(試し読み)憧れの女騎士団長は特殊な趣味をお持ちのようだ
Added 2020-10-01 13:57:36 +0000 UTC1:憧れの騎士団長殿 アレンバーグ王国第17遊撃騎士団団長アイリス……。それが私たち女性だけで構成された遊撃騎士団の団長の名だ。 王国初の女性騎士団の設立と同時に騎士団長として抜擢されたアイリス団長は、とにかく厳しいお方だ。 馬での進軍も、少しでも馬隊が乱れようものなら厳しく注し、剣の稽古も全員が揃って剣を触れないと何度だってやり直される。 そんな厳しい団長だが、稽古以外の時は団員たちの怪我や疲労を労い声までかけてくれるお優しい心の持ち主だ。 馬を駆るお姿は凛々しく、剣を抜く姿も雄々しく、我々に命令を下す声も猛々しい。 戦闘が終わり兜をとった時に振り乱す銀色の長い髪が暮れかけた夕日に照らされようものなら、それは絵画の中の女神を思わせるかのようにお美しく……とても現実の人間とは思えない神々しささえも見受けられる。 そんな外見もさることながら戦場での彼女の振る舞いは蛮勇を絵に描いたように荒々しく、仲間の危機を見つければ我先に馬を駆って救援に出向いたり、劣勢を強いられ士気の下がった味方には重戦士の如く力強い言葉を張り上げて鼓舞してくれる。あのような華奢でスレンダーな“いかにも女性”であることを表すように無駄な筋力の付いていない体つきであるにもかかわらず、彼女の構える剣の切っ先と鋭い眼光が重なる瞬間の迫力は男の騎士さえも震え上がるほど。それはひとえに鍛錬の賜物であることは言うまでもない。 団長は誰よりも先に稽古場に現れ、誰もいなくなった稽古場で最後まで稽古を続けた。 休みの日も自己研鑽の時間を誰よりも多く取り、近代的な戦術を学びに行ったり非番であるにもかかわらず城下の見回りを自主的に行う真面目っぷりなのだ。 まぁ、そういう武功だったり生活態度を鑑みて団長になれたという言葉もあるとは思うが、当の本人は団長を目指してそのような振る舞いを行ってきたわけではない。彼女は“素”でそういう自己研鑽を行ってきたのだ。 自分と国のために行ってきた行動が気づけば遊撃騎士団という部隊を作る結果となり、彼女はその騎士団長にまで任命された……しかし団長はいつも訓練の始まりにこのような言葉を零す。 「私は騎士団長になる資格など持ってはいない! 騎士団長になれる器の者がその時たまたま居なかったからこの地位にはめ込まれてはいるが、私よりも相応しい素質を持ったものは数多くいる! それを私は知っている! そのような者を私は早く育て上げたい! 私に代わる素質を持った者を早く育て上げ、この輝かしい騎士団長の座を快く譲りたいと思っている! だから、諸君らも自己の研鑽に費やせるだけの時間を費やせ! 国の力となれる事を誇りに思え! そして私を超えろ! 私はいつだって諸君らに団長の座を譲る準備はできているのだから!」 誰が見ても団長の座というのは彼女以外に適任はいないしその座に最も相応しいのは彼女だと私は思っている。 しかし団長自身は他人に厳しい代わりに自分にも厳しい。だから“自分はこの座に甘んじたくない”という思いが強いのだろう。団長という地位を得ても互いに切磋琢磨して自己研鑽を高めていこう! という気概すら感じられる。 そういう自分にも厳しい面が見え隠れしているところも含め、やはり団長は身も心も素晴らしいお方だと尊敬の念を抱ける。そこいらの聖職者達に引けを取らない清楚さと真面目さを持ち合わせた……言うなれば完璧な女性なのだ。私の目から見た彼女は……。 私も団長の様に騎士としても人間としても女性としてもカッコよく美しい騎士になれたら……などと剣の動きを止めて妄想していると決まって団長に叱られるのである。 「おい、ミリア! また何か考え事してるだろ? ボーっとしているぞ。稽古の時くらいもっと集中したらどうだ?」 こんな風に、背中を剣の柄で小突かれながら……。 「はひっ!? 団長殿!! も、も、も、申し訳ございません!!」 私はこの瞬間が大好きなのだ。 ダメな私を叱りつつ「仕方ないやつだ」と諦めの溜息を零してくれる団長がそこはかとなく好きなのだ。 「それに……私の事は団長と呼ばなくていい……。いつも言っているように私は団長としての自覚は持ててはいない……稽古をつける先輩程度の者なのだ。だから……アイリスでいい。その方が呼ばれ慣れているからな……」 「は、はい! アイリス団長殿!!」 「だ、だからっ!! その団長というのを――」 こんなやり取りを繰り返している日常が私にとっての幸せな時間に他ならない。 出来ればこのままずっとこのような関係を持ち続けたい……。いや、でも! もう少し団長の事を知ってしまいたいという欲もある。 そんな欲を満たす絶好の機会が、まさかこんなに早く訪れるとは思ってもみなかった。 団長の裏の顔を知れる……こんな機会が訪れるなんて…………。 2:休日の団長と裏街特区 その日の稽古は休みだった。 時々団長が急な休みを入れる事があり、そういう日は朝稽古で終わるか1日休みになるかの二択となり……今日は1日休みになってくれる有難い日になった。 そんな降って湧いた休みであるから予定を組む暇もなく、ぽっかり空いた1日を街の商店を見て回って過ごすという……生産性のないというか消費の方が多い1日に成り果ててしまう。 あぁ……これなら団長のお姿を見ながら訓練をしていたほうが何倍も癒されるというものなのに……。などと服屋の前で心ココにあらずな妄想をしていると、店横にある細い路地奥の小さな通りに一瞬団長らしき横顔の女性が横切ったのが見えてしまう。 自主的に休みを取った団長が陽も暮れようとしているこんな夕暮れ時に歓楽街に顔を出すなんて……彼女の訓練風景や普段の立ち振る舞いの姿を知る私からしてみればありえない事象だと言わざるを得ない。 