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The.UnderCover~潜入捜査官:神崎琉姫~2

2:神崎琉姫と愛染美香 「せ~んぱい! ねぇ、せ~んぱいったらぁ! 起きて下さ~~い!」  真昼間だというのに煌々と明るい蛍光灯の列が天井から彼女達を照らす、狭からず広からずのオフィス。  その端の区画の更に隅の方に彼女とその後輩は居た。 「る~~き~~せんぱぁ~~~い!!」  4つの机が正面同士を寄せ合ってグループをなすように配置されたその区画は、狭いながらも『違法薬物等特別捜査課』という部署名を掲げている。 「先輩ッッ! いい加減起きてくださいっ!!」 「うっ……うん?? なに? 事件でも起きた? 美香……」  昼のうららかな温かさに眠気を誘われ、乱雑に積み上がった資料の隙間に頭一つ分のスペースを作って突っ伏すように昼寝を貪っていた神崎 琉姫(かんざき るき)は、後輩の愛染 美香(あいぜん みか)に起こされ若干不機嫌そうな顔で目を覚ます。 「事件も事件、大事件ですよ! もうお昼の2時なんですよ? 就業時間になって1時間も起きてないなんて大事件ですよ! 全く……」 「あら……そんな時間? いけないわね……朝ご飯食べなきゃ……」 「寝ぼけないでください! お昼ご飯も食べた後でしょうがっ!!」 「…………?? う~~ん??」  この甲斐甲斐しくも先輩を目覚めさせた小柄な女性は、別に同じ部署で働いている後輩というわけではない。  彼女は『拾得物・遺失物保管係』という……言うなれば下働き的な部署で働く警察官なのである。  肩まで伸びた外はね癖の強い青い髪……。顔は童顔で背も低い。彼女の容姿からしてみればどこの部署の誰と比べても先輩と後輩と映ってしまっても仕方がない。勿論美香が後輩と言う立ち位置なのは彼女と同じ警察学校へ入学した際にすでに決まっていた事だった。  「なぁ~に? 何か用?」  そしてこの就業時間が来ても眠ってしまっている傍若無人な彼女……神崎琉姫は正真正銘美香の先輩だった。  それは警察学校時代での先輩後輩という間柄で始まり、部署は違えど今でも先に入社した琉姫を敬って“先輩”と呼びかけ親交が続いていた。 「もう! またですよ!! また!」 「ん? また??」  琉姫は自身の茶色がかったセミロングの髪を雑に掻き毟ってやれやれと言わんばかりに顔を腕枕から持ち上げる。 「あぁ! もう! よ・だ・れ! 頬っぺたについてますよ! しっかりと!」 「あらら……これは失礼……」  眠そうだった目を擦り、いつもの少し吊りがちな目に戻し口元から垂れた涎の跡を手の甲で拭って起き上がった彼女は、少し気恥ずかしそうに後輩に苦笑いを返す。 「っで? また……なんですって?」  コホンと咳払いをし、今の失態をリセットしにかかる琉姫だったが、聞き返した言葉は上擦ってしまい変な語感となって美香に伝わってしまう。 「また管理庫から盗難があったんですよ! 押収物とか証拠品の一部ですけど……」  いつものカッコいい先輩になかなか戻ってくれない琉姫に美香は溜息を一つ吐き、彼女の目の前に盗難届と書いたリストを突きつけた。 「また無くなったの~? これで何度目よ?」 「3度目です……」 「3度目ぇ~? いくらなんでも盗られ過ぎよ! あんたの管理が甘いからじゃないの?」   「わ、私はちゃんとマニュアル通りにやってますっ!! でも、私が居なくなってから盗られたんじゃあ……どうしようもありませんし……」 「セキュリティはしっかりしてるハズなんでしょ? 防犯カメラは? ちゃんとチェックした?」 「そりゃあしましたよ。動きの無い映像を何回も見直したんですけど……誰も入室した形跡すらないんです! おかしくないですか?」 「管理室のカメラはあの位置から動かないタイプだものね。