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オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑬

13:6年越しの真実 美波 「はぁ、はぁ、はぁ……どうやら……ココは無事だったみたいね! 私も悪運が強いわ……」  浸水率が80%を越えた第6デッキ……。  千沙とは真逆のC棟へと駆けて行った美波は、デッキの最奥の部屋へと着くなり部屋の一角を見ながらほくそ笑んだ。  階段もエレベーターもない……行き止まりであるC棟の端は普通なら逃げるために訪れるような場所ではない。せめて手前にあったはずの階段を使って脱出をするのが最も生存率を上げられる方法ではあったが……美波はそうはせず、沈みゆく船の袋小路の部屋へと他には目もくれず走り抜いてきた。 美波 「よし……電源も入るし……酸素も十分! これでどうにか命は繋がったわ……」  部屋というにはあまりにも広すぎる倉庫のような作り……。その部屋の中央には流線型の細長いカプセル型の潜水艇が1艇、鉄骨の台座の上に設置されていた。  美波はその台座のロックを手で全て外し、ジェット機の運転席のような操縦席の窓を開け電源が入る事を確認した。 美波 「これに乗って脱出用の気密扉を開いてこの部屋を海水で満たせば……後は脱出するだけね……」  操縦席には座席が一つ……その後ろには荷物の一つも置けるようなスペースは無い。  つまりはこの潜水艇は1人乗り専用なのだ。あの時……“一緒に脱出させてあげる”といった彼女の言葉は千沙の想像通りその場を凌ぐための嘘でしかなかった。  解放されれば彼女達の目をくらませてココへ一人で逃げ込むつもりでいた。そういう予定で交渉していたのだ。 美波 「全く……。爆発を速めてしまったのは誤算だったわ……。折角千沙ちゃんを私の従順な部下に仕立て上げようって思ってたのに……」  スイッチを1つ2つと……順番に切り替えていきながら美波は計画の失敗を憂う。  スイッチが入れられるたびに潜水艇の各部位の作動ランプが赤から緑に点灯していき、着々と起動の準備が進んでいることを視覚的に知らせてくれている。 美波 「まぁ、警察の情報はこの際諦めるしかないわね……。どのみちこれからの商売は日本以外も取り扱う予定だったし、その為の今回のデモンストレーションだったわけだからそういった意味では諦めもつくわ……」  小型潜水艇の起動準備を整えつつ今回の失敗をため息交じりに呟く美波だったが、潜水艇のエンジンが難なく動作するのを確認した彼女は憂いの表情を崩しニンマリと笑みを浮かべて安堵の息を零していく。 美波 「千紗ちゃん達には伝えていなかったけど、この船に積んだ爆薬は時限式に間隔を置いて爆発仕組みにしてあるから、これから次々に爆発が起きて船の沈むスピードを速めるようになってるわ。上の階へ上がるスピードよりも船の沈み切るスピードの方が何倍も速いし、例え甲板に出られて海に飛び込めたとしても船の沈み込みに巻き込まれて一緒に引き摺り込まれる……。残念だけど、千沙ちゃんたちが人魚でもない限り助かる可能性はゼロよ……」  全てのスイッチをONに入れ潜水艇のフロントライトまで点灯させ終えた美波は、その独り言を捨て台詞にするかのように吐き捨て操縦席へと伸びる梯子に手と足を掛けた……しかしその時———— ??? 「そいつはどうかな? 案外簡単に脱出して見せるかもしれないぜ? うちのリーダーの事だからな……」  梯子にかけた足をまさに動かそうとしたその瞬間、どこからともなく聞き覚えのある声が金属に覆われた無骨な部屋の壁に反響して美波の耳に届けられた。 美波 「っッ!? だ、誰!? 何者っ??」  まさかこの沈みゆく船の最奥の部屋で人の声を聞く事になるとは思いもよらず、美波は焦りの表情を浮かべながら周囲を見渡す。  誰もいない……筈だ。扉は一つしかないし、脱出用の気密扉は勿論閉まったまま。隠れて潜む場所など潜水艇の中ぐらいしかない殺風景な場所なのだから人が居るのはおかしい! まさか先程の責めで脳に障害を負って幻聴でも聞こえてしまっているのか? などという不安に駆られながらも声のした方に注意深く視線を送る……すると、続けて聞こえてきた声が部屋の隅のダクトから漏れてきていることに気付かされる。 ??? 