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The.UnderCover~潜入捜査官:神崎琉姫~7

7:特別合宿 ――コツン……カツン……コツン…… ――カツン……カツン……カツッ……  どれくらい眠っていたのだろう? うっすらと意識を取り戻した琉姫は確かに目を開いているハズなのに目を閉じているかのように目の前が真っ暗なままだ。目の前に布生地の圧迫感を感じる為目隠し的な何かを自分は施されていると言う事にすぐに気づく。身体は痺れてまだ自分の言う事を聞かない……だけど石床を歩き進んでいる音は耳に入ってくる。  感覚はないが両手はどうやら2人の人物の肩に回されて支えられているのだと気付いてしまう。  肩の付け根が痺れと共に僅かな痛みを発している事から、恐らく体重を支えられながら歩いている……というか自分は歩けないから引き摺られながら何処かへ運ばれているのだろうと想像が出来る。  そこまで理解すると、すぐにある答えに行き付いてしまう……考えたくはない最悪のシナリオ……そう、自分は捕まってしまったのだという事実に……。  一体いつ気を失ったのか? 朦朧とする意識……おぼろげな記憶を辿って思い返してみると、最後の記憶が琉姫の脳裏に鮮明にフラッシュバックしてきた。  そう……千里の部屋を出た後、琉姫は表札を頼りにリーダーである楓の部屋を探し当てその部屋を調べようとした。  取り逃した自分の事を探し回っていると踏んだ琉姫は楓も春奈も別の場所に居るはずだと決めつけ、大胆にも警戒無しに部屋のドアを開けズカズカと部屋の中へ上がりこんだのだ。  そして千里の部屋で聞き及んでいた“隠し部屋”の話を思い返し、部屋の絨毯を捲ってその存在を確かめようとした。  絨毯の下には確かに地下室がありそうな持ち上げ式の小さな入り口が見つかった。  絨毯の下には確かにそれらしい引き扉が設置されており、見つかった事を素直に喜んだ琉姫は早速中へ入ってやろうとその持ち上げ式の入り口の取っ手を力一杯に引っ張った。だがその瞬間、入り口が持ち上がると同時に水蒸気の様な煙が噴出し、それを吸った琉姫はそのまま数秒と経たないうちに眠りに落ちてしまったのだ。  入り口には罠があった……。  それを警戒するべきだったが……敵を騙し、出し抜いてやったと言う高揚感に浸っていた琉姫にその様な備えは出来るはずもなかった。    薬効のせいか身体は自由に動かせないが、手や脚にヒヤリとした感覚が伝わっているのは理解できる。  侵入時に着用していたスーツならばその袖などの生地を感じる事も出来ただろうが、今は袖が有るという感触を感じない。下の方も、太腿の際どい所まで風をダイレクトに感じている為きっとまともなスカートも穿かされてはいない……もっと短い……太腿が丸出しな短い何かを着せられているようだ。  そこまで感覚で理解すると、自分の着ている服は恐らく支給されたレースクイーンの服じゃないか? と想像できてしまう。自分は着替えさせられたのだ……あの肌の露出の激しい恥ずかしい衣装に……。 ――カツン、カツン、カツ……  琉姫の意思とは裏腹に腕を担がれた状態で石畳が引いてあるであろう廊下を移動させられていた。  一人はハイヒールを履いているのか、歩くたびにヒールが突く音が廊下中に反響している。  そんなハイヒールを履いている相手に襲い掛かれば例え目を覆われていても勝ててしまう気がする。しかし、身体の痺れは未だ彼女の筋力を弛緩させてしまっている為護身術の1つさえ繰り出す事は出来ない。ただただ無防備に運ばれていくのを良しとするほかなかった。 「あら? 目が覚めちゃったかしら?」  精一杯身を振って抵抗してみようと試みる琉姫に、意識が戻ったのだと気付いた片方の女性が声をかける。  琉姫はその声掛けに返事はせず「フン」という不機嫌な声を代わりに返してあげた。 「フフフ。貴女も馬鹿ですわねぇ~あんな罠に掛かっちゃうなんて……」  クスクスと笑みを零す片方の女性。