SS わんだふるぷりきゅあ 犬飼いろは他 ホワイトデー
「キラッキランラン~♪ 今日のホワイトデー♪ 悟くんは何をプレゼントしてくれるかなぁ~♪」
3月14日早朝。犬飼いろはは浮かれ気分でシャワーを浴びて身を清めていた。
今日はホワイトデー。いろはにとっては一大決戦の日だった。
『悟くん、私、ホワイトデーのお返しは記入捺印済みの婚姻届が欲しいの♡』
14歳の中学生であるいろはは、特別なワンダフルな関係にある兎山悟に無茶なお返しを要求していた。
だが、世間的には無茶でも、いろはにとっては切実な願いだった。
『みらリコ先輩たちに負けたくないのっ!』
先輩プリキュアに負けたくない。それが、いろはを野獣へと駆り立てていた。
魔法つかいプリキュアとして知られる朝日奈みらいと十六夜リコは20歳のラブラブ同棲百合カップル。しかも2人には、詳細はよく分からないもののヒスイという幼い娘がいる。娘の年齢から逆算すれば、みらリコがまだ中学生の時にデキた子どもである可能性が高い。
中学生の内から永遠の絆を結ぶ。いろはは先輩プリキュアのその点に憧れ、尚且つ恋人持ちとして対抗心を燃やしていた。
「…………もしも悟くんがプロポーズしてくれたら……4月の新学年からは兎山いろはの名前で登校だよね~♪」
いろははデレ顔を浮かべながらシャワーを浴び続けている。気分は既に新婚。嫁入りを果たしている。
「早ければ明日にでも私は嫁ぎ先の悟くんの家に移り住むことになるのかもしれない……」
新婚生活を妄想する。すると、ある点に気が付いた。
「この身一つで兎山家に入るんだから……こむぎを連れて行くわけにはいかないよね」
嫁ぎ先には愛犬を連れて行けない。
その呟きは犬形態になっているこむぎの耳に入ってしまった。
「いろはが悟と結婚すると……こむぎはいろはと一緒にいられなくなるわんっ!?」
こむぎにとってそれは受け入れられる話ではなかった。
「大変わんっ! 今日はいろはと悟を会わせないようにしなくちゃだわんっ!」
こむぎは血相を変えながら駆け出して家を飛び出て行った。
「大人プリキュア……えへへへへ♡」
いろはは愛犬兼ベストフレンドが出て行ったことに気付かなかった。
***
兎山悟は数日前に受けたいろはからの圧によって弱気になっていた。
「僕は……いろはちゃんに何をお返しすれば良いんだ~っ!?」
結婚を望むいろはに対して、まだ中学生である悟は生来の生真面目さから悩みに悩んでいた。
日頃の料理経験を活かして手作りチョコドーナツやクッキーは準備しておいた。だが、いろはの望みはお菓子にないことは透けて見えている。
指輪は諸々考えて準備できなかったが、ネックレスなら準備している。だが、それも十全なお返しとは思えなかった。
(娶ってしまえば良いだろ。どうせ早いか遅いかの違いでしかないんだ)
愛兎の大福がイケボで悟の脳に話し掛けてくる。男らし過ぎる意見だった。
「…………その早いか遅いかが問題なんだよぉ。僕はまだ中学生なんだし」
悟は大福の意見を受け入れるわけにはいかなかった。
(いろははもう子どもを産める身体だろう?)
