オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑭
Added 2020-12-31 16:47:16 +0000 UTC14:深淵へ…… 美波 「母が……なぜ? 自分の教団を潰して……更に自分まで捕まって……訳が分からない!」 岬 「お前の母ちゃんは全部知ってたみたいだぜ? 信者をモルモットにしてやってる研究も、秘密裏に裏の人間と接触しているという事実も……」 美波 「……そ、そりゃあ……教団の地下で研究をしてたし……信者も手伝わせていたから薄々勘づかれているとは思っていたけど……でも警察に捕まって取り調べを受けた時は黙秘してたんでしょ? 私の実験の事とか、信者への処遇の違法性だとか……」 岬 「そうだな……彼女は黙秘した……。というかそのままお前の罪をかぶるつもりでいたんだ……途中まではな……」 美波 「途中までは…………?」 岬 「私の面談の時に話は戻るが……お前の母ちゃんは、自分の信者がこれ以上娘の研究の材料に使われるのは我慢ならなかったらしく、私に“教団を潰してくれ”って頼みごとをした。しかし同時に、出来れば娘は逃がして欲しいと言われたんだ……」 美波 「娘って……私の事よね? 私は逃がして欲しいって……言ったの? 母が?」 岬 「あぁ。お前の母ちゃんはお前のその狂気的な実験の数々を行っているって事を知って……人間の所業ではないと思う一方で教団の祈りが悪魔を乗り移らせたのではないか? って考えるようになったらしい……」 美波 「あ、悪魔が乗り移っているって……そんなぶっ飛んだこと考えていた訳? うちの母は……」 岬 「まぁ、新興宗教の教祖をやってるんだからそれくらいぶっ飛んでても私は別におかしくはないかって思っていたけどよ……」 美波 「教団を潰せば悪魔が払われて……私が正常に戻るかもって……思ってたって事?」 岬 「そのようだな……」 美波 「そのために貴女は母に協力したの? そんな馬鹿みたいな妄想をする母の戯言を信じて?」 岬 「最初は“ココはヤベェ宗教だ”って身構えもしたが、彼女は教団を潰す計画の中に“とある組織”を設立したって事を私に打ち明けた……」 美波 「とある……組織?」 岬 「それがお前のよく知る……私達が属する組織……」 美波 「す、スニーカーズ!? 母が組織したの? スニーカーズを? な、なぜ……」 岬 「さっきも言った通りお前の母ちゃんは、とにかくお前に乗り移った“悪魔”を取り払いたかった……。だから悪魔を召喚してしまったであろう自分の組織を解体してお前をもっとクリーンな場所へ移したいと思っていた……」 美波 「クリーンな場所?」 岬 「最初はその場所を自分で作ろうとして教団の資金をつぎ込んでスニーカーズの前身となる組織を立てた……。警察幹部に顔の利く人間をそこへ忍ばせてお前を匿いながら悪魔が消え去るのを待つ目的でその組織を作るつもりだったらしいが……」 美波 「教団の資金が一時ごっそり無くなった時期があったけど……それはこの為だったのね……」 岬 「その組織が完成する前にお前が動いてしまった……」 美波 「わ、私が?」 岬 「そう。その当時警察庁でプログラマーとして所属していた金剛千沙……彼女が立ち上げた警察のネットワーク技術が欲しくなったお前は、母親に内緒で警察内部に放っておいた神崎茜を利用して組織内にDBBという潜入捜査組織を作り上げた」 美波 「DBB……ディープブラックバタフライ……。そう、全ては警察の情報を外部からハッキングできるシステムを構築するため……そのためには、警察の内部プログラムを構築した千沙ちゃんがどうしても欲しかった……」 岬 「DBBは表向きは怪しい施設なんかに潜入捜査をする内偵組織……しかしその実情は金剛千沙を笑いの光教団に潜入させるため“だけ”に作られた張りぼての組織だった……」 美波 「作戦はうまくいったわ……。千紗ちゃんだけを潜入させるのは怪しまれると感じたから、警察署内でもとりわけ身体能力の高い瑞樹ちゃんを仲間に加えてうちの組織に潜入させた……」 岬 「警察の内部に信者を持つお前の母ちゃんは、実はそういう動きが行われていたっていう情報を聞きつけ“警察が動き出した”と勘違いしたんだ……。焦ったお前の母ちゃんは、その時タイミングよく入信をしてきた私にスニーカーズを立ち上げてくれないかと持ち掛けた。