きっと他人の空似だろう……などと期待感を抑え込もうとする自分がいる一方で、もしかすれば団長の裏の顔が見れるチャンスでは? という不浄な期待感も高まってしまい、私はその狭い横道を精一杯体を横にして泥と埃と蜘蛛の巣を服や髪にこびりつかせながら歓楽街のメイン通りである通称“魔女達の悦楽街道”へと足を踏み入れるのだった。 商業区画である“バザール通り”のすぐ裏手には酒場や各種風俗店が立ち並ぶ、なんとも煌びやかな世界がそこには広がっていた。ジョッキの形を模した電飾や肌の露出の著しいウサギの格好をした女性の大きな看板や、その看板から抜け出したかのようなふしだらな女性たちの呼び込み達……。その場所は、欲と快楽と享楽を可視化したかのような……見る者からすれば桃源郷のような光景を醸し出していた。 別に欲を持つことに興味がないといえば嘘になる。私の中にも秘めたる欲なんかの一つや二つは持っている。しかしその秘めたる思いや欲をこのような下劣に可視化された世界で晒しだす気は毛頭ない。 秘めたるモノは秘めたままに表には出さず……それが私の貞淑観念でもあるのだ。 この歓楽街も昼の姿はこうも賑やかではない。ほとんどの店が夕方以降に営業を始めるため、昼間に訪れればほとんどの店は電飾も付いておらず人の気配すらも無いというゴーストタウンのような様相を見ることができる。このギャップは正直面白いと思えてしまう。ある時刻を境に次々と店の電飾がついていく様を見るのは、さながらカーニバルの開始を見ているかのようで趣がある。 まぁ、店の中でどのようなことが行われているのかなんかは……あまり興味はないのだけどね……。 煌びやかな坂通りをゆるりと登っていき、ごった返す人の波を避けつつそんな自分語りを脳内で巡らせながら先ほどの団長らしき横顔の女性を追いかけていると、目的の後ろ姿が坂の頂上付近に小さく見え私は歩みの調子を速めた。 女性器を模したようなピンク色の貝殻を描いてある淫猥な看板……目元を隠した写真を飾り立て指名料という名の多額な搾取料金を掲示しているメニュー看板……もはや服すらも来ていない女性の体のアップが描かれた欲情を掻き立てる電飾たち……。坂の下が飲み屋街だとするならば、坂を上った先はまさに風俗街といっても過言ではない。もはやネオンの見過ぎで目がチカチカしてしまうほど光が強烈で、先を歩く団長らしき女性を見失いかねないくらいに目の前がぼんやりしてしまう。 しかし、歩みを速めたおかげでその女性に近づく事ができ、改めてその後姿が団長のそれである事に確信を持ち始める。 ネオンの光を反射しているかのように美しく煌めいている腰まで届く銀色の長い髪……すらりと細く長い脚に後ろ姿からも見て取れる体つきの華奢さ……でも二の腕や腕周りは鍛えてあることを示すように引き締まった筋肉を歩みのたびに形作っている。 普段の鎧甲冑姿の彼女ではないが、明らかにアレは私が普段から知る団長の後ろ姿そのものだ。 鎧を脱いだ姿を見たのは1度だけなのだが、それが強烈に印象に残っていたからはっきり覚えている。だから確信を持って言える……あれはやっぱり団長なのだ、と。 ようやく坂の頂上へと辿り着き、巨大な剣のオブジェが記念碑代わりに飾られてある開けた広場に出た私は……一層増した人込みに一瞬団長の後ろ姿を見失いそうになるが、必死に色欲にまみれた男衆を器用に避けつつ彼女の向かった先へと自分も後を追った。 剣のオブジェの前には矢印の形を模した古めかしい立て看板が立っており、左は『商業区』、手前に戻れば『酒宴街道』右に向かえば『風俗街』そして奥へ進めば『特区』というような区画の説明を行う文字が書かれてあった。 王国の公式な立て看板に『風俗街』と書かれていること自体が良くないことだと無駄に看板を睨んだ私だが、団長の姿が奥の『特区』と書かれた方向へと迷いなく歩んでいったことに驚き、アレが本当に団長の後ろ姿なのかと再び疑念を持つ事となってしまった。 特区とは短く書いてはあるが……『王国法治例外特別区域』の略であり、要は王国の法律が行き届かない特別な区域の事だ。 広い王国の中でも、この区域は“例外的”に国が関与しない区域であり……その昔難民で溢れかえったこの国が、異文化の民を受け入れる際に設けた区画の一つで、国の法律に賛同しかねる民たちが押し込められた特別な区域だと聞いている。 難民を受け入れたはいいが国の法律を受け入れない民を追い出す事もできず、かといって王国を慕う民と同じ環境に住まわせることもできない……だから、以前からあった貧民街を特区として改めて制定して、賛同しかねていた民をそこへと住まわせその特区から出てこないよう命じた。街や国に干渉せずその区画から出てこないという旨を了承できるならその特区は国の法律を適用せず自分たちの法律を作って適用してよいと定めたため、その区画は王国の中にあって王国ではないという位置づけとなっている。 無論、クーデターなどの企てをされても困るので、王国からは定期的に調査兵舎に見回りをさせているのだけど…… 有事の際の一番槍で出撃する我ら遊撃騎士団が行うべき仕事ではない。だから、鎧甲冑も身に着けず……愛刀すらも身に着けていない丸腰で彼女がそんなところへ乗り込むはずがない。 やはり私の見間違いだったのだろうか? 私はあれこれ疑問に首を傾げながらも、特区の入り口である薄暗い路地へと辿り着いた。 歓楽街とは正反対の飾り気のない街灯がポツリポツリと立っており、切れかけの電灯が時折瞬きをするかのようにオレンジ色の光を点滅させている。 背後に感じる喧騒が嘘のよう……。そこは無法地帯であることを示すようにジメジメと湿気を有した空気が漂い、いかにも危険な雰囲気を醸し出していた。 アレは団長ではないはずだ……。と、頭の中で自分を諭そうとするも、その女性が路地の角を曲がる瞬間たまたまパッと光った電球の明かりに映されたその横顔を見た瞬間、ハッキリと自分の中の疑念に結論がもたらされた。 