SSS SAO シリカ 理不尽な暴力
シリカこと綾乃桂子は理不尽な暴力に悩まされる日々を送っていた。
「ブラを買い替えなくて良い胸のサイズが変わらない人が羨ましい」
「言葉の暴力……」
シリカはよく思う。SAOを救った英雄キリトこと桐ヶ谷和人は噓つきだと。
キリトは仮想空間でのデスゲームの最中によく言っていた。シリカは自分の妹によく似ていると。
だが、SAOから解放されて出会った、キリトの妹桐ヶ谷直葉はシリカが思い描いていた人物とは大きく異なっていた。身体の特定部分があまりにも似ていなかった。
同い年の筈なのに巨乳、否、爆乳だった。歩くだけで乳がどたぷ~んと激しく上下に揺れていた。
海で遊べば、胸が激しく揺れて水着がすぐに流されてしまう。
現在シリカたちがいるのはプライベートビーチ。しかも海辺に居たのが女性だけだったということもあって、水着が流された直葉に合わせて全員が裸で遊んだ。
女同士なので恥ずかしくはなかった。だが、目の前に広がる光景にシリカは深く絶望した。
「直葉さんほどじゃないにせよ……アスナさんもやっぱり大きい。アリスさんも……私以外はみんな、おっぱいが大きい。バインバインしてる……」
一緒にリゾート観光に来ている少女たちはみな胸が大きかった。直葉ほどの爆乳でないにしても同世代の少女と比べて立派過ぎるスタイルの持ち主だった。一方でシリカは同世代の中でも小柄で胸も尻も小さい。現在の学校でもクラス内でロリキャラ、妹キャラ扱いされており思春期少女としては不本意な扱われ方だった。
それでも学校内では同級生たちは制服を着ている。スタイルの差がハッキリと見えることはあまりない。だが、今は真夏のビーチで裸。スタイルの差は露骨なまでに明らかになってしまう。これまでの人生で乳房が揺れたことがないシリカにとっては酷な暴れん坊将軍な光景が目の前に展開されていた。
「おっぱいって……どこのアイテム屋で売ってるの?」
初期キャラメイクを間違えた。少女はそう思うしかなかった。人知れずそっと涙した。
***
キリトを中心として知り合ったヴァーチャルゲームプレイヤー仲間のお泊り女子会は表面的には平穏だった。だが、その平穏は表面的に過ぎなかった。
「キリトくんが直葉ちゃんと兄妹婚しているのは良くないって。私は思うんだ。うん、絶対だめだよね♪」
海で遊んで、夜は温泉。女子会はバカンスを満喫している。だが、その出席者たちの心中が全員穏やかとは限らない。
主催者であり宿泊地を提供したアスナは顔ではずっと笑っている。だが、内心は不満をいっぱいに抱えていた。
アスナは、直葉がキリトをSAO攻略中に昏睡中のリアルキリトの身体をNTRってしまい、そのまま妹婚に持ち込んだことに今でも納得がいかなかった。
アスナが遅れて目を覚ました時、恋人であった筈のキリトはもう既婚者となっていた。
そして毎日直葉に激しく絞り尽くされ続けているキリトは、今ではすっかり従順に妹との結婚を受け入れていた。
それがアスナには不満で仕方なかった。そしてその不満はシリカにとってははた迷惑でしかない方法で解消されるのが日課となっていた。
「これからちょっと直葉ちゃんをぶっ倒してキリトくんと別れさせようと思うんだけど……シリカちゃんも一緒に来る?」
アスナは黒アスナさまと化していた。
黒アスナさまは直葉を攻撃してキリトを力尽くで奪い取ろうとするのが日常と化していた。
両者共に剣の達人である2人のリアルワールドでの戦いは凄まじく、その被害もまた尋常ではなかった。シリカにとっては命の危機にも繋がる理不尽な暴力の応酬だった。
リアルワールドでは使い魔もなく非力な小柄少女に過ぎないシリカは2人の争いに巻き込まれたくはなかった。だが、両陣営とも孤立していないことを示す為にシリカを引き込もうとしていた。無関係でいられないこともまたシリカにとっては理不尽だった。
「わっ、私は……もっ、もうしばらく……温泉を、堪能したいと、思います……」
シリカの声は震えていた。
この日課バトルに参加すれば五体満足ではいられない。むしろ命日になるかもしれない。シリカの勘は最大級のアラームを鳴らしていた。
「…………そう。海と温泉に招待したのは私なんだし、まあ、良いか」
黒アスナさまは夜空を見上げながら軽く息を吐き出した。その呟きにシリカは安堵した。
「じゃあ、私はちょっと直葉ちゃんを殺して来るわね」
やたら物騒なことを口にすると、黒アスナさまは重力を無視して宙を浮かびながらシリカの元を去っていった。
それから間もなく、宿泊予定のコテージのある方角から大きな粉砕音が鳴り響き、ついで火の手が空に舞い上がるのが見えた。
シリカは湯に浸かりながら呆然と夜空に浮かぶ火を見つめていた。その火の下では黒アスナさまが直葉とアリスを相手に戦っているに違いなかった。剣技を極めた者同士の戦い。シリカが近寄れば一瞬にして千切りに斬られてもおかしくはない。
そしてしばらく見つめた後にとある一つの結論に辿り着いた。
「これから剣の道を進んであの3人の仲間入りだけは絶対にしたくない。だったら……胸を大きくすることに私の全力を尽くそう」
再び勢いよく火柱が吹き上がるのを目撃しながらシリカは自分のささやかな胸を揉んでみせたのだった。