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ハルカナ
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オペレーション・ブルーアルカディア♯3-⑲

19:いろり  静かに寄せては返す海辺の波の音……  うみねこが鳴きながら宙を舞い、漁船からはポッポッポという独特なエンジン音と船の注意を促す警笛音が鳴り響いている。  何処にでもある田舎の港風景……  その何処にでもありそうな港の片隅に……板を張り合わせて作ったかのような小さな小料理屋が1件佇んでいた……  潮風に晒され錆びついた看板には“いろり”と書かれ、同じ店名が暖簾にも印字されている。  全面を板で張り付けたかのような壁と昔ながらの引き戸……。暖房器具や冷房器具もない……あるのは開けっ放しの窓と海の男たちが集うであろう薄汚れた木製のテーブルが6つほど……。  今日は昼間に珍しく3人も客が入っている。  その中でも、とりわけこの田舎の港には珍しい小綺麗な格好をした女性が一人……一番奥の席で誰かを待っているかのように注文もせずに席についていた。  真っ白なクローシュの帽子を頭に深くかぶり、上は水色のサッシュブラウスを身に纏いつつ、下はブーツカット・パンツを穿くというなんとも都会的な格好をしたその彼女は、急いでいるのかサングラスをかけたその顔で時計を何度も確認しながらしばしの間そこへ居座り続けている。  暫くして、待ち人が来ないと悟ったその女性は静かに席を立ち、店から立ち去ろうと席を後にしようとした……  そんな彼女に、背中合わせに座って“焼き牡蠣”を焼いていたもう一人の妙齢の女性客が声をかける。 ??? 「あら……食べなくていいの? この店の焼き牡蠣は粒が大きくて最高よ?」  席を立った女性はその声にビクリと身体を反応させ、何かに気付いたかのように溜息を1つついてそのままテーブルから離れず再び椅子へと着席する。 ??? 「知っているわ。昔からよく食べていたもの……ここの焼き牡蠣……」  着席するなり背中越しに言葉を紡ぐサングラスをかけた女性。その言葉に牡蠣を食べていた女性は静かに箸を箸置きに置く。 ??? 「これから何処か行くの? そんなに小綺麗に着飾って……」  椅子に座った女性は再び溜息の様な息を吐いて背面に居る女性を向こうともせず話を続ける。 ??? 「えぇ……ちょっと遠くまで行こうかと思っているわ……」 ??? 「そう……。それは大変ね。ココよりも寒い所へ行くのかしら? それとも……暑い所へ?」 ??? 「さぁ……どうかしらね。私ってば有名人だから……行き場所をうっかり喋っちゃったらファンが押し寄せてきちゃうの……だからあまり自分の行き先は言わない様にしているわ」 ??? 「それは残念……。でも……何処へ行くにしても、気をつけて過ごしなさいね?」 ??? 「止めないのね。自分の娘を……」 ??? 「えぇ……止めないわ。いつか……自分で気付いてくれるって信じているから……」 ??? 「自分で気付く? 何に?」 ??? 「フフフ……それは旅立ってから考えて頂戴。私はそれ以上何も望まない……」 ??? 「あら、そう教えてくれなんだ? 案外意地悪なのね。これが今生の別れになるかもしれないっていうのに……」 ??? 「今生の別れ? さぁ、それはどうかしら? 私は貴女がまたココに戻って来てくれるって信じているわ……いつまでもね……」 ??? 「……私はもう……日本には帰らないわよ?」 ??? 「それでも……信じて待つのが親の勤め……。寂しくなったらいつでも帰ってきなさい? 私はココで待っているわ……貴女の好きだった最奥の席でこの牡蠣を食べながらね……」 ??? 「そのうち潰れるんじゃない? こんなさびれた田舎の小料理店なんだから……」 ??? 「じゃあ、潰れる前に帰ってきて頂戴?」 ??? 「だ、だから! 私は……もう帰らないって決めたの! 海を渡って成功して見せる! 集められるだけの富を集めて、世の中の全てを手に入れて見せるわ!」 ??? 「その先に……」 ??? 「………………?」 ??? 「その先に何があるんでしょうね?」 ??? 「そんなの決まってる! 輝かしい未来と幸福よ!!」 ??? 「それは……誰かを傷つけてでも得ようとするものなの?」 ??? 「そうよ! そんな手段しか……私には思いつかない!」 ??? 