耳に掛かるサイドの長髪……それがフリルの付いた袖から露わになっている撫で肩にふわりと乗って腕のほうへ垂れている様……それだけ見ても団長の麗しいお姿のそれである事は明確なのだが、その横顔……右を向いた際に見える泣き黒子……赤い縁の眼鏡を掛けて変装しているかのように見えるが、あの黒子の形はいつも見ている団長の横顔そのものだ。普段から見ているのだから間違いない! 見すぎて怒られるくらい見惚れているのだから……。 私は決断を脳が下す前に足が先に出ていた。 もはや疑う余地もない団長の横顔を見てしまったのだから、追うのをやめる理由がない。 もしも、特区で不穏な動きがあるという事で団長が秘密裏に調査しているのだったら、あんな軽装でこの無法地帯を歩かせるのは気が気でいられない! 団長が野蛮な奴らに捕まってしまいそうになったならすぐに助けに行かなくては!(とは言え、自分も丸腰ではあるのだけど……) まぁとにかく団長に危機が迫ればすぐにでも飛び出す所存で、彼女の背中の後を追った。 進めば進むだけ街灯も無くなっていき……小さな路地を何度も曲がってより狭い路地へと入り込んでいく。 もしや本当に国に対するクーデターかほかの国との戦争を目論んでいる輩がこの先にいるのでは? いや、団長が関わっているのであれば、もしかするともっと深刻な事件が起きようとしているのでは? 私は、自分でも聞こえそうなくらいに心音を鳴り響かせ、呼吸も荒く彼女の背中を追っていく。 怖さや不安が心音を荒ぶらせているのは勿論だが、それとは別に奇妙な期待感も私をドキドキさせていた。 ほかのメンバーは知りもしない団長の裏の顔を見てしまっている背徳感。正式な調査依頼を受けていない無法地帯の調査……そして、普段の重装備な団長ではない……軽装な……いや、どちらかというと“無防備”が過ぎるくらいの格好……。 それら普段味わうことのできない特殊な状況への好奇心が危険な特区の奥へと進んでいるという不安感を上書きして塗り潰していく。 団長の行く先を知りたい! 団長の無防備な姿をもっと眼下に収めておきたい! あわよくばピンチになる団長の姿すら見てみたい……などと自分でもけしからん欲を走らせながら、私は興奮していた。 この異質なシチュエーションが私の好奇心を昂らせてやまないのだ。 それにしても……団長はなぜ、あのように無防備な格好をワザワザしているのだろうか? 調査兵舎の兵士たちでさえ軍装で調査することを認められているというのに……。 まぁ、動きやすさを重視しているという事ならあの格好も頷ける。 腕を動かし易くする為であろう袖のないブラウスを着用し、その美しい肩や二の腕をこれ見よがしに見せつけて歩いている。そしてそのブラウスもなんだか特別な形をしていて、ボタンがフロント部分に付いているのではなく代わりに可愛らしい赤い大きなリボンが胸元にあしらわれてある。では服を留めている個所はどこにあるかというと、前面や背面ではなくなんと両横……。脇の部位にあたる箇所に3つ木製のボタンが配置されていて、それによって服の両サイドを留めている。ボタンが3つしかついていないという事もありボタンとボタンの間の隙間は歩くたびに開いたり閉じたりを繰り返し、団長の柔らかそうな胸横や脇腹の肌がチラリチラリと見え隠れしており何とも言えないエロティシズムを見る者に与えている。 しかも! そのボタンの隙間から見るに、インナーは何も着ていないのが窺い知れる! それどころか、胸当ての紐や布も見受けられないため……彼女はあのブラウスの下に何も着ていない可能性が高くなる! 見える範囲が限られているため、あくまでも予想ではあるが……それでも私は彼女が路地を曲がるたびにその横姿を凝視してしまうのをやめられない。それほどにチラ見えする団長の隙肌は魅力が強すぎるのだ……主に胸辺りの隙間とかが……♥ しかし、彼女の格好の無防備さはなにも上半身だけではない。下半身の装いも普段の団長からすればかなり挑発的な格好をしていると言っても過言ではない。 ブラウスのリボンや淡いピンク色の生地の可愛らしさを引き立てるかのような紺色の短いスカート。 僅か太腿の途中まで位しか隠せていない程短いそのスカートの裾縁にはブラウスの袖と同様の白いレース生地のフリルがお洒落に装飾されてある。 そして包み隠さず露出した美しい太腿から下はスラリと細んでいく素脚が伸び、彼女の足を守る赤いハイヒールの底までその足に着衣らしい衣は見当たらない。つまりは素足でハイヒールを履いているという事だ。 靴下やニーハイを履いている女子よりもその素足という要素は大人味を帯びており、その無防備さも私を大いに湧き立たせてくれる。 あんな格好で悪漢に蹴りを食らわせようものなら、短いスカートの中が丸見えになること請け合いだ。そのようなはしたない恰好をうちの団長がしているなんて…… などと団長のファッションチェックを遠目に行っている私だけど、ふとあの“はしたない恰好”は団長がしているからはしたないのであって、普通の人が着れば普通にお洒落なコーディネートと捉えられる……至って普通の格好だ。 普段の団長の堅牢なイメージが強いからこそ、普通の格好が異様にふしだらに見えてしまっているのだろう。私の目もまた歪んだ見方をしているなぁ~と改めて思い至った。 普通の格好で特区を調査する……。それが秘密裏な調査なら当たり前の格好のはずだ。 一般人に紛れないと秘密裏もクソもないのだろうから。 私は団長の普段着(?)を新鮮な目で追いつつ、彼女が次々と曲がりながら進んでいく路地裏へと歩みを進めていった。 すると、しばらく奥へと突き進んだ薄暗い細道の先に少し開けた場所が現れ、その広まった個所に風俗街にありがちな電飾をつけた派手な店が佇んでいた。団長は左右をキョロキョロと警戒するように見払って、慎重にその表玄関の引き扉を開けながら襲る襲る店の中に入っていった。 店の中からはいかにも風俗店であるかのような甘く高い「いらっしゃいませぇ~♥」という声が複数同時に上げられ、外で隠れてみている私の耳にも届けられた。 