笑うPT研究クラブ活動日誌#3:⑭
Added 2020-09-02 10:58:21 +0000 UTC14:楔と終焉 「なんで……詩織を……ここに?」 突然の生徒会長の登場に驚きを隠せない様子の玲美さん。この作戦も聞かされていなかった私は当然彼女同様に新鮮な驚きを隠さず披露してしまう。 「生徒会長と貴女には先生方にも内緒にしている特別な秘密がお有りですよね?」 「なっ! なんでその事をっっ!?」 「別に私はそういう形の関係を否定するような考えは持っていませんし……そういうのも一つの形だろうと理解はしています……」 「ま、まさか……私達の関係を暴露するとか……言わないでしょうね?」 「いえいえ、そんな無粋な真似はしませんよ……。それにそんな事をしても恨みを買うだけで楔にもなんにもなりませんし……」 「じゃ、じゃあ……何? 詩織まで呼んで何をするつもりなの!」 「なぁ~に、難しい事は別にしませんよ……。ただ……生徒会長殿には貴女の身元引受人になって頂く……というだけの事です」 「身元引受人? 何よそれっ!? どういう意味?」 「そのままの意味ですよ。貴女を解放する代わりに今後は生徒会長に貴女の素行をチェックして頂いて……おかしな行動をとりそうになっていたら全力で阻止していただく……ただそれだけです」 「私が……詩織の……監視下に置かれる……という事?」 「そうですね……悪く言えばそうなりますかね……」 「それが……楔? それだけで……良いの?」 「そうです、それだけです。しかし、もし生徒会長が阻止できずに再び我々に危害が及んだら……」 「お、及んだら?」 「その時は生徒会長殿のあのテープを放送で全てぶちまけます」 「詩織の……テープ?」 「えぇ……。あのテープの中身を暴露されるという事は生徒会長殿にとって死活問題……だから会長は必死になって謀反を止めなくてはなりません……」 「えっ? でも、それは私への楔ではなくて……詩織の楔になるだけじゃ?」 「勿論、これは会長に一方的に不利になるような内容ですが……貴女方の関係を鑑みるに、貴女への楔としても十分に効果的だと判断しています」 「っッ!? た、確かに……私は……詩織を裏切るようなことだけは……しないけど……」 「貴女の裏切りは間違いなく詩織さんの破滅を招きます。一度裏切れば……貴女達の関係だってその場で破綻することになるでしょう……。それを望むような貴女ではありますまい?」 「な、なるほど……私への苦痛や圧力で大人しくさせるのではなく……詩織を人質に取って私の行動を抑え込もうってわけなのね?」 「人質だなんて大袈裟な……。あくまで保険に過ぎません。だって貴女はさっき言ってくれたじゃありませんか……我々にはもう手は出さないって……」 「……それは……間違いなく守るわよ……」 「でしたら、この条件もただの保険でしかないとご理解いただけるでしょう? おかしな気さえ起こさなければ普段通りの生活が送れますからね……」 「それが貴女達の言う“保証”ってやつなのね?」 「えぇ……。保証が出来て始めて……我々の戦いも終焉を迎えられます……」 「難儀なものね……人を信用しないっていう性格も……」 「慎重派だと褒めてくださいよ。そういう場合は……」 「ふんっ! いいわ、その条件を詩織が汲んでくれるなら……私はもう何も抵抗しない……」 「生徒会長殿には事前に了承を得て来ていただいていますから安心してください」 「……詩織…………」 玲美さんは申し訳なさそうな目で詩織さんを見上げ、詩織さんは拷問を受けた彼女を憐れむような目で彼女を見、そして静かに頷いて見せた。 「では、改めて詩織さんに向かって宣言をしてください。今後……この部に手を出さないことを……」 部長の促しに力なく頭を項垂れさせた玲美さんは、一度息を吐いて静かに敗北の宣言を行い始める。 「私……水科玲美は、今後一切……PT研に手を出さないと……誓うわ……」 詩織さんはその言葉を聞き静かに目を閉じてコクンと頷いて見せた。 「無論……貴女の部下やお友達にも手を出させないでくださいね? その場合も……」 「分かってる。ちゃんと言って聞かせておくわ……」 「では“我々”の戦いはこれにて閉幕といたします。つきましては我々はこの辺で下校させて頂きますので……」 「ん? えっ!? 下校っ!? な、何言ってんのよ! これ……外してから出なさいよ! ちゃんと言ったでしょ!」 「いえ、その枷の鍵はすでに我々が持ってはいませんでして……」 「鍵を持ってないってどういう事っ!? じゃあ私はどうすれば……」 「安心してください。鍵は生徒会長殿にしっかり渡してありますので」 「詩織に? な、なんで? 