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悪戯カフェへ……ヨウコソ⑥

6:対面 僅かな沈黙の後に私は睨むような目で彼女を見て皮肉交じりの返答を静かに返す。 「あんたが何するか気になって追っかけてみたのよ……。あんたにカラオケを断られた腹いせにね……」 樹希はまだ現実を受け止め切れていない様子でアワアワと口をまごつかせ、私と視線を合わさない様に地面の方を見て目を白黒させている。 「いつから?」  私がそう尋ねると、 「へっ?」  と、裏返った声で聞き返してきたから 「いつから“ココ”で働いていたのかって聞いてるの!」  と、質問の意図を分かり易く伝えてあげると、私の口調が強かったせいか樹希はすっかり怯えてしまって言葉が返せなくなってしまう。 「………………」 「…………………………」  睨む私と恥ずかしそうに頬を赤く染めて床を見続け黙ったしまった樹希……。このままでは話が進まないと思い私は強い口調を止め今度は優しく彼女に問いの言葉を投げかけた。 「ねぇ……もしかして、この仕事……誰かに強要されてやってたりする?」 「……え? 強要……?」 「いや、例えばさ……家が大変なことになってるとか、誰かが人質になっていて仕方なく働かされているとか……そういう事件的な何かが背景にあったりするのかなって……思っててさ……」  私の言葉にキョトンとした表情を浮かべる樹希……彼女のその表情は可愛く見えるが、この緊張した空間では間の抜けたその顔が腹立たしく思えてきてしまう。 「ううん……そんな事は別にないけど……」 私と目が合った樹希は気恥ずかしさが蘇ったのかその目を再び地面に落とすが、消えゆくような語尾の中に私の杞憂を打ち消す言葉を返してくれた。 「本当? 誰かに口止めされているから言えないとか……そういう事じゃない?」 「う、うん……」  私は少し安堵した。  どうやら事件に巻き込まれたり犯罪的な背景があってここに働きに出されているわけではないようだ。  私の安堵した際に出た溜息を見て、樹希はポカンとした表情を浮かべ……やがて事情を察したのか彼女も安心したかのような笑みを口元に浮かべた。 「もしかして……私の事心配して見に来てくれたりしたの? お金まで払って……」  不安な顔はどこかに飛んでいき、ニコリと笑顔を見せて私に言葉を返す樹希だけど……この笑顔を私は久しぶりに見た気がする。ツンツンする前の頃の……笑顔だ……随分と懐かしい……。 「そうよ! あんたの様子を見るためにいくら払ったと思ってるの! 後で請求してやるからね!」  顔では怒っている表情を作ってはいるが内心では大事では無かったという安堵感と、久しぶりに樹希の素の笑顔を見れたことへの安心感が混じり私の緊張もすっかりほぐれてしまう。 「うん……ゴメン……なんか……心配かけちゃったみたいだね……」  謝りつつも自分の晒されている格好が今更恥ずかしくなったのか腰をモジモジさせながら手足の枷をカシャカシャと鳴らせて藻掻き始めている樹希の姿を見て、私は熱い血液がドクンと体中に巡るのを自身で感じた。 「ね、ねえ……」  私はゴクリと生唾を呑み込み恐る恐る言葉を零す。 「は、はい?」  私の緊張が伝わったのか樹希も口元をヒクつかせながら緊張のこもった声を返す。 「じゃ、じゃあ……なんであんた……この仕事……やってるの?」  そう……。事件じゃないのなら、彼女の働く理由が分からない。清純可憐な樹希がこんないかがわしい店で働く理由が…… 「そ、それは……言えない……♥」  樹希は言い辛そうに言葉を濁しながらまた床を向く。でもこの表情を見る限り別に事件的な意味で言えないという様子ではない……なんだか良く分からないけど樹希は嬉しそうな笑みを浮かべているのだ……私に問い詰められているというのに……。 「何で言えないのよ! 笑ってないで教えなさいよ!」  私の問い詰めに、なおも樹希は嬉しそうに笑みを浮かべている。こっちは状況が全くつかめなくて心配しているというのに……彼女はお構いなしに何かを楽しんでいる様子だ……緊張感のなくなったその顔……それがなんだか腹立たしくなってきた。 「だって……恥ずかしいもん♥ 絶対に教えない!」 