扉が自重で閉まっていく刹那、店のピンク色の装飾と従業員らしき女性の顔が見え私は驚愕する。 「い、今のは……淫魔っっ!? 魔物であるサキュバスが店にっっ!!?」 思わず隠れているのも忘れて声を出して驚いてしまった。 その店員の姿形、体つきから肌の色に至るまで……それは明らかに魔物のそれであったのだから……。 王国では魔の物の商業行為を認めていない。特に淫魔と呼ばれる種族の風俗営業は不慮の事故を起こしやすく危険視されている。 人間の淫欲を餌にして成長する淫魔サキュバス……。彼女らは人間の男に現実ではありえないほどの過剰な快楽を与え絞りだした精液を啜って餌としている。 無理やり精液を搾り取られる男は強烈な快楽を感じつつも徐々に衰弱し……やがて死に至る。 淫魔は加減をするような魔物ではない。他の国で自分たちの餌欲しさに開いた風俗店で、興味本位で通った男をミイラになるまで啜りつくしたという事件も実際に起きている。 だからうちの国では全面的に禁止されているはずだ。この“特区”でもそれは例外ではないはず……例え国の法律が通用しなくても、コチラの決まり事でも禁止されているはずだ……なにせ、興味本位で入ればその男は二度と外へは帰ってこれなくなるのだろうから……。 なるほど、なぜ団長がここに出向かされたか分かった気がする。 この店に、男の調査兵が入るのは危険極まりないと分かっているからだ。 淫魔の目を見た男は“チャーム(魅了)”という魔法に強制的に掛かってしまうらしい。その魔法にかかると、淫欲に逆らえなくなるとか聞く。 そんな危険な魔法を持つサキュバスの巣に男だけで押しかけても全滅するのが目に見えている。だから女である団長を秘密裏に送って調査をしてもらうという流れができたのだろう。 女であればチャームは効かない……と思う。詳しくは知らないのだが、普段そういう行為に興味もない者がチャームに掛けられたとしても淫欲は湧かないから効かないと聞いたことがある。 私は……そういう感情がないわけではないから、もしかしたらヤバイかもしれないけど……でも団長なら! 真面目で清楚な団長ならチャームは効かない可能性が高い! だから抜擢されたんだ……私たちとかではなく直接団長が……。 ……などと、様々な憶測を頭の中で巡らせていると、その風俗店から団長が出てきた。 入るときと同じように警戒しながら目を細めて辺りを伺い、入ったことがばれない様にとするかのように早足で店の裏手の路地へと消えていく。 「随分早く出てきたけど……必要な情報は得られたって感じなのかな?」 私は街灯の柱にしっかり身体を隠しながら路地奥へと消えていく団長の背中を片目だけ出して追っていた。 そして見失う前にとゆっくり体を出して、泥棒が獲物を捕りに向かうが如く低い姿勢で彼女の後を追った。 「ふむ……【ラフ・ラブ=スマイリィ♥】っていう店ね? よし……私も覚えたわ……」 私は看板に書いてあった店名を頭に焼き付け、店横の薄暗い路地を早足で抜けながら団長の後を更に追った。 恐らく調査した結果報告をコチラ側の取り纏め役に報告でもするのだろうと想像しながら、必死に彼女の後を追う。 路地の奥へ奥へと進んでいくと、陽の沈みと街灯の少なさが相まってより一層の薄暗さがその路地を包む。油断すれば地面の小さなゴミやガラス片を踏んでしまいかねないほど暗く、夜目の効かない私には地面だけが闇に溶け込んでいるかのような異様な風景に見えてならなかった。 足元が不安になりつつ団長の影を追っていた私だったが、ここでようやく路地の終点に辿り着く事ができた。 先ほどの店同様少し広いスペースに何やら石造りの建物がボヤリと輪郭を夜空に浮かべている。 「っッ!? ここは……廃墟??」 石造りの建物は四隅の柱こそしっかり立っているが、壁や内装、玄関などすべてがボロボロ……。複数年の間、誰もめったに立ち入らなかったであろう腐食具合があちらこちらに見て取れる。 建物は4階建て……、しかし2階部分は窓も壁も崩れ去っていて下から内部の様子が見て取れる。これは元々何の建物だったのか? 下から見る限りそれは計り知れない。 しかし、団長はその人気のなさそうな廃墟の中に入っていった。しばらく外から見ていると丸見えとなっている2階の階段を上がっていっている様子も見て取れた。 もしや、ココにも何か調査対象となるものがあるのでは!? サキュバスの風俗店以外にも何か事件的な何かがあるのかもしれない!! そう思った私はいよいよコソコソと嗅ぎまわるのをやめ、堂々と団長と合流するために廃墟へと入ろうと身体を出そうとした。 きっと秘密裏に追跡してきたことを怒られるだろうけど、それよりも団長を国の保護も受けられないこんな危険な場所で一人にはしてはいけない! そう感じ居ても立ってもいられず身体を出しかけた……。しかしその出しかけた身体は再び身を隠す動作へと変更を余儀なくされてしまう。 出ようとした瞬間……我々が進んできた路地の後ろから話し声が聞こえたのだ。 こんな人気の無い廃墟に……複数の誰かが歩いてくる音。私は嫌な予感が頭を過り、すぐさま身を近くの茂みに隠して姿が現れるのを待つ。 『あ、あれは……さっきの!?』 後ろから現れた姿は3人の女性達であったが、その女性たちは一様に人間の姿をしてはいなかった。 服こそゴシックなメイド服を着衣しているが、肌は薄紫色で、背中には独特な蝙蝠の羽が生えており、頭にはヤギの角のような丸まるように曲がった角……吸血鬼のような牙……そして悪魔の尻尾をユラユラと揺らしながら私がいることに気づかず横を通り過ぎて行った。 その姿は淫魔のそれそのもの! 先程扉の隙間から見えた店員と同じ格好をした女性たちが3人並んで歩いてきたのである。 香水なのか独特の体臭なのかわからない甘すぎる果実のような匂いを漂わせ、楽しそうなお喋りに花を咲かせながら例の廃墟へ入っていく。 