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オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑩

10:凶報 千沙 「おい。本当にさっき言った場所で間違いなんだろうな? もしまた嘘をついてたら……我々だけでなくお前も船と一緒に海底に沈むことになるんだからな!」 美波 「はぎゃっっははははっははははははははははははははは、やぁははははははははははははははははははははは、い、い、言ったぁははははははははははははは、ホントの事言ったぁぁははははははははははははははははははは!! 言ったから止めなさいよぉぉこれぇへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! も、も、もう限界なのっっ! ホントに限界なのよっっっほほほほほほほほ、うへひひひひひひひひひひひひ、イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」  美波の身体に群がる無数のマジックハンドが、彼女の無防備な身体を何の慈悲もかけずに蹂躙している。  刺激に敏感な腋や足の裏には触れる皮膚が他にないくらいビッシリと小さな手が寄り集まっていて、傍から見ればそれらの部位だけ“逆に”衣服を身につけられているかのように見えてしまう。しかし実際は剥き身の肌に寄ってたかって笑わせの暴力を加える機械式の手の集まりであり、その手が蠢き刺激を加えることでその部位は絶望的な擽痒感を与えられる結果しか生まない。  美波はすぐに降参した。  船を爆破し千沙たちを焦らせ“脱出艇がある”という情報で完全に優位に立つ……という目論見だったのに、自分の行ってきた嘘や裏切りの数があまりにも多すぎて、千沙に別の妙案を考える隙を与えてしまった。脱出する船を求めず自らの部下を信じて脱出を図るなどと言い出すとは思いもよらなかった。  しかし彼女の目は真剣だった。何度“一緒に脱出しよう”と持ち掛けてもついに頭を縦には振ってくれなかった……  もはやこれ以上粘っても自分の脱出時間が減る一方だ……そう過った美波は素直に降参し白状した。千沙の求めた通信干渉設備の置いてある部屋の場所を。 千沙 「だめだ! お前は信用ならない! ジャマ―の場所が本当であれば破壊次第そこへ向かわせた岬から通信が入るはずだ……通信が回復するまではお前の言葉は一切信じない! 戯言の一つであってもな!」  美波からジャマ―の設置場所を聞き出した千沙は、すぐにそこへ岬を向かわせた。  今いる船底近くにある研究デッキから更に一つ下の区画……船底に限りなく近い貨物倉庫の区画……美波はそこにジャマ―を設置したと説明したが、船底に近ければ近い程爆破が行われた区画に近いためそこへ向かうには自殺行為であるのは考えなくても分かる。  船底近くにあるのであれば時間が経てばそこにも海水が入り込んで勝手にジャマ―を破壊してくれるかもしれない……だからあえて危険を冒してそこへ向かわなくても時間が解決するのではないか? と、千沙は思いとどまろうとしたが、それに反論を唱えたのは岬だった。  実際にジャマ―が止まるまでに何分かかるか分からない……1分1秒が惜しい今の状況で不確定要素の多い希望に縋るより確実に壊しに行った方が計画は立てやすい。そう言い切って岬は走り出していってしまった……千沙の指示を纏うともせずに……。 美波 「やめっへへへへへへへへへへへへへへへへへ、いへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、も、もうホントだめっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、限界ッっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、死ぬっふふふふふふふ、ホント死んじゃうぅぅふふふふふふふふふふふふふふふふふ、溺れるより前に窒息死しちゃうぅぅふふふふふふふふふふふふふふふ、いぎっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、だははははははははははははははははははははははは!!」 千沙 「それがお前の作り出したマシンだ。心血注いで開発したんだったら本望だろう……自分の生み出した化け物に殺されるんであれば……」 美波 「イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、はひ、はひ、いぎゃあぁはははははははははははははははははははははははははは、もう嫌っっはははははははははははははははははははは、もう笑いたくないっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、ゲホゲホゲホっ!!」 千沙 「よ~く覚えて置け……これが無垢な信者を犠牲にしてまで作り出した玩具だ……。