SSS ガンダムジークアクス マチュ マチュの地球滞在記1
マチュことアマテ・ユズリハは不運も重なってテロリストとして顔と名前を公共の電波に晒されてしまい、その後の政治的混乱の中で身に覚えのない余罪が増えてしまった。
故郷であるサイド6に戻って元の女子高生生活を送ることを諦めたマチュは、元々憧れだった地球で暮らすことを決意。まずは地球での暮らしに慣れる為に同じ声仲間の細川美樹と入れ替わることにした。
美樹はジオン軍保護下で宇宙でガンダムパイロットとして暮らし、マチュは童守小に通う小学生として生活する。期間限定のマチュの新生活が始まりを告げたのだった。
「美樹~っ! 今日は算数の小テストがあるからって、ろくろっ首になってカンニングしちゃ駄目だからね」
「そんなことしないってば……えっと、響子」
童守小に通い始めてから数日。マチュは戸惑い、四苦八苦しながらもマチュは細川美樹として小学生生活をこなしていた。
「…………というか、実年齢17歳の(元)女子高生の私が、小学生の集団の中に入り込んでどうしてバレないの?」
正体がバレずに学校生活を送っている。それこそが、マチュにとっては最も不可解な出来事であり、17歳のお姉さんのプライドを傷つけてもいた。
マチュは身長が147cmで同世代の少女と比較するとかなり小柄な方だった。細川美樹とはほとんど身長差がなく、正体がバレない一因となっていた。身体的特徴の類似性はそれだけではなかった。
「こんな巨乳の小学生なんているわけがないのに……どうしてバレないんだか」
マチュは地球では敢えてスタイルを全面的に曝け出すスタイルを取っていた。
彼女は所謂ロリ巨乳体型だった。だが、サイド6で暮らしていた時は、胸の凹凸が目立たないように矯正下着を着けたり、柄物の服を選んだりと工夫を凝らしていた。だが、地球に来て隠すのを止めた。
巨乳が目に付くので小学生である美樹でないことはすぐにバレる筈だった。だが、実際にはバレなかった。小学生に似つかわしくない大きな胸は、むしろ美樹の一番の特徴だった。マチュはその点をちゃんと確かめていなかった。
「え~と、今日はこの後確か……響子の家でお泊りだったよね。いったん家に戻って、お泊りの準備をしてから出掛けなくちゃ」
マチュは歩きながら今日のこれからの予定を思い出していた。
彼女はサイド6で暮らしていた時に、お嬢さま学校に通っていた。両親は社会的にも経済的にも成功した手堅い職に就いていた。
マチュは世間的にはお嬢さまだった。お嬢さま学校に通いながらも社会の枠に嵌ろうとしない自由奔放を貫こうとする漫画アニメでよくいそうなタイプのお嬢さまだった。
だからこそ、マチュが本物のテロリストとして指名手配された周囲の衝撃は大きかった。それが分かっているからこそ、マチュはサイド6に戻り元の生活を送りたいとは思わなかった。掛けられた幾つかの容疑が冤罪であり、ジオン軍上層部が全ての罪を握り潰したとしても戻りたいとは思わない。見知った人々が腫れ物に障る様な空気の中で生きたいとはどうしても思えなかった。
それはそれとして、テロリスト認定される前のアマテ・ユズリハは人気者で愛されキャラであり友人には事欠かなかった。閉塞感漂う実家を出て友人の家に泊まりに行くことも少なくなかった。
だから、クラスメイトである稲葉響子に誘われて泊まりに行くこと自体には何の抵抗も感じなかった。
「まあ、バレたらバレたで良いんだし」
美樹との約束で、マチュの正体がバレたら入れ替わり終了と示し合わせている。初日終了も覚悟していたが、いまだにバレていない。
しかし、泊りに誘う程に親しい友人と長時間接すれば今度こそバレるかもしれない。ただ、ここ数日でマチュも何となく気付くことがあった。
「美樹はあんまり自分の内側をクラスメイトに晒していない。常に本音で生きていると美樹は言っていたけれど多分違う。だから、どんなことを言っても結局は冗談半分に受け取られてしまう。その結果、私のつじつまが合わない筈の言葉も何となく流されて許されてしまう」
美樹は自分と似ている部分があるのかもしれない。
そんなことを思いながらマチュは現在の居住地である細川家へと戻っていった。
「美樹が急に勉強が得意になったから、またろくろっ首になってテスト問題を覗いているんじゃないかって噂になってるわよ」
「小学生の勉強……何点まで取って大丈夫か、美樹に確かめておけばよかった……」
稲葉家に到着したマチュは夕飯をご馳走になり、今は美樹と2人で入浴していた。
2人きりということもあって普段よりも突っ込んだ話題が展開されていた。その中には入れ替わる前に美樹と交換し合った互いのパーソナルデータにないことも多かった。
ただ、それでも響子はマチュの正体に気が付いているわけではなさそうだった。
「ここ1週間ぐらい、教室内でやたらそわそわしていることが多いけど……何か悩みでもあるわけ?」
響子からは至極当然な質問が飛んできた。
美樹でないとバレないかそわそわしていたわけだが、それを正直に言う訳にはいかない。マチュは美樹に聞いていた、対響子用のトラップを発動させることにした。
「ちょっと新作ファッションのことを考えていただけよ。そんなことより……広との仲はどうなの? 何か進展あったの?」
「なぁっ!?」
響子は顔を真っ赤に染めて声を詰まらせた。
立野広はクラス公認の響子のボーイフレンドだった。当人たちは否定しているが、マチュの目から見ても2人が付き合い始めるのは時間の問題だった。
だが、素直になれない響子は広との仲を話題にされると思考を停止させて頑なな否定の姿勢を見せる。話の流れを打ち切るには最適なトピックだった。
「わっ、私、先に出るからぁあああああああああぁっ!」
響子は濡れた体のまま走って浴室を出て行ってしまった。
「青春真っ盛りだねえ……」
17歳の公認テロリスト少女は天井を見上げながら大きく息を吐き出してみせた。
「正体がいつバレるか分からないけれど……それまでにもっと地球での生活に慣れておかないとね」
お湯を手で掬いながら今後の生活のことをちょっと考えてみるのだった。