私はそれを見てすぐに気づいてしまう。 団長は……ここへ調査に来たのではなく、誘い出されたのではないだろうか……と。 サキュバスの店を調査しに来たとバレてしまって、偽の情報を掴まされ……ここへ誘導され……スパイである団長をこの廃墟で亡き者にしようと企んでいるのではないだろうか……と。 だとするならば危険だ! 相手は3人もいるのに対して団長は丸腰……。私だって今日は非番であるから護身用のナイフくらいしか持ち合わせていない。 戦力は十分じゃない……今すぐ応援を呼びに戻ったほうが良いのかもしれない。 でも、戻っている間に団長の身が危機に瀕してしまったら? 援軍が来るまでに団長が死んでしまう事だって考えられる。 それにこの入り組んだ路地を正確に辿って帰る自信はない。初めてきた場所だし、もう何度角をどっちの方角へ曲がったかなんて覚えてすらいない。 装備も鍛錬も十分でない私だけど……団長が襲われそうになったら盾代わり位ならなれる! 逃げる時間くらいなら作れるかもしれない! 私は、逃げたくなる弱い心を無理やり鼓舞して団長が登って行ったであろう建物の最上階を睨みつける。 そして覚悟を決めた「よし!」の掛け声とともに、淫魔が入っていった廃屋の入り口へと向かっていくのだった。 3:囚われの団長 「くそっ! 放せっ!! 拘束するなんて卑怯だぞ!!」 恐る恐る登り詰めた最上階への階段の途中で団長の怒鳴りをあげる口調が響き、私は思わず背筋をピンと伸ばししばしの硬直を余儀なくされた。 階段の途中であり姿はまだ見えないにしても、いつもあの声で怒鳴られまくっている私からすればまるで自分が怒られているかのような錯覚を受けてしまう団長の怒声……体がいつも通り強張るのも仕方がないことなのだ。 「ウフフ♥ こうでもしないとフェアじゃないでしょう? だって貴女は……王国の騎士団長さんなんだもの。油断したらこちらが3人とはいえすぐにやられてしまいますわ♥」 硬直した身体をどうにか動かし、階段を登り切って最上階の開けた部屋へと辿り着く。 その部屋は家具や寝具など一切ない石床と石壁と石柱だけがあるだけの殺風景な部屋……その壁にランプの明かりだけを光源とした照明が設置されていて、何かの儀式を執り行っているかのような怪しい明暗感を醸し出していた。 私は階段を上がりきるとすぐさま手近な石柱の影に隠れ、顔だけを少しそこから出しながら団長たちの様子を伺った。 「くっっ! こっちは指定通り丸腰で来たんだぞ! 拘束する必要などどこにあるというのだ!!」 団長の声がする方に視線を向けると、そこには床に寝かされた団長の姿がまず目に飛び込んできた。 石床には儀式用か何かの魔法の円陣が描かれており、その四方には革製の枷が床に固定されるように設置されていて、団長の手足はその枷によって拘束された状態にある。 魔法陣の中心に団長の身体。円陣の外にはみ出すように手足をX字に広げた格好で拘束されていて、左右それぞれの手首足首に一つずつ枷が巻き付けてあり団長の自由を著しく制限することに寄与している。 「この拘束は何も私たちの身を案じて行っているだけではないのですよ? どちらかというと……団長さんの身を守るためと思っていただいた方がよろしいかと……」 手を万歳の恰好にされ左右の手首を枷で固定しているため腕を下ろしたくても下せない。股を開くように脚を開かせ足首の部分に枷を巻いて固定しているから団長の秘めたる場所を隠すことも敵わない。相手は3人のサキュバス……こうなってしまっては奴らの淫靡な行為を団長が防ぐ手立てはない。 かといって、まさか拘束されているとは思ってもみなかったため、私自身も迂闊に飛び出せなくなってしまった。護身用のナイフごときでは3人を相手に立ち回ることさえもできない。隙を作って団長だけ逃がすという戦法も、彼女が拘束されていては実行などできやしない。 出来ることは……様子をうかがって、奴らが油断したところを襲う……という騎士道に反する卑劣な戦法のみ……。 しかし団長が助け出せるのであればそれも仕方がない。罰されるのは私だけで良い……団長さえ無事に連れ帰ることができれば……。 「私のための拘束だと? そんな馬鹿な話があってたまるか! 自由を奪い取っておきながらそんな戯言をよく抜け抜けと……」 「戯言じゃないわ♥ 本当の事よ? だって……これから行う拷問は、普通の人は耐えられないんですもの♥」 「拷問だと? やはりお前たちはそのために拘束を……」 「う~~ん、確かに動かれるとやりにくいというのはあるけど……ほら見て? この部屋ってば床がボロかったり壁が剥げてたりして触っただけでも怪我をしちゃうでしょ? こういう部屋で暴れられれば、私たちのポリシーにも傷がついちゃうんですもの♥」 「ポリシー?」 「そう。私たちは決して人を傷つけない。この特区にお店を出すための交換条件の一つとしてリーダーから提示された命令の一つよ。だから私たちは貴女を傷つけられない……」 「はっ! あんな違法風俗店を経営しておいてよくもそのような戯言が言えたな! お前たち淫魔が人を傷つけずに性行為を行うなど不可能であろうが!」 「あらあら……その“性行為”も私たちは禁止されているのですよ? 交換条件の2つ目……風俗店であってもいいが精力を搾取するような性行為は禁止……って約束がありますの♥」 「サキュバスの風俗店なのに性行為の禁止? それは……店として成り立つのか? お前たちはそれで満足するのか? 餌を求めて商売をしているのではないのか?」 「私たちはこの2つの盟約をしっかり守れて、お食事にもありつける商売を思いつきましたの♥」 「盟約を……守れる商売??」 「人間の殿方を淫猥な気分にさせて卑猥な行為を繰り返してから精子を絞り出し餌を得るのが淫魔の風俗店の基本ですが、私達はもっと健全な営業を心掛けているのです」 「健全な? 