オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑰
Added 2020-12-31 17:04:32 +0000 UTC17:生還 千沙 「岬っ! よかった、お前無事だったんだな!」 海から指揮船へと乗船した千沙達を出迎えたのは全身傷だらけの舞華と妙に馴れ馴れしくはしゃぐ瑞樹と、苦い顔を浮かべながらも皐月の姿ばかりチラチラと伺っている茜と……そして、船底近くで別れ行方知れずとなっていた真中岬だった。 岬 「あったりまえじゃねぇか! あんな所で死んでられるかっての♪ それどころか、この船に一番乗りしたぐらい早く脱出出来たくらいなんだぜ?」 舞華 「そうですよコマンダー! こいつったらこの船の中に隠れて私達を脅かす為に待ち伏せしてたんですよっ! 肋骨も折れているっていうのに……しょうもない悪戯でまた骨の具合が悪くなったわ!」 岬 「驚いたのはお前の勝手だろ? 私は普通に道具を片付けていただけだ。お前こそ私の事“何もしないで隠れて遊んでたんでしょ”って決めつけて散々喚き散らしてただろうが!」 舞華 「喚いてなんかいないわよ! あんたの事だから千沙さんとかを放り出して自分で開け逃げてきたんじゃないかって思って“少し”捲し立てただけでしょ!」 岬 「どこが“少し”だよ……子供みたいに喚きやがって……」 舞華 「なによ~? あんた……やる気? 怪我をしててもあんたを屈服させるのに左脚一本あれば十分なんだからね?」 岬 「お? いいのか? だったら遠慮なく怪我してるトコを狙って再起不能にしちまうぞ?」 舞華 「やってみなさいよ!」 岬 「フン! お前こそっ!!」 憧れの舞華が自分の目の前で岬と睨み合う姿を幸せそうに見ていた瑞樹は、半分口を歪ませながらその喧嘩に仲裁をせんと間に入る。 瑞樹 「ま、まぁまぁ……お二人と痴話喧嘩はその辺で————」 舞華・岬 「「これの何処が痴話喧嘩かっ!!」」 ――バキッ! バシッ!! 瑞樹 「おぉう……ナイスパンチとナイスキック……有難うございます♪」 催眠が解けているとはいえ体に染みついた防衛本能は偽物ではない為、二人同時に繰り出された手と脚による攻撃を難なく手で受け止めて見せる瑞樹。顔はやはり幸せそうに緩み切っている。 舞華 「っ痛っぅ……思わず脚を出しちゃったじゃない! もう!」 岬 「ちっ! 洗脳が解けててもしっかりガードしやがるな……この舞華至上主義の女め……」 皐月 「はいはいはい! そこまでです! 喧嘩はココでは禁止っ! 瑞樹さんへの暴言も禁止です! 特に岬さんっ!」 岬 「うげっ……なんで私だけ……」 舞華 「フフン! ざまぁみろよ!」 皐月 「舞華さんも煽らないでください! 話が進みませんので……」 舞華 「なによぉ~この船には怪我人を労わる優しい人間はいないっての? 私……重症なのよ?」 瑞樹 「は~い、はい! 私が労わって差し上げるっス!」 舞華 「元はと言えばあんたにボロボロにされたのよっ! この冷酷女っ! 少しは反省しろっ!」 瑞樹 「だ・か・ら~~♪ 私がその分も含めて労わって差し上げますってばぁ~~♥ ほら、一緒に奥の部屋に入りましょう? 服も脱いで♥ さぁ、さぁ♪」 舞華 「ひぎゃあぁっっ! 近寄るなぁぁあ! 私にそんな趣味はないぃィっっ!!」 瑞樹 「身も心もほぐして差し上げるっス♥ さぁさ、一緒に行きましょう♪」 舞華 「だぁ~れぇ~かぁぁ! 助けなさいよぉぉ!!」 皐月 「さて……あのイチャイチャカップルは放っておいて、さっきの話の続きをしましょうか?」 千沙 「あ、あぁ……そうだな……」 岬 「……? 何の話だったっけ?」 千沙 「おぉ、そう! お前だよ! お前っ!!」 岬 「……ん? 私か?」 千沙 「あの状況でどうやって脱出してこれたんだ? まさか自力で泳いでこの船まで辿り着いた……とか、言わないよな?」 岬 「あぁ……それか? 別に小難しい事は何一つしちゃいねぇぜ? 来た道を戻っていっただけだからな……」 千沙 「来た道を……戻った? それはどういう意味だ?」 岬 「いや、そのままだよ。私はほら……このミッションの始めに舞華より先に潜入してただろ? 