まぁ、カメラの位置を覚えていればこっそり入れるかも……」 「カメラの場所を知っているって事は……やっぱり警察署内に犯人がいるかも……ですか?」 「さぁ……どうかしらね。内部に詳しい外の人間って言う線も考えられなくもないわ……」 「う~~ん やっぱりもう一度映像をチェックし直してみよっかなぁ? 見落としがあるかもしれないし」 「それが良いわね。きっとあんたの事だから一杯見落としていると思うわ♪」 「せ~んぱ~い? それって酷くないですかぁ? もっと私をフォローしてくださいよぉ~~!」 「……庇ったら調子乗るじゃない。こういう時はワザと焚きつけた方があんたの為よ」 「むぐ! 先輩はいつも私に冷たいんだから……。いいですもん! しっかり映像見直して、違和感があったらまた先輩の所に押しかけてやりますから!」 「あんたねぇ……ココは違法薬物の捜査課よ? 窃盗犯を探す部署はウチじゃないわ、他所で相談なさい!」 「分かってます!! でも! ほら、ここ!! これ見てください!」 「うん?」 「盗られた物の中に混合薬物ってあるでしょ?」 「高揚促進剤LHC? それに、興奮促進剤LLM?? 昔流行った薬物よね? これ……」 「ほら! 薬物が関係してるでしょ? って事は、琉姫先輩のお仕事範囲に入るじゃないですかぁ!」 「だからって窃盗は私達の管轄じゃないって言ってるでしょ! 他を当たってちょうだい! それでなくても忙しいっていうのに……」 「さっきまで居眠りしてたくせに!! 先輩は居眠りする事が仕事なんですか?」 「う、うっさいわねぇ! 用事がそれだけだったらさっさとあんたの巣穴に帰んなさい!」 「す、巣穴って……酷いなぁ~~」 「なぁ~に? 公務執行妨害でしょっ引かれたいわけ?」 「私も公務の途中なんですっ! こ・れ・で・も! もう……折角報告のついでに相談しようと思って来たのに……」 「相談? なによ……他にもなんかあるって訳?」 「………………えぇ、まぁ……」  おちゃらけた笑顔で話をしていた美香だったがこの言葉を境に声のトーンと表情のトーンを一気に下げてしまう。  このような表情をする時の後輩は、何か切羽詰った事態を抱えている時だと琉姫も長年の付き合いで悟っている。  彼女はいつもそうなのだ、大事な相談事は後に回してどうでも良い出来事を先に話す……。琉姫としては油断したところに重い爆弾を落されているかのような衝撃を受ける為“悪い癖”だといつも彼女には進言しているのだが……一向に治る様子を見せない。 「なに? 話してみなさいよ……」  神妙な面持ちで俯く美香に、椅子に座ったまま下から覗き込んで事情を確認する琉姫。よくよく見ると彼女の目は真っ赤に腫れていた。つい先程まで泣き払っていたかのような顔……。今回の爆弾もかなりヘヴィな内容であるのだろうなと琉姫は覚悟を決めるように息を一つ吐いた。 「実は……」  このような言葉から始まる相談事にロクな事はないと琉姫も分かってはいるのだが、可愛い後輩が自分を頼って来てくれている事に内心は嬉しさを感じていた。 「私の……妹の事なんですが……」 「妹? 千里(ちさと)ちゃんの事?」 「はい……千里の事なんですけど……」 「彼女がどうしたの? 確か就職先が決まったとかあんたが言ってなかったっけ?」 「そう。そうなんです……ミズホモーターズに入ったっていうのはお伝えしたと思うんですけど……」 「彼女レースクイーンやってるのよね? あんたと違ってプロポーション良いから適職よね~~」  いつもならこういう冗談にすぐにムキになって「私だって脱いだらすごいんですぅ!」なんて反論してくる美香なのだが……琉姫の期待とは裏腹にそのような反応はなく、彼女の悩みがどれだけ深刻かを悟らされる結果となった。 「千里が……帰って来ないんです……」 「……はぁ??」 