淫魔が? そんな馬鹿な……」 「お客様には傷の付かないとある刺激を与えて悶えてもらって、自ら気持ち良くなってもらい勝手に絶頂してもらう……そして、絶頂した時に出る精子を私たちの食事として還元してもらう……。そういう営業をしているから、人間には一切危害は加わらないし盟約にも反さない」 「勝手に気持ち良くなって勝手にイクから無理やり絞っているわけではないと? それは屁理屈だろう?」 「いえいえ、私どもは一切、性的な行為は致しておりませんわ♥ ただ……体の一部を少し弄る事くらいしかしませんもの……」 「性行為を行っていないだと? 嘘つけ! その体の一部を弄るのが性行為に該当するだろ! そうでなきゃ自主的に気持ち良くなることなんて……」 「団長さんはSMというプレイをご存じかしら?」 「え、エス……エム??」 「そう、人間たちの男の中には“痛みを与えられて”快感を得るという変わった人種が存在いたしますの♥」 「し、知らないことも……ない! いちお風俗関係も取り締まりの対象だからな! 知識として……少しは……」 「そういう他人から苦痛を耐えられて快感を得る人種の事をマゾヒストと呼ぶそうですが、私たちはそういう人種の方にお客として来ていただいてますの♥」 「マゾ……?」 「普通のSMプレイは、苦痛が強ければ強いほど快感は増す傾向にありますが、我々は人を傷つけてはいけないという盟約があります。ですので、苦痛の与え方を工夫しなくてはなりませんでした」 「SMと言えば……鞭を打ったり、蝋燭の熱を浴びせたり、殴打したり尻を叩いたりするのだろう? どれも一歩間違えれば人に傷を作ってしまうものばかりだ……」 「えぇ、ですから我々は別の方法でお客様を苦しめる方法を思いついたのです」 「別の方法で“苦しめる”?」 「そう……何も苦痛を与えるのに暴力を使う必要などございません。まぁ、捉えようによっては“それ”を暴力と捉える方もいるでしょうが……」 「苦痛を与える行為を暴力じゃないとでも言いたいのか? 歪んだ認知の仕方をしているな……これだから魔族は……」 「大丈夫です……本当に傷をつけたり痛い思いをさせたりなんてさせませんから♥ むしろ楽しくて仕方がない感覚だと思いますよ?」 「楽しくて仕方がないだと? ふざけるな!」 「団長さんは……楽しくて仕方がないときって、どんな態度をとります?」 「な、なんだ? 急に……。その意味不明な質問は……」 「嬉しい時や楽しい時って……みんな笑いますよね? ニコニコと……」 「な、何が言いたい?」 「私たちのプレイは、苦痛と同時に笑顔も生まれるんですよぉ? どんなに無表情な人でも……とてつもない悲しみを背負っている人でも……今の団長さんみたいに、正義の心を燃やして怒り狂っている人でも……」 「わ、私が笑顔になるとでも!? ふ、ふざけるのもたいがいにしろ!! 誰が好きこのんで、お前たちの前で笑顔など……」 「あぁ、大丈夫です♥ 貴女が望んでいようと望んでいまいと、これから私達がしっかりと団長さんの事を笑わせて差し上げますから……」 「わ、笑わせる……だと?」 「はい♥ 団長さんが我々のお店の事を見逃す気が芽生えるまで……徹底的に笑わせて差し上げますわ♥」 「店の事を見逃す? フン! この私が淫魔の拷問ごときで考えを変えるとでも?」 「考えが変わらなければ……変わるまで笑わせまくるまでですよ……」 「さっきから“笑わせる”というのを連呼しているようだが……一体何を言っているんだ? 意味不明すぎて逆に不安になってしまうじゃないか……」 「団長さんは生まれて1度くらいは、何かを見たり聞いたりして腹が捩れるくらいに大笑いした経験くらいはお有りでしょう?」 「なっ、なんだ急に……」 「笑っている時って……どうでした? 楽しい気分になっている半面で、とても苦しい思いをした経験はありませんか?」 「……べ、別に……。少し腹が痛くなったりはしたが……苦しい思いをしたことは……」 「フフフ♥ よぉ~く思い出してみてくださいまし。笑っている最中っていうのは……声を出して息を吐く動作を続けることになるでしょう?」 「ま、まぁ……そうなるな……」 「その笑いを……途中で止められるなら、そこで息継ぎをしてしまえば問題はありませんんが……じゃあもし、その笑いが止められなくなってしまったら?」 「……? 何が言いたい?」 「自分の意志で笑いを抑えることができなくなったら……どうなると思います?」 「笑いが止められなくなったらって? そんなことが起きえるか? 笑い続けた経験なんて……私はほとんどないぞ?」 「あらあら……それはさぞかし、お堅い生活を送ってこられたんでしょうね? さすがは騎士団長さん……」 「う、うるさい! どうでもいいだろう? そんな事っ!」 「数秒くらいの笑いであれば、多少呼吸が乱れる程度で生きていくうえで支障をきたすことはまずあり得ませんが……行き過ぎた笑いを強要されればどうでしょう? 自分の意志では抑えられない笑いを強制されてしまったら……」 「行き過ぎた……笑いを……強要??」 「腹や胸の筋肉を無理やり収縮させられ、絶叫のような笑い声を無理やり絞られるように吐き出し続ければ……さぞかし苦しい思いをするのではないかって想像ができませんか?」 「(ゴクリ)……わ、私に……何を……する気だ?」 「笑い続けるという事は常に息を吐き続ける行為に他なりませんわ。それが自分の意志で止められないと……どれだけ苦しいか……想像、出来ます?」 「自分の意志で止められないとは……どういう意味だ! 笑わせるっていうのは……ま、まさかっ!」 「ウフフ♥ 気付いちゃいましたか? これから我々が団長をどうやって笑わせようとしているか……」 「う、嘘だろ? そのために……こんな手足を動かせない拘束を?」 「さぁ、貴女達? 団長さんも気付いたみたいですし、まずは挨拶程度のアレをやって差し上げなさい♥」 「はぁ~~~い♪」 隠れて聞き耳を立てている私には、リーダー格のサキュバスが団長に言っていたセリフの意味をほとんど理解できなかった。