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くのいち姉妹と恐怖のくすぐり屋敷:5

5:捕縛された時雨  四方を石壁に囲まれた薄暗い部屋に意識の無い時雨は運び込まれていた。  痺れガスを吸い、意識までも手放してしまった彼女は屋敷の2階の部屋ではなく敷地内の地下2階……彼女達が探し求めていたまさにその箇所である、地下の秘密部屋に連行され特別製のベッドへ寝かされていたのだった。  ベッドと言ってもマットレスが敷いてあるような来客用のベッドなどではない。武骨に切り出された青黒い石の塊の上に寝かされているに過ぎず、固い背面であるため直接自身の体重が多く乗っている背中や肩や腰回り等が痛くなるだろうなと言う想像は見ていてもすぐに浮かぶ。  客人に対して寝かせるベッドではないことは明らかであり、コレをベッドと呼ぶ事すらも甚だしい。  しかし“彼女”はそれをあくまでベッドと呼んでいる。  侵入してきたくのいちを捕まえたら寝かすための……拘束ベッドであると。 「フフ……。そろそろお目覚めいただこうかしら?」  部屋の隅に1脚だけ備え付けられていた簡易的な椅子に足を組んで座っていた“彼女”は、呑気に寝息を立てて眠りこけている時雨に向けて不敵な笑みを浮かべるとその椅子からゆっくりと立ち上がり、手に持ったリモコンの照明と書かれたボタンを優しく押し込んだ。  すると、時雨の顔の真上に備えられていた、手術なんかでよく使われる様な形の丸い電灯が一斉にまばゆい光を放ち始め時雨の顔に直射日光の如く明るい光を照射した。 「んっ……んんっっ……うん??」  熱さすらも感じられるほどの鋭い光に照らされた時雨は、立てていた寝息をすぐに収めそのまばゆい光に対して薄目を開けて目を覚まし始める。 「んひゃっっ!? ま、ま、眩しい!! なにこれっッ!!?」  目を開けるなりとても目を開けてなどいられないの明るさが瞳を刺激し、思わず光に対して手をかざそうと構えようとするが…… ――ガチャ! ガチャ、ガチャ!! 「っッ!? あ、あれ?? 手が……」  なぜか腕を頭上に上げさせられた格好で寝かされていた時雨は、どうしてもその光をさえぎるための手を下に回す事が出来なくなっている。利き手の左手だけでなく右手も同じように万歳の格好から降ろせない。  腕が降ろせない代わりに手首にヒヤリとした金属の感触を感じるのと、手を動かそうとすれば金属の鎖が擦れる重々しい音が鳴り響くのを聞いて……能天気な時雨でも流石に自分が敵に捕まった状態であると気付いてしまう。    「あ、あうぅぅっ!! 足も……動かせない……」  手に続き足も動かそうとしてみるが、足も時雨の思い通りには動いてはくれなかった。  手と同じく動かそうとすれば金属のガチャンという音が鳴り響き、肩幅に開かされた状態からほんの数センチしか横や縦には動かせない。  さらに、これは身体の感覚が戻って来た為気付いた事だが、その動かせない足がなんだか違和感を感じている。  足の指が突っ張る様な……何かに引っ張られている様な……足指を何かが引っ張っていて、足裏全体を反り返されている様な感覚を感じる。  目が見えないながらもそう感じた時雨の感覚は間違いではなく、足首を拘束している金属の枷からは5本の細いワイヤーが時雨の足指に向かってピンと張った状態で伸びていた。  そのワイヤーたちはそれぞれの指の付け根に小さな輪っか状のフックを引っ掛け、それを引っ張るように枷の中で巻き取っている。故に、時雨の足は足指を根元から引っ張られ反り返すような格好を強いられているのである。 「ようやくお目覚めかしら? 待ちくたびれたわよ。可愛い……くのいちさん?」  時雨の真横から聞こえてきたのは、小さなクスクス笑いを含ませた……いかにも意地が悪そうな女性の声。  カツンカツンとハイヒールの音を響かせながらその声の主の影が時雨の真横に立つ。時雨は眩しすぎて開けられない目を必死に小さく開け、その逆光に照らされた女性の影を僅かな間だけ目に焼き付けた。  