俺いも 五更瑠璃 お月見
「イベントはお金が掛からないものがやっぱり良いわね」
9月17日夜。瑠璃は夫京介と姉妹2人と共に五更家実家近くの神社に来ていた。
今夜は中秋の名月。お月見イベントの夜だった。
「身も蓋もない言い方だが、同意せざるを得ないのが俺たちの現状だもんな」
京介は苦笑しながら空を見上げた。少し雲が掛かっていたが、綺麗な月が出ていた。
「浴衣を着て、お団子を作っておけばそれっぽい感じになるのだから遊園地に連れて行くより遥かに安上がりだわ」
瑠璃は浴衣姿で笑っていた。
高校生夫婦である瑠璃と京介には自由にできる金銭は少ない。その中で瑠璃は家族サービス、この場合は実の妹たちを楽しませることに気を使っている。妹2人がまだ小学生であることもあって、お金を掛けずに楽しめる、一緒に行動できるイベントを実施することに常に頭を働かせていた。その一つがお月見だった。
「ルリ姉にお金がないことは分かってるけどさ。あんまりあからさまに安上がりなイベントを選んでいることを言わないで欲しいなあ」
日向は苦笑してみせた。
最初の時間軸では瑠璃は古本屋でバイトしていた。だが、既に京介の妻になっているのがデフォルトとなっている2周目以降、瑠璃は高坂家の嫁として全ての家事を引き受けて忙しく過ごしている為に定期的なバイトはしていない。同人ゲームの制作で多額の収入を得る時間軸もあるが、ほとんど収入がない時間軸もある。だから結局、瑠璃はお金が掛からない家族サービスを考えることが基本になっていた。それを日向はよく知っていた。
「まあまあ。難しいことは抜きにしてまずはお月さまを愛でようぜ」
京介は夜空を見上げながら場を取りなした。だが、まったりした空気は長く続かなかった。
「飽きた~っ!」
「俺もだ~っ!」
みやびを解さない日向と京介はすぐに月を見上げることに飽きてしまった。
「昔の人はお月さまを眺めるだけのイベントにどうして心躍らせたんだろうねえ」
「刺激的なものがいっぱいある現代人にはちょっと理解できないな」
「貴方たちねえ……」
瑠璃は大いに呆れてため息を吐いた。だが、その反応は予想済みだった。
「お団子を食べましょう。熱いお茶も持ってきたわよ」
「「やった~♪」」
花より団子ならぬ月より団子。日向と京介が月見に飽きるのはとても早かった。
瑠璃はそれを予見していた。
「お団子を食べる前にちゃんと手を消毒しなさいよ」
「はいです、姉さま♪」
下の妹が素直に頷いてみせる。姉はアルコール成分入りのウェットティッシュを取り出して珠希の手を丁寧に拭いてみせた。
一方で夫と上の妹は瑠璃の忠告も聞かず消毒せずに団子に手を出し始めていた。
「本当に貴方たちときたら……」
瑠璃は大きく肩を落としてみせた。
「この団子、美味いな♪」
「ルリ姉の料理の腕は和風で地味な料理でこそ発揮される。お団子作りの天才だねえ~♪」
けれど、京介と日向が美味しそうに団子を食べているのを見て笑みを零してみせた。
「お花見イベントの利点は、もう一つあるのよ」
「「もう一つ?」」
聞き返す夫と妹に対して幼な妻は静かに頷いてみせた。
「姉さま……お団子を食べたら眠く……」
珠希は団子を食べ終わるとこっくりこっくり船をこぎ始めた。
下の妹が眠りに落ちるまで時間は掛からなかった。
「京介、珠希をおぶって頂戴」
「アラホラサッサ」
横に控えていた京介が、珠希が崩れ落ちてしまう直前にその幼い身体を支えた。そのまま背中をベッドとして提供し、立ち上がった。
「よし、撤収準備は完了だ」
「すや~」
「もう一つの利点。それは、お月見は夜に始まるからイベントの時間が短くて済むということよ」
瑠璃も持ってきた団子とお茶を片付けると実家に戻る為に歩み始めた。
幼い子供への家族サービスの難しい点の一つに子どもの飽きっぽさ、集中力が続かない点が挙げられる。次から次へと刺激を与えていかないといけないが、それは昼間に限ってのこと。夜であれば、珠希の様な幼子はすぐに疲れて眠りに落ちてしまう。複雑なプランニングを準備しなくて良いのは瑠璃としては助かるところだった。
「ルリ姉はお団子を作るのに相当時間を費やしてるんだから。時間が短くて済むってことはないと思うんだけど……」
「料理は私の日常生活の一部だもの。料理に費やす時間をイベントとみなすことはないわ」
「瑠璃も随分と難儀な生き方をしているな……」
今度は日向と京介が大きく肩を落とす番だった。
***
「ルリは良いお姉さんであると同時に、良い奥さんでもあるよなあ~♪」
帰宅後、瑠璃は京介の妻として行動していた。すなわち、京介との子作りに勤しんでいた。
「変な言い方をしないで頂戴。ああっ♡ 私は貴方の妻なのだから。私たちの子どもが欲しいと思うのは当然の感情でしょう。あああっ♡」
瑠璃は京介の上に乗って自ら腰を振っていた。幼な妻がセックスで主導権を握るのは珍しいことだった。
妹たちへの家族サービスを通じて瑠璃にはある思いが産まれていた。
「珠希をおぶって歩く貴方を見ていたら……私たちの子どものお世話をするのも良いんじゃないかと思ったのよ……ふぁああああああああぁっ♡」
瑠璃はセックスの快楽を全身で堪能しながら、先ほどから沸き起こっている願望について語ってみせた。
サザエさん時空に囚われている瑠璃は自身の妊娠については普段あまり考えない。春になって時間が巻き戻れば、例え妊娠していてもキャンセルされてしまうと察していた。瑠璃の子どもが生まれることはない。結論が先に出てしまっているので妊娠への関心自体が薄かった。けれど、今夜は特別に妊娠に対する想いが膨れ上がっていた。
「金がないのは分かっているのに子どもを欲しがるなんて……」
「駄目?」
「いや、俺も珠希ちゃんを背負って隣を歩く瑠璃を見て同じ想いを抱いていたんだっ!」
京介は瑠璃の腰を掴むと、下から腰を突き上げ始めた。
瑠璃と京介がそれぞれ上下から腰を振り始める。2人分の力が加わったことで密着部位は普段よりも激しく擦れ絡み合う。
「こんな激しい子作り……頭がおかしくなってしまいそう♡」
「なっちまえ。俺もおかしくなるからさっ!」
瑠璃は惚ける快楽の海の中に意識を落としていた。
京介もまたそんな愛妻を見ながらいつも以上に力を込めて腰を打ち付けていた。
「ああぁあああああああああああああぁっ♡♡」
子作りに夢中になる2人はすっかり失念していた。
カーテンを閉めることを。
中秋の名月が2人の愛の営みを優しく見守っていた。