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オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑦

7:死闘 舞華 「…………っはっっっ!!」  呼吸を吸い込んだと同時に力を足に集中し、片足を軸に地面を踏みしめて身体をグルリと回転させ、もう片方の足をその遠心力を利用して素早く振り抜いて瑞樹の顔めがけて横薙ぎの一閃を繰り出す舞華だったが…… ――パシッ!  乾いた音と共に彼女の蹴りは瑞樹の顔の横で止められてしまう。  渾身の力を込めて振り抜いた脚であったが……瑞樹は表情一つ変えずに片腕を顔の横に構え、その腕だけで舞華の重い蹴りを難なく受け止めた。 舞華 「くっっ! あんた、まさか催眠で痛みも感じなくされているの? 今の一撃は私のフルパワーで繰り出した蹴りよ! それを腕一本だけで受け止めたんだったら骨の一本くらい折れててもいいくらいなのに……」  蹴りの衝撃は確かに凄まじいものだった。並の人間なら腕に響いた衝撃で痛みに悶えてもおかしくはない程の威力はあったはずだ。しかし瑞樹はその衝撃をものともせずただ真っすぐに舞華の目を睨みつけるように見つめ痛がる様子も見せない。  顔色の一つさえ変わってくれればダメージの度合いを測りながら次の攻撃に繋げられるものだが……眉ひとつ動かさない彼女の不気味さは舞華に次の攻撃を出し渋らせてしまう。 瑞樹 「敵……排除。邪魔者は……消す……」  右手は拳を握って顔の前に……左手はその手より少し下にさげた位置で同じく拳を握って警戒態勢を取っている瑞樹。舞華とは違って小柄な体躯の彼女だが、その背丈が更に低くなるよう膝を柔らかく曲げて柔軟に動けるよう構え……摺り足を繰り返しながらジワジワと舞華との距離を縮め、自分の攻撃が当たる射程圏内へと近づいていく。 舞華 「下手に攻撃を繰り出せばまた止められるし……その後の反撃が怖い……。かといってこのままジリジリと距離を詰められれば、私の蹴りが上手く繰り出せなくなる……」  瑞樹が少し距離を詰めれば舞華の足は自然と後ずさりし彼女との距離を取ろうと下がってしまう。瑞樹が一歩前へ踏み出せば舞華は一歩後ろへ下がる……そんな状態を繰り返していると舞華は一方的にステージの端まで後ずさってしまい、いよいよ距離を取るという行為自体が難しくなってしまう。 瑞樹 「敵はすぐに……排除……。邪魔者は……すぐに……」  明るさの抜けた目の光が舞華の顔を睨みつける。先程まで子犬の様になついていた彼女の表情は嘘であったかのように影の入った視線が舞華の顔に突き刺さる。  へたな攻撃は打てない。しかし攻撃を繰り出さなければこのまま距離を詰められ、背後に壁を背負う事になってしまう。そうなってしまえば舞華自慢の華麗な脚技も壁に邪魔され上手く繰り出せなくなる。  壁まで追い込まれるわけにはいかない! ここはイチかバチか……攻撃に転じるより道は無い! 舞華 「…………っっ!!」  焦りの汗を額に滲ませる舞華だったが……壁際まで追い込まれるのは絶対に避けたいと心に命じ、再び軸足に力を込めて地を強く踏みしめ始めた。 舞華 「っっりゃあぁぁぁぁぁ!! 当たれぇぇぇぇっっ!!」  軸足の筋に力が入ると同時に再び身体を素早く回転させ遠心力を付けた舞華は先程と同様に蹴りによる横薙ぎの一閃を繰り出す。その蹴りは最初こそ顔をめがけて弧を描くが、その途中で急激に軌道を低く抑え始め顔よりも下の部位を狙って振り抜かれた。意表を突くように軌道を変えたその蹴りは瑞樹の顔よりも随分と下の横腹に照準を絞って強打を繰り出す。  十分に勢いの乗った蹴りであった為この軌道を変えた蹴りには対応できないだろうと想像していた舞華だったが…… ――パシッっ!!  