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くのいち姉妹と恐怖のくすぐり屋敷:4

4:蜘蛛地獄 「あの仕掛け……何だったのかしら……」  時雨が助けを乞い続けていた最中、美月はその緊急事態には気付かず1階の調査を再開させていた。  居間に続く居間……そしてたまに客間……。  連続する部屋には似たような部屋が続き、その都度美月は母親に託された地図を参照して罠を回避しながら調査を続けていく。  たまに地図に載っていない罠も見受けられるが、それは美月の鍛えられた観察眼で見破り、事なきを得ている。 「なんで……あんな……くすぐったい攻撃を……」  部屋に入るなりいきなり洗礼を受けたあのくすぐり機械の罠……。美月はその刺激を思い起こすたびに身震いしてしまう。  かつてあんなにも身体をまさぐられる様にくすぐられた事はなかった。  実の母親にも……義妹の時雨にも……戯れで触り合う程度はあったかもしれない。でも、ここまで記憶に鮮明に残る様な責め苦ではなかった。戯れた事も忘れるくらいの些細な遊びの様な感覚でしかなかった。  でも今さっき味わった責め苦は決して遊びの様な感覚で記憶に残る様な物ではない。れっきとした拷問……。酸欠と肉体疲労を繰り返させる拷問である事が身を通して分かった。  今思い出してもおぞましい……。  もう2度と、あのような目には会いたくない……。  美月はそればかりを頭に浮かべるようになっていた。 「ん? これも……罠みたいね……」  もう何個目の居間を探索してきただろうか? ただただ横に広い屋敷の広大過ぎる居間の連続に辟易してきていた美月だったが、地下への入り口が隠されているかもしれないという考えは捨て去らず、同じような作りの居間であっても毎度丁寧に罠や仕掛けが無いか調べ、地道に調査していった。 「これも……地図に無い仕掛けね……。お母様の見落とし……って事はないでしょうから、新設された罠って事になるわよね?」  畳の不自然な出っ張りをてのひらで優しく触りながら罠のスイッチである事を確認する美月だったが、その罠に妙な違和感を感じ始める。  今までは物理的な衝撃などでスイッチが入れば起動する古典的な罠ばかりであったのだが、今触っている仕掛けはどうにも今までとは違う仕掛けのようだ。  妙に現代染みた機械の感触……ガラスと……てのひらに映る赤い光が―― 「はっ!? これ、センサーの罠っっ!?」  薄暗さから触る前にしっかり視認しなかったのがいけなかったのだが、今まで通りの古典的な罠だと慢心していた美月はこの突然現れた現代的な罠に対応しきれなかった。  センサーは美月の手のひらに赤いレーザー光を映すと、ピッ! という電子音を響かせすぐさま迎撃用の罠を発動させる。 「ま、まずっッ!!」  天井から網のような捕獲ネットが間髪入れず降ってきた。罠の存在に一歩遅れで気づいた美月はダメもとでその場からダイブするように前へ飛び出す。  捕獲ネットが落ち切る寸前、身体を丸め前転しながら足を引っ込めた美月にネットはギリギリ届かなかった。  美月の足……わらじの端を僅かに掠り、その拍子に脱げたわらじだけがネットに捕えられ美月の身体は事なきを得た。  そのままネットを回避して畳の上を前転した美月は、華麗に身体の重心を畳の上で安定させ手を突いてしゃがみ込む姿勢となる。しかし、そのネットの罠は実は囮であったことを美月は気付けなかった。いや、気付いていたとしてもネットを回避するためには前転して飛び出さない限りは間に合っていない。だからこの罠に掛かるのは必然と言わざるを得なかった。 「し、しまっッ!!?」  着地した畳はガクンと大きくへこみ、同時に古典的な罠の音であるカチリという何らかのスイッチを押す音が部屋に鳴り響く。  前転して体勢を整えた直後の美月であったため次の瞬間発動した罠には対応できず、足首に何かが絡みつく感触を感じながらもそれを回避する事は叶わなかった。  美月の足首に絡みついたもの……それはロープであった。  両方の足を一纏めに拘束する為に現われたそのロープの輪は見事に美月の両足を絡めとり、結び目を自動的に絞り上げて足を抜けなくさせそのまま天井に向けてその足を引っ張り上げていった。 「うくっっっ! ふ、不覚……!!」  ロープに引っ張られる様に足を上げさせられた美月は部屋の中央で逆さ吊りにされてしまう。足首に巻かれたロープに全体重が預けられ、身体は逆さま状態で宙に浮き自慢のポニーテールも腕も短すぎるスカートも重力に逆らわずに床の方へと垂れ下がっていく。  