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淫魔の狩り人達【後編】♯24

24:深淵へ封印されし愛 「あぁ……マドレアか……。どうだ? 不老不死の霊薬は……完成したのか?」  地下の崩落が始まった頃……マドレアは自身を地下深くへと飛ばし、再びマルカスのもとに姿を現していた。 「はい。こちらに……」  彼女はマルカスの上半身をベッドから起こすと、包帯だらけの手に小瓶を1つ手渡した。 「そうか……ついに完成したのか! ついに……俺の悲願が叶うのかっ!」  興奮に声を上げ勢いでむせてしまった彼は、咳を零すとともに赤い鮮血も同時に吐き出してしまう。 「危なかったな……もう2日も遅れていれば……いよいよ俺もやばかったぜ……」  小瓶の蓋を開け……中の薬液をグっと飲み干したマルカスは、苦かった薬液に顔を歪めクックックと笑いをこぼす。 「てっきり……俺の事なんて見限って……ラフェリアの側につくと思ってたが……そうはならなかったんだな?」   「それは当然です……私の心は……マルカス様のもの……。それは操られていても、変わることはありませんでした……」 「そうか……俺は愛されているんだな……。お前の村にも……あんなに酷い事をしでかしてやったってのによ……」 「私は貴方の愛だけを導(しるべ)として付き従ってまいりました……その想いは奈落よりも深く……宇宙よりも広いと自負しております……」 「ハハ……重い愛だな……。俺は別にどんな女が隣にいてくれても問題はないんだぜ? お前でなくても……な……」 「えぇ……存じております。しかし、私を抱く時の貴方には……愛を感じずにはいられませんでした……。どんなにその手を残酷非道な行いで汚していても……私を愛撫する貴方の手は清純そのものでした……」 「やめろ……そんなむず痒くなるような事……言ってんじゃねぇよ……」 「私はそれでいいのです……それでだけを理解していれば……」 「そうか……まぁ、従ってくれるのは嬉しい限りさ……」 「これまでも……これからも……私は貴方のものです……マルカス様……」 「あぁ……。ところで……、この地鳴りのような揺れは一体何だ? だんだん酷くなってきているが……」 「恐らく……ラフェリア様が“負けた”のでしょう。私の娘たちに……」 「あの淫魔が……負けた? そんなことが……あるのか? てっきり……奴は不死身の存在だと思っていたんだが……」 「意識体だけを転生した彼女は、恐らく不老不死の霊薬が完成した事を機に肉体も転生させ受肉させようとしたのでしょう……しかし、その霊薬は未完成であるはずです……」 「未完成?? お、お前……さっき完成したと……」 「この霊薬はアイネから搾取した体液から生み出した霊薬……私と貴方の間に出来た子供から作り上げた薬なのですから、効果はわかりますね?」 「おい! アイネの体液じゃ……効果は得られないはずだぞ! 不老不死になんて……なれない……」 「そう。ラフェリアはそれを知らずに飲み……恐らく……受肉に失敗し……悪足掻きで最後の抵抗を試みたのでしょう……」 「じゃ、じゃあ……俺が飲んだコレは……完成品じゃ……ないって事か?」 「私の中では完成品です。これこそが……我々が交わって産み育てた……愛の証……アイネの体液が入った至高の霊薬……」 「冗談じゃねぇぞ! それじゃあこの傷は完全に治らねぇじゃねえか!! 作り直せ! お前の娘のエリシアの方の体液で調合し直せ!!」 「それはもう……遅うございます……」 「な……に?」 「貴方には見えていませんでしょうが……地下の崩落は既に研究器具を破壊しこの最下層をすぐにも飲み込もうとしております」 「じゃ、じゃあ!! すぐに逃げないとっっ!! 外へ逃げないと……」 「いいえ、それは……もう出来ません」 「……はぁ? なんで??」 「エリシアに……私のマナはほとんどあげてしまいました……だから、もう……転移魔法を使うことは出来ません……」 「何を言ってやがる! じゃあなんでココへ来た! 1度しか使えないって自覚してたんだろうが!! なぜこの部屋に転移してきたっ!!」 「貴方に……あの霊薬を飲んでいただきたかった……」 「はっ? あの未完成の……霊薬を……か?」 「えぇ……。そして私は……貴方様と一緒に……永遠になりたかった……」 「永遠……に?」 「そう……貴方様も望まれていたでしょう? 永遠の命を……」 「あ、あぁ……まぁ、そうだが……」 「私も同じように望みました。貴方様と……永遠に一緒になりたい……と……」 「永遠に……一緒に……?」 