「ったく……逃げ足だけは一人前に速いんだよな、お前は……。だから警察も捕まえられねぇんだ……」  ガタッという音共にダクトの入り口が奥の方から外された。そしてそのダクトの奥からは青く短い髪をススや埃で汚した小柄な女性が這い出してきた。 美波 「岬ちゃんっ!? 貴女……生きてたの?」  その姿とその声……顔までススで黒く汚れてしまっているが彼女は紛れもなく真中岬その人だった。 岬 「あぁ……、こういう汚ねぇ場所を這いずって侵入するのは私の得意分野だからな……下の階からどうにかお前を“追って”ここまで辿り着いたのさ……」 美波 「私を……追って?」 岬 「あぁ、まぁ気にするな……。それよりも、お前……やっぱり一人で逃げようって腹積もりだったんだな? その潜水艇……どう見ても一人の乗りだもんな……」 美波 「ふ、ふん! そうよ! 爆発を速めた瞬間からこの事しか考えていなかったわ! でも千沙ちゃんには生き残るチャンスをいっぱいあげたよ? なのに……全部無視するからこういう事になった……」 岬 「はぁ~。ほんとお前は自分勝手だよな? そりゃ……あの人も手に負えなくてうちらを寄こすわけだぜ……」 美波 「あの人? 何よ……さっきから……。何の話をしているの?」 岬 「なぁ、お前は疑問に思わなったのか?」 美波 「何を……よ……」 岬 「うちら……スニーカーズがなぜ……2度にわたってお前の邪魔をしたのか……って……」 美波 「2度にわたって?」 岬 「1度目は……笑いの光教団を潰したあの事件……」 美波 「……6年前の……私の母がやってた教団を潰した事件よね?」 岬 「あぁ、あの事件は……笑いの光教団っていう新興宗教団体の地下で行われていたお前の実験を潰す為に発足間もないスニーカーズから人が送られた最初の事案だ……」 美波 「……そのスニーカーズの告発によって教団の違法性が暴かれ……母は逮捕されたっていう事件……。そう、そうよ! あれは……結局誰が潜入してきたの? 私は脱出した後だったし……そのころスニーカーズの情報は殆どなかったから何処から漏れた情報なのかも分からないし、構成員とかも結局分からずじまいだった……」 岬 「あの時に動いたスニーカーズは一人だけだ」 美波 「一人……だけ?」 岬 「あぁ……。指令を受けて派遣された工作員は一人だけさ……」 美波 「誰? それは……誰だったの? まさか……舞華ちゃん?」 岬 「ハハ……お前も調べたんだったら分かるだろう? 舞華は教団事件の“後”に引き抜かれてきたんだ……」 美波 「そ、そうだったわね……。舞華ちゃんは日本人初の女性SAS(特殊空挺部隊)隊員として4年間イギリスで従事した後……日本の警察に入りなおそうとしている所を引き抜かれたのよね? スニーカーズに……」 岬 「そうさ……お前が皐月を送り込んできたタイミングと同時期に舞華がスニーカーズに引き抜かれた。そしてその後更にお前は金剛千沙を送り込んできたよな? うちの組織を潰す為に……」 美波 「そのつもりだったけど……結局千沙ちゃんは裏切った……。そして妹を人質に取って送り込んだはずの皐月ちゃんまでも……」 岬 「それが2度目のスニーカーズの襲撃……通称ラフレシア事件ってやつだよな?」 美波 「えぇ……私にとってはこの事件の方が苦い思い出として脳裏に刻まれたわ……。まさか、潰すはずだったスニーカーズに逆に隠れ蓑にしていた会社を潰されるとは思わなかったんだから……」 岬 「そしてお前は2度目の逃亡……今度は海を漂流していかがわしい実験を繰り返し妙ちくりんなマシンを製造して拷問商を名乗るようになった……」 美波 「拷問商を名乗っていたのは教団に在籍していた時からよ。その時はあまり知名度も高くなかったから目立たなかったけど……」 岬 「でも、そのラフレシア事件が表に出る頃にはお前の名は一気に有名人になった……。なんせ警察の指名手配リストに載ったんだからな……」 美波 「幸か不幸か確かに私はそれで有名にはなれた……。そのお陰で沢山の顧客を集められるまでに名が売れたわ」 岬 「名が売れ過ぎたお前はその存在を一旦リセットするためにこの研究発表会を開催し、船を沈める事で自分たちは死亡したと警察に思わせるつもりでいた……だよな?」 美波 「……そうよ……」 岬 「しかしその目論見は残念ながら果たされない……」 美波 「なぜ? ココまでは作戦通りに進んでいるわ。