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ハルカナ
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淫魔の狩り人達(前編):9

9:とある教会の地下施設 ――カツカツカツ……  大聖堂の地下霊安室へと続く長い石階段を2人の女性が蝋燭台を片手に降りていく。 「あの……司祭様? なぜ私を霊安室へ?」  蝋燭台を持たない女性は、黒い修道着とフードに身をくるんだ教会のシスターの格好をしていた。 「シスター・マリナ……貴女にこの地下を見せるのは初めてでありましたでしょう?」  一方彼女の前を歩く婦人はシスターの服とは真逆の白に統一されたローブを頭から被り、ブカブカの袖口から細い手先だけを出し、その手に蝋燭台を持ちながら階段をゆっくりと降りていた。 「は、はぁ……」  栗毛色のセミロングの髪を修道着のフードの中に収め、首元には銀色に光る十字架のネックレスだけを着飾った質素な姿のシスターとは違い、司祭と呼ばれた女性は白いローブの所々に教会のシンボルを模した金細工をあしらわれており、見た目にも位の高い品位ある衣装を身にまとっていた。 「この教会へ赴任したということは貴女には知っておいて貰わなくてはならない事実がこの地下にはあります……」  衣装は煌びやかで見た目にも派手さを見せるが、彼女の顔はフードを深く被せており表情を見ることは叶わない。  いや、フードを被っていても彼女の表情を読み解くことはできないだろう。  なぜなら、彼女は目を覆うように大きな布を巻いていたのだから。 「知らないといけない……事実が……ある……ですか?」  マリナはこの教会へ赴任し、彼女のその異様な姿を見た瞬間……なんとも形容し難い不安に襲われた。  地を這うような低く響く声……目隠しをしているにもかかわらず正確に自分の顔を見ているかのような立ち振る舞い……そして得体の知れない威圧感……。自分よりも位が高い存在であるため文句は言えないが、マリナは赴任したての段階でこの司祭に違和感を感じずにはいられなかった。  何か人間離れした……異様な存在であるかのような迫力を彼女には感じてしまっていた。 「この地下は確かに以前は死者の魂を安息させる場所として機能しておりました……」  霊安室にしては長すぎる階段……。こんなにも地下へと降りる霊安室が果たしてあるのだろうか?  尽きない疑問が次々と頭を巡り、司祭の異様さも相まってマリナは徐々に不安の色を強くさせ表情にも陰りを見せ始める。 「しかし……今は別の目的に使われております……」   司祭はまるで生気を感じさせない棒読み口調で言葉を紡ぎ、感情を言葉でも表に出さない。  言葉は丁寧であるはずなのに語調に抑揚がなく、まるで機械かなにかと喋っているようだ。  自分には話されているんではなく独り言を呟いているよう……マリナはそのような思いに捕らわれてしまう。 「別の目的って……なんです?」  聞いてはならない事のような気もするが、何か言葉を発さなくては気まずくもある……マリナはその気まずさには耐え切れず、恐る恐る司祭の背中に問いを被せた。  すると、司祭の足がピタリと止まる。同時にマリナもギクリと足を止めさせる。  司祭はしばらく無言で佇むと、急にクルリとマリナの方を向き直し、真っ赤な口紅を塗った口元だけをニヤリと上げ彼女への問いの返しを簡潔に行った。 「我らが主の……御心を知る場……と、だけ……答えておきましょうか……」  目が隠されているた事もあり口元がニヤリと笑みを浮かべると、薄暗さも手伝って一層の不気味さを見せる司祭。マリナはその言い知れぬ不気味さに言葉が出せずゴクリと息を呑むことしかできない。  そして、ゆっくりと踵を返してまた階段を下り始める司祭にマリナは慌てて歩を合わせ追従するように階段を下りる。  