しきりに笑いがどうのこうのと言っているのは分かったが、具体的に何をやるかは告げられず未だにこれからの“拷問”とやらの想像が浮かんでこない。 しかし……彼女達はどうやら特区のリーダーと約束事をしているという事と、その約束が人間に傷を負わせるような事をしてはならないないという事であるのは理解できた。だから、これから少なくとも団長に平手打ちの一つでも食らわせて痣でもこさえてしまおうものなら盟約違反になることは必至であり、我々のみならず特区の責任者へも通報が可能になる。 王国の法律が適用されない代わりに特区で独自に組まれている法律はかなり厳しいと聞く。だから彼女たちも軽々には無茶などしないはずだ。 あのお美しい団長のお顔に傷の一つでもつけようものなら……即座に特区の法律に裁いてもらおう……。私一人ではこの現場は収めきれないが、特区の屈強な兵隊がここを囲めば彼女たちも降参せざるをえまい! っと、私は淫魔たちが団長の身体に傷をつける瞬間を見逃さないようにと柱の陰から顔を更に突き出し、団長の足元へと回り込んでいた2人の部下らしきサキュバスを睨むように凝視した。 彼女たちが何をしようとしているのか……未だに私は理解してはいない。しかし、団長は何かに気付いているらしく……凛々しく引き締まっていた顔を薄暗く曇らせ必死に「やめろ!」「ふざけるな!」などと叫び散らしている。 普段穿いているところなど見た事もない可愛らしいフリル付きのショートスカートから露出する引き締まった太腿……その太腿から膝の部位を眺めつつ通り過ぎ、ハイヒールを履かされたままの足元へと同時に辿り着いた2人の部下たちは互いにクスクスと怪しい笑い声を零しながらその場にしゃがみこんでいった。 もしや団長の足枷を外してくれるのでは? と淡い期待を抱くが、私の期待はすぐに裏切られてしまう。 彼女たちが伸ばした手は足首にまかれた枷に触れるのではなく、団長の靴……赤いハイヒールのヒール部分をチョンと指で挟むように軽く摘みその靴を脱がせようとする素振りを見せ始める。 団長は相変わらず罵詈雑言を彼女たちにぶつけているが、2人の部下はその怒声を聞き流しながらマイペースに摘まんだヒールをわざとらしくゆっくりと上にずらしていき団長の足からゆっくりとその靴を焦らす様に脱がせていく。 靴から踵が浮き、赤いハイヒールが足に対して斜めを向く格好になるともはや靴が隠している箇所は足の爪先だけとなってしまう。素足の団長の足裏が靴が離れることによって徐々に露わとなって行き爪先の部位も靴が脱がされると、完全なる彼女の裸足が公衆の面前に晒されてしまう。 美しく手入れされた爪の形、膨らみを帯びた足指の付け根……靴の形通りの流線型な窪みを描いている土踏まず……そしてガサついていない剥き卵の様にプリッとした見た目の踵。初めて見る団長の足の部位に、私は不敬ながら胸の奥がざわつくほどにドキリとしてしまった。 あんなに激しい訓練を毎日行っているのに……マメや傷などの無い私から見ても完璧な美しい足を団長はしていらっしゃる! 別に足に興味のある変癖を持っているわけではないが、それでもあの生足は見るだけでも私を魅了してしまう。 まるで……淫魔のチャームにあてられたかのように……。 「さぁ、お二人さん? 団長さんの事……たっぷり笑わせて差し上げなさい♥」 そうリーダー格の淫魔が指示を出すと、足元に座り込んだ部下たちは気に抜けたような甘ったるい返事を返しながら一斉に手を団長の素足に伸ばしていった。 彼女たちが行おうとしている拷問とは何なのか? 笑わせるとはどういう意味なのか? 彼女たちの次の行動で鈍感な私にもすぐに理解できた。 その行為があまりにも稚拙で思いがけないものであったため私の思考回路は一瞬言葉を失ったが……彼女たちは身動きを封じられた団長に恥ずかしげもなくソレを行ったのである。 童心に戻るかのようなあの行為を……。 4:笑いの強要 「ふぐっっふ!!? うぐふっっっんんんんっっっ!!!」 ソレが始まると団長は口に含んだ空気を漏らすまいと振舞うかのように頬を膨らませ、吹き出してしまいそうになる口元に力を込めて込み上げてくるものを我慢し始める。 込み上げてくるものが何であるのかというのは先程このリーダー格の淫魔が喋っていた通り……“笑いたい”という欲求そのものである。 いや、別に団長はきっと笑いたいと思っているわけでない筈だ。隙を見せまいと鋭い目で睨みを利かせたいと思っているはず……。しかし、淫魔の部下二人が行っている“ソレ”は団長がどんなに拒否をしようと腹の底から“笑いを吐き出したい衝動”を生み続け、我慢する団長を苦しめている。 笑いの衝動を生むソレとはどういう行為なのか? そう聞かれれば、見たままのありのままを伝えなくてはならないが……その行為自体が稚拙で馬鹿馬鹿しくて……口に出すのも憚られてしまう。 しかし、いくら稚拙だからと言っても団長は確かに苦しんでいる。この馬鹿馬鹿しいとも思える行為に対して首を振って嫌がるほどに拒絶反応を起こしている。 部下二人がやっていることは至極単純で拷問という言葉にはあまりにも似つかわしくない行為そのものだった。 床に寝かす様に拘束した団長の足元へ座り込んだ二人は両足の靴を脱がせ団長を裸足にさせた。 肩幅に開いた足は足首の部位にも枷が巻かれているため団長は素足にさせられようが何をされようが足を逃がすことはかなわない。 二人はそんな無防備にさせられた団長の素足の足裏に手を添え、いくつかの指だけをいやらしく動かして“そういう刺激”に敏感な足裏の神経を刺激して回っている。 そう……彼女たちは、裸足にさせられた団長の足裏を指でくすぐり始めたのである 私も子供のころに遊びでそういう事をされて笑い転げた記憶がなくもない……。足裏をああいう風に触られればどんなこそばゆさを感じるかは簡単に想像がつく。 