SS 俺いも 五更瑠璃 誕生日1 2025
「瑠璃の誕生日なわけだが……何か望むことはあるか?」
4月20日日曜日昼過ぎ。今日は高坂瑠璃の16歳の誕生日だった。
とはいえ、彼女は自分がサザエさん時空の中に囚われていることをよく自覚している。人妻JKとして迎える16歳の誕生日はこれで何度目になるのか本人でさえも正確にはカウントしていない。
16歳の誕生日には慣れ切ってしまっている。だが、瑠璃は最も多感な年代を常に忙しく、ちょっとした変化を付けながら生きてきた。故に同じ繰り返しで人生に飽きてしまった、或いは悲観して諦念してしまったという事態にはなっていない。彼女は夫や妹たち、友人たちと過ごす日常を楽しんでいた。
「そうねえ……貴方にお馬鹿な互換なしで愛を告白してもらいたいわね」
「ラインハルトやカラ松は嫌か?」
「嫌よ。私が愛しているのは……高坂京介なのだから」
瑠璃は赤面して照れながら答えてみせた。
「やれやれ。我が家のお姫さまは可愛いことを言ってくれるな」
「私はプリンセスという柄じゃないわ。今だって大掃除を終えたばかりで芋ジャージよ。掃除で全くの役立たずの貴方の妹にお洒落ではないと文句を言われたばかりよ」
つい先ほどの義妹とのやり取りを思い出しながら瑠璃は拗ねた表情を浮かべた。
瑠璃にはいまだに苦手なこと、改善したいことがいっぱいある。お洒落、というか美的感覚の違いもその一つだった。
彼女の着るものは大体が義妹である桐乃が選んでいる。又は、過去に桐乃が選んだものを瑠璃が他の周で自分で購入している。
だが、彼女自身の美的センスはいまだ発展途上。というか、中二病で他人の視線に無頓着だったころからあまり変化がない。大掃除があったりすると今でも芋ジャージで対応する。それが彼女にとっては最適解であり、桐乃とのずれを認識する瞬間でもあった。
そして、そんなずれを今も多く抱えていることが、瑠璃にとっては人生に飽きを感じさせない良い刺激となっていた。
「俺は瑠璃の芋ジャージ姿が好きだぞ。働くのが好きってよく分かる様に見えていてさ」
「あら? その言い方だと、貴方は私に高坂家の家事の一切合切を押し付けたいかの様にも聞こえるわよ」
「そうじゃなくて……家事に一生懸命な瑠璃はとても綺麗だってことだよ」
京介の言葉に瑠璃の頬が一気に赤く染まってみせた。
「…………そ、そう。イケメンキャラが入っているんじゃないのかしら?」
照れ隠しにそっぽを向きながら意地悪な問いをしてみる。
「残念ながら素だよ。まあ、俺は根がイケメンだからな」
京介はサムズアップして笑ってみせた。
「そうね。自分でイケメンとか言ってしまえる貴方は確かに素でしょうね」
2枚目になりきれない京介にホッと一息つく。けれど、瑠璃は自分が何を望んだのか忘れていた。
瑠璃が目を瞑った瞬間を狙って京介が両手を握ってきた。
驚いた瑠璃が目を開くと、前屈みになった京介の顔が目の前にあった。
「俺が、俺らしくいられるのは瑠璃が隣に居てくれるからだ。俺の全てを包み込んで共に歩んでくれる瑠璃のことが……大好きだ」
京介の文字通りの真正面からの愛の告白。
「………………あっ」
瑠璃は今となっては誰も覚えていない最初の一周目の、京介との甘酸っぱい青春恋愛の日々が脳に蘇った。
2周目からは既に夫婦となっている状態でのニューイヤーのスタートだった。だから、一般的な高校生カップルのお付き合いをしたのは最初の周しかない。楽しくて嬉しくて、けれど確かなものもなくて不安定で不安も多かった心が常に流動していた恋愛デイズ。その思い出が、京介の告白によって突如思い出されたのだった。
そして思い出と共に胸が熱く、ひたすら熱くなっていった。
「今日は、私が色々なコスプレをして京介をもてなすことにするわ」
込み上げる衝動を言葉に変えて京介に訴える。
「えっ? どういうこと? 今日は瑠璃の誕生日で、もてなされるのは瑠璃の方なんじゃ……」
「昔のことを思い出したのよ。懐かしさを追体験したいの」
「そ、そうか」
京介の目は泳いでいた。瑠璃の言葉の意味をよく分かっていない。妻が喜んでいるのでとりあえず同意だけしてみせたのは明らか。
それは瑠璃にもよく分かっていた。けれど、それも仕方ないことはよく分かっていた。
色々なコスプレをして京介を必死に誘惑していたのは結婚前、つまり最初の周の高校生の時の出来事。京介にとっては存在しない記憶。懐かしさを掻き立てられるのが瑠璃だけなのは仕方のないことだった。
「それじゃあ、早速着替えることにするわね」
瑠璃は京介の目の前で服を脱ぎ出した。
「着替えシーンを披露するサービスはわざわざしてくれなくても……」
「あらっ? 昔の貴方は顔を逸らしつつも喜んでくれたわよ」
一周目の京介の初心だった反応を思い出しながらジャージを脱ぎ終えて下着姿を晒す。
「着替えの途中で下着姿を見せたら……貴方はとても驚いて躓いて尻もちを突いて。漫画みたいな面白い反応を見せてくれたわね」
「そんな記憶は、ないんだが……」
「なくてもあるのよ♪」
下着姿の瑠璃は昔を懐かしんで笑ってみせた。
気分が良くなった瑠璃はそのまま下着も脱いで一糸纏わぬ姿を披露してみせた。
「今からしばらくの間、五更瑠璃に戻って京介を誘惑する為に様々なコスプレで頑張ってみせるわ♡」
瑠璃はポーズを取りながら宣言してみせたのだった。
「えっと、何だかよく分からないが……頑張って、俺を誘惑してみせてくれっ!」
京介は再びサムズアップして白い歯を光らせてみせた。
何だかよく分からなくてもノリだけで合わせてみせる。京介の得意技。考えなしでもあるが、常人なら諦めてしまう事態でも勢いと根性で押し切ってしまう力強さも併せ持つ。瑠璃も桐乃も何度も助けられた京介ならではの美徳でもあった。
「ご期待に沿ってみせるわよ」
ウィンクして微笑んでみせる瑠璃。
こうして五更瑠璃の“16歳”の誕生日イベントは始まりを告げたのだった。