「恥ずかしいのはあんたがさっきまで言ってた誘い言葉でしょうがっ! 何が『ご主人様ぁ~♥ なんで止めちゃうんですかぁ~』よ! 普段のあんたは絶対そんな言葉吐かないでしょうがっ!」 「ちょっ、恥ずかしいから言わないでよ! あ、あれは……マニュアル通りに言ってるだけで本心なんかじゃ……」 「嘘つけ! あんだけわざとらしく足裏見せたり足指をくねらせて誘ったりしておいて……誘いに乗って責めたら悦んだりしちゃってさ! あれも演技だとでもいうの?」 「うぐっ! そ、それは……」 「どうなのよ? 本当のこと言いなさいよ! 悦んでたんでしょ? あんた……」 「そ、それを言えば! 聡美だって!」 「何よ!」 「聡美だって……なんで私が運ばれてきてすぐに事情を話さなかったの?」 「っッ!?」 「私の事が心配で見に来たんだったら……羽根とか購入せずに……すぐアイマスクを取ってくれたらよかったじゃない! それをしなかったのはなんで?」 「むぐ!? そ、それは……」 「ねぇ、なんで? 本当に心配してたんだったら真っ先にそうしたはずじゃない! なんで? ねぇ!」 「うぐっ……うぅぅ……」 「本当は心配なんてしてなかったとか? 私の事……玩具にしてみたいって前から思ってたとかかしら?」 「ち、違っ! 私は本当に心配してっっ!!」 「じゃあなんで? 聡美こそ答えてよ! なんで私の身体を前にして欲情しちゃったのよ!」 「よ、欲情? よ、欲情なんて……そんな……」  そこまで言葉を返すと樹希の顔が急に曇天の空模様の如く曇り始める。 「……して、なかったの? 私の……身体を見て……」  今にも目尻の端から雨のような涙が降り溢れ出しそうな悲しげな表情。 「い、いや……その……」  私はどう答えたらいいか分からない。  確かに彼女の身体を見て欲情したのは事実だ。  だって……私の想いは強かったから……。樹希を好きだと想う気持ちは誰よりも強いと自負していたのだから……。 想い人の身体が目の前に転がってきたら……そりゃあ……そういう気持ちが湧かない筈がない。 好きな人が目の前で目隠しをされて身体の自由を奪われているという状況は……日常で転がってくるはずがない特異な状況なんだし、今後もそういう状況を味わえる保証もない……。だったらせっかくのチャンスなんだし少しだけこの状況を楽しんでしまうのも悪くないと思った。彼女の状況云々より……そっちを優先してしまったのは確かだ。 「私の身体……そんなに魅力……ない?」  そんな事を言われて私は「はい」と答える節操無しではない。まぁ、事実……欲情したのは確かだし…… 「そ、そんな事はないっ! 樹希の身体は……その……すごく……魅力的で……」  いつしか立場は逆転し真っすぐに見つめる樹希の視線が痛くて、私の方が目を横に逸らしてしまう。 「私に誘われて……どう思った? 私の拘束された身体を見て……どう感じた?」  視線を合わせないよう逸らせた視線だったが、そのように問われ改めて目だけを横に向け樹希の身体を見回す。  相変わらず身動きが取れない様に拘束された手足……少しだけ反る様に曲がった背中……膝から曲げられた脚……。  さっきまで羽根でイジメていた足の裏……突き出すような格好になっている腹部と母性を象徴するかのようなふくよかで張りのある胸……。華奢な肩……凛と伸びた首筋……青み掛かった長い髪……そして真面目な顔で私の答えを待つ可愛いその顔……。  それらが私の前に差し出されている。何の抵抗も出来ない様に拘束され……無防備に私の前に……。 「触りたいって……思った」  率直な感想だ。今もさっきもそう思ったのだ、それが偽りない私の回答。 「私の身体を?」  樹希の言葉に大きく頭を頷かせ言葉をつなぐ。 「そう……あんたの身体……触りたいって思っちゃったのよ! 悪い?」  樹希が今どんな顔をして私を見ているのか……知るのが怖い。照れ隠しに半ギレっぽい言い方で自分の変態性をカミングアウトしてしまったけど……普通の女子である樹希がそのような同性の告白を聞いて喜ぶはずがない。樹希が……普通の女子であれば…… 「ううん、悪くない。嬉しいよ……」  私はその返事を聞いて一瞬頭が真っ白になる。  