その声の主は聞き覚えのある声だった。 「やっぱりあの部屋のどこかに隠れてたんスね? いやぁ~気が付かなかったなぁ~~」  反対側からも張りのある声が聞こえ、自分を担いでいる2人が声調から楓と春奈である事が分かる。  騙してやり過ごしたハズの2人なのに……と、琉姫は唇をグッと噛んで悔しい気持ちを噛み殺す。  「まぁ、何処に居たのかまでは分からなかったけど……あの部屋の中に居た事だけは確信してましたのよ?」 「そうそう! あの部屋と先輩の部屋には振動センサーが仕掛けられていますもんね? 誰かが入ったらすぐ分かるやつッス♪」 「フフ……。だから私達は敢えて情報だけを与えてあの部屋を去ってあげたの。別にその場で探し回ってもよかったのだけど……ほら、貴女ってば警察官でしょ? 暴れられたら敵わないかもしれないじゃない♥」 「だから眠らせてやったッス♥ 特製のガスで♪」 「まだ身体が痺れて何も出来ないでしょう? このまま“合宿場”まで運んで差し上げますから、もう少し我慢して下さいましね?」 「エヘヘ、楽しみですね♪ 琉姫さんは我慢強そうだから何日も耐えられるかもですよ?」 「あら、そうかしら? 案外こういうツンツンした美人さんは責められる事に弱かったりするのよ? コロッと私達の仲間になる可能性だってありますわ♥」 「えぇ~~! 私は頑張ってくれた方が萌えるっスよ? こう……心が少しずつ折られていくみたいなヤツ、大好きッス」 「フフフ……全く、春奈は相変わらずドSさんね♥ そういう所……嫌いじゃないですわよ♥」 「それって褒めてますぅ? なんか変態扱いされたような気がするっスよ?」 「気のせい~♥ 気のせい~~♥」 「むぅ……」  筋力が戻らず抵抗できない事を良い事に2人の会話は戯言を言い合う余裕すらある。捕まってしまった琉姫はその会話に唇を強く噛んで悔しがることしか出来ない。   「はい、そんな事話してたら……もう着~いた♥ ココが琉姫ちゃんの合宿部屋になる場所よ♥」   この部屋が……と言われても目隠しをされている琉姫には何も見えない。ただ、重々しい扉が開いた音と部屋の中からであろうヒヤリとした風がスッと身体を突き抜けた感触だけは味わえ、自分の目の前には部屋が広がっているのだろうと言う想像だけが掻き立てられる。 「それじゃあ、ちょっと準備するから大人しく従ってちょうだいね?」 「暴れちゃダメっすよ? まぁ、暴れられないでしょうけど……」  楓の言う“準備”は部屋に入るなりすぐに行われた。  琉姫には見えていないが、部屋の真ん中に用意された1段高いステージの中央に大黒柱のように立っている金属製の柱……。直径はさほど大きくなく琉姫の身体の3割ほどの太さの光沢ある黒い柱に琉姫は背中を付けられ寄りかけて座らされる。  背中をピタリと柱に密着させた状態で今度は両手を上げさせられ万歳の格好を強いられていく。  手をしっかりと伸ばして上げさせられると柱の裏側には2つの金属製の枷が備え付けられており、左右それぞれの手首にそれがはめられていく。しっかりと鍵まで付けられると手はその位置で固定され、それ以上降ろせなくなる。つまりは万歳の格好から腕を下げられなくなってしまったのである。 「はぁい、今度はちょっと辛いかもしれないけど……膝を地面につけて膝立の格好になって貰うわね♥」  楓がそのように申し出ると、琉姫の返事を聞く事無く言葉通りの格好を彼女に強いた。  床に膝から下を付けさせ脚を少し開かせた状態で柱の裏に伸ばさせ、少し段差のある床に足首を運ぶとその場所で裸足履きしていたブーツを両方とも脱がし設置されていた革枷に足首を通して両足共にそれぞれ拘束した。  皮肉にも……警察に「武器を捨てて手を頭の後ろに回して屈め!」と脅されてするような格好をステージの上で琉姫は取らされている。  手は無抵抗に万歳の格好で拘束され……下半身は膝立の姿……。