ショーダウン(リメイク)⑤
Added 2021-09-18 12:13:47 +0000 UTC5:出資者 「あらあら……最初の勢いはどこへ行ったのかしら? 勝てたのは1回目だけで、後は散々じゃない……」 初戦の見事な勝ちの勢いで2戦目以降も勝ち続けるのでは? と誰もが期待したその後の勝負であったが……5戦を終え、蓋を開けてみれば麗華が勝てたのは結局最初の1戦目だけで、残りの試合結果は運に見放されたとしか言いようもないくらいに散々な勝負となってしまっていた。 「ホントですわね……もう150万近く負けてしまっていますわ……」 惨敗している事を誤魔化すわけでもなく、残念そうな表情で下を向く麗華はアタッシュケースに入った現金の束が目減りしている現実を寂しそうな目で見ている。 この2人の勝負……突発的なイベントのような形をとっているが真剣勝負でもある。通常通りミニマムベット(最低賭け額)を払い、勝ち負けでチップが移動する……その流れは通常通りであるのだから、負けが込めば当然麗華の用意した資金が直接ダメージを負う事となる。少ない額の勝負であればいかさま破りに集中できそうなものだが……彼女が勝負を挑んでしまったテーブルはミニマムベッドが最高のテーブル……ひと勝負20万を賭けなくてはならないという高レート専用のVIPテーブルであったため負ければ最低でも20万以上のお金が一瞬で無くなる事となる。 負ければ最低でも20万以上負けてしまうテーブル……普通なら1回でも負ければ胃が痛くなってくるほどの高額の賭け。その勝負に4回も連続で負け続けてしまっている現実は精神的にも金銭的にも麗華の余裕をジワジワと削り取る結果となっていた。 そして、綾香にとって幸運だったのは、この理不尽ともいえる負けの積み重ねが彼女の何かしらのトリックではなく純粋に“麗華の運が悪かっただけ”という……願ってもない境遇が出来上がった事にある。 普通の勝負でも、負けがこみ始めると薄らとでも疑いの気持ちを持つ事はある。ましてや“いかさま”を疑っている相手に4連敗もしているとなると疑いは確信に変わっている事だろう。 どんなトリックで勝っているのか? いついかさまをやってきていたのか……そんな事を頭に巡らせ疑わざるを得なくなる。 そう考えるようになると、まさか“自分の運が悪かっただけ”などという答えには行き着くことは無い。何らかの仕掛けがあるのだと勘ぐるようになるのが当然の摂理なのだ。 カードを怪しんでみたり、テーブルに仕掛けが無いか探してみたり、カットする手つきを睨みつけるように見て怪しい動きをしていないかチェックしたり……どの部分にトリックがあるのかを探ろう必死になってしまう。 でも、仕掛けなど最初からない。綾香はこの5戦、通常通りに対戦したのだから…… 答えの無い疑いを振り払えない麗華はやがて辿り着いてしまうだろう。結局は…… 『トリックが……分からない……』という結論に。 トリックを使っていないのだからこの連敗の意味は彼女には分からない。運が悪かっただけ……という至極単純な答えに行き着くことが出来ない。 ……暗雲の中を彷徨うがごとく……見えないいかさまを追ってしまっている現実…… それが、今の麗華の状況だろう。 敢えて余裕ある態度を取っているが……その実、心の中ではそのように焦っているのだろう……いかさまを使われているようにしか見えない勝負の結果が出てしまっているのだから…… そのように綾香は彼女を読んでいた。 表情にこそ出さないがきっと内心は焦っているに違いない……と、彼女は勝ち誇った顔で麗華を見下ろしながらそのように考えを巡らせていた。 しかしそんな綾香の勝ち誇った顔に含み笑いを見せながら、開いた扇子を口元にあてる仕草を取る麗華は負けた事を悔やむようなそぶりも見せずに観客のみならずディーラーさえも驚く様な行動に打って出る。 「負けっぱなしは嫌ですし、そろそろ取り戻さないといけませんわね……次の勝負で」 足元に置いてあったアタッシュケースを勢いよく持ち上げるとドカンとテーブルの上に置いた麗華は、ざわつく観客たちを尻目にニヤリと笑みを浮かべ…… 「次は……このケースの中身、全部を賭けて勝負させて貰いますわ♥」 と、良い放った後にテーブルの上に置いたアタッシュケースを持ち上げ空中で豪快に引っくり返して見せた。