情報屋「トリマー」 【桜花学園】
Added 2022-07-11 21:30:00 +0000 UTC〈1〉 8 情報屋。 その存在は、噂程度ではあるけど私も知っていた。 桜花学園には、代々伝わる、ある情報屋の名前がある。その名は「トリマー」。学園内で勃発する生徒たちの争いやその結果などを調査し、整理することを目的とする存在だ。 そんな「トリマー」の存在は、襲名のシステムで今も続いている。「トリマー」の名を持つ生徒が三年生になり卒業する際、在校生の中から一番相応しい人物を一人決め、その人物が名を新たに引き継ぐ。そうやって、桜花学園の歴史と共に「トリマー」の名も何年も前からずっと残り続けてきた。 「トリマー」の正体を知る人物は学園の中でも限られていると言われていて、私のような一般生徒が正体を突き止めることは難しい。生徒会のメンバーや一部の教師陣しか知らないと言われていて、これも噂だけど、『桜花学園裏掲示板アプリ』の運営にも一躍噛んでいるらしい。とくに、「裏名簿」に掲載される勝負歴の大半は、「トリマー」の調査によるものと言われている。 そして、立花香帆はそんな「トリマー」を探して、持田三久と喧嘩したらしい。 持田三久は言う。 「立花香帆は、ある日私にこう言ってきたの。あんたは「トリマー」の正体を知ってるんじゃないかって。私は知らないって答えたんだけど、言っても聞いてくれなくてね。あげく、喧嘩で勝ったら教えてもらうって殴りかかってきたのよ。そうなるとこっちも相手するしかなくてね」 「それで、先輩は負けてしまったんですね」 「そういうこと」 立花香帆はどんな子かは知らないけど、今の話を聞く限り、随分と横柄な人物だということは想像できた。まあ、この学園にはそんな子、特に珍しくないけど。可愛い顔してとんでもない性格をしている子たちが、ここには集まっている。 「それで、先輩はどうしたんですか?」 「もちろん、知らないって答えたよ。それしか言うことがなかったからね。そしたら、流石にあっちも諦めてくれたってわけ」 「それじゃあ、先輩は本当に「トリマー」の正体を知らないんですね」 「いや、知ってるよ」 「・・・・え?」 「知ってるよ。「トリマー」の正体」 あまりにも自然とあっさりと言うので思わず唖然としてしまった。そんな私の顔を見て持田三久は控えめに笑った。 「知っちゃってるんだよねぇ。でも、言うことは出来ないの。だから立花香帆には悪いけど、私は知らないって嘘つくしかなかったんだよね」 「・・・・先輩、何者なんですか?「トリマー」の正体を知ってる人なんて、限られているはずなのに」 「それは言えないよ。そこまで含めて秘密だからね」 人付き合いの良さそうな美人な持田三久が、途端に不気味な存在に思えてきた。本当に何者なんだ、この人。 「・・・・それで、先輩が私を呼んだ理由って?」 「そうそう。その話よね。花澤さんには、どうして立花香帆が「トリマー」を探しているのか、その調査をしてほしいの。やっぱり「トリマー」は、自分の正体を探ろうとしている人に対しては注意深くしておきたいみたいなんだよね」 「そんなの、それこそ「トリマー」が自分で調べればいいことじゃないですか」 「そうはいかないんだよね。なんか忙しいみたいだからさ。安心して、報酬はちゃんと用意するって言ってるから」 「報酬、ですか」 「そう。報酬。例えば、花澤さんが気になってる、「月華(げっか)」のこととか」 ビクリとした。不意にその言葉を言われるとはまったく想定していなかったからだ。その言葉を聞くと、私は自分の意志に関係なく体が熱くなって堪らなくなる。 「・・・・どうしてそれを?」 「あの「トリマー」だよ?きみが「月華」に特別な感情を抱いていることぐらいは、簡単に調査できるって」 「・・・・つまり、私が立花香帆の調査を成功すれば、「トリマー」さん直々に「月華」の情報を教えてくれるってことですね。それを餌に釣れば私が承諾するとわかっていたから、私を調査役に選んだと?」 「そういうこと。それにきみは強い。「決闘記録」のあの動画を見ればそれは一目瞭然。調査の方法は花澤さんに任せるけど、もしもの時を考えて、腕が立つ人の方が良いってのもあるね」 私は少し沈黙する。・・・・決して楽なことではないだろうけど、成功した場合のリターンが大きい。どんな些細な情報でも、「月華」の情報が手に入るのならやらない手はない。私はあの女を潰すために、この学園に来たのだから。 すっかり放置していたアイスコーヒーで喉を潤して、私は言った。 「わかりました。引き受けます」 持田三久はニコリと笑って言った。 「ありがと。「トリマー」にも伝えておくね。さっきも言った通り、方法はそっちに任せるから」 「はい」 「それじゃあお願いね。期待してるよ、花澤さん」