「多分そうなんだろうけど。子作りできるから結婚ってわけには人間は行かないんだよぉ」
(いろはは悟とつがいになるのを望んでいるぞ)
「僕はまだいろはちゃんを養っていける身分じゃないんだよ……」
(人間ってのは確かに面倒臭い生物みたいだな)
脳内会話を終えた悟はドッと疲れが溜まるのを感じた。だが、まだ安心できる状況ではなかった。
「悟~っ! いろはがこむぎを置いて悟のところにお嫁入りするつもりだから今日は会っちゃ駄目~っ!」
人間形態になったこむぎが悟の部屋へと駆け込んできた。
いろはに最も近い少女からもたらされた情報は気弱な少年を更に追い込んだ。
「やっぱり……いろはちゃんはFree!婚制度を利用して、今日中の結婚を望んでいるんだ」
可能性の一つとして考えていた厄介な展開が現実のものとなってしまった。
(娶れっ! 悟もそろそろ男になって良い筈だ)
「いろはが悟と結婚すると、こむぎと離れ離れになっちゃうから駄目~っ!」
大福とこむぎから正反対の意見を述べられて混乱はますます拍車が掛かる。
「悟く~ん♪ 学校休んで来ちゃった♡」
いろはが玄関のインターホンを押す。悟には考える暇もなかった。
「…………こうなったら。僕の素直な想いをいろはちゃんに語るしかないっ!」
悟は持ち前の頭脳を活かして場を上手く収めることを放棄し、愚直に素直な想いをぶつけることにした。
「悟くん……結婚後は何て呼んで欲しい? あなた? ダーリン? 悟きゅんきゅん?」
部屋に入ってきたいろははにこやかに笑いながら、過程を幾つもぶっ飛ばした質問をしてきた。
「いっ、いろは……?」
(微笑みながらなんてガツガツした嬢ちゃんなんだ)
こむぎも大福もさすがに唖然とした表情を浮かべていた。
いろはの放つピンク色ウェーブに室内が飲み込まれてしまう。だが、覚悟を決めた悟だけは別だった。
「いろはちゃんっ!」
少年は頑張って声を上げた。
「なぁに……ダーリン♡」
いろはは悟を見ながらナチュラルにダーリンと呼んでみせた。
悟もそんな強キャラいろはに怯んでしまう。だが、頑張って立て直した。
「僕はいろはちゃんと結婚したい。そう考えている」
「えへへへ♡」
いろはがドヤ顔を見せ、鼻が一気に高くなった。
「でも、それは今じゃない。僕はまだ、いろはちゃんを養っていける身分じゃないんだ」
高くなった少女の鼻が一気に消失した。
「だっ、大丈夫だよ。私、ロシアン忍者になって悪い人をいっぱいやっつけてお金、稼ぐから……」
【いろは ロシアン忍者
「僕が、いろはちゃんの一生の面倒をみたいんだよっ! 僕にとって結婚って言うのはそういうことなんだからっ!」
少年は熱く訴えてみせた。魂の叫びだった。
「…………あっ、はい。それを望むのなら……私は、従います」
いろはは意見を引っ込めた。悟に男らしいところを見せられると途端に弱気な恋する乙女になる。いろはの特徴でもあった。
「本当は今すぐにでも結婚して欲しいところだけど、そうもいかない。いろはちゃんには不甲斐ない僕を罰して欲しいんだ」
「罰するだなんて……無茶を言っていたのは私の方なんだし」
「いろはちゃんとの未来の為にも僕を罰して欲しいんだっ!」
「…………分かったよ」
悟に熱く語られていろはは折れた。
そして──
「まだ中学生だからという理由で私をすぐに娶ってくれない悟くんにお仕置きをしちゃうからねっ♪」
「うん。情けない僕を鞭でいっぱい叩いて欲しいんだ。いろは女王様♪」
ボンテージ衣装に身を包んだ少女は女王さまとなった。若き女王の顔には笑みが浮かんでいる。
少年はバニーボーイとなって、お尻を女王へと嬉しそうに突き出した。
悟の部屋はSMルームへと変化を遂げていた。
「悟くんのバカ♡ バカ♡ バカ♡」
「もっと強くお仕置きしてくれて大丈夫だよ……いろは女王さまっ♡」
室内に鞭の音が鳴り響く。
(この2人、将来はド変態夫婦になるぞ。今ももうなってるけどな……)
「こむぎは、いろはと離れ離れにならなかっただけで良かったわん♪」
こむぎと大福は優しい瞳と生ぬるい瞳でご主人たちの奇行を見守り続けたのだった。
終わって見れば平和なホワイトデーだった。