SS 久保さんは僕を許さない 久保渚咲、五更瑠璃
「えっ? 白石純太とまだキス以上の関係になっていないの?」
「こっ、声が大きいよ、瑠璃ちゃ~~んっ!」
夏休みが始まって1週間ほどが過ぎた7月末日の千葉市内の某スパ。
高坂瑠璃(旧姓:五更)はハナザーボイス仲間の久保渚咲の近況報告を聞いて驚いていた。だが、報告した渚咲は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「だって、渚咲が白石と付き合い始めて結構な月日が経つのではなかったかしら?」
「それは、そうなんだけど……」
渚咲は照れながら困っていた。
「だっ、だっ、だって……えっちって、やっぱり、その、色々、怖いし……」
恋人と肉体関係を結べていない理由を真っ赤になりながら述べた。
「白石にはきちんと責任を取ってもらって、9月からは白石渚咲として登校すれば良いでしょ」
JK人妻である瑠璃は自身の立場を基に煮え切らない渚咲にアドバイスしてみた。
「世の中の大半の女の子は、瑠璃ちゃんみたいに思い切った行動は取れないんだよ……」
「白石純太と結婚する意志はないの? 付き合って楽しく過ごすだけの関係で終わりなの?」
「…………白石くんと結婚はしたいです。白石渚咲の響きには、憧れがあります……」
「じゃあ、セックスしてそのままお嫁入りすれば良いじゃない。丁度夏休みで嫁ぐには良いタイミングよ」
「将来的にはお嫁に行きたいけど。今すぐは無理だよぉおおおおおおおぉっ!!」
渚は目を瞑って嘆いてみせた。
「大体私、お嫁さんになるには色々と足りてないんだよぉ~」
「何が足りないのかしら?」
「…………お料理の腕前とか。白石くんに手料理、振る舞えない……」
「練習すれば良いじゃない。料理に限らず花嫁修業は大事よ」
「…………練習してたら、お姉ちゃんにキッチン出禁にされた」
「そう言えば、私も義妹、桐乃の台所への立ち入りを禁止していたわね。一家の健康を守るためには必要な措置ね」
瑠璃は調理を行うたびに救急車出動騒ぎになる義妹に料理禁止を課していることを思い出しながら頷いてみせた。
「ううっ。お料理の練習もできない……」
「火を使うと悲惨な結果を迎えるから。とりあえずフルーツの皮むきでもして包丁の扱いに慣れることから始めたら?」
「包丁使うと必ず指を切っちゃうから。お姉ちゃんに包丁持つの禁止にされてる……」
「その点は桐乃より重症ね……」
瑠璃は大きくため息を吐き出した。
「でも、別にこの令和の時代に手料理が振る舞えなくても困ることはないでしょ。スマホで何でも配達してくれる時代なのだし」
「…………私は、私の作ったものを、白石君に食べて欲しい。ちゃんとお嫁さん、したい……」
「志が高いのは良いことだけれど。理想と現実が噛み合ってないわね」
瑠璃は再び大きなため息を吐き出してみせた。
「それに私、胸小さくて自信ないの。白石くんに裸を見られてがっかりされちゃったら……」
「心から好いている女が肌を晒してガッカリする男なんていないと思うわよ」
瑠璃は自身の胸に手を当ててみせた。
「私は渚咲と同じぐらいの胸だけど……京介は満足してくれているわよ」
「それは、瑠璃ちゃんがラブラブ夫婦だから……」
「貴女もなれば良いじゃない。セックスして婚姻届を提出するだけの簡単な手順だわ。逆も可よ」
「瑠璃ちゃんが簡単に言うハードルは私にとっては高過ぎるんだよぉ~~っ!」
渚はスパ内で嘆きの絶叫をしてみせた。
「貴女の理想と現実が噛み合っていないことは十分に理解したわ。渚咲なりのペースで白石と仲良くなっていけば良いわ」
瑠璃はこれ以上渚咲を焚きつけては周囲の迷惑と思い、話を締めに掛かった。
「…………うん。高校を卒業するまでにはえっ……白石くんのところにお嫁入りできるように頑張るよ」
「高校卒業までって、随分と気の長い話ね。まあ、たゆまずに頑張りなさい」
瑠璃はクスッと笑ってみせた。
高校在学中に嫁入りするならば、それは世間一般の嫁入りと比べれば格段に早い。瑠璃はその点については触れなかったのだった。