赤い口紅を塗った口元は笑みを浮かべるように口角を上げ、目は惚けているかのように垂れている。  逆光でも美人と分かるくらいに顔のパーツは整っているが、時雨にはこの美人顔の女性が不気味でならない。  言葉から察するに敵であろうことは分かるし、自分を拘束したのもこの女性なのだろう。そんな彼女が目の前で不敵な笑みを浮かべているのだから時雨も警戒せざるを得ない。 「だ、誰ですか? お姉さんは……」  どうせ答えてはくれないのだろう……と諦め半分に発してみた質問だったが、意外にもその女性は時雨の質問に快く回答を返してきた。 「私は霧ヶ﨑 梢(きりがさき こずえ)。この屋敷に潜り込んできたのだからこの名前は良く知っているのでしょう?」   「霧ヶ﨑……って、この屋敷のご主人さん??」 「その通り。私がこの屋敷の主人……霧ヶ﨑琉の師範代よ」 「霧ヶ﨑琉?? お姉さんも……忍者……なの?」 「アハハハ♥ お姉さんだなんて嬉しい事言ってくれるのね。こう見えても私は貴女の倍は生きている妙齢のくのいちなのに……」 「ば、倍??」 「そう。貴女の名前は延琉寺……時雨ちゃんだったかしら? 延琉寺流の見習いくのいちさんなのよね? 確か6月に17歳になったばかりだったかしら?」 「えっっ!? な、何で……時雨の名前と年齢を?? それに延琉寺流のくのいちって……何で??」 「貴方達が私の屋敷を調査しに来る事は事前に情報が届いていたわ。勿論、貴女だけでなく貴女のお姉さん……美月さんの事もね……」 「ツキ姉の情報までっっ!? な、何で?? どうやってその情報をっっ!?」 「あら、知らなかったの? 忍び家業は今も昔も情報が命よ。特に自分達を脅かそうとしている他流派の情報なんて集めていて当然じゃない♥」 「す、スパイ……ですか? まさか……うちにスパイを……」 「さぁ、ご想像にお任せするわ♥」  目の前にいる女性がこの屋敷の主人であり、その当主も忍びであり、そして自分たちの情報を知っている風である……その事に驚きを隠せない時雨だったが、そもそも忍びに“流派”という派閥があったこと自体も知らされておらず衝撃を受けた。  自分たちが忍び込んだ屋敷の情報は“人攫いの疑惑がある”という事に関する情報しか教えて貰えていない。そこが敵方の忍者の屋敷であり、どうやら自分の流派と敵対関係にあるというような重要な情報は一切稲穂から聞いてはいなかった……。  彼女が先に忍び込んだのであれば当然知っている事だろうし、秘密にしておく道理は見つからない。  修行の為に敢えて隠していたのか? それとも別の理由があったのか……  今の段階では時雨に判断が付く筈もなく、結局はその疑念は棚上げとなる。 「さて……名前も流派もアジトもお姉さんは知っている訳だけど……」  梢はそんな時雨のパニくる様子を下に見ながら、彼女の目を潰していた電灯のスイッチを切ってあげた。  時雨は明かりが消された事を瞼裏まで貫通していた光が消えた事で悟り、ゆっくりと目を開いていく。  強い光刺激を受けた後遺症から僅かな時間目の前が黒いもやがかかった様に見え始めるが、徐々に目が慣れていき……自分に語りかける霧ヶ﨑琉の師範代の顔がハッキリと見えるようになっていく。 「今回の顛末になった原因……それだけは分からないのよね……」  口元まで伸びる細い前髪にまで僅かなパーマの掛かった、全体的に緩い印象を受けるウェーブ調な薄灰色の髪。  垂れ目でいかにも優しそうなお姉さんといった顔つきだが、その眼光はくのいちらしくどんな細かい情報も見逃さないと思わせるように鋭い。  赤い口紅を塗った口元には小さなほくろがあり、そのほくろが一層妖艶な女性である印象を強くさせている。 「今回の顛末になった……原因?」  全体的に美人でスレンダーなお姉さんと言った印象の彼女であるが、本人も語った様に年齢は30を越えていた。  とてもそうは見えない若々しい外見なのだが、流派の師範代である事を考えるとその年齢は納得せざるを得ない。 「貴方達はどこかしらの情報屋から仕入れたのでしょ? 