「だから……家に帰って来ないんです。妹が……」 「帰ってこないって……会社の寮に入ってるんじゃなかったっけ? 千里ちゃん……」 「そうなんですけど……私との約束で、仕事に慣れるまでは週に1回は家に帰って来て顔を見せなさいって言ってあったんです」 「えぇ? それは過保護ってやつじゃない? 千里ちゃん今年でハタチでしょ? 自由にさせてあげなさいよ」 「いえ、私も別に帰ってこないなら連絡してくれれば心配なんてしないんですけど……」 「連絡も……ないの?」 「はい。それどころか……こっちからの電話にも出ないし、会社の方に電話しても代わってくれないし……」 「それは……心配よね? 成程……」 「それだけだったら……まだいいんですけど……」 「……??」 「先輩……あのクスリの事……ご存知です?」 「あの“クスリ”?」 「少し前からとある女性達の間で流行ってしまってる……『ラフスタシィ』っていうクスリです」 「ラフスタシィ? 何それ? 聞いたことないんだけど……」 「使用するとすぐに全身がムズ痒く感じ始めて、身体中の感覚も鋭敏になって快感を得やすくなるクスリ……それがラフスタシィです」 「そんな薬物……聞いたことがないわ。媚薬の一種か何か? 本当に流行っているの? それ……」 「はい。まだ一部の地域でしか流行ってはいないらしいんですけど……かなり出回っていて中毒性も高いと聞きます」 「ウチにはそんな情報流れてきていのに……なんであんたがそれを知っているわけ?」 「それは……流行っている地域と言うか場所が……あそこだから……です」 「……あそこ?」 「ミズホ……モーターズ……」 「っ!? あんたの妹さんが……働いているトコ??」 「はい。妹が心配になってレースクイーンの知り合いにあの会社がどんな会社か聞いたんです。そしてら、まずこのクスリが流行ってしまってるっていうのを聞かされて……」 「レースクイーンの間で流行ってるって……事?」 「そんな風に言ってました。『使うだけで身体を引き締められて理想の体型を維持できる』っていう誘いをされて、試しに使う人が後を絶たなくなったらしいんですけど……」 「…………」 「中毒性が高くて……クスリを止められなくなる人が多いみたいで……」 「その話……確かな情報?」 「たぶん……」 「私の部署にその噂が回って来ていないって言う事は……余程の情報統制がなされているか、不確実な情報だったって言う事になるけど……」 「分かりません! でも……その知り合いのレースクイーンは以前ミズホモーターズに所属していたらしくて……」 「以前って事は……今はもう辞めたって事よね? 昔務めていたから内情を把握していた……と?」 「は、はい……」 「ふむ……」 「…………」 「………………」 「分かったわ。そのレースクイーンの子にアポを取っといてもらえる? 私が直接聞いてみてあげるから……」 「えっ? あ、あの……」 「予定は早い方が良いわね。向こうがいつでも良いって言うなら明日でも出向くわよ?」 「ちょ、あの……先輩……」  違法薬物を専門に取り締まる部署に務める自分が、新種のクスリの情報を耳にした事すらない……。そんな事があっていいはずがない。琉姫は千里を心配する気持ちよりも先にそちらの苛立ちの方が先に湧き上がった。  殺人や強盗などの情報よりも“そういう情報”に敏感でなくてはならない部署であるハズなのに、後輩の話から始めて聞かされた新種の薬物の情報。真偽はどうであれ、そういう噂が少しも耳に届いていなかったという事実が彼女の捜査官としてのプライドに火をつけた。  今すぐにでもその情報源に会って話を聞きたい! 気持ちばかりが焦り、後輩の困惑する顔すら視界に映らない。  そんな火の付いてしまった琉姫に、思いもよらぬ場所から次の展開を示唆する声が挟まる。  琉姫の向かいの席……。