SS日々は過ぎれど飯うまし 河合まこ ダイエット頑張るぞ
「ごっ、ごんぶと~っ!?」
入浴後に体重計に表示された己の体重を見てJD1年生河合まこは顔を青ざめさせた。大学入学前とは比較にならない程に肥えていた。そのことに今まで気付かなかった。
高校卒業時までのまこは極度の人見知りだった。一人では食堂や食料品店の店員と簡単な会話もできないほどに。
その人見知りは体重管理という意味では大きなプラス作用になっていた。自由な買い食いや外食ができなかったのだから。
大学に入り、友人もできてサークルにも加入し、人付き合いにも多少慣れた。見知らぬ店員とやり取りして買い食いすることもできるようになった。友人たちとの会食も高校時代まではないものだった。
まこはまっとうな大学生生活を送る様になっていた。だがそれが、カロリーの過剰摂取という今までは起こり得なかった事態を引き起こしたのだった。彼女は自分であまり気付いていなかったが暴飲暴食系女子だった。
「きっ、きっと……バスタオルが水を吸って重くなっているだけだよね。これを外せば実家にいた時と同じに……」
まこはバスタオルを外してもう一度体重計に乗ってみせた。
「ひっ、控えめに言って豚ぁあああああああああああぁっ!?」
示された体重を見て、まこは再び激しいショックを受けた。彼女の望む結果とは程遠いものだった。
「だっ、ダイエットっ! ダイエットしなきゃっ!」
まこは狼狽しながらダイエットを決意した。
そしてすぐにスマホで検索を始めた。
「ダイエットの基本は……食事制限などでカロリーの摂取量を減らすマイナスと運動量を増やすことなどでカロリー消費量を増やすプラスの組み合わせで成り立つ。なっ、なるほど」
まこは目をグルグルさせながら情報を基にダイエットの大まかな計画を立てていく。
「1kg痩せるにはプラスマイナス組み合わせて6千Kcalに達すれば良い。甘い物を控えて運動量を増やせば……いけるっ! いけるよっ!」
まこは絶望に囚われてしまわない様にネット記事に何とか希望を見出してみせた。その達成がどんなに困難であるのか考察もせずに。
「早速、運動を始めなきゃっ!」
善は急げとばかりにまこは早速運動を始めることにした。裸のまま浴室を出て行き、リビングで両親が護身用にと持たせた警棒を持ってみせた。
「昔、通信教育で3か月間学んでいた剣術。これをやれば十分なカロリー消費になるよね♪」
まこはリビングの中央で警棒を振り回し始めた。
「えいっ! やあっ! とおっ!」
まこの素振りは無茶苦茶で素人そのものの変な打ち込みだった。
そもそも彼女が実家で学んでいたのは正式な剣道ではない。著名な剣術でもない。コスプレイヤーが撮影の際にポーズを美しく見せる為の立ち居振る舞いの類だった。高校生だったまこはそのこともよく知らずに教本の真似をしてむやみに棒を振り続けた。そして飽きて止めたのだった。
素人が手だけで振り回しているので疲れる割に運動量は少ない。当然、カロリー消費量もほとんどない。
そもそもカロリー消費は疲労自体とはあまり関係がない。有酸素運動をどれだけ持続的に行えるかに掛かっている。しかも、どれだけ有酸素運動を続けても、1日に消費されるカロリー量はダイエット初心者の想定を遥かに下回る。故に継続が必要となる。
だが、テンパっているまこにそこまで調べている余裕はなかった。むしろ、ダイエットの困難な側面なんて知りたくなかった。
「腕もパンパンだから今日のダイエットは終わりっ♪」
10分ほど振り回してまこは今日の運動の終了を宣言した。無茶苦茶な素振りは腕と頭に多くの疲労を与えていた。
「これだけ運動したんだもん。少しぐらい甘い物を食べてもカロリー消費量が上回るよね♪」
まこは笑みを浮かべると裸のまま冷蔵庫へと向かって行った。
扉を開けて小皿を取り出す。風呂上がりに食べようと予め作っていたフルーツ白玉だった。
スプーンを手に取り、何の躊躇もなく黒蜜が掛かった白玉を口へと運んでいく。
「甘くて美味しい~♪ 運動の疲れが吹き飛んでいくよ~♪」
まこはご機嫌な表情で皿に入っていたスイーツを全部平らげてしまった。
「今日のダイエットは成功♪ 明日もまたダイエット頑張るぞっ♪」
まこは右手を振り上げながら決意を新たにする。
こうして河合まこのダイエット挑戦は始まりを告げたのだった。