、千葉に帰る気はないわよ」




 2人の来訪を歓迎していない桐乃の一言は、このミッションの完遂が極めて困難であることを物語っていたのだった。









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