瑞樹はまたも顔色一つ変えずに腕を低く構え直し舞華の蹴りの変化にもしっかり対応する。  目にもとまらぬ速さの蹴りであったにもかかわらず再び腕の一本だけで防がれてしまった舞華は、受け止められた脚を戻して体勢を整えるようとしてみせるが…… 舞華 「ふんっっっ!!」  受け止められた脚は完全には引かず逆に力を押し付けるように腕に荷重を加えると、その力によって宙に飛んだ舞華は身体を出来る限り回転させ、先程まで軸足として踏ん張っていた方の脚に遠心力をかけなおして“第二の蹴り”繰り出して見せた。  普通なら蹴りが止められた時点で態勢を整え直すために脚を引くが……舞華はさらに意表を突くために身体を宙に放り投げる形で第二の蹴りを繰り出した。  最初の蹴りが受け止められた衝撃を利用して身体を捻れるだけ捻って繰り出す第二の蹴り……これを行えば着地の際間違いなく身体を地面へ強打する事は分かり切っている。言うなれば捨て身の蹴りであるのは言うまでもない事だが、鉄壁の防御を誇る瑞樹には型にはまった攻撃など通じるはずがない。何かを犠牲にして虚を突かないと、蹴りの一発さえも入れられない……。そう感じた舞華は考えるより先にこの第二の蹴りを放った。空中で無理な態勢を取ってしまう事になると分かっていながらも……。 ――バシッッ!!  完全に虚を突いたであろう第二の蹴りは、瑞樹の無防備な頭のこめかみに見事クリーンヒット……  ……してはくれなかった。  舞華のつま先はまたしても彼女のこめかみの真横で止まり……蹴りの為に無理な態勢で宙を舞った彼女は空中で身体を横に捻ったまま地面へと落下……。身体の左側面を固い地面に無防備に叩きつけられ痛烈な打撲を負う事となってしまった。  脇腹と腰骨、そして肩までもが地面に叩きつけられ激しい痛みに苦悶の表情を浮かべる舞華。まさか虚を突いたはずの蹴りが防がれるとは思いもよらず、隙を作るまいと慌てて起き上ろうとする舞華に困惑と苦痛の両方の色を塗った表情を浮かべさせる。痛みを堪えつつどうにかヨロヨロと立ち上がることが出来た舞華だったが、その体勢は先程までの攻撃的な構えから一転して身を守るための防御の態勢を自然と取る事となった。  最初の蹴りは先程と同じように左の腕全体で受け止められたのは見ていた。しかし第二の蹴りは身体が空中できりもみ状態になっていたため何に受け止められたのか見ていない……しかし未だ構えを崩していない瑞樹の姿勢を見ると何に止められたのかがすぐに明らかとなる。  顔の横に構えられた手……その手は固く拳を握った状態でそのまま残されていた。 舞華 「まさか……拳で受け止めたっていうの? あの蹴りを? 全く……どんな反射神経してんのよ……あんた……」  予測が難しいであろう第二の蹴りを視線すら動かさずに拳にて舞華の脚を止めて見せた瑞樹だが、その事を自慢げに語る事も鼻にかけて笑うようなこともしない。ただ冷淡に舞華から目を離さないよう睨みつけ……隙を一切見せないようすぐに構えを変える。 舞華 「痛っっ!! くっっ……」  氷のような視線を向けられ思わずたじろいでしまった舞華は、戦いのアドレナリンが途切れたのか拳で受けられた脚に鈍い激痛を感じ思わずその脚に視線を運んでしまう。  瑞樹の拳は舞華の蹴りを防ぐために彼女の“脛”に拳を当てていた。舞華の脛は瑞樹の拳の形通りの青黒い痣をこしらえており、その部分が鈍器で殴られているかのように痛んでならない。  その痛みたるや立っていることも困難となり思わず片膝を床について姿勢を崩してしまう程だった。 瑞樹 「邪魔者は……排除。敵は……排除……」  一方の瑞樹の方は拳に痛みすら感じていない様子で何事もなかったかのように構え直し、また舞華との距離を詰めようと摺り足移動を行い始める。