SamSuka
枡久野恭(ますくのきょー)
枡久野恭(ますくのきょー)

fanbox


SS かぐや様 2024石ミコ 足掻く


SS かぐや様 2024石ミコ 足掻く


 藤原先輩に励まされて的確なアドバイスをされるなんて思ってもみなかった。

 でも、彼女の言うことはもっともだった。


『石上くんがラブコメ漫画の世界にいるのなら、その主人公をなぞるだけです』


『その風紀委員の女の子をゲットするまでアプローチし続けるまでです♪』


 止まって嘆いていても何も始まらない。

 ひと昔前のラブコメ漫画の主人公みたいにヒロインの心を掴むために全力で足掻いて足掻いて足掻きまくるだけだ。それが今の僕に必要なことだった。

 僕は早速ミコとコンタクトを図ることにした。翌日の教室で彼女が訪れるのを待った。でも、邂逅は果たせなかった。彼女は病欠した。

 次の日も、その次の日も彼女は学校を休んだ。僕はとても心配だった。けれど、連絡手段がなかった。彼女の携帯電話は番号が変わっていた。SNSはIDが変わっており、それを僕は知らなかった。

 そして、非常に良くないことにミコの病欠を心底心配しているのはクラス内で僕だけの様だった。今の時間軸のミコはこのクラスで孤立というか馴染めていなかった。

 鬼の風紀委員はすっかり鳴りを潜めていた。風紀委員会自体、かなり休んでいるようだった。代わりに春からずっと憂鬱な雰囲気を漂わせ続けていた。敵を作らない代わりに陰鬱で近寄りがたい存在になっていた。だから、彼女が休んでもみんな気にしなかった。



 1週間が過ぎてミコは再び学校に通い始めた。けれど、顔色は悪く、尚更近寄り難い雰囲気になっていた。1週間ぶりの再会なのに彼女に声を掛ける者はいない。僕は頑張って声を掛けようとしたのだけど、露骨に避けられて教室を出て行かれてしまった。

 放課後を迎えた。ミコは相変わらず孤独で陰のオーラを発していた。当然、一緒の下校を誘う者はいなかった。風紀委員にも出ない様で、身体を引き摺るようにして重い足取りで教室を出て行った。


 僕は藤原先輩に生徒会を休むことをSNSで伝えてミコの後を追った。

 独り歩く彼女の切ない背中を見ていると、親近感、いや、デジャヴの様なものを覚えた。




「あの様子だと……家の中にも味方がないってところだろうな」


 彼女の姿は、中学の時に問題を起こして停学中で家族からも見放されて孤立無援を痛感していた時の僕にそっくりだった。それでふと思い出した。


「ミコは家族と上手く行ってないから精神的に一番きついんだな……」


 ミコは社会正義を信奉し体現する両親との仲が上手く行っていない。そのことは前のラブラブだった時間軸の頃からよく分かっていた。

 ミコが僕との同棲に凄く積極的だった。そして何かというと高校生でお嫁入りを狙っていた。実家と距離を置きたかったからというのが根底にある。それは分かっていた。

 けれど、僕は高校生で不純異性交遊というか同棲までしてしまっていた後ろめたさもあってミコの両親には近寄らなかった。だから、ミコが両親とどんな関係なのか実際のところは知らないままでいた。

 社会的弱者の為、理不尽の渦中に晒されている人の為に正義の剣を振り続ける。その立派な行いの陰の代償としてミコは幼少時より孤独で寂しい想いをしてきた。両親は家庭での団らんよりも仕事を選んだ。それでも幼かった彼女は両親が見ているものを盲目的に信じていた。けれど、高校生になって確かな自我が芽生え、僕と付き合う様になって世界の見え方が変わった。両親の生き方に息苦しさを覚えていたのは間違いない。高校中退寿婚を熱望していたのは反発心の表れの一旦だろう。

 サザエさん時空に巻き込まれて、僕と恋人関係にあったことは、彼女の中ではほとんどなかったことになった。でも、両親へのわだかまりが残ったままだったとしたら?