普段の彼女なら感情などまるでない冷めた言葉を並べ立て、私との距離を離そうと敵愾心丸出しの態度を取っているはずなのだが、彼女の返事は柔らかく温かい声色だった。 「……い、樹希?」  私は恐る恐る横に逃がしていた視線を樹希の顔に戻していく。  そこには満面の笑顔で喜んでいる彼女の顔があり、私は戸惑いとともに驚いてしまう。 「聡美にそう言って貰えるとは思っていなかったから……私は嬉しい……」  ニコリと顔を僅かに横に傾け不自由な体で喜びを表そうとする樹希……。私もつられて「はは……」などと気の抜けた笑いを零すのだが、未だ実感が湧かない。そりゃあそうだ……昨日までの樹希の態度は完全に私を嫌ってる風にしか捉えられなかったのだから。 「ね、ねぇ。樹希は……その……私の事……嫌っていたわけじゃ……ないの?」  分からない事があったら考えるより先に聞いてしまう……私の悪い癖の一つなのだが、この場合は不可思議なことが多すぎて頭が回らなくなっているというのが正直なところ……私は聞くのが怖いと思いつつもド直球な質問を彼女に投げかけた。 「嫌っては……ないよ。ただ……私の気持ちを分からせたかったから……少し冷たくしてた……だけだし……」  完全に嫌われていると感じていた私にとって樹希の返答は驚愕すべき内容だった。  まず嫌われていなかった……という事実に戸惑いを覚えてしまうが、驚愕すべきは「気持ちを分からせるために“少し”冷たくしてた」という部分! 彼女の言う“少し”とはどういう基準でそう宣ったのか……。あの仏頂面と棘のある言葉の数々は私じゃなければすぐにへこたれて顔も見たくなくなるレベル……。それを少しだと言い切っているのだから……彼女の脳内の判断中枢は明らかなエラーを出していると言わざるを得ない。 「す、少しって……アレのどこが少しなのよ! 私……完全に嫌われているって思っちゃってたんだよ?」  事実、周りの友達に聞いても私と樹希の仲は「もう終わっている」と判断されて噂が出回っていたという。それほどまでに冷淡な扱いを受けていた訳なのだけど……樹希はそうは思っていなかったらしい。 「だって……いつまでたっても気付いてくれなかったじゃん! 聡美は鈍感だから……」  笑顔を見せたかと思えば今度は普段の仏頂面に表情を変え、私を睨みながら語気を強くする彼女。私はその表情にまたもドキリとさせられてしまう。 「ど、鈍感って……どういう意味?」 「もう! そういうとこっ! ここまで言ってあげてるのに気付いてくれないのが“鈍感”だって言いたいの!」 「は、はい?? えっ??」  確かに……周りの友達からも「あんたは素直すぎて馬鹿なんだからもっと思慮深く行動なさい」と不名誉な窘められ方をされていたのだが……樹希はそんな私を“鈍感”だと責め立てる。感情に素直である事と考えるより先に行動してしまうという点では馬鹿なのだと自分でも思うのだけど……彼女の言う鈍感という言葉が一体何に対してそう言われているのかという問いに対する答えが出てこない……。 「あぁもう! じゃあ、なんで私が聡美に冷たくしたと思う?」 「えっ? そりゃ……私の事が嫌いになっただけなんじゃ……」 「だ~か~ら~! そうじゃないって言ってるでしょ!」 「な、なによぉ! そんな難しいこと聞かれても私が分かるわけないじゃん! あんたじゃないんだから……」  頭の中がグチャグチャしてて考えがまとまらない。樹希が冷たくなった理由なんて……本人以外分かる筈もないだろうに、彼女は私に答えを求めてくる。当然私は考え無しに「分かるわけない」などと声を上げてしまったのだが、その言葉に樹希は少し悲しそうな顔をしながら声のトーンを落とし質問を変えてきた。 「あの日……クラスが別々になったあの日……最初の会話……覚えてる?」  クラスが別々になった日とは……高校2年に進級したあの日だったっけ。その前から樹希の様子はどこかよそよそしくなっていたのは覚えているけど……クラスが別れてからは一層他人行儀な態度が強めった徐々に疎遠になったという事だけ覚えている。でもクラスが別れた日の最初の会話の内容なんて…… 「う、ううん……あまり覚えてない……」 「でしょうね。