永遠に降りるのかとも思われた階段も、そのすぐ後に終点である霊安室の扉が見え始めマリナはホッと息をつく。  しかしその霊安室の扉……それは、霊を安息させる為の部屋の扉としてはあまりにも異質で……厳かな雰囲気を持つ教会とは思えない禍々しいデザインが施されていた。  無駄に背の高い観音開きの真っ赤な扉は淵に沿って刺々しい角のような装飾がなされており、扉を開く為の取っ手も螺旋状に蛇が絡まって固まったかのような悪趣味なデザインでとても神聖なる場所へと続く扉とは思えない。 「さぁ……シスター? 一緒に中へ入りましょう……」  掴むことも憚られる取っ手をなんの躊躇もせず掴んだ司祭は怯えるマリナの方を向き返り反対の手で彼女の手を掴み、中へ入ることを促していく。  シスターは足を震わせ首を横に振り無言でその扉の中へと入るのを拒んだ。  しかし司祭の手は彼女の手首を掴んで離さない。ヒヤリとした体温を感じないその手……  人間味を一切感じないその手に掴まれたマリナは思わず「ひっっ!!」と悲鳴を上げてしまう。 「怖がらなくても大丈夫です……。すぐに貴女も……主の意向を気にいるはずです……」  扉がガコンと音を立て僅かに開いていく。開いた瞬間、中の空気が漏れ出すかのように煙がドアの隙間から立ち込め、そしてその場に似つかわしくない女性達の声が煙と共に漏れ出してくる。 「あ……えっ? わ、笑い……声??」  聞き覚えのない女性の声は始め悲鳴かと思うくらいの悲痛な叫び声だったが、よくよくその声を脳内で咀嚼していくと彼女たちの声は実は“笑っている”という事に気づく。  その笑い声は、楽しそうに笑っているというよりもむしろ……必死に笑っていると言えなくもない程切羽詰った声に聞こえた。  こんな薄暗い部屋の中に響かせるだけの女性たちの笑い声……禍々しい扉のイメージとはかけ離れたその鋭さのある笑いに、シスターは困惑の色を隠せない。 「丁度、今……実験を再開しているところですね……」  司祭は静かに呟くと、音も立てずにスーっと霊体が移動するかのように扉の中へと入っていく。マリナは中から響いてくる余裕のない笑い声に不安と困惑を交互に入り交わらせるが、一人置いていかれるのも気味が悪いと慌てて司祭の後を追って部屋の中へとは入る。扉は二人が部屋の中へと入ったのを確認したかのようにひとりでに閉まっていき、部屋の中の音や声を外へと漏らさぬよう再び密閉してしまう。  マリナは扉が閉まったことなど気にも止めず司祭の影を手探りで追っていった。  部屋は霊安室を目的に作られたにしてはだだっ広く、奥行もかなりの広さがあり部屋に入っただけでは奥の壁まで見通すことすらもできない。  しかししばらく部屋の中を進んでいくとやがて中央の区画に明かりが灯っている場所があり、そこだけが暗闇の中でボンヤリと浮かび上がるように見え始める。  やがてその部屋の中央がはっきりと目で確認できる場所まで歩みを進めると、女性達の笑い声がなぜ響いてきているのかという問いに対する答えがシスターへもたらされる。 「……な、なんですか!! これはっっ!!」  明かりと闇の境目の部分で立ち止まった司祭の背中にマリナの怒声に近い声がぶつけられる。  彼女が見た光景……それは、神聖なる儀式や聖徒が行うべき修行などとは掛け離れ過ぎた……異様な光景だった。  部屋の中央に建てられた10数本の丸い石製の柱。 その柱に一人ずつ女性が裸に剥かれて拘束されている。  ある者は柱のかなり上の方に埋め込まれている枷に手を、柱の下にある枷に足を拘束されIの次になるよう身動きを取れない状態にさせられ…… ある者は、柱に抱きつ様な格好を強いられ柱の裏側で手足を拘束されこちらも身動きを封じられている。 そしてまたある者は柱の根元部分に座らされ手はバンザイの格好で拘束され、足は前に投げ出すように伸ばされ地面に埋め込まれた枷に両足を拘束されて自由を奪われている。 一瞬見ただけの感想は“拷問”や“尋問”……または“処刑”を行うための拘束処置にも見えるこの光景……しかし、拘束された女性達はみな一様に“笑い”の感情を爆発させている。 