すでに潜入して内偵調査を行っているDBBより先に急襲的にスニーカーズを潜入させて警察へのリークを速めて教団だけを潰そうと画策したんだ……お前を逃がす予定でな……」 美波 「という事は……岬ちゃんが……スニーカーズの最初のメンバーって事になるわけ?」 岬 「あぁ、急ごしらえだったからその信者の警察OBに基本的な潜入の仕方やらサバイバル術やらを駆け足で教えてもらって……どうにかそれらしくなってから実践投入されたって感じだ」 美波 「じゃあ、さっき言ってた……教団に潜入して壊滅させたスニーカーズの一人っていうのは……」 岬 「そう。それが私だ」 美波 「なるほど……だから私の情報網に貴女が引っ掛からなかったのか……。信者になる前にスニーカーズへ直接入ったんだから……」 岬 「お前の母ちゃんは私の準備が整い次第警察OBの信者に“警察がスニーカーズという謎の潜入組織を雇って教団に潜入させようとしている”と情報が入るよう工作を行った。実際はそのころ警察とは組んでいなかったからそれは嘘だったんだがな……」 美波 「その情報は私にも届いた。だから研究データやら試作機器なんかをほとんどごっそり運び出して……ラフレシアの地下研究所へ逃げ込んだのよ……千沙ちゃんと瑞樹ちゃん……そして人質として皐月ちゃんの妹一緒に連れてね……」 岬 「目論見通り教団から逃げ出した娘を見て、これで悪魔の研究をしなくなる……と安堵したお前の母ちゃんは、私と共に警察署へ出頭……そのまま逮捕に至ったという訳だ」 美波 「その後……母は黙秘し続けたって聞いていたけど?」 岬 「あぁ。研究施設に残されていた僅かなデータと被害にあった信者の証言で娘の美波が犯人であるという事は明確になったんだが、お前の母ちゃんは黙秘でだんまり……お前は自分の会社の地下に引き籠って雲隠れしている状態だったから行へ知れずって事になっちまった……」 美波 「あのラフレシアっていう会社は私が教団にいる間に器具や技術を売って稼いだお金で建てたけど……名義は全くの別人で立てたわ。だから、警察の目も届かなかった……」 岬 「あぁ……私もお前の母ちゃんすらも行方は分からなかったから警察も正直追うのはお手上げって状態だった……でも、お前は3年後に……スニーカーズへ金剛千沙を送り込んで来る事となる……」 美波 「そうよ。全ては教団を潰して私の研究説を無きものにしたスニーカーズへの私怨の為……と、DBBとして潜入していた千沙ちゃんが私にちゃんと靡いているかの確認の為……それを行ったわ……」 岬 「私は金剛千沙の存在もしていたし、彼女がどういう経緯でDBBに入れられ笑いの光に潜入させられたかも知っていた……。でも彼女が実際の所どっち側についているのかまでは分からなかった。もしかしたらお前に洗脳されて送り込まれたのかも……とさえ思ったもんさ……」 美波 「まぁ、結果的には千沙ちゃんは私達を裏切ったし、壊滅させるはずのスニーカーズによって私の隠れ蓑としていた会社は潰される事になるわ……」 岬 「……そのラフレシアの事件でお前の悪行は世に知れ渡る事となり、裏社会にも警察にも注目される有名人になっちまった訳だ……」 美波 「そうね……この事件をきっかけに、指名手配リストには入っちゃったけど、その代わりに裏のお仕事も増えたわ……」 岬 「その情報を耳にしたお前の母ちゃんは……今まで黙秘する事で隠していた事実を警察に語るようになったんだ」 美波 「……娘が有名になって……庇う気が失せたのかしら? 薄情なものね……」 岬 「まぁ。黙秘してたとはいえ人体実験をしていたという旨は自首した形になっていたから、お前の代わりに刑務所には入っていたわけだぜ? 薄情も何もないだろう……」 美波 「フン……いずれにしても喋っちゃったんでしょ? 実は人体実験は娘がやってましたって……」 岬 「あぁ、今までの経緯も知っている事全部……洗いざらいな……」 美波 「で? 釈放されたんでしょ? うちの母は……」 岬 「まぁ、真犯人を庇った罪には咎められたが……今は塀の外に出ているはずだぜ」 美波 「良かったじゃない……お荷物な娘を警察に売って出られたんだから……」 岬 「…………………………」 美波 「………………何よ? 黙り込まないでくれる?」 