気が触れておかしくなるものもいたし……解放された後人と触れ合う事すらもトラウマになった女もいた……そういう事を強いたんだ……このマシンで……お前は……」 美波 「わ、わ、悪かったっっははははははははははははははははは、わだじがわるがっだぁぁははははははははははははははははははは、ゆるじでぇぇへへへへへへへへへへへ、ゲホゲホっ! ゲホゴホッ……かはっ、はひ、あひっっ……えげっへへへへへへへへへへへへへへへへ、うへひぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひ」 千沙 「岬から連絡が来なかったら……溺れるより先にこのマシンがお前を殺すだろう……。それを見ながら私も満足しながら溺れ死んでやるさ……」 美波 「いひゃあぁぁははははははははははははははははははははは、本当の事言ったっっはははははははははははははははははははは、言ったんだから止めてよぉぉほほほほほほほほほほほほ、へぎゃあはははははははははははははははははははははははっは、ケホッゲホッ!!」 千沙 「これだけ待っても連絡が無いって事は……あいつは逃げたかもしれんぞ。岬はこの船の電気系統を工作するためにあらかじめ潜入しておいたんだ……船の下層の地図くらい頭に入っているかもしれんしな……」 美波 「いひゃあぁっっはははははははははははははははははははは、岬ぢゃんッっ裏切ったのぉぉほほほほほほほ、私達を見捨でで一人で脱出を? んくはっっははははははははははははははははははははは、いぎぃぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ……」 千沙 「まぁそうであれば……それは仕方のない事だ。あいつが助かるんであれば……私は喜んでこの悪党と海底へ沈んでやろう……」 美波 「な、な、なんでっっへへへへへへへへ? 死ぬのが怖くないのっ? ここに居れば確実に死んでしまうのうよぉほほほほほほほほほほほほほほ、はぎゃあぁっっはははははははははははははははははははははははは!!」 千沙 「私はな……お前と違って……後悔してるんだよ」 美波 「ひぎっひひひひひひひひ、ゲホゲホ! かはっっははははははははははははははは、ひぎぃ……あひぃ……はひ、はひ、はひぃ……ケホケホ、きへへへへへへへへへへへへへへへへ、いひひひひひひひひひひひひ、んははははははははははははははははははははははは……」 千沙 「バレない為にと従順に振舞って……お前の下でこんなくだらない研究を手伝って……数多くの無垢な信者を実験体として扱ってきた己の所業を……。なぜあの時止めなかったのか。なぜあの時解放してあげらえなかったのか……それを思うと今でも心臓が痛む……」 美波 「はきっひひひひひひひひひひひひひひひ、いははははははははははははははははは、ゲホゲホゲホゲホ、ゴホっかはっはははははははははははははははははははははははははははははは!!」 千沙 「お前は知らないだろうが……皐月の妹は……愛美はしっかり助け出されたにもかかわらず深いトラウマを植え付けられて日々の生活を送っているそうだ……。まぁ、私も彼女の責め苦を見ていたから……どれほど心に傷を負ったのか痛い程分かってやれるつもりだが……彼女の闇は姉の皐月でさえ癒すことは難しい程に深いらしい。風呂に入る事も怯えるらしいぞ? 肌を晒せば……また実験に参加されると身体が拒んでしまうらしい……」 美波 「はひ、いひいぃひひひひひひひひひひひひいっひひひひひひひひひひひひひ、ゲヒ、ヘヒッ、ハヒッッ! かはっっはははははははははははははははははは、んがははははははははははははははははははは……も、もう……無理……」 千沙 「比較的軽い実験に晒されていたにもかかわらずそういう後遺症を彼女には残したんだ……。お前は本当のどうしようもなく罪深い悪党だが……それを横目に見て助ける事もしなかった私も……結局は同罪さ……」 美波 「かはっっははは……ははっ……はひ……あひ……ひ……ひひ……くひ……」 千沙 「せめて悪の元凶であるお前を監獄にぶち込んで……私も命を絶って詫びの一つでもしようかと思っていたが、そんな私の話を聞いて皐月はこう言ってくれたよ……“償いは生きている内にしか出来ませんよ”って……」 美波 「はがっっははははは、はひ、あひ、けひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、い、息が出来な……っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ゴホ、ゲホ……」 千沙 「結局……生きている間に贖罪なんて出来やしなかったが、最後の最後で部下を一人逃がす時間を稼げてこの悪党を道連れにするというお土産付きで海の底に沈むんだ……それを贖罪の代わりという事で勘弁願いたいものだな……」 美波 「きはっっ……はひひひひひひひひひひ、い、いやよっ! わたじはじにだぐないぃぃぃひひひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! こんなトコでじぬのはいやあぁぁあははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」  爆発が起きてからずっと鳴り響いている地響きと船全体が振動しているかのような揺れ……。  海水が次々にフロアを侵食し続けているであろう激しい濁流音が鳴り響くと同時に、水中に沈んだ電子機器がショートする漏電音が床の下で生々しく鳴り響いている。  