「やめて!」
遠くからあやめの声が聞こえてきた。
先ほどまで笑っていたように見えたが、今の声は明らかに拒絶の声だった。
状況は分からないが、放っておけない。
俺はすぐにあやめのところに向かった。
「あやめ!」
「お兄ちゃん!?」
あやめがこちらに気付くと、男の方も驚いたようで。
「お…お兄さん!?…し…失礼しました~!」
あっさりと逃げてしまった。
「なんでお兄ちゃんがこんなところに!?」
それはこちらのセリフなんだが…
そこに後から追いかけてきたエミが息を切らしながら声をかける。
「はぁ…はぁ…高橋君…あやめちゃんは大丈夫?」
「エミさんまで!?」
あやめが混乱しているようだ。
なにやら「お兄ちゃんとエミさん」という言葉を繰り返している。
そして、自分の中で何かの結論に至ったのか…
「あ…お…お邪魔しちゃったよ~!」と叫びながら逃げようとしたので、すぐに捕まえる。
「あやめ、ちょっと待て、誤解がありそうなのと、お前の話も聞かせなさい」
多分変な誤解をしていそうなあやめに、優しく、それでいて有無を言わせない笑顔で語りかけた。
☆☆☆☆☆
「なーんだ~ご飯食べに来ただけだったんだね~♪てっきり…」
「てっきり?」
「お兄ちゃんとエミさんがお付き合いしてるのかと思っちゃったよ~」
やっぱり誤解してたか…
こんな場所で会えば、そう思われても仕方ないが。
チラっとエミの方をみると顔を真っ赤にして黙っている。
(怒らせたか…)
ここはしっかり誤解を解いておかないとエミも気を悪くするだろう。
「言っておくが、あやめが勘違いするような関係じゃない」
「え~?違うの?この前は家にも遊びに来てくれたのに?」
「断じて違う!それはお前が料理を教えて欲しいって言ったからだろ?エミにも迷惑がかかるから勘違いするんじゃない」
これだけハッキリ言っておけば、エミも許してくれるだろう。
もう一度エミを見てみると、赤く見えた顔は普通…いや、ちょっと負のオーラを感じる気もするが、怒ってはいなさそうな感じに戻っていた。
「べつに迷惑とかじゃ…」
エミがなにかブツブツ言っていたが、怒っていない事を祈ろう。
それよりも、もっと気になることがある。
「あやめ」
「はいぃ!」
そんなに強く言ったつもりはないが、あやめはぴーんと背筋を伸ばし、こちらを向いた。
別に怒るつもりは無いから、そんなに緊張しなくてもいいんだが。
まぁいい、とりあえず状況を聞いてみよう。
「なんで、あんな場所にいたんだ?」
「えーっとね~お店探し…かな?」
よくよく事情を聞いてみると、さっきのは同級生の友達らしい。
カフェ巡りが好きらしくて、色々とお店開拓するのが趣味だとか。
「で、あのあたりにすっごく美味しい店があるって聞いたらしくて、一緒に行く事になったんだよ~」
なるほど。
なんでも特製ローストチキンが美味しいお店らしいが…ん?
「それって私達が行ってたお店の事かな?」
「多分そうだな」
更に詳しく聞くと、お店を探して近辺をウロウロしたけど見つからず。
そして急に黙ったと思ったら、ホテルで休憩しようと誘われたそうだ。
そこからは俺たちが丁度見ていた状況という事だな。
「まぁ…若いから仕方ないか…」
家族のひいき目を差し引いても、あやめは可愛いと思う。
そんな女の子とホテル街をウロウロしていれば、魔が差すのも頷ける。
多分、本人なりの葛藤もあって、勇気を出して声をかけたのかもしれない。
すぐに逃げたところを見ると、引け目も感じていたのだろう。
その男の子にはなんとなく同情を感じてしまうが、妹を渡したくないという気持ちもあり複雑だ。
うん、ダメ。やっぱりあやめは渡さない。
「あやめも、あんまりほいほいついていくんじゃないぞ?」
「え~!ほいほいついていってないよ~!」
あやめがブーブー文句を言っているが無視だ。
事情は分かったが、危機感が足りていなかったあやめも悪い。
自分が男からどう見られるか、もう少し理解するように話をするべきなのだろうか。
☆☆☆☆☆
「じゃあ、また明日ね!」
とりあえず、状況も把握して落ち着いたので、エミとも別れて、あやめと家路につく。
そして、二人で歩いていると…
「お兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「ありがとね♪…やっぱり同級生って言っても、急に人が変わったように見えたから怖かったんだ…」
急に男に迫られたんだから、怖くて当然か。
「いや、ただの偶然だよ」
「そうかな~?」
なんの疑問だ?
俺が不思議そうにしてると
「お兄ちゃんってピンチの時は大体助けてくれるんだよね♪」
「そうなのか?」
「そうだよ~♪」
そんな会話を交わしながら、家までの道のりを歩いていた。