特に土踏まずの窪んだ箇所や母指球の膨らみある皮膚を優しく撫でられれば、耐えがたい笑いの衝動が沸き起こるのは容易に思い起こすことが出来る。 普通ならそういう刺激を受ければ拒否反応的に暴れて触ってきている相手を蹴飛ばすか、或いは足を守るために転がってその手から逃れようとするかぐらいは抵抗するが……団長はそれをやらせてもらえない。手と足の枷が団長の手足を床にしっかりと固定して動けなくしているのだから抵抗も逃避も行えないのだ。 出来ることは……今の団長の様に、せめて笑わない様にと刺激を我慢することだけ……。 口の中に空気を溜め込んで、その空気を漏らさないよう唇を固く閉じて我慢することだけがその刺激に対して彼女に与えられた唯一の抵抗手段なのだ。 嫌がるように足先をくねらせ、どうにか部下の手から足裏を逃がしたいと抵抗を試みる団長だけど、足首より下がほぼ固定されてしまっているため、彼女達の魔手から逃れることは決してできない。触ってくれと言わんばかりに晒された無防備な足裏を部下二人の手は遠慮や容赦など一切することなくくすぐり回していく。 見ているだけでも身体が寒気を走らせるくらいにくすぐったい感覚を想像してしまう。 もし、あんな風に拘束されて素足にひん剥かれて、ああいう風に好き勝手にくすぐられたら私は笑わずに済むだろうか? いや、たぶん無理だ。私はこういう刺激が最も苦手であり嫌いなのだから……。 「あらあら団長さん、先程までの威勢はどこへ行ったのかしら? まさかこんな挨拶程度の刺激で笑いそうになっているとか言いませんよね? まだ足裏の神経を馴らすための準備運動を行っているにすぎないのですよ? そんなに必死に我慢しちゃって大丈夫かしらぁ……この後♥」 確かに二人の部下は団長の足を本格的にくすぐっているという風には見えない。どちらかというと“愛撫”に近い手つきで足裏全体をゆっくり撫でているという印象だ。 手の側面を使ってゆっくりツツツ…と足裏を上から下へと撫で下ろしたり、小指を立てて爪の先で土踏まずの左端から右端までを線を引くようになぞったり……まるで何かを焦らしているかのようにゆっくりとした手つきで団長の足裏を弄っている。彼女が動けないことをいいことに……。 「くふっっ! だ、誰が我慢などしているものか! んくっ! こんな幼稚な刺激に……この私が我慢などするはずが……」 そうは言っているが団長はかなり辛そうに顔を歪ませている。強気な言葉を吐いては見せるが、思わず吹き出しそうになるのを防ぐためか言葉を零した後はまた口を固く結んで刺激を我慢しなおそうとする。 遠目に見てもわかるが、恐らく団長も“こういう刺激”には強くはないのだろう。準備運動的な刺激ですらも唇を震わせて我慢しているくらいなのだから。 「あら? 私には相当我慢しているように見えるんですけど……それって演技とかなのかしら? だったらまだまだ笑わずに耐えられますよね? こういうくすぐり方に変えても♥」 リーダーの淫魔がニヤリと笑みを浮かべて片手をあげる。そして指をパチンと鳴らすと、それを合図にしていたかのように部下二人の攻め手が変わる。 今までは優しく撫でるような触り方だったのが今度は指をすぼめるように構えて、その指達を土踏まずの窪みに突き立てるように置くと指先だけを僅かにゴニョゴニョと動かしてくすぐり始めた。 「ぶふっっ!!? んぐぅぅぅぅぅっっっっ!! んくっっ……くくっ……んぷくぅっっっっ!!」 今までの足裏を全体的に撫でるくすぐり方から、土踏まずを指先だけで一極集中的にいじくる責め方に変わった瞬間、団長の顔は真っ赤に紅潮しその顔を横に振り乱して全力で拒否の反応を示すようになってしまった。 足裏の……特に敏感な土踏まずをあんな風に指の先だけでコチョコチョと触られれば……よっぽど足の神経が鈍感でない限りは強いくすぐったさを感じずにはいられないはずだ。団長の拒否反応を見ても分かる……アレは滅茶苦茶くすぐったいのだろう。 「幼稚な刺激と罵った割には今にも笑いそうな顔をしてますけどぉ~? 団長さん……そんなくすぐったいですかぁ? この子達がくすぐってる……足・の・裏ぁ♥」 真っ赤に紅潮した団長の顔に負けず劣らず攻められている団長を見て興奮か何かしているかのように頬を濃い桃色に染めていく淫魔のリーダー。必死に笑いを我慢している団長の顔に自信の顔を近づけ目を細めながらいやらしくそのように煽っていく。 「ぐ、く、ぐずぐっだぐなんて……ないっっっ!! 全然っっぐずぐっだぐなんてっっ……ぐふっっくくくくくっっ!!」 「ほ~~ら、我慢しないで笑っていいんですよぉ~? とってもくすぐったいんでしょ? 身体がビクビク~って嫌がっていますよぉ? 素直に笑ったらどうです? 楽しいですよぉ~~思いっきり大笑いするのは♥」 「だ、誰が笑うものかっ! 絶対我慢してやるっっくっっ! んぐぐっっく!! こんな刺激に負けてたまるか!! んぐぅぅぅぅぅぅっっ!!!」 「へぇ? 言いましたね? 絶対我慢するって……今……」 「ぅくっっ!! ふっ、くっ、んくっ……言ったさ! それが……どうした!」 「でしたら……もしも万が一団長さんが笑ってしまったら……私達の店の事見逃して頂こうかしら♥」 「ふ、ふざけるなっっ!! んぐくっ!! そんな一方的な要求を飲めるものかっ!」 ※試し読みはひとまずここまでです。まだ試作段階なのでアップした文章の中でもガラリと変わる箇所も出てくるかもしれませんがご了承ください。
Comments
有り難うございます。さてどうでしょうね笑 団長には頑張って耐えてもらわないとですな✨
ハルカナ
2021-01-01 18:24:19 +0000 UTCとても好みです… 続きが楽しみです…!足の裏を最初にくすぐって、必死に我慢して耐えていると言うことは、弱点は…ノースリーブだからこその、あそこでしょうか?
こーじ
2021-01-01 10:13:09 +0000 UTC