(試し読み)オペレーションブルーアルカディア♯3-5
Added 2020-12-02 11:58:10 +0000 UTC5:目覚めた瑞樹 瑞樹 「あぁっっ!? ま、舞華様っっ!! こ、これは一体どうなっているっスか!!?」 ロープにより腰に回されて拘束され座らされていた瑞樹であったが、舞華の姿を一目見るなり拘束されているのが嘘であるかのように綺麗に立ち上がりホール中に響き渡るかのような声を張り上げて舞台の中央へ歩み寄ろうとする。 舞華 「うわっ!? あんた拘束されてるのになんで普通に立ち上がれるのよっ!」 手が不自由になるよう拘束したことですぐには態勢を整えられないだろうと踏んでいた舞華であったが、合気道を会得している彼女の体幹やバランス感覚は普通の人とは違うのだと改めて思い知らされる。 瑞樹 「えっ!? この手の拘束……もしかして舞華さんがヤってくれたんですか?」 本来ならば足や身体も拘束して然るべきだと思ってはいたが、それよりも茜の運び込みや拘束などの方が手間どりすっかり簡易的な拘束で済ませた瑞樹の事が頭から抜け落ちてしまっていた。心の何処かで“手さえ縛っておけば問題ないだろう”という甘い考えが巡り結局瑞樹を放置する形となってしまったが……その甘い考えが今回ばかりは仇となる。 舞華 「う、動かないでっ! あんた……今……私達の敵なの? それとも……」 瑞樹 「敵? 敵ってどういう事ですか? 自分は生まれて死ぬまで舞華様のいちファンでしかありませんよ♥」 瑞樹は覚えていない。 自分が催眠によって操られていた事を……茜や美波達の言いなりになっていた事実を全く覚えていない。 舞華 「今は……普通の状態に戻ってるみたいね……」 瑞樹 「……?? 普通ってなんスか?」 舞華 「い、いいから! そのまま壁際に戻りなさいっ! これ以上近づいちゃだめよ!!」 瑞樹 「んえ? やだなぁ~舞華様♪ 私だって戦いますよ~微力ではありますが色々お手伝いしますから戦力として数えてもらいたいっス」 舞華 「ダメよ! あんたは信用ならない! 壁際に戻って大人しく座ってなさいっ! 手の拘束も解いちゃだめよ!」 瑞樹 「……手の拘束って……これっスか?」 モゾモゾと肩を揺らして後ろ手に何かをし始めたかと思えば、数秒も経たないうちにロープを持った手を前に差し出した瑞樹。あまりの早業にそれを見ていた舞華は発しようとしていた次の言葉を思わず言葉を呑み込んでしまう。 瑞樹 「こんなお粗末な拘束じゃあ私の事捕まえてられないっスよ♥ 拘束プレイがお望みでしたら体中ぐるぐる巻きにする勢いでないと……」 いとも容易く縄抜けを行ったことを自慢げに舞華に見せつけ更に舞台の中央へ近づこうとする瑞樹に舞華はハッと我に返って再び声を上げる。 舞華 「だ、だから近づかないでっっ!! すぐに大人しく戻りなさい!!」 瑞樹 「えぇ~? 拘束の次は突き放しプレイかなんかっスかぁ~? 舞華様も好きっすね~~? って……あれ? そのベッドの上に横になっている女性は……」 緊迫する舞華の言葉をまるで何かの冗談でも言っているかのよう真逆に捉え真剣に聞こうとしない瑞樹だが、舞台の中央のベッドの上に拘束されている女性に興味が移りまたも2歩3歩と舞華たちに近づいしまう。 様子から察するに最初に出会った頃の瑞樹に相違ないはずなのだが、その朗らかな笑顔に反して歩を進めてくるたびに強まるプレッシャーが舞華に度し難い不安を植え付ける。 瑞樹 「っ!? あ、あれ?? なんでリーダーが……こんな所にっ??」 瑞樹の見事な縄抜けに目を白黒させて驚き思わず手を止めてしまっていた皐月と、不安と焦りが高まり気が付けば羽根を床に捨て拳を前に構えて警戒態勢を取ってしまう舞華……。