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ハルカナ
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くのいち姉妹と恐怖のくすぐり屋敷:10

10:目覚めと真実 「……ぶひゃっ……へひ……はひゃはは……ひは……ひっひひっひ……」  遠くの方なのか……? 近くからなのか……? 女性の下品な笑い声が耳に入ってくる。 「はひ……ひへ……へひひ……いひひ…………けひひ……」  意識がハッキリせず途切れ途切れではあるが確かに女性の声。  でも自分の良く知る身近な人物の声ではない。  聞いた事はあるけれど、初めて聞いた笑い声……。 「やめ……いへひひひ……やめなさ…………はひひゃはははは……」  重い瞼が開いていく。  美月は意識の無い暗闇から、蛍光灯が煌々と光る眩しい世界へと帰還した。 「はひひひひひひひひひ!! だめだめぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ、やめてッッ!! やめでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  柔らかいベッドに温かな毛布……それらを捲って起き上がった美月に、その光景は目覚め一発の衝撃を与える事となる。 「えっ!? な、何?? ど、どういう事? これ……」  目の前では時雨と知らない女性が一人……。  その見た事の無い女性は床から少し高さのある座椅子のような特殊な椅子に手足を拘束され、何やらだらしない笑いを撒き散らせている。  座椅子のような椅子であるため脚は座面に沿う様に伸ばしてあり、足首の部分で金属製の枷にしっかりと拘束されてある。  一方、手の方は椅子の背もたれの延長線上にある頭の遥か上の枷に万歳の格好で拘束されていた。 「し、時雨?? えっ?? どうなってるの??」  この座椅子に拘束された女性は頭を振ってとある刺激に笑い悶えているが、その刺激を与えているのは時雨……。捕まったはずの時雨その人だったのだ。 「よくもさっきはやってくれたなぁぁ! 苦しかったんだからねぇ!! お返しっっ! お返しぃぃ!!」  時雨はいかにも楽しそうな笑みを浮かべて、その女性の足裏を“お返し”と繰り返しながら指でくすぐっている。  靴を脱がされ、素足にされた状態で拘束されたその足裏をコチョコチョと時雨の小さな指でくすぐられている女性は、そのこそばゆさに耐えきれず笑い悶え続けている。 「わ、わ、私はくすぐるのは好きだけどぉぉほほほほほほほほほほ、くすぐられるのは得意じゃないのぉぉ!! はひぃぃぃいいいいひひひひひひひひひひ、いへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  なぜ捕まっていたハズの時雨が見知らぬ女性をくすぐっているのか? その謎は理解できないが、この女性の声は聞いた事があった。  先程まで自分と対話をしていた人物……。  霧ヶ﨑梢……と名乗った女性の声だ。 「死ぬほど苦しかったんだからねっ! 死んじゃうかと思ったんだからねっっッ!!! この、この、このぉぉぉ!!」  敵の師範代がなぜ時雨にくすぐられているのか? なぜ自分は助かったのか? 尽きない謎が美月の頭を混乱させる。  そして、その混乱を助長させる人物が薄暗い部屋の隅から姿を現す。 「目が覚めたかしら? 美月……」  姿が全て視界に入る前に、美月にはその声の主がすぐに分かった。  いつも傍で聞いていた声……。あの人の声……。 「お、お母様!? なぜ……ここに?」  その声の主は美月と時雨の母親的存在であり、今は自分の屋敷に居るはずの延琉寺稲穂その人だった。  いるはずのない人物が自分の横に立っている……。美月は母親の登場によりいよいよ頭の混乱が収まらなくなっていく。 「フフフ……。ごめんなさいね、貴女や時雨には嘘をついていたの……」  目をグルグルさせながら混乱する美月の頭を稲穂は優しく撫で、軽く目を閉じて事の真相を語り始める。 「今回の初任務……。これは貴方達を試す意味で組んでもらった架空の忍務なのよ」 「架空の……忍務??」 「そう。この屋敷はくのいちの為の潜入訓練施設……霧ヶ﨑家が所有する体感型の訓練施設だったの」 「体感型の……訓練施設?」 「人攫いの噂……人身売買の設定……罠の配置から、忍務内容まで全てが訓練項目の一環……」 「訓練って……。