機関室にある通信ケーブルをハッキングするために……」 千沙 「あ、あぁ……そうしないと皐月のハッキングが進まないからな……確かにお前を先に向かわせた……」 岬 「私が最後に閉じ込められたあの部屋から伸びてた通気口は、結局その機関室の真下の部屋まで繋がっていたんだよ」 千沙 「機関室の……真下??」 岬 「あぁ。すぐ下だったぜ? 後は近くにあった階段を登って機関室へ辿り着いた……ただそれだけさ」 千沙 「だが……あの機関室は船首側にあって行き止まりだったはずだ。それ以上うえのフロアに行ける階段なんて無かったはずだろ?」 岬 「階段なんて使う必要はなかったのさ……」 千沙 「な、なに?」 岬 「機関室近くの通路にあった通気口……私はその通気口を使って最初に侵入した」 千沙 「あぁ……後で私もその通路を使って潜入したからそれは分かる。外と繋がっている事も……」 岬 「船が沈み切る前に私はそこから脱出をしたんだ」 千沙 「ま、待て! あの船は沈没が始まっていただろ? 皐月から聞いていたが、沈んでいく大型の船の周囲は“引き込み”が発生するらしくて人間が自力で泳いでその海域から出る事は出来ないくらい激しいらしいぞ? お前はそれをどうやって……」 岬 「誰が自力で泳いで脱出したって言ったよ?」 千沙 「なにっ?」 岬 「酸素ボンベに高水圧対応のゴーグル……潜水スクリュー付きの超小型ハンディモーター……更には潜水服も着てたし足ヒレなんかも装備して脱出したぜ? いわゆるフル装備ってやつさ……」 千沙 「は、はぁ?? いや……でも皐月に途中で聞いたが……あの船にはそういった類の装備品は置いていなかったって……」 岬 「あぁ……私も探しては見たが無かったぜ……ボンベの一本たりともな……」 千沙 「じゃあ……その装備……どうやって調達したんだ? ないモノをどうやって……」 岬 「じゃあ聞くが……コマンダーは、私をあの船へ送り出すとき、手ぶらで行かせたのか?」 千沙 「っ!?」 岬 「港に停泊していたとはいえ、潜入がバレちゃ意味ないからって……わざわざ何キロも離れた海域から向かわせただろ? さっきの装備を持たせて……」 千沙 「ま、まさか……その最初の装備を取っておいたのか? 潜入に荷物になるからと破棄するよう言っておいたのに……それを守らず船に隠していたのかっ!?」 岬 「あぁ……。機関室のボイラー横に袋をかぶせて隠しておいたのさ……万が一の為に……ってな♪」 千沙 「酸素ボンベも……電動式のスクリューもあれば、あの船の巻き込みからも脱出できる……更にはこの指揮船の場所までも運んでもらえる……。成程、それで舞華たちよりも先にこの船に戻ってこれたという訳か?」 岬 「まぁ、そういうこった♪ どうだ? ものを大事にする私のケチ癖が今回は役に立っただろ? まぁ、自分自身をそれで救ったって言っても過言ではないんだがな……」 千沙 「はぁ……恐れいったよ……私はてっきり……あの部屋から出られなくなったんじゃないかって……」 岬 「私もそれは危惧してたよ……。コマンダーが私を心配して脱出の時間を遅らせていたらまずいなって……」 千沙 「結局……お前を助けに行かなくて……正解だったってわけか……」 岬 「それは何か棘があるなぁ~~」 千沙 「そうだな……。お前を“信じて”正解だった……っと言い直しておくか……」 岬 「ま、今更だがな。でも、それでいいや……」 実際の所は船を出る前に逃亡しようとしていた美波と最後に話をしていたという事実があるのだが、岬はその部分には触れずただお互いの脱出が上手くいったことに労いの言葉を掛け合った。 しばし緊張が解け、緩やかな空気が流れ始めた甲板だったが……そこに居る事が場違いであるかのように気まずい表情を浮かべて下を向く女性が一人いた。 そんな彼女を気にしてか皐月は千沙達の会話には参加せず、その曇らせた表情を浮かべる彼女のもとへと歩を寄せる。 皐月 「陸(おか)に上がったら……瑞樹さんと共に私の屋敷に来てもらいますから、そのつもりでいてくださいね?」 不機嫌そうに海に視線を落としていた彼女の横にヒョイと身体をつけて並び声をかける皐月……。視線を落としていた彼女は僅かに顔を上げるも視線は合わせようとはせず水平線の彼方にあるであろう陸地に向けて言葉を紡ぎ始める。 茜 「私達を……どうするつもりですの? 警察に突き出すつもりはないって言ってましたけど……貴女の家には監禁するつもりなのでしょう?」 