くのいち姉妹と恐怖のくすぐり屋敷:6
Added 2018-10-17 12:47:52 +0000 UTC6:地下への入り口と浮かんだ疑念 「くっっ! 何なのよこれは!! 馬鹿にして!!」 時雨の処刑が今まさに行われようとしていた頃、美月は先程から疑問に思っていた事象を確認する為に一旦部屋の探索をやめ屋敷の正面入口へとやって来ていた。 屋根上から双眼鏡で確認をした時にはスーツ姿にサングラスをかけたボディーガードのような男達がその入り口を守っていたように見えたが、実際にその男達を確認してみると美月は憤慨を余儀なくさせられる事実を知る事となる。 「に、人形だなんて!! 何がしたいのよ? この屋敷の主は!!」 直立不動で入り口を固めていた2人の男性は、近くで見るとただサングラスと服を着せられただけのマネキンであった事が分かる。 どおりで先程までの恥ずかしい爆笑を響かせてもこの男性達が駆けつけてこないハズである。この屋敷には罠の気配は数あれど人の気配が一切なかったのだから……。 「人形を立たせて警戒心を煽ってたなんて……まるで私達が侵入しているのを知っているみたいじゃ――」 そこまで口に出すと美月はハッとなりその次の言葉を飲み込む。 そう言えば、罠に2度もかかっているにもかかわらず襲ってくる気配を見せない敵……入ってくださいと言わんばかりに無防備だった部屋の窓……初めての忍務なのに簡単に潜入出来てしまったこの手軽さ……。 それは恐らく油断していたとか虚を突かれたとかではなく、自分たちの存在を知っていて敢えて遊ばせているかのようだった。先程も感じた“手のひらの上で踊らされている”感覚……。多分その想像は的中してしまったのだろう。 美月はそれを感じ取った瞬間一つの疑念も浮かび上がっていた。 決して浮かべてはいけないであろう疑惑……。 「そんな筈は……ないけれど……。まさか……いや! 多分……気のせいよね。お母様に限って……そんな事……」 違和感はあった。 稲穂に託された地図に記された罠と記されなかった罠……。記された罠は一見して見破れないような巧妙な罠だった。しかし、記されていなかった罠は忍びであれば真っ先に怪しむべき箇所に仕掛けられた罠ばかり……。 まだまだ新人であるハズの美月にすらも見破れそうなその罠に、先に潜入した稲穂が気付かない筈がない。 新しく仕掛け直された罠なのでは? と自分を納得させていたが、地図に書かれた罠は間違いなくそこに有り……その罠を避けた所にいやらしく別の罠が仕掛けられているという場面が何度もあった。それらの罠は決して新しい罠ではない事がなんとなく分かる。どちらかと言うと記されていた罠の方が新しく仕掛けられていたように思えるからだ。 美月は決してこのような事は信じたくはなかった。 母親代わりに自分たちを育ててくれた優しい稲穂が、屋敷の側と繋がっていて自分達を罠に掛けようとしている……。そんな想像は一片たりともしたくはなかった。 しかし―― 「1階の罠は……所狭しと記されているのに……この池の部分だけ不自然に書かれていない……」 入り口のすぐ横。立派な錦鯉が泳いでいたあの大きな池……。託された地図には庭一面に罠らしきものが見受けられるもののその池周りだけは書かれていない。 ただの池だから書いていなかった……という事ならばいいのだが……。 美月は地図の罠をよく見ながらその池へと歩を進めてみる。 すると……そこには信じ難い光景が広がっていた。 「っッ!? ほ、ホログラム!? この池……映像を投影しているだけっッ!?」 遠目に見たそれは、紛れもなく立派な池だったのだが、ほんの数メートルの場所まで近づくとその池が実は水など張ってはおらず全てが映像を映し出している簡易偽装だと言う事に気付かされる。 美月はプロジェクションマッピングと言う技術を今更ながらに思い出していた。 地面や壁の凸凹に合わせて映像を投射し、まるで立体的で本物であるかのように見せる3D映像技術……。 この偽の池はそう言う技術で遠目から見ても分からない様に偽装されていたのだろう。 良く見ると、池の底には地下へと続く梯子が見受けられる。そこが地下への入り口だと言う事を明らかに物語っているのである。 「お、お母様……なぜ?」 この池が偽物だと分かった瞬間、疑惑の念は地図を託した稲穂へと向けられる。 池の周りには罠の表記がしっかりある。つまり調べたはずなのである……この周辺を。 しかしこの池には何の情報も書かれていない…… 稲穂が潜入した際は本物の池であったかもしれないが、それでもこの池を調べないのはおかしい。明らかに怪しいであろう箇所のココを見逃すはずがない。 美月の頭の中では色々な想像が駆け巡る……。 もしかしたら修行の為に敢えて記さなかった……力を試す為に書かれた地図かもしれない……。でも命懸けの場でそのような情報隠しなど行うだろうか? 罠も屋敷の様子もまるで自分達を誘い込んでいるかのよう……。もしかすると自分が慕ってやまなかった稲穂は……裏でこの屋敷の主と繋がっていて……何かよからぬことを企んでいないだろうか? 自分たちがくのいちになりたいと言った時も相当に嫌がっていた。それは危険な事をさせたくないという親心だと理解していたけれど、実際は違うのではないか? 裏で悪い事をしようとしていて私達が邪魔になって――いや、もしかするとこれからこの屋敷の主と悪事を働くために自分たちは餌にされたのではないだろうか? 信用を得るために……。 利用されたのではないだろうか? 稲穂の本当の思惑に……。 そんな事を頭に巡らせている内に地下の底から何やら小さい声が響いてくる。 その声は、この場に似つかわしくない……笑い声? しかし、その声の主には聞き覚えがあった。 「時雨の……笑い声?」 小さくしか響いてこないが、確かにその声は時雨の声だった。 アニメの声優のような可愛らしい声であったが故……普通の声とは違うし、何より幼いころから共に過ごしたのだからその声を聞き違えるはずもない。 この地下に時雨は捕えられているのか? しかしなぜ笑い声が聞こえてきているのか? 疑問は尽きないが、どちらにしても忍務は地下部屋を調査する事であったためこの地下へと続く梯子を下りる以外に道はない。 例え依頼主であり母親代わりでもある稲穂に不信感が募っていても……忍務は忍務である。 それをやり遂げない事には、例え延琉寺家から出る事になったとしてもくのいちとして裏の世に舞い降りる事は出来なくなる。 裏切られたとしても……仮にも忍務なのだからやり遂げなくては自分の経験値にはならない。逆に裏切られながらも忍務を達成できたならばそれは立派な経験値になり得る。初忍務とは思えない輝かしい経験になるかもしれない……。 萎えそうになっていた気力をそのように立て直した美月は疑問をいったん棚上げにし、気持ちを切り替え罠が無いかを慎重に探りながら底の見えない縦穴にかけられた梯子を静かに降りていった。 暗闇の底からは乱反射するように時雨の笑い声が聞こえてくる。 楽しそうな……それでいて苦しそうな笑い声……。 地下では何が行われているのか? 美月は一段一段梯子を下りながらも時雨の身を案じた。 きっとこの笑いは楽しいから上げている笑いではない。 敵の手に落ちた時雨が……上げさせられている笑いなのだろう……。 美月の背中はそれを感じた瞬間ゾクリと寒気を感じた。 この寒気が何を意味するのか……美月にはまだ分からないが、時雨の笑いだけは止まらずに響いてくる。 地下の奥深くから…… 延々と……。