立つことも困難になってしまった舞華はその詰め寄りに恐怖を覚え、負傷した脚を引き摺りながら舞台の端まで身を寄せ少しでも距離を取ろうと足搔く。  しかし……壁際まで追い詰められ尻を地面につけたまま脚を引き摺った状態で移動できる距離には限りがあり、結局ものの数歩分しか移動は出来ず……構えながら慎重に歩を進める瑞樹に簡単に距離を詰められてしまう。  すっかり“攻撃する”という意思を削がれてしまった舞華は、滲み寄る瑞樹に向かって強気な態度が組めず……思わず彼女に乞うような言葉を零してしまう。 舞華 「み、瑞樹! ちょっと休戦しない? ほ、ほら……私……負傷しちゃったから……ちょっとだけ……ね?」  言ってもどうせ伝わらないと分かっているが、自分の言葉なら僅かでも反応があるかもしれない……そう願いながら迫る瑞樹に言葉を放ってみるが…… 瑞樹 「敵は……排除っ!」  休戦はもとより舞華の言葉すら聞いていないかのように表情一つ変えず拳を強く握り、僅かに腕を後ろに引いたかと思うと次の瞬間…… ――ヒュッ!  風を切る様な音と共にその拳は真っすぐに舞華の顔面目掛けて振り抜かれた。 ――バキッ!!  一閃が走るかのような素早い正拳突きだったが、腕の動きを見ていた舞華はかろうじてその正拳突きを寸前の所で横にかわす事が出来た。  顔から外れた瑞樹の拳はそのまま舞華の背後にあった舞台の板壁を突き破り、まるで大口径の銃でぶち抜いたかのような穴をその板にあけて拳の威力の凄まじさを舞華に嫌というほど思い知らせる。 舞華 「ま、待ちなさいって!! そんな本気で殴られたらいくら私でも……」 瑞樹 「邪魔者は……すぐに、排除っ!!」 ――シュッ!!  舞華の制止の言葉も空しく瑞樹は、未だ壁板にめり込んだままの拳はそのままに反対の手を僅かに引いて、第二の正拳突きを舞華の斜めになった顔に向けて放つ。 舞華 「ひっ!?」 ――バキッッ!!  予備動作の少ない俊敏な正拳突きをほとんど勘だけで顔を下げどうにか避けた舞華だったが、拳の横端が僅かに頬を掠めその部分だけまるでナイフにでも切られたかのように鋭い傷を負ってしまう。 舞華 「くっっ! このっっ!!」  右の手同様左の手も壁板を突き破った瑞樹は使えなくなった手の代わりに足による蹴りを繰り出そうと片足を引いて浮かす。ほとんど顔を横に向け寝そべるような格好となってしまった舞華はその蹴りの予備動作を敏感に察知し彼女も寝そべった体制のまま素早い蹴りを繰り出し牽制する。  同時に足が振り出されたかに見えたお互いの蹴りだったが、予備動作を行わなかった舞華の蹴りの方が僅かに早く瑞樹の横腹に到達し瑞樹の身体を横に薙ぎ払う事に成功する。 舞華 「はぁ、はぁ、はぁ……」  利き足でもない……更に言えば横になった体制から繰り出した蹴りであるためさほど威力は出せない蹴りになってしまったが、それでも小柄な体躯の瑞樹の身体は大きく横へ飛ばされ再び距離を空ける事となる。  蹴りを出し終えた舞華はすぐさま身体を起こし戦闘態勢を取りなおすために構えようとするが、脛へのダメージが想像以上に大きかったことと地面に強打した左側身が異常に痛む事もあり片膝を曲げてよろめくような立ち姿になってしまう。  一方、身体を吹き飛ばされた瑞樹は壁板をぶち抜いた腕が蹴りの衝撃で無理やり抜かれた事もあり板の割れ目で盛大に引っ掻き傷を作ってしまう事になってはいるが、本人はそれを痛がる様子も見せず……ましてや蹴られた横腹を庇う様子も見せず低い姿勢で受け身を取ってすぐに態勢を整え、再び舞華を睨みつけた。 