先程までは誰もいなかったその席からコホンという咳払いと共にその言葉は発せられた。 「だったら……琉姫ちゃん、現場に行ってみたら?」  落ち着いたフワリとした声が2人の耳に届き、思わず声の聞こえた方を向き返る琉姫。そこには、いつの間にか部署に戻ってきていた、彼女の上司である五十嵐 志乃(いがらし しの)が足を組んで椅子に座りニコリと微笑む姿が見て取れた。 「チ、チーフ!? いつの間に帰ってたんですか!?」  そこには誰も居ないと思い込んでいた琉姫は、上司の声が耳に入った途端に背筋をピンと伸ばし思わず上擦った声をあげてしまう。 「つい今しがたよ♥ なんだか楽しそうな話をしてたから……悪いとは思ったんだけど聞き耳を立てさせて貰っちゃった♪」  ストレートの長い前髪をサラリと横に掻き分け、目を閉じているかのような笑顔を2人に見せる彼女は琉姫の直属の上司であり、『違法薬物等特別捜査課』のチーフでもある。 「い、言ってくださいよ~~! ビックリするじゃないですか~~」 「あら? 琉姫ちゃんったら……なんで私が帰ってくるとビックリするわけ? なんかやましい事でもしてたなぁ~♥」 「し、し、してません! 何も……」 「嘘ばっかりぃ~~サボってたのがバレバレだぞぉ? ヨダレの跡ついてるし♥」 「っっッ!!?」 「は~い引っ掛かったぁ♥ 残念~~ついてませんでしたぁ~~♪」 「っッ!? ちょっっ、チーフ!! からかわないで下さいっ!!」 「フフフ♥ 琉姫ちゃんはやっぱり面白い子よね♪ 捜査二課から引き抜いてきた甲斐があったわぁ♥ イジっていたら飽きないんだもの♥」 「チ、チーフっッ!! まさかそんな理由で新設されたこの部署にわざわざ私を連れてきた訳じゃないでしょうね!」 「ウフフ♥ 冗談よ、ジョーダン♥」  悪戯っぽく笑う志乃に顔を真っ赤にして怒りの声を上げる琉姫。彼女との日常はいつもこんな感じだ。  クールビューティを絵に描いたような琉姫をイジってわざと慌てさせキャラを崩す方向へ持って行きたがる彼女……優しくて仕事も出来る上司ではあるのだが、琉姫にとっては迷惑極まりない上司というイメージを拭えない。 「っで? 何です? 現場に行ってみたらっていうのは……」 「え? そのままの意味よ? 実際に潜入捜査してみたらいいじゃない、その現場を♥」 「な、何言ってるんですか! 警察は潜入捜査とか囮捜査の類は禁止されている筈でしょ?」 「あら……琉姫ちゃんは聞いてなかったっけ? 新設されたこの部署は“特別支援捜査”って言うのが出来るようになっているのよ?」 「特別……支援捜査?」 「従来は潜入捜査を行えるのは警察の管轄ではなくて厚生労働省の管轄であるマトリ(麻薬取締局)がやっていたんだけど、ほとんどの薬物密売に暴力団が絡んでいる事もあって……そういう情報をいっぱい持ってる警察の管轄にしたらどうかっていう案が出たの」 「それは……知ってます」 「結局……紆余曲折あって警察官にマトリを置くという案は却下されたけど、代わりにこの部署が出来たわ」 「違法薬物等特別捜査課……うちの事ですよね?」 「そう。蓋を開けてみれば特別支援捜査と言う名前に変わりはしたけれど結局はマトリの潜入捜査と同じ事が出来るのよ♥ だから古い規則は気にせずに、じゃんじゃん潜りに行ってちょうだいね♪」 「ややこしいですね……なんで名前なんて変えたんですか?」 「それは多分……大人の事情ってやつじゃないかしら? そのままの名称で警察に配備しちゃったら厚生労働局の職員も混乱するし、一般の人の認識も警察が“部署を取り上げた”とか思われちゃうかもしれないし……」 「うぅ……。ややこしい上に……面倒臭い……」 「まぁ、上の許可はおりているんだから、琉姫ちゃんも気兼ねなく潜入捜査は行って良いって訳。良かったわねぇ~♥」 「い、いやいや! 