しかし瑞樹はそんな彼女達の奇異を見るような視線など気にする様子も見せずベッドに拘束された女性を見て驚きの声を上げる。 舞華 「来るなって言ってるでしょっ!! 戻りなさいっっ、今すぐにっ!! 刷り込まれた記憶の中で瑞樹にとって茜は“自分をスパイとして送り込んだ直属の上司”であると認識している。極限まで拷問繰り返し無理やり刷り込ませた偽の記憶であるが彼女の中ではそれが真実であると脳が判断を下してしまっている。だから瑞樹は舞華の制止など耳にも届かず自分の上司である茜のもとへ近づいてしまう。本部でマイク越しに指示を下している筈だった上司が目の前にいて……しかも拘束されているという現実を突き付けられたのだから……。 瑞樹 「リーダーっ! まさかリーダー自らこの作戦に随伴してくれていたなんて……自分はビックリですよ!」 想定よりも素早い動きで歩を進めた瑞樹に、どう対応しようかと判断を決めかねた舞華は彼女のその動きを止めることが出来なかった。 素早く茜の上半身の部位まで駆け寄り……そして、何やら勝ち誇った笑みを浮かべている彼女の顔を眼下に収める。 舞華 「だ、だめっ! 近づいちゃダメっっ!!」 マシンに笑わされている顔ではない“自ら作ったであろう邪悪な笑顔”を茜の顔に見た舞華は慌てて追いかけるように彼女の後を追おうとするが、時すでに遅く…… 茜 「フフフ……瑞樹ちゃん……よく聞きなさい」 瑞樹 「?? り、リーダー??」 茜 「蝶の羽根の色は“赤”に染まったわ……蝶の羽根の色は赤よ……。赤……」 瑞樹 「蝶の……羽根…………赤……?」 茜 「そう……赤よ。蝶の羽根が赤くなったら何をするべきだったか……勿論……覚えているわよね?」 瑞樹 「羽根が……赤……。赤は……警戒……。敵を……警戒……」 茜 「そうよ。敵は貴女の目の前にいるわ……。彼女達がその敵よ」 瑞樹 「敵を警戒しているときは……敵を見つけ次第……攻撃に……」 茜 「そうね……攻撃しなくちゃだめよね? 敵なんだから……」 瑞樹 「敵は……攻撃……。敵は……攻撃しなくては……」 茜の囁きに耳を傾けてしまった瑞樹の顔はみるみる生気を失い、代わりに憎悪を宿したような怒り顔を浮かべなおしてそれを舞華に向ける。 その表情に、先程までの親し気な雰囲気は一切感じ取れず、剥き出しの敵意を向けられた舞華は拘束ベッドを操作していたタブレットを皐月に手渡し瑞樹から目を離さないように睨み返しつつ茜に声を飛ばす。 舞華 「今のが催眠術だか洗脳だとかいってたやつね? あんた……今命令したんでしょ? 私を敵として倒すように……」 茜 「そうよ。舞華ちゃんは知っているでしょう? 彼女が合気道を扱えることを……」 舞華 「えぇ……身体に染みついているらしいわね? 私の不意を突いたはずの攻撃が一切当てられなかったわ……」 茜 「フフフ……貴女じゃ勝てないわ♥ 彼女の格闘術は本物よ。対人戦闘においては軍人をも凌ぐ技術を彼女には会得してもらっているんだから……」 舞華 「瑞樹は“幼いころから護身術として習った”なんて言ってたけど……やっぱりそういう技術もあんた達が教え込んだものなのね?」 茜 「勿論よ♥ 我々の作戦の要であり、ボディガードの要でもあるのだから……徹底的に叩き込んであげたわ。合気道の先生をワザワザ雇って……ね♪」 舞華 「マーシャルアーツ(軍隊式格闘術)じゃなくてあえて合気道にしたのは……私と対峙させるためにワザとそうしたのね?」 茜 「えぇ……。貴女ってば8人の武装した部下たちを素手で倒しちゃうんだもの……そういう相手にマーシャルアーツは役に立たないわ♥」 舞華 「……敵意を向けるよう命令が出せたという事は、この敵意を解除させるキーワードがあるはずよね?」 