岬 「……お前……裏の世界で名が知られるようになって……怖いと思った事は無かったのか?」 美波 「……な、何よ……急に……」 岬 「裏の世界には……踏み込めば踏み込むだけそれ相応のリスクを負う事になる……有名になれば有名になるだけな……」 美波 「あ、あたりまえじゃない! 私はもう裏の人間よ? それくらい分かり切って……」 岬 「今日……この船で行われた研究披露のパーティに呼ばれた有名企業の取締役……組織の重鎮……政府の幹部……お前の研究に興味を示した220人の要人達を記載した名簿……」 美波 「……?」 岬 「その名簿を欲しがっている連中が複数居るっていうのは……お前知ってたか?」 美波 「め、名簿を……?」 岬 「お前が集めた要人達……つまりはこれから“拷問”を必要とする者達が……何者であるかを知りたいと思っている連中が居るって事さ……お前の研究成果以上に……」 美波 「研究成果以上にって……そ、そんなもの! 公開するわけがないでしょ! 名簿だって……何かあったらいけないから門外不出にしてたし……データもすでに消し去った後だし……」 岬 「そいつらはそうは思っていないさ……この船が沈んでも探しに来るだろうぜ? 人をわんさか投入してな……」 美波 「そんなもの欲しがってどうするのよ!」 岬 「さぁな……でもお前なら想像つくんじゃないか? 裏世界に一歩足を踏み入れているお前なら……」 美波 「わ、分からないわよ! そんな事……」 岬 「でも船に情報が無いと分ければお前を血眼で探しに来るぞ。そういう連中だろ? 裏の社会の人間ってのは……」 美波 「お、脅しても無駄よ! そんなウソには……引っ掛からないわ!」 岬 「嘘かどうかこれからわかるさ……。でもな、そういう危険が迫ると予測したからこそお前の母ちゃんは警察に協力を始めたんだ……」 美波 「危険が迫るから……警察に協力を?」 岬 「教団から離れれば悪魔は去ると思っていたお前の母ちゃんだったが、予想に反してお前は更に裏の世界へ足を運ぶ流れとなってしまった……それが分かったお前の母ちゃんは改心させたいっていう願いから娘の命を守らなくてはっていう考えに心変わりした。だから一刻も早くお前の身柄を確保したがったのさ……」 美波 「……捕まって……刑務所の中にいる方が……安全だとか言う訳? そんなの真っ平ごめんよ!」 岬 「まぁ、私は……“そう言うと思うぜ”って忠告はしたさ。でもお前の母ちゃんはこれだけは伝えて欲しいって私に言葉を預けた」 美波 「こ、言葉?? なによ……それ……」 岬 「また一緒に“いろり”の焼き牡蠣をあの席で一緒につついて食べましょう……私はいつまででも信じていますから……だとさ」 美波 「い、いろりの……焼き牡蠣……」 岬 「私にはさっぱりだが……なんか思い当たるふしでもあるか?」 美波 「私の生まれた村の……海辺の小料理屋……“いろり”の焼き牡蠣……子供の頃によく母と食べに行ってたわ……」 岬 「へぇ……そいつは微笑ましいな……」 美波 「お店の一番奥の端っこの席……そこが私のお気に入りの席だった……」 岬 「また一緒に食べたいんだとさ……お前が罪を償って出てきたら……」 美波 「わ、私は! 絶対に捕まりはしないわ! そんな事を聞いても……絶対に……」 岬 「あぁ、それもお前の母ちゃんに言っておいたぜ? おたくの娘さんは、そんな言葉じゃ揺らがねぇよって……。そしたらお前の母ちゃんは“それでも信じていたい”って言ってたぜ?」 美波 「っっ……くっ……」 岬 「ふぅ……まぁ、話は以上だ……」 美波 「……………………」 岬 「……………………」 美波 「さっき言ってた……私に接触を図れっていう指示……それはうちの母からの指示ね?」 岬 「あぁ……」 美波 「その指示を達するために……私を追ってきたの? この沈みゆく船で?」 岬 「あぁ……そういう事だ……」 美波 「沈むわよ? 貴女……間違いなくこの船と一緒に海底の底に沈むことになるわよ?」 岬 「あぁ……そうかもしれねぇな……」 美波 「くっっ……」 岬 「フフ…………」 ――——ズズズン! ズズズズ…………ゴゴゴゴゴゴっ!! 話の区切りがつき一息入れようと大きな呼気を吐く岬だったが、肺の酸素を吐き出したと同時に船全体が大きく横揺れをはじめ部屋全体が斜めに傾き始める。 美波 「どうやら始まったみたいね。