脚は下着が見えるか見えないか程度開かされ、足首はステージの端の枷に拘束。ブーツを脱がされた哀れな素足は足裏が隠せないようステージの段差からはみ出したような格好となってしまっている。  屈辱的な姿勢での拘束。自分の姿は見えないが感覚で分かる。まるで悪い事をしたのは自分の方であると示しているかのような拘束を強いられているのは間違いない! 通常なら立場が逆のハズなのに。自分の方が彼女達を床に膝まづかせなくてはならないハズなのに……。言葉さえも発せない程痺れ切っている身体に怒りと共に無念さが込み上げてくる。せめて身体が言う事を聞いてくれていればこのような格好をさせられずに済んだというのに……。  悔やんでも悔やみきれない琉姫はやはり唇を噛んで声にならない唸り声を上げる事しか出来ない。  どんなに悔しくても……拘束され終わった今例え身体の痺れが取れてしまっても彼女に抵抗する術はもう残ってはいない。  そして、タイミングが悪いのかそれとも運が悪いだけなのか、拘束が終わった途端に身体の感覚が徐々に戻ってき始めたのだ。  もう少し早ければよかったのに……。琉姫の憤りは怒りと屈辱感と共に募る一方であった。 「さて……そろそろ身体の痺れも無くなってきた頃でしょ? それじゃあ、折角だから目隠しを外してあげるわね♥」  身体の薬効が薄まってきたのを完璧に見抜いた楓は、唸り声を上げる琉姫の耳元に手を寄せサッとアイマスクを取っ払っていった。  視界が開けた瞬間、カッと明るい2つのスポットライトの光が琉姫を襲い、視界の自由を得たにもかかわらず思わず目を閉じてしまった琉姫。  一瞬見えた部屋の様子は彼女の想像通り石壁に囲まれた無駄な置物の無いシンプルな作りの小部屋という感想だった。  瞼の裏には楓がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、そのすぐ後ろには両手を頭の上で組んで楓の行動を暇そうに見ている春奈の姿が白黒写真のように焼き付いている。  ステージ以外の外側は薄暗い陰鬱な地下牢の様な雰囲気の小部屋。そこには楓と春奈と琉姫しか居ない。  明るさに少しずつ慣れ、改めて自分の格好を顔が動かせる範囲でだけ確認する琉姫だったが、彼女が想像した“レースクイーンの衣装を着せられている”という想像は見事に的を射ており、スーツ姿から自分が面接時に着ていったあの格好にわざわざ着替えさせられているという事実が確認できた。 「どうですの? 普段捕まえる立場であるはずの貴女でしょうけど、逆に捕まっているっていう立場っていうのも新鮮で良いでしょう?」 「フン! 中々面白い趣向ね……。気に入ったわ……」 「そう言っていただければ幸いですわ♥ これからの“辛い訓練”に少しでも耐えて貰わなくちゃなりませんし……」 「訓練? 何を言っているかよく分からないわね。どうせ言葉に格好つけて痛めつけるだけでしょうに……」 「フフ……ご想像にお任せしますわ♥ でも……たっぷりイジメてあげるから、せいぜい頑張って耐えきって見せてね?」 「そう言えば私の事……警察の関係者って知った風な口ぶりだけど……誰が私の事を売ったのかしら?」 「それはいずれ分かるわ♥ 後で会わせてあげる。彼女もココに来ているんだから……」 「彼女? 女? ココに来ている? ここは……何処なの?」 「ウフフ♥ ここはね、レースクイーン専用の合宿場。訓練場って言ってもいいですわね……」 「訓練場? こんな拷問部屋みたいな場所が?」 「そう……。レースクイーンになるにあたってとっても大事な事を訓練する場所……」 「とっても大事な事を訓練? どう見てもこれは訓練なんて生易しい雰囲気じゃないじゃない! こんなに拘束して……」 「レースクイーンにとって……いえ、女性にとって大事な事……それは“笑顔”だと思いませんこと?」 「え……がお? 何よ、突然……」  「女性の愛らしさや可憐さは笑顔に彩られてこそ価値を増すと思いますの。