2人のいる部屋の電気も点いたり消えたりを繰り返し、そのフロアの電気も長くはもたないことを暗に印象付ける。 千沙 「さて、もう……閉幕の時が近づいているようだな……」  千沙がそのように呟くのを理解していたかのように、船底付近で再び大規模な爆発が起こる。  その爆発が終焉を告げる合図であったかのように2人の部屋の電気を完全に消灯させてしまう。 千沙 「フン……悪運の強い奴だ……。結局、このマシンに殺される前に船の電源の方が先に落ちてしまったようだ……」  部屋の電気が消灯したと同時に美波を責めていたマジックハンド達も魂が抜けたかのようにパタリパタリと床に横たわっていく。 美波 「かはっ、はひ、んは……ゲホゲホゲホ! は、はぁ、はぁ、はぁ……はひ……はひぃ……」  死の一歩手前まで追い込まれた美波の顔は涙や涎、汗などの体液でグシャグシャに汚れ……先程まで千沙や岬を弄んでいた悪女の面影すらも残さないほど疲弊しきった表情で必死に呼吸を繰り返しながら頭を項垂れさせている。  そんな彼女を未だアナログ的に拘束している足枷と腕に巻かれた枷を、千沙は諦めるかのように息をついて外してあげ彼女の身を解放してあげた。 美波 「はぁ、はぁ、はぁ……な、なによ? 今更……助けて……くれるって……わけ?」  拘束が解かれたと同時に脚を地につけ椅子の背もたれから腕を抜き去り、自分の裸体を手で隠すような仕草をしながら千沙を警戒するように後退りしながら自分が着ていた白衣のもとへと向かう美波。白衣を乱暴にハンガーから抜き去ると、それを素肌の上に羽織りなおして改めて千沙を睨みつける。 千沙 「あぁ……まぁ、約束だからな。例えどんなに極悪非道な悪党でも……一度交わした約束は守ってやらんといかんだろう?」 美波 「や、約束? どういう事? 千沙ちゃんは私と一緒に死を選ぶんじゃなかったの?」 千沙 「別に死にたいと思ってそういった訳ではない……。どうせ死ぬなら一緒にと思っていたんだがな……」  そのように言葉を零すと千沙は自分の耳元に手を添えトントンと指で小突く動作をして見せる。 千沙 「どうやら……まだ死ぬには早い運命だったらしい……」  先程の爆発にて電気が止まった数秒後……耳の奥からはかすかに美波とは別の女性の声が聞こえ始めていた。 美波 「つ、通信が……復活したっていうの? ジャマ―を破壊した……と?」  未だザーザーとノイズ音が鳴り響いてはいるが、耳の奥に埋め込んでいた小型の通信機からは確かに彼女の声が聞こえてきていた。 千沙 「あぁ……。結局逃げずにやり遂げてくれたようだな……うちの優秀なサボチュアーは……」  ノイズと海水の雑音が入り乱れる中、彼女は叫んでいた。通信がちゃんと繋がっているのかを確認するために…… 美波 「馬鹿な……ジャマ―がある部屋は隔壁が真っ先に閉じるよう設定していたはず……辿り着けるはずが……」  まさか通信が回復するなど夢にも思っていなかった美波は、驚きと動揺でついつい本音を零してしまう。  ジャマ―のある場所は教えてもそこへ辿り着けないだろうという事は教えなかった。海水が入り込んできている下層で、辿り着けないと悟った岬はきっと諦めて一人脱出する道を選ぶだろう……あの酸欠地獄の中でそのように考えを巡らせた美波は、岬が裏切るという事に可能性を賭け、敢えて辿り着けない事を伏せて情報を開示したのだった。  仲間が裏切ったと分かれば……千沙も追い込まれ、諦めて自分の提案に載ってくるかもしれない……と予想しての行動であったが、結局蓋を開けてみれば千沙が自分の思い通りの選択をすることなどなく……危うく本当に海の藻屑に成り果てる所であった。 千沙 「あぁ……成程な……。船底の階層の電源を落として電子ロックを無効にして隔壁を開いたってわけか……」  美波の言葉を無視するように通信機に向かって言葉を返す千沙。通信の相手は勿論この通信を回復させて見せた岬その人であり、彼女の口からジャマ―の設置してある部屋への侵入方法がまるで手品の種明かしのように明かされていく。 美波 「電気を落したですって? 電子ロックを無効化するために!?」  船の防水用隔壁は船が沈みかけていても一定時間は水の侵入を防げるよう固い気密性が保たれている筈だった。  その強固な気密は電子式のロックが掛けられていればこそ保たれる仕様になっていたが故、その隔壁に電気さえ通っていなければただの横開きの鉄の扉に成り代わってしまう。岬はそれを利用した。  この船へ侵入する際、その隔壁のシステムを利用して船内へ潜り込んだ経験があったため、この隔壁を開くという行為は難なく実行するに至れた。 美波 「千沙ちゃん! 早く彼女に言って!! ジャマ―を壊したんだったらすぐに電源を入れるよう彼女に伝えて! 船底の隔壁の気密性が無くなれば……この船は本当にすぐに沈んでしまうわ!」 千沙 「……あぁ……その事だが美波よ……」 美波 「な、なに?」 千沙 「残念ながらそれは難しいようだ……」 美波 「は、はぁ?? なぜ?」 千沙 「通電をハッキングするために入った部屋はすでに……」 美波 「……すでに?」 千沙 「海水が侵入していて……戻れなくなってしまった……との事だ……」 美波 「なっっ!? なんですってっ!!?」


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