舞華 「ま、まずい……さっきのはたまたま勘が当たって避けられたけど……次は避けられる自信無いわ……」  片手を付けた状態で睨みを利かせる瑞樹はすぐに腰を上げ正姿勢となり先程と一寸も変わらない構えをして舞華を正面に捉える。体中が痛みを発しもはや戦闘どころではない状態まで追い込まれた舞華はその構えを見るや再び後ずさりをはじめ彼女との距離を保とうとする。  しかし、先程まではジワジワと距離を詰めるように摺り足で近づいてきていた瑞樹も今回は何の警戒も示さず脚を大きく踏み込んで一気に舞華との距離を詰めにかかる。 舞華 「なっっ!? は、早いっっ!!」  つま先で地面を蹴る事3回ほど……まるで跳躍するかのように俊敏に距離を詰めてきた瑞樹に、舞華は一瞬防御の構えが遅れてしまう。 ――ドスッ!  4回目の地面蹴りで舞華の懐まで飛び込んだ瑞樹はその勢いを拳に込め、右手を素早く舞華のみぞおちに入れる。その時の鈍器で殴られたような鈍い音は防御の遅れた舞華の身体に痛烈な衝撃を与えると同時に、舞華を数メートル後方へと吹き飛ばしてしまう。 舞華 「かっっはっっっ!!」  急所であるみぞおちに勢いの乗った拳がめり込む強烈な一撃は、舞華に深刻なダメージを与えると同時に呼吸すらもままならない苦しみを与え彼女を追い詰める。  もはや立つ事も出来ない。腕は痺れ、足は言う事を聞かず、視界がぼやけて見えてしまう。  逃げないといけない……逃げられないにしても距離だけは取らないと……瑞樹の次の攻撃が来てしまう。頭では分かっているが身体がついていかない。体を起こしたいが様々な部位が悲鳴を上げていてそれどころではない…… 瑞樹 「邪魔者は……消す。すぐに……消す……」  しかし瑞樹は止まってなどくれない。  まるで無機物を見るかのような乾いた眼差しで舞華を遠目に見下ろし、拳を胸の前に出しながらゆっくり距離を詰めて来る。  その姿はさながら殺人マシンのよう。意志や感情を持たない機械仕掛けの殺し屋のように舞華の目には映る。 舞華 「み、瑞……樹! やめてっ……ゲホゲホ! もう……私は戦えない……」  吐き気さえ催している状態にある舞華だが咳き込みながらも必死に瑞樹に訴えかける。どうにか心の奥底でもいいから自分の声が響いてくれれば……と薄い望みに賭けながら……。 瑞樹 「消す……殺す……邪魔者は……」  しかし、その呼び掛けも空しく、瑞樹は路傍の石を見るような目で舞華を見下ろし、拳を振り上げてそれを振り下ろす。  寝ころびながらもどうにか片腕を上げ防御の態勢を取った舞華だが、瑞樹の拳は慈悲など一切掛かっていないのが分かる程重く……受け止めたはずの右腕には新たな拳の痣が出来るほどに深刻なダメージを追ってしまう。 舞華 「くはっっ! な、なんて威力……! くぅぅっっ!!」  このまま寝転がっているだけでは間違いなく瑞樹に殺されてしまう……そう危機感を覚えた舞華は、言う事を聞かない身体に鞭を打ち痛みに歯を食いしばりながら耐えつつ無理やり体を起こして戦闘態勢をとろうと構える。  しかし、痛む右足は膝から折れ反対側の脚も生まれたての小鹿のようにブルブルと震え姿勢を立て直しているのがやっとの状況。それに加え拳を受け止めた左腕は力が入らずダラリと垂れてしまい、床に強打した右腕もやっと胸の前で拳を握って見せる事しか出来ていない。  こんな状態で戦うなど……ましてやあの瑞樹の拳を避けたり弾いたりするなど出来るはずもない。  立ったはいいがこのようなボロボロの状態で瑞樹と渡り合うなどライオンとネズミの喧嘩に等しい。負けなど目に見えている。  どうすればこの窮地を脱することが出来るのか……どうすればこの殺人マシンを止めることが出来るのか……  遠くの方で皐月が怒声を上げて茜を責め立てている声が聞こえる……  その声を聞くに……まだ洗脳を解くキーワードは聞けていない様子……。  