船の浮力よりも浸水の重みの方が増して船が傾き始めているわ……。後は船尾の方から海底に引きずられるように沈んでいくだけよ……」 岬 「どうやら……その様だな……」 美波 「この潜水艇はお察しの通り一人乗りよ。貴女を折り畳んでもこの操縦席には入れられない……」 岬 「そうだな……」 美波 「どうする? 私を倒して……この潜水艇を奪ってみせる?」 岬 「ハハ……まぁ、そうしたいのは山々だが……」 美波 「…………?」 岬 「生憎……お前は生きて捕獲するようお願いされていたんだ……お前の母ちゃんからな……」 美波 「そんな事……言ってられる状況? この船に残れば確実に死ぬのよ?」 岬 「お前は認めねぇだろうがなぁ……お前の母ちゃんは実際すげー人だと思うぜ? ブラックな企業に勤めていた私はぼろ雑巾のようにこき使われて……疲れ果て……死んで何もかも終わらせたいって気持ちで教団の扉をたたいたんだ……正直、自暴自棄で有り金を全部訳わかんねぇ宗教に捧げて死んじまおう……って考えていたくらいさ……。」 美波 「………………」 岬 「そんな生きる気力を失った私に……お前の母ちゃんは大層あったけぇ言葉を投げかけてくれたもんだ。それにどれだけ救われたか……お前には想像も出来んだろうがな……」 美波 「フン! あんな偽善者の言葉を真に受けてスニーカーズに入ったんなら、貴女も相当追い込まれていたのね?」 岬 「柳津朱美の信者だった人は一人として無罪を疑わなかったし、ずっと無罪を主張して戦っていたんだ……お前があんないかがわしい研究に熱を入れている間もずっとな……」 美波 「それこそ“洗脳”よ! 私が行った研究と何が違うの?」 岬 「お前も薄々気付いていたんだろ? あれが洗脳とか誘導とかそういうものではなくて……彼女の慈愛がそうさせていることを……」 美波 「っっ!?」 岬 「一番近い場所で見ていたんだ……お前が一番理解しているはずだぜ?」 美波 「う、うるさい! うるさいっっ!!」 ――——ズズズズズズ、ズズズズン!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ズズン!! 美波の怒声に同調するかのように船がまた大きく揺れ、岬の華奢な身体をその衝撃で壁際まで吹き飛ばしてしまう。 壁に片半身をぶつけた岬はその部分を庇うように手を添え強い目で美波を睨み上げる。 岬 「いいか、覚えておけ! お前が何処に逃げようと、私は必ずお前を捕まえに行くぞ! 地の果てでもっ! 空の彼方でも、海の底でもな!!」 美波 「フン! そういう戯言はこの船を脱出出来てから吠えなさい! 私はこの世界で成功して見せるっ!! 裏の世界を牛耳って見せるんだからっっ!!」 岬 「そうはさせねぇ! 私が絶対にそうはさせなぇ!! 必ず捕まえに行くからなっっ!! スニーカーズ初代メンバーの誇りにかけてな!」 その言葉を言い切ると岬は身体を庇いながら部屋の出口へと駆けて行った。 美波は彼女の足音が耳に届かなくなるまで出口を見つめ、やがて階段を駆け上がる音が聞こえなくなると同時に溜めていた息を大きく吐く。 美波 「フゥ……。どうせ潜水用のボンベを探して脱出しようとでも思っているんでしょうね……でも残念ながらこの船にはそういった類のボンベも装備も何も置いてはいないわ……」 息を吐き終えた美波は静かに潜水艇の梯子を上り操縦席へ乗り込んでいく。 美波 「残念だけど……これで本当にサヨナラね……」 ハッチの窓を閉め切り、ディスプレイから『入水作業開始』のボタンを選択すると、部屋と海とを隔てていた脱出用の隔壁が勢いよく内側へ開ききる。扉が開くと同時にその場所から大量の水が入り込み瞬く間にその部屋は水によって埋め尽くされてしまう。 美波 「それじゃあね……勇敢なスニーカーズの皆さん。次に会うのはあの世かしらね……」 美波を乗せた潜水艇の推進フィンが静かに回り始める。 浸水した部屋の中を試し運転するかのようにグルリと回った後その潜水艇は、脱出用の隔壁を通り彼女を乗せて暗く深い海底へと消えていく。 明かりすらもすぐに光を失ってしまうその暗黒の海底…… 図らずともその光景はこれから美波が足を踏み込むことになる……混沌の世界を表しているかのような闇だった。 潜水艇は進んでいく…… その何かが蠢くような闇に向かって……彼女と共に……。