ひっくり返されたアタッシュケースからは当然の如く中に収めてあった札束がテーブルの上に自由落下して零れ落ち、残っていた5つの束が驚く綾香の目の前に乱雑に積み上がった。 「なっ……ご、500万!? ま、まさかそれ全部ベットするつもり? 次の対戦だけで?」 その暴挙とも言える麗華の行動に目を白黒させて驚いてしまった綾香は、普段のクールな立ち振る舞いを崩しついつい声を張り上げてその賭けを本当に行うつもりなのかを彼女に確認した。 「えぇ♥ その方がチマチマ戦うより良いでしょ? このテーブルは最低ベッドは決められているみたいですけど……上限は無いと伺いましたし、それならいっそドカンと戦った方が派手で面白いじゃありませんか♪」 扇子で口元を隠しながら麗華はその無造作に積み上がった5つの札束を片手で綺麗に整え直し、チップに変換する様札束の山を綾香側に押し出す動作を行った。 「く、狂ってるわね……。負けるかもしれない勝負に……500万もつぎ込むなんて……」 綾香はこのような高額なベットで行う勝負をまだ経験したことが無かった。高額ベットのテーブルとは言え、遊び程度の賭けならばせいぜい50万位に留めるギャンブラーがほとんどである。 しかし、彼女が出してきた額はその10倍……500万という大金だ。 それだけの額を賭けるとなれば当然遊びでは済まなくなるし、それ相応の覚悟が賭けた側にも受ける側にも必要となる。 もしも、この勝負でディラーである綾香が負けてしまえば1000万という額が一瞬で動くことになり、その損失はカジノの母体でもあるホテル側にも手痛い影響を及ぼすだろう……。そしてその損失を招いたとなれば、このカジノの悪徳オーナーの事だから……当然、その勝負を受けてしまった自分に責任が押し付けられて――…… ……と、そこまで頭を巡らせていた時、突然……スッと熱が引くような感覚が綾香を襲った。 あまりの高額な賭けの申し出に現実感を失い、頭の中が混乱しかかったところではあったが……逆にその現実感の無さが彼女の頭を一気に冷ますきっかけとなり、頭の中の混乱もすぐに収まりを見せ冷静さを取り戻す事となったのだった。 そしてその冷静になった頭で、この麗華による暴挙になんの意味があるのかを改めて考えてみると……意外にも簡単にその答えは見出されてしまう。 『成程……そういう事か……』 『額が大きくなれば当然勝負する私にも責任が生まれてくるから……私が“絶対に負けない”勝負をするだろうと踏んだ……というわけね?』 『負けられない勝負なら“いかさま”を使わざるを得ない。いかさまを使って確実に勝ちを狙いに来る……そんな風に考えて、こんな馬鹿みたいな額の勝負を持ちかけたという事ね?』 『確かに、私が冷静でなければ……もしかしたらプレッシャーに負けて使っていたかもしれないわね。500万も賭けた勝負に負けたとあれば……私のディーラ人生も危うくなりかねないし……』 『でもそうなれば……こいつの思うツボだった。何一つ見逃さない様にと目を光らせていたでしょうから……もしかしたらアレを見破るヒント的なものを与えてしまう事になりかねない。下手すればこれがきっかけでバレる事だってあり得る話だったわ……何も考えずにアレを使う流れになっていたら……』 『恐ろしい女ね。私を負けられないっていう状況に追い込んで、いかさまを誘導しつつ……そのカラクリまでも暴こうとするなんて……油断出来ないったらありゃしないわ……』 高額勝負の熱に呑み込まれず冷静さを取り戻した綾香はそのように考えを巡らすと、いつもの冷ややかな微笑を口元に浮かべ直し金の力で目の前を暗闇にしようとした麗華の思惑をあざ笑うかのように言葉を返す。 「フフフ……大した富豪さんね。こんな勝てるかどうかも分からない勝負に500万も賭けてくるなんて……。もしかして、こんな額の賭け金で挑まれたら……私が逃げるとでも思ったのかしら? この勝負から……」 勝ち誇ったように胸を張り、冷徹な目で見下ろすその態度を見て麗華もつられてニヤリと笑みを零す。 「クフフフフ……そう言ってくれるという事は、受けて下さるのですよね? 私との500万の勝負を……」 「いいわ! やってやろうじゃない! 私だってディーラーである前に勝負師でもあるんだから……この超高額の勝負……乗ってあげるわよ!」 