SS 俺いも 五更瑠璃、春野つぼみ 裸の付き合い
ハナザーボイスヒロインズは絶対強者にして孤高の存在。故に互いに交わらないように暮らしてきた。だが、それも今は過去の話となった。ハナザーボイスヒロインが無尽蔵に量産されていく時代は終わりをつげ、中でも恋愛に絡むキャラはごく少数となった。数が少なくなったということもあり、彼女たちは自然と交流機会が増えているのが現状だった。
「瑠璃ちゃ~ん♪ こんにちは~♪」
高坂瑠璃は駅に近付くと明るい声で自分の名前が呼ばれたのに気付いた。
「テンション高いわね、貴女は」
自分にないキャラに呆れつつも羨ましいと思いながら近寄っていく。
「友達とこうして外出して会えるのは嬉しいことだよ~♪」
「…………そうね」
直接会ったことはほとんどない人物を友達と言い切る。瑠璃のメンタル的にはなかなかできないことだった。
「それで、これからどこに行くの? 映画? カラオケ? モールでショッピング?」
つぼみは矢継ぎ早に遊ぶ場所の候補を挙げてくる。対して瑠璃の答えは決まっていた。
「裸の付き合いってのをするわよ」
「えっ?」
瑠璃は他のハナザーボイスヒロインと行ってきたように、つぼみをスパへと案内することにしたのだった。
「同性とはいえ、裸を見られるのはちょっと恥ずかしいけれど。広いお風呂は見てるだけでもテンション上がるねえ」
「古い考え方かもしれないけれど。お風呂に入りながら会話をすれば、お互いのことが自然と分かり合えるのよ」
2人はスパにやって来ていた。このスパは瑠璃が他のハナザーボイスヒロインを千葉に招いた時によく利用している場所だった。
お湯に浸かりリラックスし易い環境で、遊戯道具もスマホもない環境ならお互いを知る為の会話が弾み易い。彼女の経験則から得た親密になる為のセットだった。
「瑠璃ちゃんは私と同い年だけど。もう結婚してるんだよね?」
「そうよ。2歳年上の夫、京介がいるわ」
「私、自分が高校生にしてお嫁さんになっているとか。全然想像もできないよぉ~」
「普通はそうでしょうね。まあ、異世界からここを訪れた子たちにとっては別におかしなことではないようだけど」
つい先日、一緒に湯に浸かったサリフィのことを思い出しながら瑠璃は頷いてみせた。
「それで、結婚生活ってどんな感じなの? お嫁さんって家事とかもしなきゃだから大変じゃないの?」
「そうねえ……」
瑠璃は普段の日常。そして嫁入り前の生活模様を思い出してみせた。
「家族以外に心を許せず友人もいなかった実家暮らしの時と比べれば、愛する人といつも一緒にいられる今の生活は本当に幸せだわ」
「おお~♪」
「夫の実家で生活しているのだから色々と難しいことがあるのは事実よ」
「だよねえ」
「でも、家事全般を引き受けていたのは実家暮らししていた時からそうだったから。嫁入りして日々の仕事が増えたという認識はないわね。苦とも考えていないわ」
「瑠璃ちゃんは家族の為に頑張れる子なんだねえ」
相互理解の為に自分のことを語っていた。瑠璃は普段、自分が何を想いながら暮らしているのか改めて考える機会となった。
「それで、つぼみの方はどうなの? 意中の男性はいたりするのかしら?」
瑠璃の質問につぼみは苦笑してみせた。
「う~ん。私自身は好きな男のことかそういうのはいないのだけど……人の恋を見守ったり応援するのは大好き、かな」
「恋の当事者にとっては面倒に想う可能性が高いでしょ、それは」
「あはは……モナちゃんには時々鬱陶しがられている、かな」
「そうでしょうね」
「でも、元々はモナちゃんのおっかけから始まったことなんだよ♪」
つぼみはデレ顔を浮かべてみせた。
「モナちゃんって、すっごくすっごく可愛いんだぁ~♪ 無断で撮影して待ち受けにしちゃうぐらいに♪」
「それを世間ではストーカーと言うのよ」
「…………今はモナちゃん公認だもん」
「根負けしたのね、その女は」
「モナちゃん、外面は二重丸だから……性格二重丸だから」
つぼみは言い直した。
「何にせよ、自分から相談したくなった時を除いて、恋路に余計な干渉はして欲しくないのが当然の感覚よ」
「そうなんだろうけど……モナちゃん、恋愛に関してはすっごく奥手なんだよぉ。息をするようにモテるから」
「相手から言い寄られるのが当然すぎて却って自分からは動けない訳ね」
「それだけじゃなくて。自分が黒岩くんに惚れているって自覚が薄いって言うか。その感情を強く打ち消しちゃう部分があって……」
「モテる故にプライドが高過ぎて自分の本当の想いを認められない。少女漫画ではお決まりのパターンね」
「そうなのっ! だから、私がモナちゃんの恋を応援しないと駄目なんだよ~っ!」
つぼみは湯の中で拳を力強く握り締めてみせた。
「それでもほどほどにしておきなさいよ。自分の想いや行動を一歩一歩確かめながら進みたい問題で、他の人間に引っ張り回されるのはペースをかき乱されて迷惑だから」
「…………気を付けるよ」
つぼみは小さく頭を下げた。
「でも、話を聞く限りでは貴女の高校生活は楽しそうね」
「うん♪ 毎日がとっても楽しいよ♪ 特にモナちゃんの恋心に気付いてからは♪」
「問題を感じなくはないけれど。毎日を楽しく過ごせるのはとても良いことだわ」
瑠璃は最近知り合った友人が、毎日を楽しく暮らしている様でホッとした。
ハナザーボイスには命が掛かる危険な目に遭う日常を送っている者も少なくない。友達の恋に夢中になって日々を送れるつぼみは境遇的には恵まれている。その幸運を噛み締めながら幸せな日々を享受して欲しいとJK人妻は思った。
「今日は一緒にお風呂できて楽しかったよ。また、一緒にスパに行こうねぇ~♪」
スパで長居した為に、外に出た時にはもう空は暗くなっていた。つぼみとはスパの入口で解散ということになった。
「そうね。また行きましょう」
瑠璃は深く頷いてみせた。
つぼみのことを知り、同時に自分のことも知った。
中学生の時分まで他者との対話を拒んできた彼女にとっては同じ声仲間の友と裸の付き合いすることは新鮮であり同時に意義深いことだった。
瑠璃はつぼみが駅に向かって歩いて行くのを見送った。
「さて、帰らないとだわね……人妻は忙しいわ」
家路に向かう瑠璃の顔には笑みが零れていた。