皐月 「監禁? いえいえ……そんな貴女達みたいな酷い事はしませんよ……。でも貴方にはまだ責任があるでしょ?」 茜 「……責任?」 皐月 「えぇ……。明るく振る舞ってはいますが、瑞樹さんは催眠によって舞華さんを傷つけた事を物凄く深刻に受け止めていました……それと同時に、操られていたことに対して極度に恐れを抱いています……」 茜 「そうですわね……私達が……彼女に別人格を植え付けてしまいましたから……」 皐月 「またいつか……自分の知らない間に誰かを傷つけてしまうかもしれない……自分の意志とは関係なく……。そういう不安を今も抱えているんですよ、彼女……。空元気で胡麻化そうとはしてましたが、表情は硬く強張っていました……」 茜 「彼女への洗脳は……さっきも言ったように、あのキーワードを直接何度も彼女に伝えない限りは発動しませんわ。それを利用しようとした美波さんはもういませんし……私だってもう……彼女にあのような催眠をかけるつもりは微塵もありませんわ……」 皐月 「調べさせて貰いましたけど……茜さん……。貴女って……あの柳津美波とご学友だったそうですね?」 茜 「っっ!!? まさか……あの船が沈んでいってるっていう状況で……私のPCの個人フォルダーまでハッキングしてその情報を漁りましたの?」 皐月 「えぇ……」 茜 「……どれだけ神経が図太いんですの? 全く……貴女なら警察庁のPCも簡単にハッキングしてしましそうで恐ろしくなりますわ……」 皐月 「別に貴女の個人情報を調べたくて情報を漁った訳じゃありません。ただ……美波が次にどこに向かうつもりだったのか……その情報だけは知っておきたいって思いまして……」 茜 「彼女の行き先は私にも分かりませんわ。そもそも……次の商売相手の情報すら教えてもらっていませんでしたし、次の行き先は船を脱出した後に伝えるという事になっておりましたの……」 皐月 「えぇ……その様ですね……」 茜 「あの船は私達が脱出をしてから沈めるという約束を取り決めておりましたに……。でもそれを破って船を沈めたんですから……彼女の計画の中では私も船と一緒に消すつもりでいたのかもしれませんわね……」 皐月 「……………………」 茜 「…………………………」 皐月 「貴女自身は、彼女につき従ってきて……良かったと思っていたんですか?」 茜 「……………………」 皐月 「あんな殺人まがいな拷問器具を作らされて……人間をモルモットの様に扱ってきて……心の底から楽しいと思えていたんですか?」 茜 「……楽しい……と、思い込ませていないと……やってられませんでしたわ……」 皐月 「…………………………」 茜 「敵だった貴女に捕まってこんな事言っても都合のいい女だと思われるだけかと思いますが……私は怖かった……」 皐月 「……………………」 茜 「学生時代に気の弱かった私を友人の様に迎え入れてくれた彼女には……感謝してもしきれませんけど、卒業と同時に音沙汰が無くなって……次に再開した時には……彼女は変わってしまっていましたわ……」 皐月 「……学生の頃、貴女に声をかけたのは学友を得る為とは別に……別の目的があったと私は思っていますが……」 茜 「えぇ。それはうちの家柄の事を言っているのでしょう?」 皐月 「はい……」 茜 「神崎財閥……。日本屈指の大企業……という訳ではありませんけど、美波さんがうちの資金力に目をつけて近づいてきていたことは……薄々気付いていましたわ……」 皐月 「神崎財閥は……以前、警察との癒着が取り沙汰されて有名になっていましたよね?」 茜 「そう。うちの祖父は……美波さん同様……汚いお金でのし上がった黒い起業家……。その血を受け継いだ父も……警察という隠れ蓑を纏って汚い商売を裏でやっていたと聞きましたわ」 皐月 「警察との繋がり……資金力……裏社会の起業家……。当時学生だった美波は、そこまで調べていなかったにせよいずれは利用できると感じ取って貴女に近づいたんでしょうね……」 茜 「えぇ……今思えば……そうだったのだろうと思えますわ……」 皐月 「裏が真っ黒な起業家の娘と友達になっていれば、いずれお金が必要になった時脅す事も出来る……」 茜 「私は何度も言われましたわ……“裏切ったら家の秘密を世間にばらす”って……」 皐月 「そういう言葉のナイフで脅されていて手伝っていたんですね? あの非合法な研究を……」 茜 「えぇ。