なぜ拘束されているのに彼女達は笑っているのか? シスターの疑問は柱の様子が見える位置まで移動して始めて解がもたらされる。 「えっ? か、彼女達はなぜ……? なぜこんな事を強いられているんです?」  何をされて笑っているのか……それは見た瞬間に理解は出来た。しかし社会の常識内で生きてきたマリナには彼女達がなぜ“それ”に晒されているのが理解できない。  裸に剥かれて恥ずかしさを存分に感じることが出来るであろう年頃の娘達……そんな彼女たちが髪を、頭を、身体を、振り乱しながら場にそぐわない笑いを吐き出している現況……それは柱や地面から不自然に生えた植物の蔦……まるで人間の手のように先端が5つに枝分かれした茶色の触手。それらが女性達の不自由にされた体中をまさぐって回っているのだ。  裸に剥かれた腰回りを……万歳を強要され無防備にさらされているワキを……更には腹も脇腹も背中も首筋も……とにかく“くすぐったい”と感じてしまう箇所を埋め尽くすように複数の小さな触手がまとわりつき、それぞれが指先を動かして体全身を同時にくすぐっている。  見た目にもおぞましいその光景にマリナはブルリと寒気を背筋に感じ、腕を胸下で交差させ自分の身を守るような体勢を取る。  笑っているのだから楽しげな光景が広がっているのでは? と僅かに期待はしたのだが、シスターの想像とは真逆で凄惨な現場を目の当たりにすることとなった。  女性達は笑っているのではなかった……。笑わされているのだ……。蔦の触手によって……無理矢理に。 「一体……どういうことですか! 彼女達は何か重大な罪を犯したんですか? こんな辱しめを受けるほどの何かを……」  現状は理解できないが、神聖なるこの教会で行われているこの行為にはきっと切実な理由があるのだろうと、蝋燭台を持って動こうとしない司祭の隣に駆け寄って疑念をぶつける。  しかし、その疑念の答えを得る前にマリナは「ひっ!」と小さな悲鳴を出して1歩後ずさってしまう。  少女たちが責め苦に悶えている姿を見て……司祭は精一杯の笑みを浮かべていたのだ。青白い頬にピンク色の血色を滲ませて……。 「我らが主は望まれました……。彼女たちの笑顔を供物にせよと……」  笑みを浮かべたまま司祭はマリナの方を見ようともせず低い声で彼女への問いに答えていく。 「笑顔そのものが供物ではございません……。笑いとともに発される体液……それこそが主の求めておられる供物……」  体液という言葉にギクリと表情を固めてしまうマリナ……。そして柱の面している地面に視線を移すと、その言葉を裏付ける仕掛けがなされていることに気づく。  地面に空いた小さな穴……その小さな穴に彼女たちのかいた汗や垂れ落ちた涎、笑いすぎて溢れ出した涙などが吸い込まれ別の場所へと送られているのが見て取れた。  そう、この場所で集めているのだ……彼女たちを笑わせて無理やり溢れ出させた体液を……。 「これは……何かの刑罰とかでは……ないのですか?」  このような光景に嫌悪感しか抱けない潔癖な性格のマリナは、恐る恐る彼女たちの処遇に対する正当性が何らかの刑罰であってほしいと願い再び言葉を司祭にぶつける。  しかし司祭の言葉を待たずして彼女の口の表情だけでそういう正当性がないままに彼女たちが嬲られているのだと悟らされる。  司祭の口の表情はこの光景を明らかに楽しんでいる。ただ単純に楽しんでいるというだけではなく……もっと別の次元……悦んでいるとさえ思えてしまう。 「見てくださいシスター・マリナ。彼女達は笑いたくもないのに笑っているでしょう?」 「は……はい……」 「とっても不思議だとは思いませんか? 楽しくないのに……笑うという行為を繰り返す姿を見るのは……」 「だ、だって……それは! 彼女たち……蔦に……くすぐられているから……当然で……」 「人は……なぜ笑うのでしょうね?」 「……えっ?」 