だからこの訓練所ではその笑顔をいついかなる時でも見せられるように訓練しておりますわ♥」 「笑顔の訓練? フン、馬鹿らしい! こんなガチガチに拘束して笑顔もへったくれもないでしょうが!」 「まぁ、怖い! そんな顔……絶対に営業の時にしちゃダメよ♥」 「くっ、馬鹿にして! もう分かっているんでしょ? 私の目的くらいっ!」 「分かっているわ♥」 「だったら、レースクイーンの仕事なんてするわけがないって……分かっているんでしょ! 茶番が過ぎるわ、全く!」 「いいえ、貴女には必ず私達の仲間になって貰いますの♥ 仕事だってやって貰うわよ? 必ず……ね♥」  「仕事って……薬物を売り捌くとか……かしら?」 「あらあら、薬物ってコレの事かしら? このラフスタシィの……こ・と?」 「うくっ!? その黄色い薬液の入った……注射器……。私に……それを打つ気? 無理やりに……」 「アハハハ♥ 無理やり打つ? まさかぁ~~♥ 私はこの薬が欲しいと言われるまで与えてあげるつもりはございませんのよ?」 「う、嘘よ! 私を薬漬けにして無理やり仲間に引き込もうと考えているんでしょ? 無駄よ! 絶対に意思は曲げないんだから!!」 「ううん、今言いましたでしょ? このお薬は貴女が欲しいって言うまで使ってあげないって……」 「私が……“使って”なんて言うと思う?」 「言うと思いますわよ? これから……」 「何を馬鹿な! 私がそんな事を言う訳が……」 「いいえ、断言いたしますわ。貴女は必ずこのクスリを最後には縋る様に欲しがりますの。 苦しさに耐えかねて……ね♥」 「苦しさに? って、一体どういう意味よ!」 「今から貴女を、立派なレースクイーンとしてやっていけるように“笑顔”の訓練を施してあげようと思いますの……」 「笑顔の訓練? 大きなお世話よ! そんな回りくどい言い方しなくて良いから、さっさと煮るなり約なり拷問するなり尋問するなりしたらいいじゃない! 耐えきって見せるわ……絶対に!!」 「煮るなり焼くなりって……そんな野蛮な事はしないわよぉ~♥ それに、私はちゃんと貴女を仲間に招き入れたいと思っていますの♥ 少し苦しい思いはするだろうけれど終わってみればコレを受けてよかったって思えてくれるハズよ?」 「馬鹿馬鹿しい……。私を仲間にしたいって言うならまずは警察に自首してから土下座なさい! そしたらメル友くらいにはなってあげてもいいわよ?」 「えぇ? でも私ってば貴女のメアド……もう知っちゃってるしなぁ~~。いつでもメル友にはなれると思いますの……まぁ、一方的にかもだけどね♥」 「くっ!! ふざけたことを……」 「はぁい! そんなに眉間にしわ寄せちゃ、だぁ~~め! 女の子はいつでもスマイルが大事だって……言ったでしょ?」 「何がスマイルよ! 馬鹿にしないで!!」 「馬鹿になんてしてないわ……本当に大事だから忠告してあげているのよ?」 「忠告……??」 「今自分の意思で笑顔を作っておかないと……今後一生自分で笑顔が作れなくなるかもしれないし……」 「はぁ? 何を言っているの?」 「今から私達が行うコトは、貴女の意思とは無関係にとある感情を出させ続ける事が出来る行為ですの♥」 「とある感情? 出させ続ける??」 「今なら自分の意思で“それ”を行えるでしょ? だから、ほら……今のうちにしっかり覚えておいた方が良いですわよ?」 「だ、だから! 何を言っているのよ! それって何よ!」 「この訓練が終わるころ……果たして貴女は自分の意思でその表情を作れるのかしら?」 「表……情?」 「ずっと無理やりだから……今自分がどんな感情でその表情を作っているのか……分からなくなると思うなぁ♥」 「感情? 表情? 無理やり??」 「だから……今のうちに自分の意思で作っておきなさいまし♥」 「は、はぁ?? だから……何を……?」 「さっきから言っているでしょう?」 「“笑顔”を……よ♥」


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