私達が……とある悪事を働いている……って」 「とある……悪事?」 「貴女の目的でもあったのでしょ? その真偽を確かめる……って……」 「ハッ!? ひ、人攫いっッ!?」 「そう……。どこでどう漏れてしまったのかは分からないけれど……その情報源だけは断っておかないと、今後の家業の邪魔になってしまうわ……」 「漏れたって……や、やっぱりその噂は……本当だったん……ですか?」 「フフ……♥ 頭を少し上げて御覧なさい? 貴女の左右を……」 「さ、左右??」    時雨は言われるがまま恐る恐る頭を上げられるだけ持ち上げ、ゆっくりと横を向く……。  そこには―― 「はひっっ!? お、女の人が……捕まってるっッ!?」  時雨の視界に映ったのは石壁に埋め込まれた手枷足枷に拘束された半裸の女性たち。  彼女達は一様にX字の姿で壁に拘束され、何やら声にならない声を発して悶えている。 「フフフ……透明の防音アクリル壁を使っているから声までは聞こえないけれど……、彼女達が何をされているかは見て分かるでしょ?」  少し遠くの壁に磔られていたので何をされているか細かい部分までは見当が付かなかったが、目を凝らしてみると何に悶えさせられているのか……その正体がハッキリと分かってしまう。   「み、みんな……身体中を機械の手に“コチョコチョ”されてる??」  遠いながらも時雨の目にはハッキリと見えた。自分達と同じくらいか……少し年上かくらいの水着姿の女性達は、磔にされ身動きが取れないように拘束されているのと同時に、その無防備に晒された身体中をマジックハンドでくすぐられていたのだ。 「ウフフ♥ みんな可愛く笑っているでしょ? 見ているコッチも嬉しくなっちゃうくらいに……」  梢の言う通り彼女達の少し手前には透明色の壁が仕切りのように配置されてあり、その壁の防音効果なのか彼女達の笑い声は一切時雨には聞こえない。しかし、彼女達の疲れ果てた笑い方を見るにつけ、恐らく何十分も……いや、もしかしたら何時間もくすぐられ続けたであろう様子が伺える。 「て、抵抗できないようにされて……こんなの……酷い……。なんでこんな事を……」  その様子を見て理解した時雨はゴクリと生唾を飲み込む。自分も先程くすぐられたから分かる……それがどんなに苦しい事なのかが……。 「それは勿論……“出荷”する為よ?」 「しゅ、出荷??」 「彼女達は今……調教中なの。出荷されるために……ね♥」 「ちょ、ちょ、調教っッ!?」 「攫って来た少女を買い手の為に調教して出荷する……それが私達の仕事なの♥」 「買い手? 調教?? 出荷っッ???」 「世の中にはね、特殊な性癖の殿方がいたりもするの。そんな方達が喜ぶように彼女達を調教して買っていただくのよ? このお人形さん達を……」 「お、お人形さん達って……どういう意味ですかッ!? 何でくすぐっているんですかっッ!!?」 「買い手の方の中にはたまにいるのよ……“自分専用のくすぐり奴隷が欲しい”って言われるお客様が……」 「く、くすぐり……奴隷??」 「可愛い女の子をくすぐって笑わせる事が興奮する……特殊な性癖を持っているお客様は意外に居るものなのよ?」 「くすぐって……笑わせて……興奮??」 「貴女にはまだ早いし……刺激が強すぎる話かもしれないけれど、そういう事でしか興奮できないお客様も居るって事よ♥ くすぐりフェチって呼ばれてたっけ……そう言う行為でしか性欲を満たせない人達の事みたいよ?」 「くすぐりで……性欲を……?」 「でもね……こんなニッチな商売だからこそ、それに特化した奴隷の価値は物凄く高いの♥ 一人出荷するだけで……うん千万払う富豪さんだっているわ」 「……うん千万……」 「彼女達を毎日ここでくすぐり責めにして、くすぐられる事に弱くしていくの♥ ワキが好きな富豪さんの為にワキを集中して責めて刺激への感度を高めていく……。足裏が好みの方には勿論足裏を開発していくわ♥」 「か、開発っッ!?」 「この商売はぼろい商売よ♥ 元手の掛からない攫った少女を機械に責めさせて感度を開発して出荷するだけだもの……」 「……うぅ!」 