あの死に目に会いそうになった仕掛けが……訓練ですか!?」 「死なないようにちゃんと救済措置は取ってある訓練よ。だから貴女も……時雨も生きているでしょ?」 「あっ……そ、そう言えば……あの高さから落ちたのに……生きてる??」 「あくまで訓練だから……」 「じゃ、じゃあお母様はなぜ私達にコレを訓練だと教えてくれなかったのですかッ!」 「それは……敢えて伏せていたの……」 「敢えて?」 「くのいちの任務は命懸けなのは知っているでしょ?」 「は、はい……」 「頭では分かっていても、現場に出てその厳しさを知らないとしっかりは理解できない……そう思ったから黙っていたの」 「私達に……その覚悟が足りなかった……と?」 「ううん……そうじゃない。出来れば……この過酷さを知って……自分からくのいちという道を諦めてくれないか……と、期待していたの……」 「それは……私達に……技量が足りないからですか? それとも……くのいちとしての覚悟が足りなかった……?」 「技量も覚悟もしっかりしたものが備わっていたわ。特に……時雨の覚悟の強さは……驚かされた……」 「時雨の……覚悟?」 「私の中では時雨は拷問に屈して“教えたことを洗いざらい吐いてしまう”と思っていたの」 「教えた事……って、作戦の概要や情報屋の事とか?」 「そう……。あの子は人一倍優しくてくのいちには向いていない性格……と私は勝手に判断していたの……」 「……お母様……」 「でもね、彼女は最後の最後まで“知らない”ってしらを通し切った。自分が死ぬほど苦しい状況に置かれていたのに……ちゃんとくのいちとしての本分をまっとうしたの」 「時雨が……?」 「そして貴女も最後まで喋らなかった。自分の命が目の前で消えようとしていても……時雨がその後酷い目に合わされると分かっていても、最後の最後まで秘密を守り抜いた……」 「……………………」 「その覚悟は……くのいちのとして生きて死ぬっていう決意を改めて私に見せてくれたわ。私の想いとは裏腹に……貴方達はしっかりとくのいちとしての技量も信念も身に付けていたの……」 「お母様の……想い?」 「本当は……貴方達が途中で降参して敵の手に堕ちるっていうシナリオを描いていたわ。そしてくのいちとしての覚悟が足りないとそれぞれに分からせて諦めさせるつもりでいた……。現実はこんなにも厳しいものだって……分からせて諦めて貰いたかった。そして……今までのような、私の“可愛い娘達”として学園生活やクラブ活動に精を出す普通の女子高生として過ごしてもらいたかった……」 「………………」 「でも、今日の貴方達のそれぞれの最後を見て私も覚悟を決めたわ……。貴方達は私が思っている以上にくのいちとしての才覚がある! それを今後しっかり花開かせてあげなくちゃいけない……って」 「でも……私達はまんまと敵の罠に掛かってしまいましたし……。技量なんて全然足りてないと……自分でも悟りました……」 「それは、私が本気で教えてはいなかったからよ」 「えっ?」 「貴方達を可愛いと思っているが故に……鬼のような訓練は積ませなかった……。だから技量が不足していても当然なの」 「鬼のような……訓練?」 「貴方達に伝えた事は基本の前段階の技術だけ……。それ以外は精神論くらいしか与えては無かったの」 「それは……ワザと……ですか?」 「そう。全てはこの日の為……。くのいちとしてその命を全うできるか、それとも現実が怖くなって挫折するか……」 「それを試すために……わざわざこのような模擬訓練を??」 「梢の予想は“すぐに降伏する”だったから、私と同じ予想だった。でも私は娘であると同時に自分が鍛えたくのいちの卵である貴方達に少しの期待も寄せていた。私達の予想を裏切ってくれるんじゃないかって……」 「………………」 「だから私達は賭けを行った……」 「賭けを?」 「えぇ……。もしも梢が2人の内どちらかから情報を聞き出せたなら私の負け……逆に聞き出せなかったら私の勝ち……っていう賭けをしたの」 「お母様が負けていたら……どうなっていたんですか?」 「フフ……。その時は、あの椅子に座らされているのは私で、責め手が梢だったわね……」 「あ、あぁ! だから……今……時雨が責めているんですか! 賭けに勝ったから……」 「そう。助かったわ、ありがとう♥」 「で、でも! 何で……その……アレなんです?」 「うん? アレ……?」 「いや……ほら……その……」 「あぁ。なんでくすぐりなのかって事かしら?」 「あぅ……は、はぁ……」 「それは、梢の本当の趣味だから……私はどうとも言えないわね……」 「しゅ、趣味っっ!?」 