詩織に渡したのよ! 貴女達が外すんじゃないの?」 「いや~。実は、生徒会長に今回の事を了承していただくにあたって一つ条件を出されちゃいましてね……」 「は、はぁ?? 条件?」 「玲美さんの身元引受人になる代わりに、枷の鍵の譲渡と部室の完全下校時刻までの使用を許可しろって言われましてですね……」 「鍵と部室の使用許可?」 「ですから、すぐに出ていかなくちゃいけないんですよ~。ほら、お前達も! そういう事だから帰りの支度をしろ。すぐに下校するぞ……」 「ちょっ!? なんで? 待ってよ! これはそういう事? ねぇ、詩織っ! これは一体どういうことなのよ!」 「玲美? 貴女……勝手にこの部にちょっかい出して……勝手に私まで巻き込んでくれたわよね?」 「い、いや……それは……詩織の仕返しをしようと思っただけで……別に巻き込むつもりじゃ……」 「私の秘密が納められたテープを持ち帰ったんですって? 私に内緒で……」 「い、いや! アレはほら……偽物だったわけで……別に報告なんてしなくても良いかなぁって……」 「偽物だって気付かなかったじゃない……さっきまで……」 「そ、それは……その……うちにはあの古いタイプのテープを再生するカセットレコーダーが無かったし……」 「あったら……聞いてたんでしょ? 私に内緒で……」 「えっ!? も、もしかして……怒ってるの? 詩織……?」 「どうせ、私の秘密を知って“プレイの時に優位に立ちたい”とでも思っていたんでしょ?」 「ち、ち、違うわよ~! そ、そんな訳……ないじゃない……」 「ちゃんと私の目を見て言ってみなさい? ほら!」 「ご、誤解だってば……」 「貴女はいつだって私より立場を上にしたがるわよね? アレをする時もそう! 自分が攻めでなきゃ気が済まない……」 「ひっ! ちょっと詩織……なんで腰を落として手をワキワキさせているの? ねぇ!」 「いつだって私は“受け”ばかり……これでも、貴女を立ててやっていたのよ? 我慢して……」 「ま、ま、待って! あんた生徒会長でしょ! なに風紀を乱すようなこと言って――」 「今日こそは復讐してあげるわ……今回の失態も含めてね!」 「な、な、なにする気!? ねぇ、詩織っ! あんたまさか……」 「フフフ♥ せっかくこんな良い恰好になっているんですもの……やる事なんて言わなくても分かるでしょ?」 「ひっ!? 嘘でしょ!? 待って! お願い待ってっ!!」 「普段はあんたに一方的に身体を触らせてあげてるけど……今日は逆よ。思う存分触ってあげるから……覚悟なさい!」 「それじゃあ、生徒会長殿~あとは宜しくお願いしますね~~」 「んあっ!? あんた達っっ! ちょっと待ちなさい! 私を置いていかないでっっ!! ちょっとぉぉっっ!!」 「綺麗な足の裏ね……。今日は存分に可愛がってあげるから……玲美もたっぷり楽しみなさいね?」 「待って! 嫌ぁぁ! もう嫌なのっっ! 嫌ぁぁぁっっ!!」 玲美さんの断末魔にも似た最後の悲鳴を背中に受けながら私達PT研の面々は部室をあとにした。 扉を閉めるとそこからはもう彼女たちの声は聞こえてはこない…… 結局、玲美さんと詩織さんがどんな関係なのかという説明は部長の口から出てこなかったけど、物事を深く知りすぎても良い事なんてない……と自分に言い聞かせ私の方からはその話題に触れることはしなかった。 「でも、あの堅物な生徒会長を良く説得して連れてこれたわね? 正直……会長がまたうちの部に顔を出してくれるなんて思いもよらなかったわ……。一体どんな手を使って呼び出したわけ?」 学園の校門からそれぞれが帰路の道へとつき、帰宅方向が同じだった理子先輩が部長と別れてすぐ綾ちゃんに疑問をぶつける。 そういえば、今回の作戦を開始するにあたって部長は綾ちゃんに特別な指令を出していたのを思い出す。 その時は作戦の内容など教えてもらえていなかったわけだから、綾ちゃんに出された指令が何だったのか想像も出来なかったけど……全てが終わった今改めて考えてみると理子先輩が言う通り彼女への指令は“生徒会長を部室に連れてくること”であったと理解できる。 部長は“綾ちゃんにしかできない”と言った旨を零していたと思うけど、今思えば確かにそうだと思う。 前回あれだけ責め抜いた彼女がうちの部に抱く印象なんて良いはずがない……だったらどうやって彼女をここへ誘導できたのか……どうやって今回の身元引受人としての役割を了承させたのか……それはとても興味のある内容だ。 「えっ? 別に苦労したとかそういのは特になかったですよぉ~?」 