サキュモスハンター(侵攻編)【1】【平穏な日常】
Added 2025-03-28 15:00:00 +0000 UTCサキュモスハンター(侵攻編)【1】【平穏な日常】(3434文字) サキュモスハンター【第一巻】【39話より】 https://abnormal-create.fanbox.cc/posts/9577890 「フェルディア隊長、見回りですか」 「あぁ、お前らがサボってないか、査察に来た」 「いやいや、サボるわけないじゃないですか、ピューピュー」 門の上からドッと複数人の笑い声が上がった。 「まったく……」 つられてリットも笑ってしまった。 『リット・サーメイス・フェルディア』 サーメイスのミドルネームを預かるサーメイス大隊の隊長を勤める。 ここの門番、いや、都市、三方の門を死守するのもサーメイス大隊の務めだ。 リットは、その場で足に力を加え、飛ぶ。 「とぅ……、たく、お前らは……」 「いやいや、サボってないですって」 門の城壁まで飛びあがってきたリットに対して、冗談ですよと、口々に言葉を並べる部下たち。 皆、若々しい外見で身長もリットと同じくらい、だいたい120~130センメイルと言ったところだ。 この国、いや、この島、ではごくごく普通のこと。 「あ、隊長」 「みんなサボってなかったか?」 城壁の控室から出てきた女性陣。 「男どもがサボっていたら、容赦しません」 「ちゃんと監督しています」 男性に対して、女性は160~180センメイルの者がほとんどだ。 男性の方が背丈は小さく、女性の方が体つきは豊かだった。 だからと言って戦闘的な実力が劣るということは無い。 この大隊にいる者は、ほぼほぼ精鋭揃いだと、自負している。 「ところで、今日はどうしたのですか。隊長が見回りに来るなんて珍しいですね」 「抜き打ち検査だ」 「ええ~、信用ないなぁ~」 ここの管理を任せている中隊長『シェルディ・リューリ』が女性陣の中から姿を見せた。 長い赤髪を一本の太刀のように纏めている。深紅の瞳、真っ赤な髪。加え、鎧まで赤で染める徹底ぶり。武器は大型戦斧(せんぷ)。もちろん、柄の部分は深紅で色染めされている。その赫々たる様は猛り狂う野獣を彷彿とさせる。 にも関わらず、彼女の瞳は威圧感を感じさせない柔らかなで印象だった。顔立ちは言うまでもなく美麗だ。特に彼女の笑顔は男性陣を一撃で魅了する。 「冗談だ」 「じゃあ、何しに来たのよ~、リット隊長」 戦斧を逆さに持ち、ウリウリ~っとリットの手の平に戦斧の柄頭を押しあてる。 それを手の平で押し返しながら、ニコニコと話を続けた。 「いや、『ゼンメル・カイメル』から北の『アクレイア』に関する情報があってな。何でも強大なサキュモスが現れたとのことでな」 「で、わざわざ、部下の抜き打ち検査に来たと?」 戦斧に力が込められた。 北の僻地で現れたサキュモスが、こっちにすぐ現れると?と暗に告げていた。 いや、確かにそうだった。 「いやいや、それで、そのサキュモスは『アクレイア』に大規模侵攻を仕掛けるつもりだとか……」 「で、だから……」 「うぅ~ん、まぁ、なんだ、念のために?」 「ふぅぅ~~~ん……」 ほんとに、念のためと、しか言いようがなかった。 ただ警戒感は持っていた方がいいと思っての事だ。 「はぁ、……まったく……うちの隊長さんは心配性なこと……見てごらんなさい、この退魔樹の数」 さっと彼女は左手を横なぎに開き、城門の向こうに広がる林を示した。 そこに生える樹木はすべて退魔樹だ。 おそらくこの島の中でもっとも多くの退魔樹を植えているのが、ここ『メル・セクシア』だろう。 「どうやって、サキュモスがここまで来るのか、教えてもらいたいものですけどねぇ~」 「まぁ、そうなんだが……」 (『滅弓』がやられたことは告げないでおこう……) アクレイアを拠点に活動しているハンター『滅弓』 熟練ハンターの中でも有名な人物だった。 彼女の広域殲滅攻撃は、一度見た者にその二つ名の意味を焼き付けるという。 二つ名持ちのハンターの中でもずば抜けた攻撃能力を誇っている。 そんな彼女が負けたというのは、指揮を下げる要因となりかねない。 今は、本当に極小の可能性でしかないのだ。 サキュモスが『アクレイア』に大侵攻を掛ける、という推察。 もし、それが嘘でも、他二都市に行くかもしれない。 さらにそれが外れた場合が、この『メル・セクシア』だ。 ならなぜ、これほどまで心配するのか。 リットなら、そうするからだ。 リット自身が作戦を立てるなら、ここを狙う。 