「怒りの感情や悲しみの感情は分かり易いと思いませんか? 苛立つから怒るし何かを喪失するから悲しい……いかなる場合にも原因が存在します……」 「は、はぁ……」 「でも笑いに関しては不思議でなりません。だって怒っていても笑う人もいますし……悲しくても無理して笑う人もいます」 「…………」 「それに……今彼女たちは苦しそうに笑っているでしょう?」 「え、えぇ……」 「という事は……苦しくても笑えるんです。人間はどんな状況でも笑う事ができる……それは素晴らしい神からの贈りものだとは思いませんか?」 「ちょ、ちょっと待ってください! 彼女たちは別に笑いたくて笑っているわけじゃ……」 「そう。それも趣深い話だとは思いませんか?」 「えっ? えっっ??」 「可笑しくないのに身体を少し刺激されただけで笑いの感情を引き出してしまう……それは彼女たちがコントロールできる感情ではなく外部の刺激によって引き起こされる……反射のような感情でしょう?」 「……え?? は、はぁ……まぁ……」 「怒りの感情は怒る原因がなければ発生しません。悲しみも……楽しく幸せに過ごしている最中に悲しくなることはありません。不安にも原因があってこそ不安の感情が現れます……。でも笑いは違う。彼女たちのように“笑いたくない”と切に願っているのに笑ってしまう……。原因が喜ばしい事とは逆なハズなのに……苦しい事のはずなのにゲラゲラ笑ってしまう。楽しそうに……」 「……うぅ……」 「不思議だとは思いませんか? 人の“笑う”という行為は……」 「…………」  目の前のおぞましい光景と司祭の地面を這うように駆け上ってくる低い声……。マリナはまるで蛇に睨まれた蛙のごとく体を動かせなくなった。  彼女の疑問の意味がよく分からない。自分はなぜ彼女たちがこのような責め苦にあっているのかという疑問をぶつけたはずなのに……その答えは得られず逆に司祭の持つ疑問をぶつけられる始末……。  それにどう答えていいのか分からない。そもそも口を挟んでいいのかどうかも分からない……そういう迫力が彼女の口調からは滲み出ている。 「ミゼル司祭……だからそれは前から言っていますでしょう? 『笑い』というのはそれ自体が“感情”ではなくて“反応の結果”なんですって……」  固まりつつあったマリナに代わって暗い部屋の隅から別の女性の声が届けられる。  司祭たちの到着を待っていたかのように木製の椅子を傾けてくつろいでいた彼女は椅子をガタンと音立てて立ち上がり、彼女たちが視認できる影の境界線まで歩み出る。 「あ、貴女は……??」  腰まで届く長く美しい銀色の艶髪をさらりと手で分け前髪が目にかかるのを直しながら歩み出たその女性は、おっとりした笑顔を浮かべシスターに向けて軽く会釈をする。美人な女性に会釈されればこちらも返さなくては失礼に当たるとつられるように会釈を返すマリナだが、教会ではあまり目にすることのない白衣を着ている彼女に不信と不安を募らせ思わずその女性の正体を本人に尋ねる。 「初めまして……シスター。私はメリッサですわ♥ ココの研究所長的な事をさせていただいてますの♪」  目を開かず狐のような笑顔を見せながら明るく自分の名を口から出したメリッサと名乗る女性は、同年代の女性が部屋を訪れたのが嬉しかったのかシスターのもとへ駆け寄り、胸の前で手を組んで緊張していた彼女の手を包み込むように握ってあげた。 「あ、あ、あの……め、メリッサさん? わ、私は……」 「聞き及んでおりますわ♥ 貴女の名前はシスター・マリナ。今日が赴任初日なのでしょう? 慣れないことばかりでお疲れではなくて? よかったら一緒にお茶でも飲みながらお話でもしましょう! ほら、こちらへ♪」  掴んだ手をそのまま引き手に変えシスターを司祭の前から誘導しようとするメリッサ。しかし、マリナは目の前で行われている凄惨な光景に耐え切れず、彼女の引き手に抵抗を示し誘導しようとしていた足を止めさせる。 