SSS 僕の心のヤバいやつ 関根萌子、山田杏奈 疑惑
「杏奈に急に温泉旅行に誘われる。しかも同伴者は私だけとか……これは、何かあるよね」
10月後半の土曜日の午後3時過ぎ。関根萌子は一人露天温泉に浸かりながら思索に耽っていた。親友に誘われた温泉旅行には何か裏がある。それを感じずにはいられなかった。
週の半ばにクラスメイトで親友の山田杏奈に温泉旅行に誘われた。要領を得ない説明だったが、萌子の理解では仕事の慰安旅行ということだったが相方がキャンセル。代わりに白羽の矢が立ったのが萌子だった。
交通費も宿泊費も全て無料ということで萌子は了承した。けれど、腑に落ちない点があった。旅行の補充要員が1人だけなら杏奈に最も近しい小林ちひろに声が掛かってしかるべきだった。だが、杏奈がちひろに接触した様子はなく、萌子からちひろに話を振られるのも杏奈は嫌そうだった。結局、細かいことに目を瞑ってのオーケーだった。
萌子が感じている疑念は出発前だけに限ったことではなかった。
「杏奈のヤツ、旅行の最中にいなくなり過ぎでしょ」
杏奈の口からため息が漏れ出た。
萌子の連れは今回の旅行中、何度も何度も、しかも長時間彼女の前から姿を消していた。
『ちょっとお菓子買いに行ってくるから~』
食べるのが大好きな杏奈は買い食いを理由にいなくなった。だが、ただの買い食いにしては長過ぎる不在だった。駅でも列車の中でも、温泉街の観光でも杏奈は姿を消した。そして随分長い間萌子を待たせたというのに、戻ってきた彼女はとても良い笑顔を浮かべていた。
だから萌子は一つの仮説を立て、杏奈がいなくなる旅に自信を深めていった。その仮説とは──
「この旅行にはもう一人参加者がいる。ていうか……イッチ、だよね」
この温泉旅行には萌子に内緒で市川京太郎が参加している。それが萌子が確信を抱いている仮説だった。
「…………ていうか、この場合。萌は杏奈とイッチの旅行じゃないことを誤魔化す為のカモフラージュで、ラブラブな2人のお邪魔虫なわけじゃん」
肩が大きく落ちるほど深いため息が漏れ出た。
杏奈は市川とも温泉旅行に来ている。そう考えると全ての辻褄が合った。何よりちひろではなく萌子が誘われた理由が分かり過ぎた。ちひろだったら、杏奈から長時間離れることを絶対に許せない。杏奈は市川に会うことができなくなってしまう。だからこその萌子。
「中学生の男女2人で旅行なんてどうやっても認められるはずないし。私は2人が付き合っているの知ってるから良いんだけどねえ」
萌子は今回のモデル仕事の慰安旅行という体裁自体が嘘なのだろうと思った。杏奈が市川と旅行に行くための壮大なギミック。
萌子にしてみれば騙されているわけだが、それを怒る気にはなれなかった。問い質すつもりもなかった。嘘が下手な杏奈が旅行を実行まで移した。それだけ大事な思いが込められた一泊二日であることが想像がつくから。
それが分かっても尚、少女には疑問があった。
「杏奈とイッチってもう……ドッキングしてるのかな?」
だいぶ下種っぽい疑惑だった。
だが、中学2年生の思春期少女としては最も気になるところではあった。
そして自問する萌子はある程度の予測は付いていた。
「まあ、あの2人……もうシちゃってるんだろうけど。杏奈、しばらく前に妙に女っぽくなっていた時期あったし。股、痛そうにしてたし……」
萌子は空を見上げた。
プロモデルをやっていてただでさえ遠いところを歩いている友人が、性的な意味でも大人になってしまった。同い年であっても自分の方が遥かに子どもであることを思い知らされる。思春期の少年少女にとっては辛すぎる認識。ただ、それでも萌子は劣等感に押し潰されたりはしなかった。
「何にせよ、この旅行が終わったら。明日の朝を迎えたら……杏奈の非処女は確定になるわけだなぁ」
笑いが漏れ出た。
シュレディンガーの猫状態の杏奈の貞操が今夜で確定に変わる。
彼氏と呼ばれ保護者を自認するちひろであれば何が何でも“営み”を妨害するに決まっている。一方で友達ではあっても保護者ではない萌子は止めはしない。そもそも市川がこの旅行に同行していることに気付いていないことに徹する。