茜 「フフ……さぁ、どうかしら?」 舞華 「皐月! あんたにそっちはお願いするわ!」 皐月 「んえっ!? えっ?? そっちって……どっちの事です?」 舞華 「どうせ聞いてもこの女は大人しくしゃべるわけないから……そいつで極限まで苦しめてあげて!」 皐月 「“そいつで”って……もしかしてコレですか?」 舞華 「えぇ! 私はどうやらこの合気道娘と一戦交えないといけなくなりそうだから……そっちの事はあんたに任せるわ」 皐月 「つまり……私が茜さんから聞き出せばいいんですね? 彼女の目を覚まさせるキーワード的な物を……」 舞華 「そう。この合気道娘は、美波達に散々いたぶられた挙句洗脳されて操り人形にされているらしいわ。だから……その主導権をまずはこっちに戻さないとならない!」 皐月 「洗脳されて……催眠をかけられているという事ですね? 予め設定したキーワードだけに反応するよう調教されているという事ですか……」 舞華 「私が倒される前に聞き出して頂戴! でないと……」 皐月 「倒されるって……勝つことは出来ないんですか? 気絶させたりとか……」 舞華 「私の本気の蹴りを2度も無傷で受け止めた程の腕前よ。正直……勝てる気はしてないわ……」 皐月 「…………わ、分かりました! こっちはこっちで……やってみます!」 舞華 「なるべく早くお願いね……。さっきは敵意がない状態だったから反撃も受けていないけど……今はヤる気満々の顔つきになってるわ……」 皐月 「はい!」 胸の前に拳を構え戦闘態勢を崩さずなるべく瑞樹から距離を保とうと歩調を整える舞華に対して、片手の手のひらを舞華の顔に合わせるよう構えジリジリと間合いを詰めようと歩み寄る瑞樹。二人の間には邪魔するものは一切ない。駈け出せばどちらか一方の間合いにすぐさま入るであろう距離でお互い牽制し合っている。 いや、牽制を行っているのは舞華だけであり、し合っているという表現は語弊がある。蹴りを出すそぶりを見せながら間合いに入ってこさせなまいと必死に脅しをかけているが、腰を落としながら手を掲げ滲み寄ってくる瑞樹の迫力に舞華は押されすぐに舞台袖まで追い込まれてしまう。 これ以上さがれば、ステージの壁に背中が当たってしまい急な奇襲から逃げ場を失いかねない……。 どんな攻撃が繰り出されるか分かったものではない……初手から致命の一打が繰り出される可能性だって往々にしてある。だから下手にこちらから攻撃を繰り出せない。繰り出しても……防がれカウンターを食らうのがオチだと分かっているから……。 茜 「フフフ……私が簡単に吐くと思いますの? 瑞樹ちゃんの暗示を解くワードを……」 皐月 「あの様子ですと……かなり無茶な洗脳を行ったようですね……」 茜 「まぁ、壊れる寸前まで追い込んで植え付けた暗示だから……気絶させるかキーワードを伝えて待機状態に命令変更するしか彼女を止めることは出来ませんわね♥」 皐月 「だったら……彼女を止める言葉……教えてもらわなきゃいけませんが……」 茜 「どうやって聞き出しますの? また体中をコチョコチョして私の事面白おかしく笑わせてくれるのかしら?」 皐月 「そうですね……しかし、今度はあんな生温い遊びで貴女を楽しませるつもりはありません……」 茜 「へ、へぇ~~可愛い顔して怖い顔も出来るのね……貴女……」 皐月 「えぇ……もう遊びの時間は終わりです。貴女には選んでもらう事にします……」 茜 「……何を?」 皐月 「喋るか……死ぬか……を、です」 茜 「っっ!?」 皐月 「本当は……この“処刑モード”を使ってギリギリまで責め抜いて情報を吐かせる予定でしたが……もう、そうも言ってられません……」 茜 「……くっっ!」 