聡美は……大した話をしたとは自覚していなかったみたいだし……私がどれだけ傷ついたか……分からないでしょうね!」  樹希が傷ついた? 私……そんな話したっけ? っていうか、そもそも私の性格上そんな誰かが傷つくような話題を口にするはずがない。あの時だってクラスが別々になって私の事を心配してる風だった樹希を安心させるための話題を…… 「聡美はね! あの時こう言ったの! “もうクラスに馴染めて友達も沢山できて楽しくなってきたよ”って……」 「あ、あぁ……うん……そんな話……したっけ……」 「それから次の日もそのまた次の日も……ずっとクラスのお友達の話ばかり! まるで自分は順風満帆に過ごせているよって報告しているかのようにっ!」 「え? そ、それは違うよ! だってほら……聡美だって心配してたじゃん。“あんたは馬鹿なんだからクラスに馴染めるか心配”って……。だから安心させよう思ってクラスのこの話を……」 「知ってるよ! あんたがそう思って喋ってたこと……気付いてた! でも、あの心配は……逆で……」  急に樹希の声がか細くなっていく。目尻に涙が溜まり今にも泣きだしそうな……そんな顔を私に見せる。 「私の心配も……して欲しかった……」  そう言葉を零すと、樹希の目から一筋の涙が頬を伝う。 「私の事を……心配して欲しかった! 同じクラスでの最後の夏休みだって……聡美は私とじゃなくて他のクラスの子と遊びに行ったり、お泊り会とかしてたんじゃない! 私の方こそ……嫌われたのかと……思ってたわよ……」 その言葉を聞いた瞬間ハッとなる。 確かに……その夏休みの序盤にクラスの友達に誘われお泊り会をした。そしてそこで気が合い仲の良くなった別クラスの子と夏休み中遊んでしまったのも覚えている。そしてその子との思い出を友達の少ない樹希に自慢話かのように話していたことも……。 「嫌ってなんか……一度もなかったよ。でも……いつもあんたとくっ付いて遊んでたから……比べられて悔しかったんだ……」 「……比べられてた?」 「そう。親からも……友達からも……樹希は成績も優秀で美人で何でも出来て完璧だけど……あんたはねぇ~って、いつも言われてた。だから……私でも樹希に勝てる部分はあるぞって……いつの間にか思うようになってて……無駄な張り合いをするようになって……」 「……………………」 「あ、あの時だって! 他のクラスの子と仲良くなれたのが嬉しくて……。樹希にはない何かを手に入れたような気がして……自慢したくて……」 「…………………………」 「でも、それは……樹希に自慢したかったんじゃなくて……周りの友達とか……親とかに訴えかけたかった事で……」  あまり考えない様にしていたが、改めて考えなおすとそういう事だ。  とどのつまり……私は樹希を好きでありつつも樹希に対して嫉妬していた。  なんでも出来る……誰からも憧れの目で見られる……そういう彼女が眩しすぎて、私が隣にいるのは不釣り合いじゃないかって思うようになってた。だから……証明したかった……私だって……樹希に負けないモノを持ってるんだぞ……って。 「私は……完璧なんかじゃないわ……」  思ったことをそのまま口に出したらその後の言葉すらも紡げなくなってしまい俯き閉口してしまう私。そんな私に、樹希の優しい声が小さく耳に届く。 「完璧に見えるように振舞わなきゃ……誰も認めてくれないって思ってたから……頑張りはしたけど、でもそれはなんだか自分じゃないような気がして……人の為に演じている自分みたいな……そんな仮面をかぶった自分みたいな気がして……いつも不安で……自信が無くて、怖くて……」  いつもポーカーフェイスを決め込んできた樹希の顔が感情を表出させる。涙はとめどなく頬を伝い唇は何かを我慢しているかのように固く結ばれ身体も小刻みに震えている。 「最初は……自分の外面が良く見えれば……何でもいいとさえ思ってた。だから……聡美と会う前は誰とも接触してこなかった……。人目を避けるように……」  確かに、まだ親しくなる前の彼女は誰に対しても表情を変えず……淡々と日々を消化するようなイメージが私にはあった。  何処か神秘的で……何処かミステリアスで……でもなんだか苦しそうに日々を過ごしているように私には見えていた。 「でも……本当の私はいつも怯えていた。