「このナイフで……私を貫いてください……」 「は? 何を言っているっっ!? ナイフって……どういう事だ? 殺せってことか?」 「いいえ……私はそのような傷では死ねません……ですが……貴方と永遠になる事は……出来ます……」 「死なない……? あ、あぁ……そうか……お前……琥珀化するつもりか?」 「はい。私は……貴方様と永遠になりたい……誰からも邪魔されない……奈落の底で……永遠に一緒に……」 「…………さっきの霊薬で……俺の傷も少しは治った……。お前を担いで走って逃げれば……この地下から抜け出せるかもしれないぜ?」 「いえ……それは望みません」 「なぜ?」 「我々は……多大な犠牲を……多数の者に与えてしまいました……。それは……命を差し出しても償いきれるものではありません……」 「………………………」 「もとより……償えるような罪ではないと思っております。この霊薬を作るのに要した犠牲は……あまりにも大きくて……重いものです……」 「………………」 「私一人の命では……償いきれません……。そして……情けない話ではありますが……一人で死ぬのは……怖くてなりません……」 「ハハ……お前から初めて聞くな……そのワガママ……」 「えぇ……私は良き母などではありませんでした……不満も、反抗もできない……ただ付き従うだけの女……。しかし、死ぬ前くらいは……ワガママの一つぐらい……出したいものなのです……」 「そのワガママを言う相手がよりによって俺か? もっと相手を選んで言えよ……」 「いえ……ワガママを言えるのは貴方様しかいません。娘達や……村の同胞……教会の神父にさえ漏らすことは憚られます……」 「そうか……。まぁ……それは……嫌いじゃない……」 「私の本質は……ワガママなのです。このような償いの方法しか……選べなかったのですから……」 「…………いいのか? このまま地下深くに落ちていけば……もう2度と地上には戻れまくなるぜ?」 「構いません……貴方と一緒ならば……」 「俺は……嫌だぜ? 2人してバカみたいにつっ立って琥珀の中に閉じ込められるのは……」 「………………」 「だから……俺はお前を抱いたまま……閉じ込められてやる……肌のぬくもりを……感じながら……な……」 「……はい。私も……そのようにしたいと思っておりました……」 「短い野望だったなぁ……不老不死の霊薬さえ作ればお前みたいに長生きできて……その時代時代のベッピンさんを抱きまくって暮らせると思っていたのによぉ」 「私では……物足りませんか?」 「足りなねぇなぁ……。足りねぇから……」 「もしも……奇跡的に掘り起こされて……琥珀化が解かれたとき……飽きるまでお前を抱くぞ? 日昼夜問わず……ずっと……」 「えぇ……楽しみにしております……」 「………………………」 「………………………」  天井が崩れ始め、部屋の床も揺れ……いよいよ本格的な崩落が起きようとしていた時……マドレアとマルカスは小部屋の中央に立ち、互いに手を腰に回して抱き合った。  目を覆うように被せていた包帯をとり、目を見つめ合ってお互いを眺め……そして静かに最後の口づけを交わす。  崩れ去る壁や天井の音など2人には聞こえない。  そしてマルカスは手に持ったナイフを静かにマドレアの背中に刺す。  その瞬間、マドレアの体がオレンジ色に光を放ち……やがてその光が結晶化したかのように琥珀を形成していく。  マドレアを抱いていたマルカスも同様に琥珀に包まれていく。  2人の身体は完全に琥珀に包まれ……ゆっくりと崩れ去る床と共に奈落へと落ちていく……。 やがて地下深くまで落下した琥珀は奇跡的に立ち姿のまま地面に突き刺さり…… そして落下してきた教会の様々なものに埋もれていく……。 奈落が教会の残骸に埋め尽くされる頃には、彼女達の琥珀はもう地中の奥深くに眠った。 どこにその琥珀が埋もれているのかは分からない。でも、彼女達の愛を祝福しているのか? それとも墓標としてその箇所を定めたものなのかはハッキリとはしないが、彼女達の埋もれた土壌のてっぺんには……くしくもアイネが磔にされた十字架の拘束台が突き刺さっていた。 まるで神聖な墓場であると主張するかのよう……一緒に償いたいと願ったマドレアの想いを汲み取ってくれたかのように……その十字架は堂々と標を立てていた……。 かつて……不老不死という神をも恐れぬ霊薬を作ろうとした……愚かな2人を清めんとするかのように……。


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