なぜ失敗すると?」 岬 「さっきジャマ―を破壊した後、私があの人に真っ先に通信を送ったからな……。今回の計画の全容を……」 美波 「さっきから出てきている“あの人”って……誰よ? それに貴女……さっきから裏の事情に詳しすぎない? うちの教団に侵入した人間の事とか知っている様子だし……」 岬 「そりゃあ……詳しいのは当然さ。私は今回のミッションで“あの人”に託されたんだからな……お前に接触してある言葉を伝える様にって……」 美波 「私に接触するよう言われたって事? それは……スニーカーズのミッションではないわね? もっと別の……」 岬 「そうさ……私はスニーカーズに所属してはいるが直属の上司は千沙じゃない……」 美波 「コマンダーである千沙ちゃんが上司ではない? どういう事? っていうか……貴女は一体何者なの? そう言えば貴女だけ私の情報網に全く引っかからなかった……」 岬 「フフ……」 美波 「千沙ちゃんと皐月ちゃんは私の監視下にあったから素性は割れてる……舞華ちゃんも数々の勲章を残すくらい武勲を上げているからどういう戦闘力かや潜入の技術力なんかもある程度特定できてる。でも……貴女は一切情報が無い! 真中岬という人間の素性はどんなに調べても出てこなかったわ……それこそ警察のネットワークを茜さんに調べてもらったにもかかわらずよ! こんな事……あり得る?」 岬 「フフ……まぁ、情報が出てこないのも無理はないさ……なんせ私は何処の軍にも警察にも属していない……汚れた犯罪歴も輝かしい勲章も貰ったこともない……ただの一般人だったわけだし……」 美波 「一般人だった? そ、そんな馬鹿な!」  岬 「本当だぜ? 私は元々……システムエンジニア系の仕事を請け負う会社に勤めていたただの一般人だったのさ……」 美波 「システム……エンジニア?」 岬 「まぁ、ハッキングの技術とかを専門で習った訳ではないから、皐月には到底敵わんが……それでも機械には強い方なのさ……」 美波 「そ、そんな貴女が……なぜスニーカーズへ?」 岬 「いやぁ~恥ずかしながらその仕事が性に合わなくてな……段々働くのが嫌になっちまってね……。心の拠り所が欲しくなっていたとこだったのさ……」 美波 「心の……拠り所??」 岬 「丁度うちの会社の近くにさ……私の心を落ち着かせてくれそうな場所があるって知ってね……」 美波 「心を……落ち着かせる……場所?」 岬 「おっかなびっくりで扉をノックしたもんさ……なんせ……新興宗教に入れ込もうってしてたんだから……」 美波 「新興宗教っ!? ま、まさか……それって……」 岬 「そう。笑いの光教団……さ……」 美波 「な、な、なんですって!!? い、いや、でも! 貴女が信者として在籍していたって記録は無かったはず! そもそもうちの教団に居たんだったらすぐに素性が割れたはず……」 岬 「入ろうとした矢先さ……面談を受けている最中に誘われたんだよ……」 美波 「さ、誘われた?」 岬 「うちの教団を“潰す”手伝いをしてくれないか……って……」 美波 「は、はぁ?? 何を言ってるの? えっ? じゃ、じゃあ……教団の内部に裏切り者がいたって事? それとも……警察関係のスパイとか……?」 岬 「裏切り者……か? そうだな……まぁそういう事になるのかもしれんな……お前にとっては……」 美波 「含まずに簡潔に言いなさいよ! 誰? その面談を行ったのは? 裏切った信者は誰?」 岬 「誰も何も……もう分るだろ? 教団の面談に……一般の信者や幹部連中を使っていたのか? お前の教団は……」 美波 「ちょ、ちょっと待って! 嘘でしょ? うちの教団で最初に面談をするのは必ず……」 岬 「そうだよな……これではっきりしただろう? 最初の事件の本当の黒幕が……誰だったのか……」 美波 「ば、馬鹿な……そんな素振り……一切見せなかったのに……。というか彼女は今も捕まっている筈よ! 逮捕されて……」 岬 「あぁ、その情報はもうすでに古いんだが……まぁ、それは今はいいや……」 美波 「最初に面談をするのは必ず教祖がやる役目だった……つまり……私の母……」 岬 「そう。柳津……朱美……。教団壊滅の黒幕は……その教団を設立したお前の母ちゃんだったって訳さ……」


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