SS 俺いも 2024長編11 瑠璃誕生日3
「京介くんと夫婦になっている以外はほとんどの人間関係が断ち切られた筈なのに。随分と沢山の人がお祝いに来てくれたんだねえ~♪」
五更日向は目を丸くして驚いていた。
槇島沙織が準備してくれた高坂瑠璃の誕生日パーティー会場には10人を超える出席者がいた。京介や沙織といった仕掛け人側、日向や珠希という姉妹を除けば、出席者のほとんどはゲーム研究会のメンバーだった。ただ、それには違う点があった。
「あたしの知らないメンバーが何人もいる」
日向の知らない面子が何人もいた。ゲーム研究会は何度時を繰り返してもメンバーはほぼ固定だった。幽霊部員の出現頻度が多少変わるぐらい。けれど、今日は姉の誕生日パーティーにわざわざやってきている新顔が数人。しかも、今日が土曜日であり学校が休みであることを考えると出席意欲が高いことが容易に想像できた。
「それはだな、ルリルリがゲーム研究会部長として頑張った結果、愛妻を慕う部員が増えた結果なのさ♪」
日向の疑問に答えたのは京介だった。
京介は白いタキシード姿で、緑色のワンピースコーデの瑠璃よりも遥かに目立っていた。あまり目立つのが好きでない瑠璃から少しでも注意が逸れる様にという沙織の発案だった。元々は目立つのが大好きであり、かなりのナルシストである京介に異存はなかった。
「ルリ姉が部長になるだけでもビックリなのに。慕って全く新しい部員が入ってくるなんてほんと、ビックリビックリだよ」
「ルリルリも時を繰り返しながら成長しているってことさ♪」
京介は陽気に笑っている。
この変化の意味を共有できるのはサザエさん時空を理解している日向と京介だけだった。
「人を勝手に初めてのおつかいをやり遂げた小さい子どものように語らないで頂戴」
瑠璃が2人の元へとやってきて頬を膨らませた。この場でサザエさん時空を理解できているのはこの3人だけだった。
「今夜は気が進まないけれど、来てくれた面々にいい顔をして回るわ。せっかくゲーム研究会が再スタートできたのだからここで盛り下げるわけにはいかないもの」
「すっかり部長としての自覚に目覚めてしまって。夫として感無量だぞ」
「あたしも。ルリ姉は何度繰り返しても性根はぼっち気質のままだと思っていたから感動しているよぉ~」
日向と京介は瑠璃を見ながら涙ぐんでいた。
「まったく、2人とも。私を何だと思っているのかしら? 失礼してしまうわ」
瑠璃は再び頬を膨らませると、赤城瀬菜たちがいるテーブルへと足を運んで行ったのだった。
瑠璃は人が集まる中で頑張って笑っていた。以前の彼女から見れば考えられない程の大きな変化だった。
日向は姉が頑張ってコミュニケーションを図ろうとしている姿をジッと見守っていた。好ましい変化だと思った。けれど、見ていればいるほどに違和感が再び強く覚えるようになっていった。その違和感の正体について、妹は分かっていた。
「…………ルリ姉に絡む面子の中にビッチさんがいない」
義姉の誕生日を一番騒々しく祝ってきた高坂桐乃がこのパーティー会場にいない。それはあまりにも大きな違いだった。
「あやせも加奈子もいない。桐乃の表の友達ってヤツが来ていないから騒々しくもないし命の危機を感じたりもしないわけだ」
「ビッチさんとその一味がいないとこんなにも平和なんだね」
日向の目の前に広がる光景は平和なものだった。それだけに桐乃がいないことを強く印象付けたのだった。
「ビッチさんからは何の連絡もないの?」
唐突に質問してしまっていた。1周目のことを何も覚えていない日向にとっては桐乃のアメリカスポーツ留学は初体験のことだった。桐乃が遠く離れている為にどうすれば良いのかも分からないで密かに困っていた。
「桐乃から連絡は一切ない。それどころかこっちからの連絡を一切断ち切られてしまっている状況だ」
日向と同様に妹のスポーツ留学イベント初体験である京介も戸惑いが表情に現れていた。2人ともどうすれば良いのか分からないので、この問題については普段は考えない様にしていた。
「手を尽くせば、桐乃と連絡を取ること自体は可能なのかもしれないが……向こうにその気がないのでは何を喋れば良いのかよく分からんっ!」
「だよねえ」
瑠璃がゲーム研究会の部長になって、今までの日常を取り戻そうと頑張っているのが分かるので、尚更桐乃の不在は2人に印象深く映ってしまっていた。瑠璃が桐乃の不在をどう思っているのかも気になった。
「…………まあ、今この場で、ここにいない桐乃のことで心を病ませても良いことはないにもない。パーティーを楽しまないとな」
「だね。そろそろルリ姉も陽キャのふりをするのが限界みたいだし。助け舟を出しに行ってあげないとね」
「だな」
2人は本日の主役を解放すべく人が集まる中央へと歩いて行ったのだった。
「…………本当に疲れたわ。私はパリピにはなれないと改めて思い知った1日だったわ」
パーティーが終わり瑠璃は帰宅。夫と共に入浴しながら誕生日パーティーについて話し合っていた。
「パリピにはなれなくても、主役の責務を最後まで全うしたんだから十分だろう」
「誕生日なんて3年に1度ぐらいの頻度で結構だわ」
瑠璃は慣れない主役に疲れていた。それでも、最後までパーティーに出席し続けたのだから以前とは大きく変わっていた。
「それで、京介は日向と深刻そうに何かを話していたようだけど。一体、何を話していたのかしら?」
瑠璃は夫と妹が誕生日パーティーに相応しくないシリアスな空気を醸し出していたのに気が付いていた。
「………………桐乃のことだ」
京介は躊躇しながらゆっくりと白状してみせた。ただ、夫は知らなかった。妻にとっては桐乃スポーツ留学イベントは2度目であることを。瑠璃はどんな展開を迎えて、どんな結末を得たのか知っていたことを。
「そうね。今の桐乃がどんな状態なのか正確にはよく分からないけれど。場合に拠っては、アメリカまで迎えに行くことになるかもしれないわね」
1周目の記憶がある瑠璃は事も無げに最終局面を語ってみせたのだった。
「アメリカまで迎えに行くかもだってぇええええええぇっ!?」
京介にしてみれば寝耳に水の情報で大声を上げずにはいられなかった。まさか、1周目で自分が学校を休んでアメリカまで妹を連れ帰りに行ったなどとは夢にも考えたことがなかった。
けれど、スポーツ留学イベント経験者である瑠璃にしても、前回と今回の違いを認識できていたわけではなかった。情報を絶たれてしまっている点では同じだったが、その裏で進んでいる展開が違っていた。その意味に気付くのはもう少し先の話だった。