『アクレイア』よりもっとも離れた警戒が最も緩いであろうこの場所を。 「まあ、全員警戒を怠らぬように」 「はいはい」 「「「「「承知」」」」」 シェルディだけが生返事だったが、他の皆には気合が入ったようだった。 「もう、夜か」 太陽が海に沈んでいく。 南を海に囲まれ、北西、北、北東に城門を構えた南港都市。 日が飲まれ、酒場の窓に火が灯る。 街は今日も活気に満ちていた。 「じゃあ、オレは戻る」 そう告げ、城門を降りた。 騎士装甲に備え付けられたマントがバサッと空気の抵抗を受け波立つ。 「なにごともなければいいが……」 そう口から漏らす言葉はまるで何かを暗示しているようで、寒気を感じた。 そう、こういう時のリットの感はあまり外れない。 「戦術に長けた知将がいるか?なら、どこから、俺なら、どの門から……そもそも、退魔樹をどう越えて……」 敵側の思考になって考える。 それはある種のリットの趣味だった。 仮定に仮定を重ね掛けて、敵の行動を予測する。 それもまた、あまり外れない。 故に、大隊の隊長の任を任されるに至ったのだ。 *** 「よお、女将、今日もお美しい」 「フェルディア隊長~、まぁ~たサボってるのかしら」 「いや、サボってないよ。今も部下に激励の言葉を送ってきたところだ。あ、今日はアルコールはやめておくよ。かわりに目が覚めるような酸っぱい果実水を」 「はぁ、やれやれ……」 『メル・メルの隠れ家』 女将の名前が『メル』のために付いた酒場がリットの行きつけだった。 いつもはエールを頼むところだが、今日は果実水にしておいた。 そして、リットの隣に一人のフードを被った少年が座った。 「今日は飲まないのか」 「嫌な予感がする。判断力は落としたくない」 「ほう、旦那の予感は当たるからな……で、どれくらいだ」 「さぁ、こればっかりは、な。だが、当たれば……相当な被害だろう」 「マジか~、俺も逃げる準備するかな~」 「情報屋が何言ってる。むしろ、ギリギリまで残って情報をかき集めるくせに……あぁ、あと、逃げる前に有益な情報はしっかりと落としていけよ」 「いやいや、タダは嫌っすよ」 「もちろんだ……」 一万リマール金貨十枚を差し出す。 「え!おいおい……」 情報屋は驚きながら、自分の手袋を脱ぎ、サッと金貨の上に乗せた。 「こんなところでこんな大金出すなよ」 「仮にも大隊長だぞ。一応これくらいは融通できる」 「はは、いつもの10倍ってか……こりゃあ、マジか?」 「分からない。ただ、本当だったら、こんな金貨じゃ足りないくらいだ。密偵を雇っても構わない、情報、並びに周辺地域の探索を願いたい。資金が足りなければこの50倍までは俺の資材で動かせる」 「ご、ごじゅ……」 一人暮らしひと月の生活費が2000リマールだ。 金貨一枚なら贅沢しなければ、5ヶ月生きていける。 目の前にあるだけでも数年余裕で生活できる。 その50倍と……。 情報屋『エイル』の中で計算されていることだろう。 「へい、お待ち」 リットの前に、果実水と香辛料焼きの肉が置かれた。 「わかってるね」 「何年の付き合いだと思ってる、ニィ」 若々しく、且つ瑞々しい豊かな胸を揺らしながらメルは、さっと別の席へ移動していった。 彼女目当てで訪れる客がほとんどなため、どこのテーブルへ行っても長々と捕まってしまう。 扇のように広がる金髪とその巨乳、そして彼女の笑顔を浮かべた美貌に瞳を奪われない男はいないだろう。 そして、彼女が離れたあとにエイル告げた。 「こういう場所を守るなら、大金を投じても惜しくない」 「旦那、メルに惚れてるんですか?」 「ん?ん~、たぶん違うなぁ……」 そう言われ、考えてみるが、惚れる惚れないの話となると違ってくる。 「単純に居心地がいいんだよ、生まれ育った街っていうのは……だから、面倒な隊長だってしてるんだから……」 「まぁ、俺だって、ここは居心地がいい……旦那の頼み引き受けました。何かわかったら連絡入れます」 「頼んだ」 エイルは手袋を握りしめ、酒場を出ていく。 「誰も、おごるとは言っていないんだがなぁ~、はは」 彼のいなくなった席に、そう呟いた。 まぁ、3リマールくらい先の大金と比べれば微々たるものだ。 「まぁ、この分は3000倍にしてつけておこうかな」 そう一人で呟きながら、空のジョッキしか残っていないエイルの席を眺めながら、肉を歩奪った。 口の中に広がる香草の風味と肉中に幸福を感じた。 *** 【第2話】【エイルの苦難、イリスの侵攻】 https://abnormal-create.fanbox.cc/posts/9614174