「今夜は健康優良児になって夕飯食べたらすぐに寝るか~♪」
友に送れる最大限のサポートを口にして大きな声で笑った。
明日の帰り道の電車の中ででも、今夜の出来事を聞いてみよう。そう心に決めたのだった。
***
一方その頃、山田杏奈は……
「萌子、この旅行に京太郎が付いてきてるって気づいてないよね?」
風呂からは早々に上がったが、女湯へと繋がる入口付近で立ち止まっていた。
萌子の予想通りに旅行には市川が同行していた。より正確には、杏奈は恋人である市川と2人きりでお泊り旅行がしたかったがそれが叶わず、萌子を巻き込んで女子慰安旅行の体裁を取っていた。
杏奈は基本的に萌子と行動を共にしている。だが、元々は市川との旅行だったので時々抜け出しては恋人との時間を楽しんでいた。けれどそのことに今は後ろめたさを覚えていた。
「京太郎は絶対に気付かれてるって言っていたけど……何も言ってこないし。う~ん……」
この旅行中、萌子は市川について一言も言及してこない。それが杏奈には何を意味しているのか分からなくて混乱していた。
ちなみに萌子が市川について言及しないのは、嘘が下手な杏奈がテンパってしまわない為の配慮、優しさだった。
「萌子が眠ったら京太郎が泊っている部屋に移動するわけだけど……萌子、早く寝てくれるかなあ?」
健康優良児になることを決意した友の気遣いを知らない少女は不安が拭えない。
少女の不安は恋人の部屋への移動だけではなかった。
「京太郎の部屋に行ったら……いっぱいえっち、するんだよね?」
杏奈の頬が真っ赤に染まった。
「京太郎、体は小さいけどえっちは凄く逞しくてこの間だって……」
杏奈は先週末、家族不在の市川家を訪ねた時のことを思い出して全身赤く染まった。
小さな体に似合わない激しいセックスに杏奈は意識を何度も飛ばされるほどの強い刺激と快楽を味わった。
市川のことを愛しているのでセックスが激し過ぎても構わない。問題は別の点だった。
「京太郎……避妊に気を使ってくれないから。最初に生でえっちしようって提案したのは私なんだけど……」
杏奈の胸の奥がチリチリと痛んだ。
初体験の際、奥手でかつビビりな市川をその気にさせて逃さない為に、避妊具を持っていなかった恋人に避妊具は要らないと力説したのは杏奈の方だった。結果、初体験の時から2人のセックスはコンドームなしがデフォルトとなっていた。
「今月、生理が遅れてるって市川に言った方が良いのかな? でも……」
杏奈は俯きながら唇を軽く嚙んでみせた。
コンドームなしでのセックスデート。市川は、はじめは外出しに努めていたが、不意に中出ししてしまうケースが増え、ついには抵抗なく中出しするように変わっていた。先週のお家デートの際のセックスでは3発みんな膣内射精だった。
膣内射精ばかり繰り返せば、妊娠という問題が現実のものとなってしまう。検査薬で調べたことはないものの、生理のかなりの遅れを杏奈は妊娠したのではないかと疑っていた。
ただ、杏奈はその疑いを悲観的にだけ捉えていたわけではなかった。
「あんなに中出しを繰り返しているってことは……京太郎は中学生パパになるつもり、なんだよね?」
緊張を滲ませつつも杏奈は照れ笑いを浮かべていた。
「危険日だって言ったのに何度も何度も子宮に注いじゃって♡ 私は覚悟出来てるけど……京太郎も同じ気持ち、だよね?」
杏奈は語りながら興奮していた。少女は少年とずっと一緒にいられるのなら中学生母になっても構わない。漠然とではあるが、そう考えていた。
「同じだったら……嬉しいなあ」
杏奈は元気が湧いてきたのを感じていた。
「赤ちゃんもう出来ちゃってるかもしれないし。だったら、今夜のえっち、特に気を使わなくて大丈夫だよね♪ いっぱいいっぱい、京太郎に好きに愛してもらおうっと♪」
第三者には分かり辛い謎の結論に達して杏奈は大きく頷いてみせた。
「とりあえず……萌子が温泉を上がるまで、京太郎の部屋でイチャイチャしよ~っと♪」
悩むのを止めた杏奈は足取り軽く、スキップしながら露天温泉を出ていったのだった。