美月は宙吊りに捕えられたという危機感も勿論感じたが、華の女子高生がスカートを捲られているという現実にも危機感を覚え、急いで腕を重力に逆らいつつ上げて必死にスカートの裾を上げ直した。 「くぅ……また……罠に掛かってしまった……」  手を放せばスカートがまた捲れ、恥ずかしい下着を晒しながら捕まる事になる。そんな状態で敵にでも見つかってしまったなら……どんなに恥ずかしい思いをする事になるだろうか?  美月はまだ18歳。身の危険よりもそのような事を気にしてしまうお年頃である。 「ロープに拘束されているのなら……クナイで切りつければ外せるかも……」  左手でスカートの前部分を押さえつけどうにか正面から来た敵の視線だけは誤魔化せるように配慮しつつ、右手で背中のベルトに備え付けていたクナイと呼ばれる小型の両刃ナイフを外し、それをしっかり手に取って一度右手だけをだらりと重力に任せて垂れさせ休憩を取る。  そして次のタイミングで腹に力を込め空中で腹筋運動をする様に上半身を起こし、その勢いでクナイを足に巻き付いている縄に接触させた。 「くっっ! 結構太い縄ね……しばらく切るのに時間が要りそう……」  クナイの刃の部分をノコギリの様に上下に動かし縄を切り込もうとするが、太さのある縄は思う様には切れてくれない。  しばらく切り付けてみるも、少しの切り傷を付ける事しか叶わなかった。  やがて腹筋力が限界を迎え、一度休むために身体を重力に任せて元の宙吊り状態にダラリと戻した美月は、このロープを切るのには今少し時間が必要だと悟る。  休んでいる間も体重の掛かった足首に縄が食い込み痛みを発し始めている。時間はかかるが急いで切らないと痛みは増していくばかりだ。  そう思い始めた矢先、罠はその縄を切らせないと言わんとするように次の罠を発動させる。 「んっっ!? 何かが……ロープを伝って降りてきてる??」  美月の足だけを拘束し宙吊りにさせている太い縄……。薄暗い天井まで伸びているそのロープを伝って何やら小さな影が複数降りてきている。 「く、蜘蛛?? 小さな蜘蛛の……ロボット??」  薄暗くて良く見えないがその小さな何かはロープを、身体についた8本の細い腕のような足のような物を使って捕まりながら降りてきている。その体躯はかなり小さく、足のような物は細いが長い。一見すると女郎蜘蛛のような外見をしたそれは、小さな機械の駆動音を響かせながら徐々に縄を伝って美月の足へ向かって降りて来ている。 「き、気持ち悪いっっ!! コッチに来ないで良いからあっち行きなさいよっっ!!」  蜘蛛……と言うか多足の昆虫が苦手な美月は、それが例えロボットと分かっていても近づいてきているのを見ると嫌悪感を感じ鳥肌すらも立ててしまう。  その蜘蛛型のロボットも暗闇のせいで実に生物らしい動きでロープを伝っているように見え、一層の嫌悪感を美月は感じてしまっている。 「やっっ!! だめ!! 来ないでっっっ!!」  ロープの結び目まで辿り着いた蜘蛛型ロボットは、足首に巻き付いた縄のせいで逃げられなくなっている草鞋の脱げた素足の指を必死にくねらせて嫌がる素振りを見せる美月に対し、一瞬動きを止めてその願いを聞き入れたかのように見せたが、次の瞬間……ピョンと結び目から美月の足裏へ飛び乗り、その空中に出来た足裏と言う足場に体勢を崩すことなく乗り移ってみせた。 「うひぃぃっっ!? な、な、なによぉ!! 足に乗らないでよっっ!!」  足裏の土踏まず部分に飛び乗った蜘蛛にゾワゾワゾワっと寒気を感じた美月は、嫌な予感を感じながらも身体を左右に揺すって蜘蛛を落そうと試みる。  しかし、蜘蛛の細長い足は本物の蜘蛛同様何らかの肌に吸着するシステムが組まれているらしく、どんなに暴れても吹き飛んではくれない。 「い、いやぁぁ! なんか次々と飛び移ってくるぅぅぅ!!」  そうこうしている間に美月の両方の足裏には次から次に女郎蜘蛛型マシンが飛び移り、一層の嫌悪感を美月に与えていく。  本物の蜘蛛であれば卒倒していたかもしれないが、本物ではない機械仕掛けの蜘蛛も素足に触れていると考えるだけでおぞましい。あの足裏の上には複数の蜘蛛が乗っているのだと想像しただけで身震いが起きてしまう。 「は、は、早く、縄を切らないとっっ!!」  この嫌悪感から早く解放されたいと美月は慌てて腹に力を入れ直し、もう一度上半身を曲げて身体を持ち上げようとする。  しかし、足裏へと飛び移った複数の蜘蛛型ロボットは、そんな美月の行動を邪魔するかのような動きを取り始める。 ――モゾッ! モゾモゾ……モゾモゾモゾモゾモゾ……。  突然1匹の蜘蛛が何の前触れもなく動き始めたかと思うと、他の蜘蛛たちもそれに習って一斉に足裏の上を歩き回り始めた。 