「でもね? このボロい商売を……外に漏らした人物が居る。私達の身内か……それともそれ以外のスパイさんか……それはまだ分からないけれど、貴方達の師範に耳打ちした人物が居るはずなの……」 「……っッ!?」 「だって……この情報は絶対に外に漏らさない様に何重にも隠してきてたのよ? スパイが潜入できないように屋敷中に罠を張り巡らせて……ね」 「わ、罠……」 「一体誰なのかしら? 貴女の師匠にこっそりこの情報を流した人物は……」 「だ、誰って……」 「是非とも貴女に聞き出さないといけないわ♥ 殺す前に……ね?」 「こ、殺す……前……に?」 「あら……当然じゃない。この屋敷の秘密を知ってしまった忍びは皆口封じに殺してきたわよ? これ以上……噂が拡散されないために……」 「ひっっ! し、時雨を……殺すの? ここで……」 「そうよ? 貴女はもう助からないわ。忍びに身を置く者を調教して出荷しても……リスクの方が大きいから……」 「や、やだよぅ……殺すなんて……言わないでよぉ。こ、怖い……」 「脅しじゃないわ。これから貴女は処分されるのよ? 私の開発したこの機械達によってね……」 「き、機械??」 ――ピッ!  すっかり怯えきり、顔を引きつらせてしまっている時雨に対し梢は見せつけるようにテレビのリモコンのような物を差し出した。そしてそのリモコンの起動というボタンを押すと、何処からともなく……しかし聞いた事のある駆動音が鳴り響いた。 「はひっッ!? お、お地蔵さん……達??」  リモコンを押した梢の横にスッと移動してきた機械は、先程時雨を苦しめた菩薩型のロボットだった。  目を閉じ優しい笑みを浮かべている菩薩型のロボットが2体……。先程見たロボットと同じで腕は6本有り、それぞれが独立して動くようになっている。 「貴女もさっき味わったでしょ? この“くすぐり菩薩”の責めを……」 「くすぐり……菩薩?」 「慈悲深くて善良な菩薩様の形を摸した自律型のくすぐりマシン……。私の最高傑作よ♥」 「な、な、何で……それをココに?」 「あら……そんなの決まってるじゃない。これを使って貴女の事……処分するの♥」 「こ、このお地蔵さんで……処分??」 「この屋敷にはくすぐり調教用のマシンや罠しかないから……当然、これで貴女の息の根を止める事になるわ」 「な、何を……するつもり……なの?」 「ウフフ……もぅ♥ 分かっているくせにぃ~~♥」 「ひっッ!? や、やだ!! 動かさないでっッ!! そのお地蔵さんは……嫌なのっ!! 動かさないでっッ!!」 「これから窒息死するまで……延々と笑わせてあげるからね♥ たっぷり楽しんで頂戴? この商品の子達みたいに……ね。ンフフフフフ♥」 「や、や、やだっッ!! くすぐる気でしょっ!! 時雨の事……このお地蔵さんで、またくすぐるつもりなんでしょ!?」 「貴女はもう何の抵抗も出来ないの♥ そんな状態で……この菩薩たちの責めをどれだけ耐えられるかしらね? とっても楽しみだわ……」 「ひっっ!? や、やめ……お地蔵さんが……足の方にっッ!?」 「まずは……その抵抗できない……反りかえった足裏をイジメてあげる。覚悟なさい♥」  「や、や、やだっッ!! やだぁぁぁぁ!!! くすぐりは嫌ぁぁぁ!! 助けてぇぇぇ!! ツキ姉っ、お母さんっっッ!!! 助けてよぉぉぉ!!」  「笑い狂いながら後悔する事ね……。この屋敷に侵入した事……」 「そして……くのいちになってしまった己の浅はかさを……ね。ンフフフフフフ……♥」  そう呟くと梢は静かにリモコンの『開始』のボタンを押した。  時雨の足元に移動した2体のくすぐり菩薩はその瞬間全ての腕をパッと広げ、ワキワキと指を蠢かせていく。  ……美月の知らない所で時雨のくすぐり処刑が今まさに開始されようとしていた。  地下への入り口を必死に探す美月には妹がそのような危機に置かれているなど想像だにしていなかった。


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