人の目が怖くて……自分が蒔いた種なのに……自分がどう思われているのか気になって……勝手に不安がって……。そんな時聡美が声をかけてくれた……」  その時のことはよく覚えている。  “お昼を一緒に食べよう”って言った私に、警戒心丸出しの彼女が怯えるように私を見たんだっけ……。でも結局食事は断られるんだけどね…… 「その後も事あるごとに私に話しかけてきてくれた……。私はそんな彼女を拒否する一方で……彼女と親しくなりと心の底では思ってた……。そして、ある日……家が隣同士なんだと初めて知ったその日から……」  そう、私が樹希に“一緒に帰ろう”って誘ったけど断られて……でも帰り道はなぜか一緒で……家に着いたらお互い隣同士だってそこで気付いて……それで話が盛り上がって親しくなっていった……そんな感じだった。 「聡美だけは私の壁を乗り越えてきてくれる唯一の存在なんだって思うようになった……」  そんなに私の事を買っていてくれたなんて……その当時の私が知る由もない。だって、興味本位で話しかけて、ただ自分の好みだと判断したが故に“意地でも仲良くなってやる”ってくっ付き出しただけのキッカケなんだから。 「そして聡美と話すようになって、私は徐々に秘めていた自分を表に出すようになってた。高く組み上がってた心の壁も、聡美と一緒にいるときは高さを感じないほど低く抑えられ……自分の素に近い言葉をしゃべる様になってた。聡美といると……安心してたし本当に楽しいと心の中で思ってた」  この言葉を聞いた瞬間、私は急にあの夏休みの出来事が脳裏を掠め激しい罪悪感に見舞われる。  ここまで私の事を頼っていてくれたとは微塵も思っておらず、私は私の欲と自尊心の赴くままに友人が出来た事を樹希に自慢してた……。かもすれば「私の方がコミュ力もあって上だぞ!」と心の中で優越感に浸っていたことすらある。まさか樹希がそんな思いでいるとも知らずに…… 「ご、ごめん。いくら鈍感な私でも……そこまで教えてもらえば分かるよ。色々と勘違いしてた……本当にごめん……」  私は深々と頭を下げ申し訳ない感情で裏返りそうな声を必死に軌道修正しながらゆっくり言葉を紡いだ。 「……私もゴメン……。自分の気持ちすらも伝えずに……こんな勝手な問答を聡美に押し付けちゃって……私って……ほんとズルいよね? 分かってるの……結局全体的には私の方が悪いって」 「ううん、樹希の気持ちも考えずに……私は自分の“楽しい”だけをあんたに押し付けてきたんだ……だから悪いのは私……」 「でも……嬉しかった。聡美が私の身体を見て……欲情してくれたって言ってくれて……」 「ふへっ!? い、い、いや、アレはその……何というか……言葉のあやというか……」 「私がこういう仕事してるって……夢にも思わなかったでしょ?」 「う、う、うん。そりゃ……ビックリしたよ……ってか信じられなかった……こうして目の前に運ばれてくるまでは……」 「ねぇ……今も……欲情してくれてる? 私のこの身体を見て……」  突然、樹希の表情がいつもの意地悪な顔つきに変わる。 「んへっ!? い、いや……ソノ……ナント言いますか……」  突然のキワドイ質問にドギマギし始める私に、樹希はどこか意地悪でどこか真剣な目を私に向けている。 「私ね……聡美にだったら……この身体を触られたいって……ずっと思ってたんだ……」 「へっ?? んえっっ!!?」 「嫌われたって絶望してたけど……心の何処かで聡美が私の事をまだ好いてくれているじゃないかって……期待してた。だからこのバイトに行くときはいつもワザとらしく家のドアを大きく閉めたりしてアピールしてたんだよ? 貴女が気付いてくれるのを期待しながら……」 「そ、そうだったの!?」 「聡美の事だから、私の事を心配して付いてきてくれるって……信じてた。で、もし私がこんな怪しいカフェでバイトしてるって分かったら……私の事問い詰めに来てくれるんじゃないかって……思ってた。まさか入店してプレイまでしてくれるとは思わなかったんだけどね……」 「んげっ! そ、そりゃ心配するに決まってるじゃん! 事件に巻き込まれたのかもしれないって思ってたわけだし……」 「学校で問い詰められたら……私の事をまだ欠片でも気にしてくれていると思って、自分の胸の内を全部ぶつけようって決めてたの。