でも……お金を請求されたことは一切ありませんでしたの……。ただ、研究を手伝え……とだけ言われて……」 皐月 「へぇ……お金は要求しなかったんですね? てっきりラフレシアの会社は貴女が用立てたのかと……」 茜 「あれはしっかり拷問器具を売り捌いて稼いだお金で建てた会社でしたわ……私は一銭も支払ってはいなかった……」 皐月 「でも、警察へのコネは利用されたんでしょ?」 茜 「そうですわね……あの美波さんが……珍しく丁重に私に頭を下げてお願いに来てくださいましたわ……」 皐月 「あの美波が?」 茜 「本当は利用したくなかったんだけど……どうしても必要だから、って言われて……」 皐月 「利用したくはなかった……ですか?」 茜 「それを聞いて……私は少し嬉しかった。やってることは卑劣極まりない研究でしたけど……私に気を遣って今までやりたかったことも実は我慢してくれてたんだって……思えて……」 皐月 「まぁ、不良がゴミ拾いをしてたら一層よく見えるってやつですね……」 茜 「そうね……。でも私はその時決心した……。どうせ逃げられないんだったらとことん楽しくなるまで自分を胡麻化そう……って……」 皐月 「それは……瑞樹さんにした洗脳と……少し似てますね?」 茜 「そうね……私は私自身を騙そうと努力しましたわ。くすぐって……人を笑わせるのは楽しい事だ……って、苦しそうに見えるけど被験者の人もいっぱい笑えて楽しんでいるんだ……って」 皐月 「まぁ……くすぐりって……特殊ですもんね? 受けている本人は苦しくて仕方ないのに、顔は笑いっぱなしですから……ヤってる側は罪悪感も持ち辛くなっちゃいますし……(でも、そこがちょっとエッチな部分ではあるんですけどね♥)」 茜 「はい? 何か最後……呟きませんでした?」 皐月 「い、い、いえいえ! お気になさらずに♪」 茜 「…………?」 皐月 「まぁ、安心してください。貴女を悪いようにはしません……」 茜 「…………………………」 皐月 「丁度、うちにもメイドさんを雇いたかったって思ってたんです♥ ご主人様の言う事を聞いてくれる便利なメイドさんが……」 茜 「は、はぁ?? メイド……さん?」 皐月 「うちは妹と二人で暮らしていますが……父も母もいないので大きなお屋敷が寂しかったところなんですよ♪」 茜 「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! なんで私達が貴女の家でメイドをしなくてはなりませんの?」 皐月 「良いじゃないですかぁ~~悪い事をした償いをしたいって思っているでしょ? お二人は……」 茜 「そ、そんなのが罰になるわけがないでしょ! キチンと法に裁かれないと私達の罪は消えませんわ! 私はそれ以上の罰を与えて頂けると思って贖罪の為に貴女についてきたのですよ? それがメイドなんて生温い……」 皐月 「いえ、メイドはただの私の趣味です」 茜 「……はぁ??」 皐月 「本当は貴女にやってもらわなくてはならない事が一つあります。それをやりながらメイドもやってもらうんです♪」 茜 「やってもらう……事とは?」 皐月 「瑞樹さんの脳内に残っている催眠……アレの完全な解除の方法を探る事です……」 茜 「それは……私には……無理ですわ。掛けることは出来ても……それを取り除く事なんて考えていませんでしたし……。何より解除する方法があるかどうかも疑問なのに……」 皐月 「それでも……瑞樹さんを癒す努力は見せて頂きますよ?」 茜 「癒す……努力……?」 皐月 「瑞樹さんは自分が意図しない暴走を起こすのを物凄く恐れています……。何がきっかっけで暴走するか分からないっていう恐怖に苛まれています……」 茜 「それは……キーワードを伝えなければ発動しないから……もう起きえないと先程……」 皐月 「それを私が説明しても彼女は納得してはくれないでしょう。多分……今の貴女が説明しても同じです。彼女はああいう風に振る舞ってはいましたが貴女の事も警戒しているでしょうから……」 茜 「当然ですわね……洗脳した張本人なのですから……」 皐月 「だから、その信頼をまずは取り戻さなくてはなりません」 茜 「信頼を……取り戻す?」 皐月 「一緒の環境で一緒に過ごして……貴女という人間の表も裏も知ってもらうんです。全部!」 茜 「私の……全部を……知ってもらう?」 