SS 日々飯 星なな他 食文化研究部活動停止
「突然ですが……食文化研究部は一切の活動資金がなくなり、当面活動ができなくなりました~っ!」
大学部室棟内の食文化研究部部室内。一応は部長という肩書になっている小川しのんの一言は部員たちの雰囲気を一気に重くしてしまった。
「原因については思い当たる節はありますが……一応説明してくださいますか?」
部の中では比較的コミュニケーション能力の高い比嘉つつじが手を挙げて説明を促す。しのんはコホンとわざとらしく咳ばらいをしてみせると金欠の理由を述べてみせた。
「この前の日曜日。私たちは食文化研究部の活動で人気のスイーツを食べ歩き、その打ち上げで焼き肉屋に入りました」
「はい、覚えています」
「安くて食べ放題の店に入ったつもりでしたが、お店を間違えてしまいました」
「間違えたのはしのんでしょ」
古舘くれあがジト目を向けたがしのんは目を合わさなかった。
「入ったのは超が付く高級役肉店でした。そして、お肉のあまりの美味しさにまこっちが食欲の野獣に目覚めてしまい高いお肉の注文が止むことはありませんでした」
「食べ放題のお店ではないと注文する前に気付いていれば……」
つつじは大きなため息を吐いたがもはや後の祭りだった。
「会計となったところで驚きの金額を提示されました。5人の食費は合計で20万円を越してしまったのです」
「1人4万円強……高級なお寿司さんにでも入った金額よね。行ったことないけれど」
くれあも大きなため息を吐いたがやはり後の祭りだった。
「それでしのんのお母さんに来てもらい、クレジットカードによる払いで何とか切り抜けた、でしたよね」
「食べ放題かどうかも確かめずにいっぱい食べてしまって申し訳ありませぇ~ん……」
金欠の一番の原因となった食欲の魔神である河合まこが身体を震わせながら頭を深く下げた。
「食べ放題だって思ってたんだし。別にまこが悪いわけではないでしょ。大学生にもなってご飯食べてお金が足りないから親に頼んだって言うのはかなり格好悪いけど」
くれあは苦笑してみせた。
「まあ、うちの親は食費の返還は全然急いでいないんだけどね。でも、事態を知ってしまった事務のお姉さんが……返済が終わるまでは活動は休止してお金を稼ぐことに専念しなさいって」
「申し訳ありませぇ~~んっ」
まこは再び深く深く頭を下げてみせた。
「というわけで約23万円、返済したことを証明するまでは大手を振って活動できません」
「まあ、バイトして返すしかありませんよね」
「1人5万円弱。1か月あれば返せない額ではないわよね……授業に出て、各自の生活の為のバイトの時間を差し引くと、もう少し時間かかるかもしれないけれど」
「申し訳ありませぇ~ん」
まこが何度も頭を下げる中で部員たちはアルバイトの計画を練っていく。だが、つつじだけはちょっと違った方向に頭を巡らせていた。
「これは気を付けないと。漫画に出てくる女子大生に起こりがちなえっちな展開を迎えてしまうかもしれません」
「「「「えっちな展開~っ!?」」」」
つつじの懸念に4人の乙女たちは一斉に反応してみせた。
「例えば、ななの場合はビラ配りのバイトをします。顔を隠して気が大きくなったななは色々な男性に明るく陽気に、そしてリップサービスしまくりで声を掛けまくるのです。声を掛けられた男性の中には素人専門のAVの監督兼カメラマンがいて、ななはAV女優デビューとなってしまうのです」
「えぇえええええええええええええぇっ!?」
「素人専門のAVとか……何でそんなに詳しいのよ」
くれあは呆れていたがななはガタガタ震えていた。
「顔を晒してしまえばななはヨワヨワですから。監督の言う通りにえっちな撮影をされてしまうのですよ」
「きぎゃああああああああああぁっ!? 私の汚れなき処女がぁあああああああぁっ!?」
つつじの話にななは両手で顔を覆って発狂していた。
「私は、珍しいカブトムシを見つけて売ってお金を作るから。ななみたいにAV女優になったりはしない」
自信満々に断言するしのん。だが──
「高値になる珍しいカブトムシは簡単に捕まえることができません。しのんは日焼けして小麦色の肌になった一方でお金を得ることができず、結局金策に窮した挙句にななと同じAV女優デビューです」
「何でそんな簡単にAVに出演させたがるのよ……」
くれあはまた大きなため息を吐いた。
「わっ、私も、AV女優デビューなんでしょうか? 結婚するまで清い身体でいないと駄目なのに……」
まこは震えながらおそるおそる手を挙げてつつじに尋ねた。
「いや、その質問自体おかしいからねっ!」
くれあはツッコミを入れたがまこには届かない。
「ご安心ください。まこっちはAV女優デビューは致しません」
「そっ、そうなんだぁ」
「それで安心して良い訳じゃないからね……」
大きな安堵の息を吐いてみせるまこ。くれあは微妙な表情となった。
「まこっちは、類まれなる食欲がありますから。大食い専門のお笑い芸人枠、汚れ芸人役として業界デビューです。不味いものでも美味しそうに食べたり、着ぐるみやコスプレはデフォと厳しい道ですよ」
「それでも……私、頑張るよっ!」
「普通にバイトしていれば、テレビデビューなんて展開はまずないわよ……」
くれあは遠い瞳をしていた。
「借金の返済を通じて食文化研究部の清純派は私1人になってしまうのですね……寂しいです」
つつじは哀愁を漂わせながら前髪を弄ってみせた。
「…………どうして私が清純派から外れてるのよ? 私は、AV女優になんてならないわよ」
くれあは赤面しながら警戒線を張ってみせた。だが──
「くれあはまこっちのお嫁さん。人妻じゃないですか」
「そうだった。くれあちゃんは私のお嫁さん、だったっ!」
「「人妻女子大生は響きだけでエロいっ!」」
つつじの説明に、まこは頷き、しのんとななの声が揃った。
「私はまだ人妻じゃないってのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!」
くれあは絶叫した。
結局5人で普通にバイトして借金返済を1か月で済ませたのだった。