「んひっっ!?!? んひひひひひひひっっ!? ちょっっ!! う、う、動かないでよっ! 気色悪いぃぃ!!」  長くて細くて先の尖った蜘蛛の小さな足先……それらが一斉に美月の敏感な足裏の上で蠢き始めたのだから彼女は堪らない!  足裏全体がむず痒さを感じ、無性に笑いたくなってしまう衝動を生んでいく。 「んはっ!? えひひひひひひひひ!! ちょ、ちょっと! やめてよ!! こしょばゆいじゃないっっ!! んふふふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふ!! うくくくくくくくくくくくくく……」  必死に足指をくねらせてくすぐったいという意思を蜘蛛たちに伝えようとする美月だが、機械仕掛けの蜘蛛たちにそんな気持ちは伝わるはずもなく足裏のおぞましいこそばゆさは止まらない。 「あひっっ!? あひへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! だめだめだめっっ、足裏が気色悪くてくすぐったいぃぃぃぃぃ!! んはぁぁぁはははははははははははははははははははははは、だ、だめだったらぁぁははははははははははははははははははははははははは!!」  足の長い女郎蜘蛛型ロボットは、美月の無抵抗な足裏を足場にしてトコトコ……トコトコ……と好き勝手に歩き回り、彼女へくすぐったい刺激を送り込み続ける。  爪楊枝の様に細い蜘蛛の足先が土踏まずやカカト……母指球、足指の付け根などを引っ掻きながら歩くそのこそばゆさは、指で撫でられるよりも刺激が鋭くて異常なほどこそばゆい。 「こ、こ、このっっ!! いい加減にっっっ!!」  しかし美月はスレンダーでありながら、身体は柔らかい方ではない。むしろ固い方である。  縄を切る時も状態を起こしにかかったが、縄にやっと手が届く程度しか曲げられなかった。  そんな彼女が躍起になって足裏の蜘蛛を払い除けようと手を伸ばしても、足裏に手が届くはずもなく…… 「んぷはっっ!! うはぁあぁはははははははははははははははははははははははは!! だめっっ! くすぐったくて、力が入んないぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  マイペースに足裏を散歩する蜘蛛たちのくすぐりに笑わされ、腹筋の力も抜けていき上半身を上げるための力が維持できなくなってしまう。 「あひははっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ら、らめだぁぁぁ、早く縄を切らないとっっふふふふふふふふふふふふふ!! 体力がっっはひへへへへへへへへへへ、体力がぁぁはははははははははははははははははははははは!!」  蜘蛛を手で追い払う事は出来ない。だとするならば急いで縄を切って身体の自由を取り戻すよりほかに方法はない。そう意思を固めた美月は一瞬息を止め、笑いを我慢し、腹に力を込めて上半身を再び起こしていく。 『んぐっっくくく……は、早く……切らないと……』  縄に届いたクナイで切込みの入った箇所を更に削り落としていく。まだ少し太さがある為切り抜くには時間はかかるが、確実に刃は縄へ食い込んでいっている。もう少しだ!  そう思った矢先、それを阻止しようと動いたのか蜘蛛たちの動きが活発になっていく。 「ぷひゃっっっ!!? んびゃああぁぁぁぁぁぁあぁはははははははははははははははははははははは!! ちょ、ちょ、ちょっほ待ってぇぇへへへへへへへへへへへ、あと少しぃぃひひひひひひひひ!! あと少しだからぁぁはははははははははははははははははははは!!」  今まではゆっくりコソコソと歩き回っていた感じの動きだった蜘蛛たちは各々が居心地のいい場所(美月の反応の良い場所)を見つけそこへ留まったかと思えば、身体を支える脚以外の全ての脚を使って集中的にいじくりを入れるようになった。  土踏まずの中央……土踏まずの少し横にずれた箇所……カカトのふもと……母指球と小指球の間の谷間……足指の付け根……足指の間。  それら美月が悶絶してしまう箇所を集中してこそぐり始め、美月の我慢を吹き飛ばすほどの刺激を彼女に与える。 「うはっ! ウハヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! や、やめてっっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! そ、そ、そんにゃのだめぇぇへへへへへへへへへへへへへへ!! くしゅぐったいぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! んはぁぁああぁぁははははははははははははははははははははははははは!!」  