そう言い放つと綾香はテーブルの鍵がかかった引き出しの鍵を開け、奥から5枚のチップを取り出した。 普段は使われる事のない……1枚100万のチップ。金色に輝くそのチップを手の中でスライドして見せ、間違いなく5枚ある事を確認させるとそのチップを全て麗華の手に握らせた。 キラキラと美しい光沢を放つ5枚のチップを確認した麗華は、それらのチップを躊躇いもせずにテーブルのベットゾーンへ置こうとするが……しかし観客の中で混じって見ていた一人の男がそれを見て慌ててそのテーブルへと割って入り彼女がベットするのを慌てて止めた。 「ま、待て! 500万の勝負をするなんて聞いてないぞっっ!! それは予備の金だろっ!! 今まで散々負けちまってるってのに、そんな無茶苦茶な賭け方があるか!」 そのスーツ姿の男……彼はつい先程、綾香とサシで戦って惨敗してしまったあの男だった。 「邪魔をしないでくださいます? 私に勝負を預けた以上……私の賭け方に文句など言わせませんでしてよ?」 「そ、それでも……その金は俺の会社の金を引っ張ってきているんだぞ! それをドブに捨てるような使い方されりゃ口の一つや二つ出したくなるさ!」 「ドブになんて捨てませんわよ? ちゃんと約束通り、負けた額の倍以上の額を取り戻しつつ彼女のいかさまも暴いて差し上げるつもりですの」 「いや、だけど……俺が言うのもなんだが……あんたは今日、1回しか勝ててないじゃないか! 勝負運にも見放されてるつーのに本当に勝てると思ってるのかよ? 負けを取り戻そうと高額勝負を持ち込むのは完全に負けるパターンだぞ!」 「負けているのが……正々堂々とした勝負ならそうでしょうね……」 「えっ?」 「フフ……私が何の計画もなしに負けてきたとお思いで? そんな馬鹿な勝負を私が行うワケがないでしょう?」 「負けてたのも……計画の内……なのか? 「えぇ……彼女のいかさまを見極める為の大事な布石でしてよ?」 「って事は……やっぱり……彼女はいかさまを使って勝負をしていた……と?」 「私はそうだと睨んでいますわ♥ だって……説明がつかないじゃありませんか……4回も連続で負けが込むなんて……」 「お、俺には……あんたの運が悪かっただけのように見えたが……」 「んまっ! 失礼な! 幸運の女神の化身たる私が運悪く連敗したと仰りたいんですの?」 「……い、いや……別に信じてない訳ではないんだけどさぁ……」 「だったら黙って見ていなさいな……私がこの可愛い子猫ちゃんのいかさまを暴いて、お金も名声も奪い取ってあげる様を……」 「……う、うぅ……。嫌な予感しかしなんだけどなぁ……」 「あ、そうそう! そう言えばもう一つ貴方にはお願いしなくてはならない事があるのでした……」 「な、なんだよ? お願いって……」 「追加でもう500万……今から大至急、用立てておいてくださいまし♥」 「は、はぁ!? 更に500万もっ!? なぁ! 勝つんじゃないのかよ? なんで、追加で資金が必要になるんだよっっ!!」 「いいから何も言わずに用意なさい! それくらいは容易いでしょう? 結城コーポレーションの……偉い偉い社・長・さ・ん♥」 麗華とその男性との会話を見た綾香は、この2人がどういう関係で繋がっているのかを察し心の中でほくそ笑む。そして話が済んだのを見計らって麗華に事実の確認を行う。 「へぇ……あの人にお金を出させていたんだ? 貴女のお金じゃなくて……」 慌てて携帯電話を掛けながらその場を離れていった男性を顎で指し、綾香は全てを察したかのような目で麗華の顔を見下した。 「私に負けたのが悔しくて、貴女に泣きついたのかな? スポンサーになってやるから俺の負けた金を取り戻してくれぇ~って……。自分じゃ勝てそうにないから、代わりに勝ってくれって言ったんでしょうね? 情けない……」 そう漏らした綾香は手を横に小さく広げて「はぁ」と溜息をつく仕草を見せる。 しかし麗華はその言葉に対し首を横に振る。 「スポンサー……っていう部分は考えようによっては間違ってませんけど、頼み込んだのは私の方ですの♥ なにせ彼にはお金とは別に“とある目的の為にも”この件にかかわって頂きたいと思っておりましたので……」 「その口ぶりだと……最初から“彼”を狙ってたっていう風に聞こえるんだけど?」 