SS 俺いも 五更瑠璃 ホワイトデー 2025
「ホワイトデーだからと部屋でめかし込んで欲しいという話だったけれど。一体、何を計画しているのかしらね?」
3月14日ホワイトデーの夕方。高坂瑠璃はドレスを着て自室で待機していた。夫である京介からホワイトデーのお返しをしたいと言われたからだが、具体的なことは聞かされていなかった。
「黒猫、神猫衣装というわけにもいかないからサリフィに服を借りたのだけど……人の服を借りるというのは何とも奇妙な感じだわ」
瑠璃は魔族の王のお妃さまから借りた服に身を包んでいた。小柄で体型のよく似た少女で、王妃ということで見栄えのする衣服を持っているからというのが借りた理由だったが、瑠璃にとっては着慣れない服であることには変わりがない。京介の意図が読めないことも合わさって何とも微妙な空気に包まれていた。
そして瑠璃が待つこと10分程。廊下を移動する足音が聞こえた。
「さて、何を見せてくれるのかしらね?」
期待半分不安半分。瑠璃は目を瞑ってその時を待った。
「お待たせいたしました、瑠璃姫さま」
部屋に入ってきた京介は白い騎士装束に身を包んでいた。
その服がなんであるのか瑠璃にはすぐに分かった。
「リゼロのラインハルト(CV:中村悠一)ね。そうきたのね」
リゼロのチートキャラとして有名な剣聖ラインハルト。同じ声繋がりのコスプレだった。
京介が同じ声キャラのコスプレをすることは珍しくない。けれど、外見も中身もイケメンキャラのコスプレをするのは京介としては稀有な事例だった。
「今日はホワイトデー。瑠璃姫さまには最上の体験をしてもらいたいと思い、私も最上の奉仕をするべくこのような出で立ち、振る舞いとなりました」
京介は手を胸に当てて恭しく頭を下げてみせた。
その様子は普段の京介からは想像もできない程に洗練されていた。だが、それが却って瑠璃には胡散臭く見えてしまっていた。
「…………気に入らないわね」
「と、申されますと?」
「今の京介の言動が洗練されたものであることは認めるわ」
「お褒め頂き光栄です」
京介は再び恭しく頭を下げてみせた。
「貴方のその振る舞いが私を悦ばせる為だということも理解している」
「極上のホワイトデーを瑠璃姫さまに味わってもらいたく万全を尽くしています」
「でも、私は今の貴方に違和感ばかり覚えてしまう。幸福感を得るどころか悪徳商法の勧誘を受けている様な気分よ」
詐欺師は常に紳士的で優しい。瑠璃には一家を守る主婦としての感覚が備わっている。そうでなくても、普段とのキャラのあまりの違いは瑠璃にはストレスを与えてしまっていた。
「カラ松互換の方がしっくりくるわ」
「あのような外見だけ二枚目を気取り、中身が三枚目の男と同期など瑠璃姫さまを悲しませるだけ。私には耐えられません」
あくまでも優雅な騎士としてこだわりを見せ続けるラインハルト京介。そんな夫に瑠璃は自分が何を想っているのか考えが纏まっていった。
「…………私は剣聖ラインハルトに惚れた訳ではないのよ」
目の前に映る夫であって夫ではない人物に瞳を細める。
「他人と同一化を果たそうとするのではなく、京介は京介のまま優雅さを追求すれば良い」
「しかしそれでは、あまりにも低い限界を迎えてしまいます。素の京介をチューンアップしたところで、ラインハルト互換の私の様に振る舞うことは不可能です」
「それで良いのよ。私がすきになったのはシスコンでお調子者で、でも、全力投球で私を救い導いてくれた京介なのだから」
瑠璃は昔を懐かしみながら微笑んでみせた。
一目惚れではなかった。変な兄妹の片割れ程度の認識だった。嫌っている筈の妹の為にどこまでも熱くなるシスコンで趣味ではなかった筈だった。それでも、人付き合いを極めて苦手としていた彼女は段々と京介に気を許し、惹かれていった。行動を共にし、助けられている内に段々と好きになっていった。
格好悪くも格好良いシスコン兄貴に少しずつ心奪われていった。そんな自分を変だとさえ思っていた。でも、好きになって気持ちは膨れ上がり続けた。気付けば恋人になり、夫婦になっていた。だからこそ瑠璃にはよく分かる。見た目も中身もイケメンに惚れたわけではない。そんな分かり易い恋はしてこなかった。
「フム、困りましたね。瑠璃姫さまに最上の体験をしてもらうには一体どうしたら良いのやら……」
「だったら……そんな違和感だらけの衣装は脱ぎ捨ててしまいなさい」
瑠璃はサリフィから借りていた洋服をいきなり脱ぎ捨ててみせた。
下着も全部脱いでしまい生まれたままの姿になった。
「さあ、京介も脱ぎなさい」
瑠璃は両腕を広げて夫を招くポーズを取ってみせた。
「今日は格好良く決めていたかったのですが……瑠璃はまったく仕方ないな♪」
京介もまたラインハルトの騎士服を豪快に脱ぎ捨ててみせた。
夫もまた全裸になってみせた。
「貴方と向き合うのなら……妙に着飾るって気取ってみせるよりもこの方が良いわ」
「やれやれ。俺の美しい肉体美がみたいとは……困った仔猫ちゃん、だな♪」
京介は白い歯を光らせながら親指を立ててみせた。
「素がカラ松と変わらないのが少し気になるところだけど……私は、そんな貴方が大好きよ♡」
瑠璃は京介に改めて愛を語ると抱き着いて行った。
この日、若夫婦は心ゆくまでホワイトデーを堪能したという。