弱点を探られて、ソコを集中攻撃されてしまった美月は腹筋に力が送れずすぐにまた宙吊り状態に逆戻りさせられる。最初こそ恥じらいからスカートを抑えるくらいの余裕を持っていたのだが、今はもうそれ所ではい。天地逆さまにされた格好で爆笑を強いられ、普通に磔にされるよりも息苦しい。頭にも血が上って行き思考回路も脆弱になっていく。  縄さえ切ればどうにかなる! そう簡単に捉えていた美月だったが、そこにくすぐりが加えられるとその行動は上手くいかなくなってしまう。  力が抜け上半身を起こせない……。笑いが普通より苦しくて体力も消耗してしまう……。そして足の裏が無性にくすぐったくてたまらない! 蜘蛛たちの、弱点を責めるくすぐりが正確無比すぎて我慢したくても笑いを我慢させてもらえない!  ゴールは見えているのに……解決策は目の前にあるというのに……。くすぐられるだけでそのゴールは遥か遠くへ逃げていってしまう。たかがくすぐられているだけなのに……。  今の彼女には足指をクネらせ笑い悶える事しか出来ない……。 「んはぁぁぁはははははははははははははははははは、い、い、いい加減にぃぃひひひひひひひひひひ!! いい加減にしなさいぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! や、やめっっ! もうやめなさいぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  どんなにジタバタと身体を捻っても、どんなに足指をクネらせても、どんなに命令口調で言葉をぶつけても……機械の蜘蛛は止まってはくれない。美月を無遠慮に笑わせ、徐々に体力を奪っていき抵抗の意思を砕いていく。 ――コチョコチョ。コチョコチョ。コチョコチョコチョコチョ。コチョコチョコチョコチョコチョ。 「ぷひゃああぁあぁはははははははははははははははは、ゲホゲホ! んんひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あへへへへへへへへへへへへへへ、コホッ、ゲホッ!!」  やがて美月は抵抗の意思を完全に失い、降参するかのように宙吊り万歳の状態で機械達の成すがまま笑わされ始める。  笑った時に吐き出してしまう涎が鼻に入ったり目に入ったりと無様な顔に成り下がってしまっているが、彼女にはどうする事も出来ない。  どうする事も…… ――ズルッ、ゴトン!  そんな絶望の状況を悟り始めていた美月に光明が差す。  何かが美月の背中のベルトからズレ落ちて床に落下したのだ。 「はひ、はひ、はひっっ!? しゃ、射出……フックっっ!!?」  それは侵入の際に使った鉤縄を発射して遠くの何かに引っ掛けてジップラインを作る為の射出銃だった。  長時間の逆さ吊りと、身体を左右に捻っていたのが功を奏して背中のベルトからズレ落ちて来たのだ。 「んははははははははははははは、そ、そ、そうだ!! コレしかないっっッ!!」  美月は頭の中でこの射出銃をどう使うかを瞬時にイメージし、この難局を乗り越えるプランを算出した。  イメージが浮かぶとすぐに実行に移す様に、床に落ちた銃を拾い直す。  そして、屋敷からの脱出の際に使おうと思っていた予備の鉤縄をその銃口にセットしていく。 「はひひひひひひひひ、んあははははははははははははははははははははは!! ちゃ、ちゃんと……狙わないとっっふふふふふふふふ!! うくくくくくくくくくく!!」  逆さまの状態でどのように射出すれば上手くいくかなど細かい計算をする余裕はないため今まで修行した感覚を信じて撃つしかない。この1本を射出すれば予備はもうないし発射の為の火薬もない。ミスは出来ない……。 「くひっっひひひひひ……んぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!! くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」  今一度唇を強く噛んで無理やり笑いを押し殺す美月。  涎が目に入って滲んで見えるが、目標はしっかりと捉えてある。  後は引き金を引くだけ……。  そして―― 「そこだっっ!!」 ――バシュッッッ!!  足裏のくすぐったさに耐え照準をブレさせる事無く引き金を引いた美月は、すぐに鉤縄の動きを目で追う。  