「幸せを得ようとするのは誰しもが思う事……でもその幸せを享受するには過程が美しくないと満足できないわ……」 ??? 「なに? またお説教? 聞き飽きたわ! 私は私の思う幸せを享受して見せる!」 ??? 「例えば……ここに牡蠣があるじゃない?」 ??? 「……………………っ?」 ??? 「焼き牡蠣って……焼き上がるまでが面倒くさいって……貴女も分かるでしょ?」 ??? 「…………………………」 ??? 「でもね……その面倒くさいっていう過程があるから、食べられた時の幸福感も増すと思うの……」 ??? 「私は焼かれて出てくる牡蠣の方が好きよ! 焼くのに時間は掛かるし、汁は飛んでくるし、油断したら殻が弾けて顔に当たって危ないし! 良い事なんて一つもない!」 ??? 「そう……私も焼くときは面倒だなぁ~って思って焼いているわ」 ??? 「だったら、店員さんに焼いたものを持ってきてもらえばいいじゃない!」 ??? 「でも貴女は子供の頃……そうしたかしら?」 ??? 「……っ!?」 ??? 「私は何度も言ったわ……焼いたものを持ってきてもらっても良いのよって……」 ??? 「……………………」 ??? 「でも貴女はそうしなかった……。焼くのが楽しいから焼きたいって言ってたし、こうも言ってたわ……」 ??? 「………………………………」 ??? 「自分で焼いた方が楽しくて美味しい……って……」 ??? 「そ、それが何よ!」 ??? 「貴女もそういう時期があったのよ。手間はかかっても楽しみながら食べる牡蠣は美味しいって感じられる……可愛い子供時代が……」 ??? 「そんな事……覚えていないわよ!」 ??? 「覚えていなんだったら……思い出してみて? その純粋な気持ちは……確かに貴女の中に眠っている筈なんだから……」 ??? 「も、もう行くわ! こんな説教聞くために立ち寄ったんじゃないんだからっ!」 ??? 「じゃあ……なんで寄ってくれたの?」 ??? 「っ!? そ、それは………………」 ??? 「いえ、言わなくてもいいわ……貴女の気持ちは十分に伝わったから……」 ??? 「な、何を勝手に勘違いしているのよ! 私は別に貴女に会うために来たわけじゃ……」 ??? 「そうね……貴女はココの牡蠣が好きだった……。だけど、食べないで出ていくのね? しばらく食べれなくなるのに……勿体ない……」 ??? 「大きなお世話よ! それじゃあね! せいぜいまた信者でも集めて小遣い稼ぎでもしてたらいいわ!」 ??? 「えぇ……貴女も身体には気をつけて……」 ??? 「っっ!! フン!!」  怒りをぶつけるように椅子から勢いよく立ち上がったサングラスの女性は、その後背中合わせに居た女性に一言も告げず店を後にした。  去り際……一瞬足を止め何かを呟いたように見えたが、牡蠣を食べている女性はその言葉を読み取ろうとはしない。  やがて、サングラスの女性は店を後にし、珍しく慌ただしかった店内に再び静寂が訪れる。 ??? 「良かったのか? あれで……」  最後の牡蠣に箸を突き立てようとしているその女性にその向かいに座っていた3人目の女性客が口を開く。  ぶっきらぼうな口調でそのように聞く青いショートヘアの女性……。彼女も同じ牡蠣を3皿も注文しており、先程から2人の会話に興味も示さず無心にそれを頬張っていた。 ??? 「アレで良いんです……伝えたいことは全部伝えましたから……」  牡蠣を食べ終わった妙齢の女性は、緩いウェーブの掛かった茶色の髪を指で撫で……そのように向かいの女性に返す。 ??? 「しっかし……私は牡蠣は焼いてもらったのを持ってきて貰う派だな♪ 面倒くせぇのは嫌な質なんでね……」 ??? 「私も……実はお店の人に焼いてもらう派ですよ?」 ??? 「んぇ? でもさっき……あんた、あいつに……」 ??? 「彼女は……焼くのが好きだったというだけです。私だって面倒くさいのは嫌いですから……」 ??? 「じゃあ……なんで今日は自分で焼いたんだ?」 ??? 「まぁ……ちょっと……焼いてみれば娘の気持ちも少しは分かるかなって……思いまして……」 ??? 「分かったのか?」 ??? 「いいえ。ただ……面倒くさかっただけでした……」 ??? 「なんだよ……折角いい話を聞けたと思ったのによ……」 ??? 「好き嫌いは人それぞれです……でも、娘は今……自分が本当に好きだったことを忘れてしまっているんだと思います……」 ??? 「本当に好きだったこと?」 ??? 