待ってくださいよ! まだ情報の信憑性も何もあったもんじゃないこんな状況で、いきなり現場に出向くなんて無謀もいいところですよ!!」 「う~~ん……じゃあ、その情報の真偽はどうやって確認するのかなぁ?」  あまりにも急であり無謀な上司の提案に琉姫は思わず声を荒げてしまうが、その言葉を言い終えた瞬間上司の顔つきが仕事モードの厳しい目つきになった事に気付き、続く言葉は少し声量を抑えめに絞る事とした。 「そ、それは……だから……情報源に直接聞いて……判断を……」 「もし情報源の彼女が嘘をついていたとして……琉姫ちゃんはその嘘をどうやって見破るの?」 「えっ? えっと……表情とか……口ぶりとか……?」 「あら? 琉姫ちゃんってば心理カウンセラーか何かだったかしら? そんなに都合よく見破れる?」 「うぅ……そんなんじゃ……ありません……けど……。でも情報を確認しないで乗り込むのは……」 「同じ事よ♥ 情報の真偽が分からない以上聞いても聞かなくても一緒。そんな暇があったら足で真偽を確かめに行った方が効率的だとは思わない?」 「そ、そうかもしれませんけど……」 「うちの課は情報を集めるのに他人を信用するなんてことはしないわ。自分の目で見た事実だけを情報源として生かしていくの」 「…………うぅ……はい……」 「まだ配属されて1年も経っていない琉姫ちゃんには難しい事なのかもしれないけど……こういう情報はしっかり自分の目で真偽を判断しなくちゃダメよ?」 「……………………」 「そ・れ・に♥ お友達の妹さんの事だって心配でしょ?」 「そ、そりゃ……勿論……」 「実際に潜入して現場を見て“何かよからぬ事”になっていれば、すぐにあなたが保護する事も出来るでしょ?」 「…………は、はい……」 「じゃあ決まり♥ だとするなら早速レースクイーンの格好になってみましょ♥ ほら、ほらぁ~~♥」 「……………………」 「…………うん?」 「…………チーフ……」 「……はい?」 「本当は私の恥ずかしがってる顔が見たいだけでしょ! どうせ!」 「うぅっ!?」 「肌の露出の高い格好させて……恥ずかしがるのを楽しみたいだけでしょ! 違いますか?」 「……琉姫ちゃん…………鋭いっ☆」 「チーフっッ!!」 「フフフ、冗談よ♥ 私は私なりに考えた結果の指示を出したに過ぎないわ」 「……むぅ! ホントですか~?」 「アンダーカバー(潜入捜査)は違法薬物の取り締まりを行う上で基本であり最大の情報源になり得る捜査よ」 「………………」   「それをまだ経験していない琉姫ちゃんに、丁度いい機会だなって思ったの♥ 大丈夫、ちゃんとバックアップはしてあげるから♪」 「……………………」 「…………ねっ♥」 「……………………」 「はぁ……分かりましたよ……」  かくして取締課に所属となった琉姫に初めての潜入捜査の命が下る。  本当は下準備や心の準備など色々としておきたかった彼女だったが、もしもその情報が確かなものだったなら準備の時間を設けること自体が手遅れになる原因になりかねない。確かに手を拱いて待つ時間を作るよりも、直接自分の目で見て真偽を確かめる事の方が遥かに効率的である。そう自分に言い聞かせ、琉姫は美香の方を振り返りながら安心させるための言葉を紡ごうとした。  しかし彼女の表情は先程と変わらず暗いままだった。  琉姫が潜入してくれると分かった今でも……その表情が晴れる様子を見せなかった。  それが何を意味していたのか今の琉姫には分からなかったが、後に知る事となる……。そして後悔する事となる。  なぜあの時……美香は喜ばなかったのか……  なぜ去り際に見た彼女の目が何かを訴えかけようとしていたと言う事に……気付いてあげられなかったのか……と。


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