天井付近を狙って射出した鉤縄は勢いよく天井へぶつかりそのままの勢いで斜めに落ち横壁へと当たる。そして壁に当たったそれは今度は射出した本人の方へと向かって勢いを殺しながら帰ってくる。  一瞬、自分に当たってしまう! と美月は心の中で冷や汗をかくが、脳内で僅かな時間で計算した反射角は思いのほか正確だったらしく、鉤縄は彼女の垂れた髪の横をすり抜けてドスリと床に突き刺さった。 「うくっっっくくくくくく……くふっ! よ、良し……成功っッ!!」  鉤縄を射出し終えると、再びあのくすぐったさに負けて美月の口元が緩み始める。  正直、もう笑いを我慢する事などできやしない……。 「ぷふっ! うぷっっっぷぷぷぷぷ! くふぅ、んぱっ、ぱはっっっ!!? うはぁぁっぁあああぁはははははははははははははははははははははははははははははは、ら、らめぇぇへへへへへへへへへへへへへ!! も、もう我慢できないぃぃぃぃぃひひひひひヒヒヒヒヒヒヒっ!!」  足裏を襲うくすぐったさに美月は我慢の限界が訪れ、まただらしない笑いを吐き出し始める。  休みも容赦もない機械の細脚が未だ無防備に晒されている美月の足裏をこれでもかとくすぐり、笑いたい欲求を生み続けて彼女を責め立てる。 「んはははははははははははははははははは、い、急いで……コレをぉぉほほほほほほほほほほ、引っ掛けなきゃぁぁはははははははははははははははははははは!! はひぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  美月は自分の頭下に着地した鉤縄の先端を、腕を伸ばして回収する。  そして元々射出銃を引っ掛けていたベルト部分に今度は鉤縄の方を引っ掛けしっかりと抜けないようにする。 「いひはははっはははははははははははは、いひひひひひひひひひひひ! あ、あどはぁぁはははははははははははははははははは、引っ張るだげぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! はひっっ、はひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」  射出銃を構えたままの状態だった美月は今度はその銃の横の巻き取りボタンを押す。  すると射出した鉤縄がゆっくりと銃口から巻き取られて始める。  天井を狙って撃った際、天井に走る梁の上を通るように射出した為、跳ね返って床に落ちても梁の上にロープが乗った状態となっている。つまりは天井の梁を滑車代わりに使って、鉤縄を巻き取れば自分のベルトに掛けてある鉤縄が身体を自動的に起こしてくれる……と言う事になる。  笑いによる脱力と削られた体力では、腹筋に力を入れてロープに手を伸ばすという行為は長くは続けられないし、そう何度も繰り返し行う事も出来ない。しかし、梁に体重を預けて上半身を起こして貰えれば後はくすぐったさに耐えながらも切るだけで済む。わざわざ宙吊り腹筋運動という過酷な運動をしないで済む。 「はひひひっひひひっひひひひひひひひひっひひひひひひひひ!! や、やったぁぁはははははははははははははははははははははははは!! あ、後は……切るだげぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  身体が空中で床座りのような恰好になって、それに合わせて足裏も地面に対して垂直になっているけれど蜘蛛は必死に美月の足裏にしがみつき、未だにコチョコチョとくすぐる攻撃を続けている。  しかし、宙吊りの格好でなくなった美月に先程までの苦しみは与えられない。  くすぐったくて笑ってはしまうが、あの天地逆さまだった時の息苦しさはもうない。  美月は笑い悶えながらも自分の足首に巻き付いた太い縄を時間をかけて削り取っていった。 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……や、やった!」  数分かけて太い縄はクナイによって両断されようやくそのおぞましい刺激から解放される事となった美月は地に足を付けるなりこぶしを握り、文字通り蜘蛛の子を散らす様に逃げていく小さな蜘蛛たちを叩き潰していった。 「こ、このっっ!! この! このっっ!! 馬鹿にしてっっ!! このっ!!」  やがて2、3体は逃がしてしまったもののこぶしで5体は行動不能にさせた彼女は、フゥと息をつき床に落ちていた草鞋を履き直してその部屋を後にした。


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