きっと色んな手を尽くして呼んだのだろうなと勝手に妄想していた私と理子先輩は綾ちゃんのその一言に目を丸めて驚く。 「ただちょっと“交換条件”を出されたくらいで、他には何も……」 カラカラと転がるような笑顔を浮かべながら手をひらひらさせてそう答えた綾ちゃんは、少しだけ頬を赤く染め地面を見つめるように僅かに俯いた。 「交換条件って何よ? 何を要求されたの?」 丸くしていた目をいつものジト目に戻した理子先輩は、怪しむような口調で彼女の言葉を言及する。 「いえ、あの……お恥ずかしい限りですけど……その……」 言い辛そうに口をモゴモゴさせながら、照れ隠しをするようにチラリチラリと私達に目配せをする綾ちゃん。その姿は大変可愛らしく、同姓という事を忘れてしまえば今すぐにでも抱き締めたくなってしまう位に庇護欲を掻き立てられてしまう。 「アレを再開させてほしいって……」 「……アレって?」 「いやぁ~その……前回の一件で私、お姉ちゃんにキツ~く言っちゃったんです……“二度と服の匂いを嗅いじゃダメ”って……」 「あ、あぁ……あの生徒会長はそういう奇癖を持ってたもんね? 顔や立場に似合わず……」 「えぇ……それで、私は“服”の匂いじゃなくて私の直の匂いを嗅ぎなさいって注意したんですけど……」 「んあっ!? ちょ、ちょ、ちょっ! 何? 今なんて??」 「え? だから……衣服の匂いじゃなく……私の肌とかの匂いを直接嗅ぎなさいって……」 「な、なんでそうなるのよっ!? えっ? ちょっと待って! それってどういう事? 直接って……えっ? 姉妹同士でそんな事しちゃってるの?」 「ま、まぁ……そこはご想像にお任せします♥ とにかく私とお姉ちゃんの間では服嗅ぎ禁止って約束を立てたんだけど……お姉ちゃんったら“綾がいないとき嗅げないのは寂しい”とか言うもんだから……」 「んんっ!? ちょ、ごめん……何を言っているのか分からなくなってきた……」 「だから、今回の件を全部呑む代わりに……私が居ない時に限り服嗅ぎを許可してあげたんです♪」 さらりとその様な事を言われたものだから、私と理子先輩は驚きのあまり思考が止まり言葉が数秒出てこなかった。 しかし、詩織さんの要求も要求だけど……それを了承する綾ちゃんも綾ちゃんだ……。 「あんたたち姉妹にはホントについていけないわ……。綾のドMっぷりも度を越してるけど、あんたの姉も相当な変人じゃない……隙の無い生徒会長だって思ってたのに……」 「いやぁ~血は争えないってやつですかねぇ~アハハ♪」 「アハハ、じゃないわよ! うちの部の活動よりよっぽど不健全なことやってんじゃない! 恐ろしいわ、新崎家!」 「フフフ……それだけ仲が良いという事ですよ。私と姉は……」 仲が良いという一言でくくれるような関係では決してない気がするけれど……確かに新崎家の姉妹は濃すぎて手に負えない……。 「でも、お姉ちゃんったら……私に内緒で玲美さんにも関係持ってたんだねぇ~~。それは初耳だったなぁ~」 特にこの大人しそうな見た目の綾ちゃんは……こういう過激な発言をさらりとしちゃうからいつも驚かされてしまう。 「これは、帰ったらお姉ちゃんをお仕置きしなきゃ♥ 綾というものがありながら二股かけちゃうお姉ちゃんには……キッツ~いお仕置きを♥」 夕日が暮れ薄暗くなった空に拳を突き上げ、何やら一人意気揚々と決意を表明した綾ちゃんであるが、私と理子先輩は全くついていけていない……。 「ねぇ、明日香?」 「は、はい……」 「私さ……時々思うんだけど……」 「はぁ……」 「綾って……ドMの皮を被ったドSなんじゃない?」 「う、う~ん私からすれば……今更どっちでもいいかな~って思ってます……結局考えても分からないですし」 「……そうね……私も考えない様にしよっと……。疲れるだけだし……」 「それが一番ですよ……。綾ちゃんに関しては……」 こうして生徒会長に次いで風紀委員長まで制した我々PT研究倶楽部は、学園での部という立場を確固たるものとした。 正直……私個人的には、風紀委員に属して理子先輩や部長たちをこき使うという提案は嫌いじゃないと思っていたけど……まぁ、今まで通りのPT研でも良いかなと思った。 痛みの無い拷問を研究するという、普通の女子高生が取り組むテーマとしてはいささか常識を外れた活動ではあるのだけど……この部にいれば、今まで私が目を向けようとしなかった新鮮な気付きのようなものを毎回与えてもらっている。 拷問が高度な心理戦であるといった部長の言葉も……何となく理解できるようになってきた気がする……。 私はまだ……この怪しげな部活に青春を注いでいる。 次はどんな困難が降りかかってくるか……と、密かに胸を弾ませながら……。