僕は隣におらず、彼女は伊井野家で過ごしている。それを考慮すると、病欠明けの彼女がより一層深刻な表情を浮かべているのも納得がいくものとなった。


「…………こんな込み入った事情、僕が介入するしかないじゃないか」


 僕はダッシュして後ろから彼女に駆け寄って行った。そして追い抜きざまに大きな声を発した。


「これから一緒に近くの区立図書館に行って、僕に勉強を教えてくれないか?」


 我ながら苦しい口上だった。でも、今の関係で一緒に居たいと正直に打ち明けるのも何か違うかなと思った。


「何で?」


 暗い表情のミコは少しも乗り気には見えなかった。

 彼女の塩対応に挫けそうになる。でも、先日の藤原先輩とのやり取りを思い出す。


「僕はまだ、全力で足掻いていないんだ……」


 一言で心折れている場合ではなかった。僕は続けた。


「勉強は教えてくれなくてよい。君は自分の勉強を隣でしてくれたらそれで良い。君がいれば、僕は勉強から逃げられないのだから」


 一緒に居てくれるように重ねて食い下がってみせた。こんな風に踏ん張ったこと自体、2週目の高校1年生を自覚してから初めてのことだった。

 そんな僕の想いはミコにもちょっとだけ伝わった。歪んだ形でほんの少しだけ。


「…………あなたは、私とえっちしたいの?」

「はっ?」


 耳を疑うような一言が返ってきた。でも、沈んだ表情を見せている彼女は冗談を言ったわけではなかった。


「いいよ」

「はい?」

「私とあなたは前の時間軸では恋人同士だったわけでしょ。私にはもうよく分からないんだけど……」

「まあ、そういうことになるね」


 心臓が酷くざわついていた。ミコから珍しく話し掛けてくれているのに、胸の中は嫌な感じでいっぱいだった。


「なら、私で性欲を満たせば良いよ。どうせ、私なんて……そうでもしないと、誰からも必要とされないんだから」


 エロ漫画でよくあるヒロインのヤケ台詞。僕にとって唯一無二のメインヒロインの口から吐き出されてしまった。

 それを聞かされた瞬間、僕の中に激しい怒りの感情がマグマとなって胸の奥底から吹き上げたのだった。


「僕は、ミコのことをいつだって必要としてるんだっ!」


 身勝手な怒りが溢れ出て止まらない。


「図書館じゃなくても良いっ! 僕と一緒に居てくれっ! 僕の望みはそれだけなんだっ!」


 ヤケになったヒロインを抱かないラブコメ漫画の主人公の気持ちが今になってよく分かった。

 ミコとセックスしたいとは思っている。でも、身体だけ欲しいなんてどうしても思えない。彼女の心が、笑顔がなければ駄目なんだ。それを今、ハッキリと悟った。だから、ミコのヤケはどうやったって受け入れるわけにはいかなかった。僕はやっぱりミコと心で繋がりたいんだ。やっと、自分の気持ちがハッキリと固まった。


「…………喫茶店はお金が掛かるし、長時間いると嫌がられる。図書館で良いよ」

「えっ?」


 驚きながら振り返る。ミコは目を瞑っていた。


「勉強するんでしょ。私も長い間学校休んでいたから、閉館まで勉強する」




 淡々とした声だった。嬉しいとか怒っているとかよく分からない。

 でも、僅かに頬が赤らんでいる気がするし、きっと喜んでいる。

 

「あっ、ああ。そうだね。図書館に行って勉強しよう」


 誘っておいた僕の方が面食らった感じだったが、何とか彼女の提案を受け入れた。

 僕たちの間にその後はほとんど会話はなかった。けれど、彼女が宣言した通りに閉館まで2人並んで勉強して過ごした。夕飯を取ることはなく、図書館を出たところで解散となった。

 そしてこの日から、僕とミコは放課後を校外の図書館で勉強して過ごすのが日課となったのだった。





SS かぐや様 2024石ミコ 足掻く SS かぐや様 2024石ミコ 足掻く SS かぐや様 2024石ミコ 足掻く

More Creators