「あの子……昔から可愛い女の子を笑わすのが大好きだったから……」 「わ、笑わせるのが……好き?」 「歪みに歪みまくった性癖がこの屋敷を作らせちゃったのよ。お金だけは持ってたからね……」 「うぅ……悪趣味……」 「まぁ、最終訓練場としては良い出来だと思うわ。罠も即死する様なものは無いし、怪我もしなくて済む……。引っ掛かれば笑わされて悔しくなるし……梢に助けてもらった後は彼女の趣味も兼ねてあんな風なお仕置きも与えられる……」 「あ、あの……壁際で磔にされて笑い悶えている少女達って……」 「梢の下で修業してるくのいちの卵さん達よ」 「う、うわぁ……マシンにくすぐられながら放置されてる……」 「とにかく、この屋敷は貴方達を無事に試す施設としてうってつけだったの」 「じゃあ、人攫いの噂とか……情報屋からのネタも……」 「当然嘘の情報よ。だって梢は私と同期の善良くのいちだもの……」 「あ、あんな趣味をしていて……善良……ですか?」 「性癖は人それぞれよ♥ それを悪用していないのが彼女の良いトコロなの♪」 「うぅ……あの私への責め言葉は、悪その物だったんですけど……」 「彼女の演技力の賜物ね。素晴らしいヒールっぷりだったわ♥」 「はぁ……成程……じゃあ、お母様が裏切ったという想像をさせたのも……シナリオの内ですか?」 「勿論よ。私は胸が痛んだけど……でも、その親子の情でさえ忍務中は利用されかねない……」 「それを教えたかったから……ワザとあんな……」 「でも、貴女は見事にそれも乗り越えた。途中で忍務を投げ出さず、地下への潜入を続けてくれた……」 「それは……時雨を助けようと……してしまったから……」 「そうね……それは敵に利用される甘さかもしれない。仲間や親……姉妹の絆を罠にするのは忍びの常套手段だから……」 「わ、私は……」 「でも、その絆をどう扱うか……それを私は“まだ”貴方達に教えてはいなかったわ」 「ま、まだ……?」 「これからみっちり教えてあげる。貴方達をどこの忍務に出しても恥ずかしくないくのいちに……今度こそしっかりと育て上げてみせる!」 「お、お母様ッ!!」 「私も今日の貴方達を見て覚悟を決めたわ。もう泣いても縋ってもビシバシしごいていくわよ? 良いわね?」 「は、はい!!」 「そう……。だったらほら……貴女も加わってきなさい。私の可愛い娘を弄んだ彼女に……時雨と一緒に罰を与えてあげなさい♥」 「……罰??」 「フフ……ほら、梢のワキががら空きじゃない♥ 責め立ててあげなさい? 捕えたくのいちを尋問する様に……」 「……あぁ、成程! これは尋問の訓練なのですね?」 「そうよ。たっぷりと苦しめてあげなさい♥ 貴方達がされたように……」 「……♥ はぁ~~い♥♥」   見習いくのいち美月と時雨の最初の忍務はこうして幕を閉じる。  実際は忍務でなく訓練だったわけだが、彼女達にとっては立派な忍務であった。  これからの、くのいちとしての歩みを進めていく……分岐点となったのだから。  忍びの務めと書いて忍務。  彼女達はその意味を学び始める。  忍びとして……くのいちとして……何が大切であるかを……。 「ちょっっっ!? も、もう良いでしょ? もう勘弁してよぉぉ!!」 「ダ~~メ! 時雨はまだまだ物足りないもん♥ もっともっと笑わせてやるッ♥」 「いひゃあああぁぁぁははははははははははははははははははは、だ、だ、だめだったらぁぁぁ!! んはぁぁははははははははははははははははははははははははは!!」 「し~ぐ~れ♥ 私も混ぜて~~?」 「ツキ姉? 良いよぉ~~♥ 一緒にコチョコチョしちゃおう♥ 楽しいよぉ~~♥」 「フフ……じゃあ私はコッチの方を……」 「んはぁぁひっひひひひひひひひひひひひひひひひ!! や、やめなさいぃぃひひひひひひひひ、あんた達ぃぃぃひひひひひひ、んははははははははははははははははは!!」 「うわぁ~ツキ姉ったらいやらしい顔してるぅ~~♥」 「フフフ♥ あんたには負けるわよ……時雨♥」 「アハハ……ンフフフフフフ♥」 「フフ……フフフフ……ウフフフフフフフフフ♥♥」 「いひゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! もうやめでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 ――Fin――


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