それで……聡美と……もっと親密な関係にステップアップ出来たら怪我の功名だな……って思ってて……」 「親密な……関係っ!?」 「でも……聡美はココまで来てくれた。私の為に……年齢まで偽ってプレイを注文してくれた……。それは、滅茶苦茶嬉しかった……」 「……そりゃ……だって……私はあんたの事……」 「ゴメン。気持ちを先に聞いておいて卑怯だと思うけど……私の方から言わせて? だって多分……好きになったのは私の方からだから……」 「っ!? す、す、好き!?」 「えぇ。私はずっと……聡美の事……大好きだったよ。その性格も、声も、カラダも……その正義感の強い心も……全部好き。全部……」 「わ、わ、私だってずっと好きだったんだよ! 初めて見た時から……私に無いものばかり持っている樹希が羨ましくて……」 「羨ましいから……憧れで……好きになってくれたの?」 「ち、違うよ! 憧れたのは本当だけど、それだけじゃなくてっ! その身体も、その顔も、そのちょっとズルい性格も、全部好きになってたの! 樹希の全部を好きになってたのっ!!」 「そっか……じゃあ、最初から……相思相愛だったのかもね? 出会った……あの日から……」 「そうだよ! 最初から好きだったんだから……相思相愛だよ! 間違いなく!」 「嬉しい♥」  樹希の目から不安な涙が消え今度は温かみを感じる涙が溢れ出した。  実際に触ったわけではないから体温を感じるかは分からないけど、その笑顔から流れる涙はとても温かみが強く……本当に安心してくれたんだと遠目にも判断できる。  私も同じような涙を流した。  ずっと嫌われていると思っていた相手が……実は好きの裏返しの行動をとっていたと分かって胸の奥がとても温かくなった。  そしてそれと同時に緊張がほぐれ、入っていた力が抜けていき……未だ拘束され身動きが取れない彼女を見てまた別の感情が沸々と湧き始めたのを感じた。 「ねぇ……樹希?」 「うん? なぁに?」 「プレイの時間って……まだ残っていたわよね?」 「……えぇ、まだたっぷりと♥」 「だったら……お仕置きしなくちゃダメよね? 私の事……翻弄してくれちゃったわけだし……」 「えぇ~~? 翻弄なんてしてないわよぉ~? ちょっとヤキモチ焼いて意地悪しただ~け♥」 「私がどれだけ心配してたか分かる? どんだけ心配してこの店に入ったか……分かってる?」 「さ、さぁ……分からないなぁ~」 「だったら……その身体に分からせてやろうかしら! せっかく無抵抗にされている訳だしね♪」 「い、いや~~っ! 怖い~~! 何企んでるんですかぁ! エッチなことするつもりなんでしょ? この変態ぃ~♥」 「あんただってさっきは悦んでたでしょうが! 誰とも分からない客に嬲られて……」 「(ギクッ)そ、そんな訳……あるわけないでしょ? 私は……聡美が来たと分かってたから……悦んでいただけで……」 「どちらにしても悦んでたんじゃないっ! どっちが変態よ! このドMっ!」 「ち、違うもん! 聡美がいやらしく触るから……」 「へぇ~じゃあ試してみましょうか? 今度は本気であんたの事くすぐってあげるから、変な声出さずに我慢できるか……」 「の、望むところよ! もう変な声は出してあげるもんですか! フン!」  こうしてお互いの誤解も解け、安堵と幸福感を同時に得た私と樹希はその目の前に広がる異様なシチュエーションに改めて目を向けプレイの続きをするという選択肢に手を付けた。好きだと思っていた相手から好きですと言って貰えた高揚感は私のテンションを天井知らずに引き上げ、目の前で生贄のように捧げられた樹希の身体を触りたくて仕方なくさせられる。  プレイでなくても……今後は触らせてもらえるのではないか? と思いはするが、今は今の状況を楽しみたい……欲望に忠実な私の性欲はそのように思考中枢を麻痺させ、私が望んだとおりの行動を強いていく。  その欲望が……後に大変な出来事に繋がってしまうとも思わずに……。  意の向くまま……欲望のまま……心のいくままに……。


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