二人の秘密①
Added 2022-08-31 01:50:06 +0000 UTC越宮菜緒(こしみやなお)との出会いは、今から6年ほど前のことに遡る。 当時、私は養護教諭、いわゆる保健室の先生になるために、大学の看護学科で勉強をしていた。子供の頃から保健室の先生に憧れていて、将来の安定も含めて志望したのだ。 そんなある日のことだ。大学の授業の一環で、とある公立高校で勤務されている実際の養護教諭の方と、お会いさせていただく機会に恵まれた。成績上位者の何名かの内、二人でペアを組んで高校へ訪問させていただけるというのだ。 優等生だった私はその中に選ばれた。そして、私と共に同じ高校へ見学に行くことになったのが、越宮菜緒だった。 当時、越宮とはほとんど接点はなかった。授業の一環で少し話をしたぐらいで、特別な関係じゃなかったし、意識していたわけでもなかった。ただの、成績の近い同級生という認識だったのだ。 だから、越宮と二人きりで行動しなければならないと知った時は、少し憂鬱になった。気まずい空気になるのが目に見えているからだ。 でもこれを逆手に取れば、もしかしたら仲良くなれるチャンスかもしれないとも、思った。 そんな私の期待があっさりと裏切られることを、その時の私はまだ知らなかった。 訪問先の高校へは、最寄り駅まで電車で行き、そこから徒歩で向かうことになっていた。当日、待ち合わせ場所の駅に私が着くと、越宮が既に着ていた。彼女の艶のある長い黒髪はよく目立つ。 「ごめん、待った?」 「ううん。さっき来たとこ」 絵に描いたような、わかりやすい愛想笑いで越宮が言った。やっぱり、越宮も私と同じで少し気まずいと感じているのかもしれない。 でも私は、そんな越宮の表情よりも、彼女が肩から下げているトートバッグに目が行った。私を視線を追って越宮が自分のバッグを見て、それから、私の肩にかかったトートバッグに目をやる。 「えっ!?」 私たちのトートバッグは、まったく同じものだった。デフォルメ化された熊のイラストが描かれた、少し大きめのサイズのベージュのトートバッグだ。 「・・・・一緒、だね」 「うん。・・・・こんなことあるんだね」 私たちはしばし沈黙した。普通なら、「一緒じゃん!これ可愛いよねー」「うん、わかる。これお気に入り」みたいな、ありふれた会話をすればいいはずだけど、私にはそんな気は起きなかった。だってこのバッグは、私と特別な物だから。 これは、彼氏から貰った物なのだ。 つい先月、付き合って一年の記念に彼氏の知樹からプレゼントされた、特別でお気に入りのトートバッグ。それとまったく同じ物を越宮も持っていたというのは、私にとって、少し不愉快だった。 私は動揺を隠し、何とか言葉を絞り出した。 「これ、貰ったやつなの。可愛くてお気に入り。いっぱい入るしね」 「そうなんだ。私も貰ったの。凄い偶然だね」 「へー、そうなんだ。うん、凄い偶然。びっくりした」 私はそう言って笑った。多分、さっきの越宮よりも、下手な愛想笑いだっただろう。 私らはそこで話を区切って、乗車予定の電車が来るホームへと向かう。なんだか嫌な胸騒ぎを、胸に抱えながら。 この時、すでに私と越宮と隠された接点が見え隠れしていることに気付くのは、それから少し後のことである。
Comments
まさか貰ったってのはって思う続きが気になる話しです
memory
2022-08-31 14:19:42 +0000 UTC