この窮地は自分の手で脱さなくてはならない……  どうやって? 戦える力など残ってすらいないのに……。  満身創痍のダメージを負った舞華が立ち上がったことに想定外の出来事だと感じたのか、瑞樹は構えを固く組みなおし改めて距離を詰める為の滲み寄りを開始する。  先程の様に猛烈な勢いで攻め込まれれば舞華は打つ手無く拳の餌食となっていただろうが、立ち上がったことで瑞樹の警戒度を上げることに成功し、彼女の歩みをゆっくりなものに変えることは出来た。  この追い込まれた状況で周りを見渡す隙を作ってくれたことが舞華にとっては僥倖だった。  ほんの一瞬……激しい笑い声と責め言葉が交じり合う拘束ベッドの方へ視線を移した時、その時彼女の目にあるものが映る。 舞華 『あれは……皐月がさっき持ってきてた……時計型の……電撃銃……?』  脚の高い小さな丸いテーブルの上に無造作に置かれた……一見すると普通の時計にしか見えないそれは、先程皐月が舞華を助ける際に使った時計型の電撃銃だった。  時計に見える見た目だが、時間を調節するための横の出っ張りを押し込めばすぐさま横の小さな穴から高圧電流を帯びた針が飛び出して、命中した相手を昏倒させるほどの電撃を食らわせることが出来る代物だ。  装備と服を受け取った時、その銃だけは警戒の為にテーブルの上に皐月が置いていたのだという事をそれを見て思い出した。舞華の居る位置からそのテーブルまで10メートルほど離れてはいるが……もしもその時計を手にすることが出来れば満身創痍な身体であっても瑞樹を昏倒させることが出来るかもしれない……。  昏倒さえさせれば……意識さえ奪ってしまえば、洗脳だろうが催眠だろうが関係は無くなる。あの銃さえ手に取れれば…… 舞華 『確か……来る途中で弾をほとんど使った……って言ってたわよね? あの中に……何発残っているのかしら……1発? 2発……? それとも……まさか入っていない……とか?』  皐月の漏らした“殆ど使った”という微妙なニュアンスがどれを意味するのか想像が出来ない舞華には、その時計の中に弾が何発装填されているのか想像もつかない。残弾を確認してそのように告げたのか……はたまた感覚で殆どないと伝えたのか……今となっては確認のしようもない。  しかし……今の彼女にとって、その時計を手に取る事は……彼女に残された最後の希望でもある。  ボロボロの腕で上手く時計を構えて狙うことは出来るのか? それよりも何よりも、この引き摺ってさえいる足であのテーブルまで辿り着けるのか? 運がいい事に今の瑞樹は“警戒モード”に入っているらしく、次の一手をすぐには出してこない。しかしあからさまにテーブルの方へと踏み込んでいけばすぐに攻撃モードに切り替わって襲ってくるかもしれない……。不確定な要素が多すぎてそれに全てを賭けるのは危険であるのは承知だが、このままジリジリ間を詰められれば確実に負けてしまう。今は見出したチャンスに縋るよりほかない……  彼女を刺激しないように……でも、確実にテーブルの方へ歩を進めて距離を稼がなくては…… 瑞樹 「敵を……殺す……敵を……」  冷たい目をしてジッと舞華の様子を窺いつつジリジリと摺り足で距離を詰めて来る瑞樹と……  頬に冷や汗を垂らしつつ思いを悟られないように慎重に後退る舞華……。  お互いの張りつめた空気が緊張を生み、周りの声が聞こえなくなるほどの静寂を二人にもたらす。  息が詰まる程の緊張……  お互いの距離感が刻一刻と縮まる中……茜は地獄の底にその身を落としていた。  地獄の鬼の様に冷酷な目をした皐月に……その身をいたぶられながら……。


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