「ま、待ってください! アレはなんですか? なんで彼女たちはあんな酷いことをされているのです? それと、ココは何をするための部屋なんです? 霊安室ではなかったのですか??」  未だ、理解が追いつかない状況のマリナには他に口から出なかった疑問も数多くあるのだが……それよりも何よりも、今一番知りたいと思っている……否、知らなくてはならないと思っているこの疑問を解決しないとほかのどんな質問をぶつけても意味がない気がした。だから簡潔に2つ……ココが何をするところで、彼女たちはなぜあんな境遇に置かれているのかという質問を優先させた。 「フフ♥ 知らないということは……ミゼル司祭は何も教えてくれなかったのですわね? ココの事を……」  マリナに背を向けながらメリッサは声のトーンを落としながら握っていた彼女の手をゆっくりと離していく。 「ココはね……私の新しいラボ(研究所)であり、秘薬の精製所でもありますの♥」 「ら、ラボ?? 秘薬の精製室?? えっ?? な、何を言って……ココは教会のはずじゃ……」 「不老不死の秘薬……。それを作り出すことが私の目的であり、ラフェリア様の目的でもあるんですの」 「ら、ラフェリア……様?? 不老不死の秘薬?? え? えぇ??」 「彼女たちはその実験体であり素材ですわ♥ 秘薬に必要な体液を絞りつつ私が調合した秘薬が本当に不老不死の効果を生んでいるのか……それを生身の人間に試して差し上げていますの♥」 「素材? 体液を絞っている?? それに…実験……体? 効果を……試しているって??」 「そう。彼女たちは死ぬまで……あの触手達にくすぐられ続けますの♥ 薬が成功していれば延々と笑い狂い続けますし、成功していなければ2~3日で窒息するか衰弱死してしまいますわ♥」 「窒息……? 衰弱死??」 「ラフェリア様は今も秘薬の素材となる“エルフの体液”を搾取していらっしゃいますわ♥ そしてココでは純潔を守っている少女達から神聖な体液を搾取してますの♥」 「エルフの……体液? 純潔を守った少女??」 「男と交わっていない純粋な彼女達の体液はそれだけで様々な秘薬の基礎薬液として十分な効果を発揮しますわ。そしてエルフの体液は不老不死を実現するための重要な素材……。どちらも必要不可欠でどちらが欠けても秘薬は完成しない……」 「教会の地下でそんな怪しげな実験をしていたというのですか! この神聖な場でっっ!!」 「不老不死……それは神をも冒涜しかねない禁忌の研究。それを神のお膝元で行うなんて洒落が利いてて面白いとは思いませんか?」 「お、面白い? そんな不道徳な行為のどこが面白いとっっ!!」 「ラフェリア様はこの不老不死の秘薬を完成させて、永久機関を作りたいと仰っていましたわ♥」 「永久……機関??」 「永遠に死なない人間をひたすらくすぐり続けて……絞った体液でくすぐる触手に餌を与えてくすぐり続けて……それを延々とやってみたいんですって……」 「永遠に……くすぐり続ける?」 「彼女たち淫魔は人間の体液が主食らしいのですわ……でもラフェリア様は変わっていて、普通の性行為じゃまともに食事が出来ないとのことですの♥ こんな風に人を無理やり笑わせていないと興奮できないそうですわ……でも人間は脆いからこんなハードな食事を強いればすぐに死んでしまうんですって。だから、それを延々と続けられる永久機関が欲しいと仰っていましたの♥」 「淫魔って……まさかサキュバスの事……ですよね……? だったらなぜ! 貴女達は魔物なんかに手を貸しているのですか!」 「私は秘薬研究者としてその理想に共感を得ただけですわ♥ 不老不死の秘薬を作れると考えただけで……ゾクゾクするじゃありませんか♥ そんな恐ろしいモノを私の手で作れるなんて……」 「そ、そんな馬鹿げた目的の為に……人を無理やり実験体に? それは……許されることでは……ありません!」 「無理やり? いいえ、彼女たちにはちゃんと実験の内容を伝えて了承も得ていますわよ?」 