皐月 「心から信頼を置ける間柄になったら……改めて茜さんの方から謝罪と今がどういう状態でこれからどう振る舞えばいいかなんかを伝えてあげてください。勿論、その間に彼女の催眠が完全に除去できる方法が見つかれば言う事はありませんけどね……」 茜 「見つからなかったら? っというか……そんな方法……見つかるとは思えませんわ……」 皐月 「見つからなくても……彼女を安心させる事くらいは出来るでしょ? 貴女が傍に居れば暴走はしないって……保証してあげれば……」 茜 「保証……する? 暴走しないって?」 皐月 「貴女が行った罪は確かに重いです。実験の被験者の方もそうですけど……瑞樹さんの人生を大きく狂わせてしまってもいます」 茜 「……………………」 皐月 「罪を償いたいっていう気持ちが有るのなら……まずは身近な被害者の心を救う事から始めてみませんか?」 茜 「身近な……被害者の……心?」 皐月 「長くかかると思いますよぉ~? 裏切って捨て駒にさえしようとした人間と心を通わせようとするのですから……何年も……いやいや、ひょっとしたら何十年もかかるかもしれません! 彼女と心の底から分かり合えるには……」 茜 「…………………………」 皐月 「勿論……私も彼女と一緒に過ごして、同じ時間を過ごそうと思ってます。まぁ……舞華さんじゃないというのが残念でしょうけど……時々遊びに来させますので許してもらえるでしょう」 茜 「…………そ、そんな事で……良いの?」 皐月 「そんな事とはなんです! 大事な事なんですよ? 彼女にも……貴女にも……」 茜 「罪は……消えない……。私の犯した罪は……決して……」 皐月 「えぇ……多分……一生刑務所に居ても償えないんじゃないでしょうか? 行ってきた罪が重すぎますし……」 茜 「刑務所で量刑を言い渡されても……私はそれを償いとして捉えきれないかもしれませんわ……」 皐月 「……………………」 茜 「人の人生を台無しにしてきた私が……償いきれるだけの何かを持っている訳でもない……。いっそこの命を投げ出して……」 皐月 「もう言わなくても分かってると思いますが、死んで終わらせようとするのは……ただの逃げでしかありませんよ?」 茜 「えぇ。さっきまで……そう思っていましたの。でも……死んで何もしないよりは……何か役に立つことをしながら生きていく方が……良いのかもしれませんわね……」 皐月 「死ぬことを誰も望んではいません。それよりも……実りのある選択をする方が大事かと……」 茜 「参りましたわね……何も言い返せませんわ……」 皐月 「別に言い返してもらっても構いませんよ? これから共同生活をする中で嫌という程私に文句を言いたくなるはずですから♥」 茜 「私は……大層気分屋ですのよ? 人に奉仕などしたことなんてありませんし……とんでもない自己中でもありますし……そんな人間を置いて大丈夫ですの?」 皐月 「私も自己中なので問題ありません♪ それに……すでに妹の方にも適当に説明して無理やり了承を取りましたので、何を言っても私の家に連れて帰りますからね♥」 茜 「呆れた……それは確かに……私より自己中かもしれませんわね……」 皐月 「でしょ? 私は両親に甘やかされて育ちましたから、我が儘で自己中なんです♪」 茜 「最悪ですわ……。それでよく妹さんと暮らせていますわね?」 皐月 「それは私の姉特権を振りかざしているから収まっている部分ですね♪」 茜 「はぁ……これは確かに……」 皐月 「……確かに?」 茜 「刑務所なんかより……よっぽど堪えそうですわ……」 皐月 「アハハ♥」 水平線よりも高い位置まで登り切った太陽の眩しい光が、海面の緩い波立ちに合わせてキラキラと反射し茜の目を眩ませる。 眩しすぎて光を直接見る事が出来なくなった茜は、顔を横に向け肩を突き合わせるように並んで立つ皐月の顔に視線を向けてみる。 そこには海面にも負けない満面の笑みを浮かべる皐月の顔があった。 茜は彼女に聞こえない様に小声で「敵いませんわね、貴女には……」と呟きを入れる。 皐月はその言葉が聞き取れず「何か言いました?」と聞き返すが、茜は無言で口元を緩ませて見せた…… そしてまた……海の先を見据えてぼそりと独り言を呟く。 「やっと悪夢から覚めて……明日からまた……新しい夢を見なくてはならなくなりましたわ……」っと。