「えぇ……とても素敵な殿方だと思っておりましたので……前々から調べさせて貰っておりましたわ♥」 「目的の為とか言ってたけど……その目的って……何よ?」 「秘密ですわ♥」 「どうせくだらない理由なんでしょ? 後で自分のホテルに呼ぶつもり~とか、一緒に一夜を過ごす~とか……そういうヤツに決まってる……」 「あら、それはどうでしょうね? ご想像にお任せしますわ……ウフフ♥」 「何がウフフよ……負けた人にお金まで出させておいて! こういう勝負は自分のお金を賭けて挑みなさいよね!」 「いやぁ~実は私……時間潰しでやったルーレットで散財してしまって勝負するお金も持ち合わせておりませんでしたの♥ だから彼が私に“出資”してくれなければこの勝負も成り立たなかった筈でしたのよ? オホホホ……」 「呆れたクズさ加減ね……。こんな奴に大金を預けるあの男の神経も理解できないわ……」 「ほんと……良い人で良かったですわぁ~~♪」 「でも彼も今頃後悔しているでしょうね? お金を預けた相手がこんなに勝負運の無い女だったって言うんだから……」 「そうかしら? 私は自分ではツいていると思っていましてよ? あの社長さんが予定通り“負けてくれた”という幸運にも恵まれていましたし……」 「彼が負けて何が幸運だってのよ? 貴女……人の不幸を喜んじゃうようなクソみたいな性癖でも持ってるとか言わないでしょうね?」 「いえいえ……ただ負けたのが嬉しかったというわけではありませんのよ?」 「はぁ? 何が言いたいわけ?」 「ただの負けではなく……貴女の“いかさま”に負けさせられた……というのが幸運だったと言いたいんですの♥」 「ッっ!?」 「7戦目の絶好手……でしたっけ? 貴女とやる7戦目はなぜか“良い手”が入って来るとかいう噂の……」 「それが……何よ? 噂は噂じゃない! それ以上でも以下でもないわ!」 「彼の時もそれが起きた……そして、貴女に負けを喫した人は全てその7戦目に良い手が入って“負けさせ”られている……偶然だとしてもそれが起こり過ぎているとはお思いになりませんか?」 「し、知らないわよ! 噂は私が流したわけではないんだし! 大体そんな噂を真に受ける勝負師なんている訳ないじゃない!」 「あら……真に受ける人だったらここに居るじゃありませんかぁ~~私という勝負師が……ほらココに……」 「あんたのはただの難癖っていうのよ! 証拠もないのにギャーギャー騒いでんだから迷惑極まりないったらありゃしないわ!」 「証拠ならこれからお見せしますよぉ♥ この戦いで……」 「……!? この……500万賭かった対戦……で?」 綾香は表向きでは驚く様な顔を見せつつも心の内では「やはり」としたり顔を浮かべていた。 なんのかんの宣っていても、彼女の思惑は結局“負けられない戦い”を強いる事でいかさまを使わせるという一点に狙いを絞っている。 負ければ確かにディーラ人生に大きな傷を負う事になるかもしれない以上……負けられないというのは確かだが、しかし“いかさま”さえ使わなければ決してそれを証明することは出来ない。例え勝負に負けたとしても……いかさまを見破れなかった彼女に対して名誉棄損だのなんだのと理由をつけて負けた額を請求出来なくもない……。 だから“あの手”を使わずに勝負さえすれば自分の勝ちなのだ。最初にそう決めていた通り……次の勝負を普通に戦いさえすれば……破滅するのは麗華の方なのだ。 「フ、フン! 言っておくけど……この勝負……負けないわよ? 私だってディーラー生命が賭かっているんだから……」 綾香はそのように言葉を並べつつも向かいの挑戦者へ冷淡な笑みを零す。 「えぇ……私も負ける訳にはいきませんわ♥ 500万も賭けてしまったのですから……」 麗華も合わせて笑みを浮かべ手に持った5枚のチップを握りこみ、そしてその手を高く掲げしっかりと綾香の顔を正面から見定めた。 「必ず後悔させて見せるわ……覚悟しておきなさい!」 その視線から逃げず、逆に冷徹な視線で睨みを返す綾香は強気に言葉を返す。 お互いの顔をそれぞれが睨み合うテーブルの中央に、視線の交差を断ち切る様に麗華はそのチップをドカンと叩きつけ……こう告げた。 「では始めましょう。500万の……大勝負を♥」と。