「う、嘘です!! あんなに苦しんでいるのにっ!! あんなに辛そうにしているのに、自分から了承するなんて……」 「嘘じゃありませんわ。ちゃんと伝えましたわよ? 不老不死の実験をするから被験者を募集しますって……。実験内容は“ただ、くすぐられるだけ”と内容まで明記しましたの♥ 報酬だって出しますのよ? 実験が成功して生き残ることができれば……ですけどね♪」 「そんな書き方では……安易に捉える方も居たはずです!」 「でも、ちゃんと文言の通りの事しかしていないはずですわ♥」 「拘束することや死ぬまでやる事までは書いていなかったでしょう!」 「そうですわね……その部分はココで告げさせてもらいましたけど……彼女たちは喜んで了承してくださいましたのよ?」 「う、嘘です! 死ぬかもしれないと分かっていて協力なんてするはずが……」 「いいえ、嘘なんかじゃありませんわ♥ ね? ミゼル司祭?」   メリッサの鬼畜な所業に言葉の熱を上げて反論していたマリナだったが、話に夢中になるうちに彼女がいつの間にか自分の目の前から消えていたことに気付かなかった。  メリッサの名指しにその存在を思い出し、慌てて振り返るが先程まで確かにいたはずの彼女はそこにもおらず……暗い闇だけが背後には広がっていた。 「シスター・マリナ……」  その暗い闇の奥から、低く重い声が響き渡る。 「我らが主は……仰られます……。この光を……追いなさい……と……」  声のする方からポッと蝋燭の明かりのような光だけが浮かび上がり、そのオレンジ色の光が左右にゆらゆらと揺れ始める。マリナはその淡い光に目を奪われ、ミゼルの言葉通りにその光の動きを目で追ってしまう。 「我らが主は仰られます。この光は貴女を導く光であると……」  光が大きく左右に動くたびにマリナの意識は薄くなり感覚が徐々に鈍くなり始めるのを感じる。やがてその光は瞼の裏にまで焼きついて見え、目を閉じてもその光が脳裏に映し出される。 「我らが主は仰られます……。貴女の純潔を捧げなさい……と」  光の緩やかな動きと地を響かせるような低いミゼルの声……。マリナはその声に誘導され思わず“はい”と答えてしまう。 「シスター・マリナ。この光こそが主の魂です……この光が導いてくれます。貴女を新しい世界へ……」  急激な眠気が襲いマリナは意識を失いかけるが、その光を目で追う動作がやめられない。薄ぼんやりした光と脳に直接届けられる静かな声……そして包まれるような暖かさ……。マリナは先程までの怒りや不安などの負の感情が消え去り、小春日和の花畑を歩いているような心地よさを味わう。 「では、シスター? 貴女の最初の仕事は……何をしたらいいか……もう……分かりますね?」  夢見心地のシスターはその促しにコクリと頭を縦に振り、そしてゆっくりと自分の召していた修道着を脱いでいく。  何かに誘導されるかのように……何かに操られるかのように……。全ての纏っていた衣を脱ぎ、神聖なる裸体をミゼル司祭の前に差し出す。 「貴女の純潔は我が主のもの。さぁ……シスター・マリナ。あの柱の前で純潔を捧ぐ体位を示しなさい……」  マリナは促しの通りに歩き始め1本の柱の前に立つ。  そして自身の裸体を隠そうとはせずに柱を背にしながら向きを変え、ゆっくりと両手を頭上高くに掲げて無抵抗のポーズを取り始める。 「そう。貴女の純潔はこれから笑いと共に主へ捧げられます……それは大変光栄な行為なのです……喜びましょう……主へと捧げられることを喜びましょう!」  柱の横に空いた穴からは次々に緑色の蔦が這い出してくる。  その蔦は自ら裸で万歳の格好を取っているマリナの手や足に絡みつき、身動きを封じていく……。  徐々に自由を奪われていく身体に、不安の色など全く示さずシスターは喜びの笑みを浮かべる。  ミゼル司祭の言葉通りに……。満面の笑みを……。


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