皐月 「貴女が喋るまで……このモードは止めてあげません。何があっても……」 茜 「そ、そのモードは……本当に命を落とすよう設計されていますわ……。ベッドには脈拍や脳波を観測して何処を“ヤられれば今一番効果的か”を瞬時に判断してフィードバックできるようになっているから、これに掛けられた者はどんなに刺激に鈍感になるよう訓練された兵士であろうとも笑いを堪えることは出来ない作りになっているわ……。最後まで稼働させれば間違いなく命を奪う事になるヤバいモードですのよ? その危険性を知っていて本当に実行しようとしてますの?」 皐月 「その危険なモードを……貴女は舞華さんに行いましたよね? 笑いながら……」 茜 「うぐっ! うぅ……」 皐月 「あの時……貴女はこのマシンを止める気は無かったでしょう? 舞華さんをショーの見世物として殺す予定だったんですから……」 茜 「そ、そんな事は……」 皐月 「いいえ、舞華さんだけでなく私も……今捕らえられている千沙さんも岬さんも……誰一人この船から降ろすつもりではなかったでしょ?」 茜 「さ、さぁ……どうかしら……」 皐月 「とぼけなくても大丈夫です……。ここに来る途中で貴女のPCをハッキングさせて貰いましたので、貴女達の計画私は知っています」 茜 「んなっ!? 私のPCをハッキングっ!? あのPCには5重のロックを掛けてあったのよ! そんなことが出来るはずが……」 皐月 「この船……爆破して沈める予定なんでしょ? 私達と共に……」 茜 「なっっ!?」 皐月 「船底にこの船を沈められるだけの爆薬が仕掛けられてて……このパーティの最後にそれを起爆して船を沈めて自分たちはその船の中で死んだと報道させ別の国へ渡って雲隠れする手筈だった……。それが今回の“研究発表会”の真の目的ですよね?」 茜 「そ、そこまで知っているという事は……本当にハッキングを……」 皐月 「その爆破を行えるのは美波さんのPC端末を経由しなくてはならない……。ログインIDもパスワードもすでに分かってはいますが……残念なことにそのPCは通信ジャミングが掛かっている範囲に置かれてあってハッキングは出来ませんでした……恐らく美波さんや千沙さんたちの居る船底付近にあるんだとは思いますが……」 茜 「船の爆破の事を知っているんだったらなおの事私を解放しなさいっ! こうしている間にもその計画は進んでいますのよ! 私と彼女は別々に脱出する手はずなのだから……私が捕まっていることを知らない彼女は爆破を速めるかもしれない……」 皐月 「だったら瑞樹さんの制御の仕方を話してください。そうしたら拘束だけは解いてあげます……」 茜 「そ、それは……」 皐月 「話すのを渋るという事は貴女はまだ何か良からぬことを企んでいるという事でしょう? そう……例えば……」 茜 「………………」 皐月 「処刑が完了する前に……瑞樹さんが舞華さんを打ち倒し……貴女を助けに来る……とか?」 茜 「うぐっっ!!」 皐月 「この処刑モード……確か40分くらいかけてジワジワ命を奪うよう設計されているんでしたよね? そこのスクリーンにもご丁寧に説明が書いてあります」 茜 「くっ…………」 皐月 「40分……いや30分もあれば瑞樹さんが助けに来れるって踏んでいるんでしょう? ズル賢い貴女の事だから……」 茜 「……………………」 皐月 「そんな希望……私が粉砕してあげます♥ これから……」 茜 「っっ!?」 皐月 「舞華さんから直々に任されたんですから……私も本気で貴女の命を脅かして見せます。どんな手を使っても……」 茜 「ひっ! 何を……するつもり?」 皐月 「40分なんて時間はかけさせませんよぉ! せいぜい泣き喚きながら笑い狂ってください……」