「彼女は……人を傷つける事を好きな人間ではありませんでした……。むしろその逆でした……」 ??? 「へぇ~~そりゃ……拷問を受けた身としては天と地がひっくり返るくらいの仰天情報だぜ?」 ??? 「今はまだ殻に閉じこもってしまっていますが……いずれまた、思い出すこともあるでしょう……その時に考えてくれればいい……」 ??? 「そんなもんかね?」 ??? 「そんなもんです……」 ??? 「いや~~しっかし……まさか本当にここに立ち寄ってくるとはな……」 ??? 「フフ……彼女、牡蠣が好きでしたから……特にここの牡蠣は……」 ??? 「母ちゃんに相席しているのが私だってバレてたら一目散に逃げられていただろうぜ……」 ??? 「逃げても……また追ってくれるのでしょう? 貴女達(スニーカーズ)が……」 ??? 「あぁ、その為にあの時先回りしてあいつの服と潜水艇にセンサーを忍ばしたんだからな……いつでも追跡は可能だぜ?」 ??? 「ご苦労様です。申し訳ありませんね……うちの娘の為に命を張らせるような任務に就かせてしまって……」 ??? 「何言ってんだ。今はスニーカーズで仕事するのが楽しくてしょうがないんだ、誘ってくれた事……感謝してるくらいだぜ?」 ??? 「素敵な仲間も出来ましたし……貴女も元気を取り戻せて良かった。それだけでもスニーカーズを作った甲斐があったというものです……」 ??? 「しっかし……コマンダーから聞いたけどよ。ちょっと警察の方が面倒くさい感じになってるらしいな?」 ??? 「えぇ。今回の事件で“鳴かない鼠”が関与しているという情報を得たようですから……上の方達も大慌てで手配書を書き換えているって話です……」 ??? 「見当はついているのか? その鳴かない鼠とやらのアジトとか……」 ??? 「うちの元信者だった女性が末端の構成員と昔交際していたと情報が入っています。今後は彼女を保護しながら詳しい情報を聞き出す予定です……」 ??? 「そうか……そっちも動いていたんだな?」 ??? 「えぇ……スニーカーズをバックアップするのも生みの親である私の責任ですから……」 ??? 「さっすが教祖様だ♪ 頼りになるぅ~~」 ??? 「持ち上げても何も出ませんよ?」 ??? 「いやいや、本音ですってば! ホ・ン・ネ♥」 ??? 「………………で? 本当の所は?」 ??? 「んえ!? あ……、えと……その……」 ??? 「……うん?」 ??? 「牡蠣……おかわりして……良いっすか? 言うだけあって……滅茶苦茶旨いわ♥」 ??? 「……どうぞ。貴女の報酬から差し引いておきますから……存分におあがりなさいな」 ??? 「ちょ、嘘? じゃあ……待つ間に食べた……3皿分も?」 ??? 「当然です♪」 ??? 「待ってくれよぉ~~~そりゃないぜ教祖様ぁ~~!」 ??? 「ほら、休暇はおしまいですよ! 明日からは新しい任務がスニーカーズを待っているわ!」 ??? 「いやいやいや! 払ってくれよぉ~~ケチぃ~~~!」 ??? 「組織を維持するのにもお金は必要なのです。さぁ、時は金なり! ジャンジャン稼いで人生を謳歌なさい!」 ??? 「牡蠣代くらい払えよぉ~~このドケチぃ! 綺麗事言っても結局金なんじゃかよぉ~~」 ??? 「それはそれ、これはこれですよ♥」 ??? 「くそぉ! 今度はもっと稼いでやるからなっ! 報酬の高い仕事を回してくれよ!」 ??? 「飛びっきりのを用意してあげます。楽しみに待ってなさい♪」 ??? 「絶対だぞ? 私だけ稼げるヤツだぞ? 舞華とかに横取りされるのは真っ平だからなぁ~~!」 ??? 「はぁ~~い♥」  打ち寄せる波しぶきに負けない程の威勢のいい2人の掛け合いを、壁に背を預けながら腕を組んで聞いているサングラスの女性。  一部始終聞き終えた後彼女は「フン」と息を吐き捨てて彼女達とは真逆の道を歩み出す。  サングラス越しに僅かに見える鋭い視線は遥か水平線の先を見据えて歩み速度を上げていく。  振り返る事はせず……しかし一度だけ立ち止まって小さな声で言葉を零す。 「追ってこれるものなら……追ってきなさい……スニーカーズ……。次は負けないわ……」  ……と。 特務潜入捜査班スニーカーズ2nd ~オペレーション・ブルーアルカディア~                                            Fin……。


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