ブレンドS 日向夏帆 進路
夏休み直前、日向夏帆は返却された期末試験の答案用紙を見て頬を引き攣らせていた。
「ゲームしながら勉強した筈なのに……何でこんなに成績が悪いのぉっ!?」
大学進学を考えるどころか、進級、卒業すら危うい点数のオンパレード。学校の方針により赤点対象者への夏休みの補習はない。けれどそれは、2学期の試験の結果次第で自動的に留年が決定してしまうことを意味していた。
「しっ、真剣にこれからのことを考えなくちゃっ! ……今日の限定イベントを終えてから」
成績の悪さに夏帆も今後のことについてさすがに真剣に考えなければならなくなった。
そして夏休みが始まり、ゲームと喫茶スティーレでのバイトをこなしながら一つの結論を得た。
「よしっ! あたしの生きる道……決めたっ!」
夏帆は8月12日の誕生日に結論を行動に変えることを心に決めたのだった。
8月12日スティーレ閉店後。キッチン担当の秋月紅葉はスタッフルームに決められた時間に訪れる様に呼び出しを受けていた。
「卒業後の進路について相談があるって言ってたな……でも俺、大学は行ってないからなぁ。受験がどうとか言われても分からんぞ。料理の専門学校なら口も出せるが……」
秋月は予め予告されていた相談内容に頭を悩ませながらスタッフルームの扉の前に立った。
既に店には秋月と夏帆を除いていないことは確認済み。店長のディーノからは鍵を預かっている。
「日向……入るぞ」
時間ピッタリになったので、秋月は声だけ掛けて返事を待たずに扉を開いた。
「なあ、相談って具体的には……へっ?」
秋月は言葉を途中で遮るしかなかった。
目の前に予想外の光景が広がっていたから。
「秋月くんっ! 何を見てるのっ!?」
着替えの最中だったのか、夏帆は上半身裸。パンツ1枚のみの姿だった。
高校生とは思えない豊満に乳房。その先端の桜色の突起が目に入ってしまい、秋月は硬直してしまった。
「はっ、裸見た責任、取ってよねっ!」
顔を真っ赤にした夏帆に責任と言われて秋月はふと我に返った。
そして目の前で起きていることを改めて思い返した。
裸の夏帆が自分に責任を取ることを求めていた。
「えええっ!? 俺は高校卒業後の進路について相談があるからって時間通りに来ただけで……」
自らの正当性を訴えてみる。
けれど、目の前に裸の女子高生がいるのでは説得力がなかった。秋月の目は夏帆の裸体にくぎ付けとなって離れることができなかった。
「秋月くん……私の裸、見てるよね?」
「…………あっ、はい」
夏帆に問われて今になって慌てて目を逸らす。だが、遅すぎることは明白だった。
「じゃあ、秋月くんは男の子として責任を取らないと駄目だよね」
「せっ、責任って……一体、何だよ?」
秋月が恐る恐る尋ねると、夏帆は顔を更に真っ赤に染めながら責任の中身を語ってみせた。
「だから……秋月くんが責任取ってくれたら相談終了でしょ。永久就職決定だもん」
「おっ、応」
秋月は最初何のことだか分からずに反射的に了承してしまった。
だが、返事をしてから永久就職という単語の意味が気になり始めた。むしろ、理解してしまった。
「…………えっ?」
上目遣いで見てくる夏帆のうっとりとした表情に疑問符に満ちた声とは裏腹に確信を得てしまっていた。
「秋月くんの所にお嫁入りしたら……卒業後の進路の問題とかもうみんな解決だもんね」
夏帆は晒されている胸を隠そうともせずに秋月に向かって丁寧に深く頭を下げてみせた。
「不束者ですが、末永くよろしくお願いします」
夏帆の出した結論。
それは、ゲームという趣味がよく合って気になる男性でもある秋月の元にお嫁入りしてしまうことだった。
進学にも就職にも特にやりたいことを見出していない夏帆にとっては、嫁入りして将来に渡って社会的・経済的な身分を固めながら夫婦揃ってスティーレで働くこと。それが夏帆にしかできない、けれど堅実な生き方だった。
そして何より、秋月の元にお嫁入りすることを考えると、夏帆の胸は興奮と喜びでいっぱいになっていた。
「…………俺は、高校も卒業できない様な馬鹿とは結婚しないからな。せめて、高校を卒業してからプロポーズしてくれ……高校卒業まで、結婚は待ってください」
幸せそうに求婚してくる夏帆に対して、秋月は弱気なツンデレ、というかお願いをするのが精いっぱいなのだった。