sss 俺いも 五更瑠璃 win10サポート終了
「win11のセットアップが終わらないわぁああああああぁっ!?」
2025年10月13日月曜日夜。JK人妻高坂瑠璃は入浴しながら頭を抱えていた。
明日10月14日をもってWindows10の公式サポートが終了する。Windows11という新環境に移行しなければならないが、その作業が遅れていた。
「まあ、そんなに深刻に考えることはないんじゃないか? 新しいパソコンは手元にあるんだし」
夫である京介はあまり深刻には考えていなかった。
実際、今日瑠璃が行っていた移行作業を横から眺めていただけなので何が大変なのか分かっていなかった。
「確かにこの連休を利用して、新しいパソコンの最低限のセットアップは行ったわ」
瑠璃は小さなため息を吐いた。
彼女はこれまで中学の時からずっと同じノートパソコンを使ってきた。
お絵描きもゲームの編集作業もできるそれなりのパワーを持つ端末だった。だが、購入した当時から中古であり、マザボもCPUも古いものだった。その為に、Win11にアップグレードする要件を満たさず、今回は買い替えとなった。
沙織の下でゲーム制作に従事していた給金があったので新型のノートパソコンを導入することはできた。だが、新しいパソコンが手元にあればセットアップ終了とはならなかった。
「時間はずいぶんと掛ったけれど、ウィンドウズのアップデート作業は終わった。でも、創作環境を整えるにはまだ時間が相当掛かるわ」
瑠璃はもう一度大きなため息を吐いた。
「お絵かきソフトにせよ、文章編集ソフトにせよ新しいパソコンにインストールしたからデフォルト初期状態に戻ってしまったわ」
「それが何か問題なのか?」
「大ありよ」
瑠璃は唇を尖らせて拗ねてみせた。
「貴方にも分かり易い例を挙げると。入力し易いように辞書登録していた単語が全て失われたわ。新垣あやせといちいち入力するのは面倒だから“やん”と登録していたわ」
「ヤンデレのやん、か……」
瑠璃は小さく頷いてみせた。
「日常的に創作活動していると、些細な変換ミスがイラっときて集中力を乱されるの。つまらないことから作業工程が大きく遅れてしまうなんてことも残念ながらよく起きるわ」
「変換ミスっていうか、登録してなきゃ出てきようがないよな。やん→新垣あやせって」
「そう。だから、これからまた辞書登録を一つ一つやっていかないといけないと思うと途方もない作業になるのよ。それ自体がストレスね」
瑠璃の表情は沈んでいる。
彼女は沙織の下では絵師専門だが、個人的な創作活動では今でも小説も手掛けている。瑠璃の小説は中二病要素が満載で、その文章に現れる単語は普通ではどうやっても変換されないような当て字や難しい漢字で溢れている。既存ノートパソコンで積み重ねてきた単語辞書登録は文字通り瑠璃の財産だった。
「中二病単語を使わなければ……いや、創作環境という意味で、本当のセットアップはこれからってことだな」
京介は妻の機嫌を損なうことを恐れた。
「そうなのよね。お絵かきソフトにしても、使いたいブラシが使いたい太さでセットされた状態でないと、ブラシをダウンロードしたり、設定を弄るだけで時間が掛かる。お絵かきソフトの作業効率が落ちることは私たち夫婦にとっては収入に関わる大きな問題よ」
「セットアップって思ったより切実な問題なんだな」
京介も収入に関わると聞いて大きく首を縦に振ってみせた。
「だったら、もっと早くから移行作業をしていればというツッコミは出てくるわな……」
ぼそっと口を滑らせる。
「確かにその通りね。でも、新環境に移行したら苛立ちながらの創作活動を早く始めないと駄目でしょ。快適な環境での創作活動は1日でも長くしていたかったのよ」
「なるほどな」
瑠璃は軽く目を瞑ってみせた。
既存のパソコンの性能に不足を感じてはいなかったので、本当なら環境を変えたくなかった。せざるを得なかったので仕方なく、期限ギリギリに取り換えた。それが瑠璃の本当の事情だった。
「でも、今の瑠璃を見ていると、8月の最終日に夏休みの宿題が終わってなくてテンパっているアニメキャラみたいだぞ」
「随分と遅いエンドレスエイトが私にも起きた。そう思うことにするわ」
瑠璃は気分を切り替えて、創作のための環境づくりを時間を掛けて続けていくことを心に決めたのだった。