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ショーダウン(リメイク)⑦

7:最後の戦い  隣に立っていたバニーガールから新品のカードを受け取った綾香は、扇子で口元を隠す麗華を睨みながらカードを高速で切る。さすがディーラーだと思わせるその見事な高速シャッフルは手元を見ていてもあまりの速さに目が追いつかず素早く動き回る手の残像くらいしか判断できない。しかしながら、反対の手でしっかり持っていたカードの山札が残像が過るたびに減ったり増えたりしている所を見るに、カードのシャッフルは高速ながらもしっかり行えている事が客にも分かる。  この毎度ながら見事なカードシャッフルを改めて見た観客は思わず「おぉ……」と感心の言葉を零し、入念に時間をかけてカードを混ぜている綾香に拍手を送るものさえいる。 「さっき……貴女は私のいかさまを“見破った”とかなんとか皆の前で宣っていたけど……それが万が一本当であるのなら、そろそろその“いかさまの方法”とやらを教えて貰いたいのだけど?」  手元をスライドさせる動きの速さは変えず、先程“見破った”と豪語した麗華の言葉の真偽を確認したいと直接的な言葉で質問を飛ばす綾香。その言葉に対して麗華は口元に構えた扇子を動かすそぶりも見せず彼女に言葉を返す。 「フフフ……慌てなくてもちゃんと説明して差し上げますわ♥ この最終戦を楽しみながら……たっぷりと……ね♥」  すました顔でフフっと笑う麗華に対して綾香の方は顔を横に向けてフンと怪訝そうな声を出しカードのシャッフルを続ける。  そして、コレが最終戦のカードカッティングだと言わんばかりにしっかり時間をかけてシャッフルしきったカードの束をワザとらしくドカンとテーブルの上に叩きつけて置いて、山札の上から2枚を麗華の手元へ滑らせて配り、次の2枚を自分の手元に裏向きに置いてゲーム開始の準備を整えた。 「ほら、ゲームの準備は整ったわよ? いい加減教えなさいよ! あるんでしょ? タネが……」  どうせタネなど分かってやしない……と、高をくくって麗華を煽ったつもりだったが意外にも彼女はその言葉に「仕方ありませんわね」と目を瞑りながら返し、口元に当てていた扇子を静かに畳んで改めて綾香の顔を見直した。そして…… 「ですが……その前に確認してよろしいかしら?」  と、突然そのように言葉を零し綾香の顔から視線を少しだけ横にずらし彼女の斜め後ろに立っていた人物に言葉を投げ始める。 「どうでしたか、智恵理さん? 彼女……ヤって下さったのかしら?」  突然、始めて聞く名前を口走った麗華に「何を言っているの?」と頭に疑問符を浮かべた綾香だったが、彼女の視線が自分の斜め後ろに控えたバニーガールの方に向けられているのをすぐに悟り慌てて彼女の方を振り返った。  赤く派手なバニーガールの衣装を着こんだ青い髪のその女性のネームプレートには、藤咲 智恵理(ふじさき ちえり)と書かれており、麗華が彼女に語り掛けた事がその名前で読み取れた。  肩まで伸びるショートの青みがかった髪……物静かで大人しそうな表情……目元の泣きぼくろが印象的で少し背が高めな印象の彼女は、麗華から名前を呼ばれるとスッと1歩前へ出てペコリとお辞儀を行う。 「んなっ!? あ、あなたは……私を休憩室から呼び出した! あの時のっ!?」  自分の方に目もくれず真っすぐに麗華の顔を見てお辞儀をした彼女を見て、先程の休憩室でのやりとりを思い出し彼女がその時に呼びに来たバニーであったことを思い出した綾香は思わず声を上げて驚きを表してしまう。 「はい、お嬢……ヤってます。間違いないです」  麗華の問いかけに“ヤっている”と簡素に答えた彼女は、再び深々とお辞儀をし直して前に出た分の一歩を後退りながら所定の位置に立ち直した。 「あ、あんた達……グルだったのね?」  彼女の発した“お嬢”という言葉……これはその隣で相変わらず携帯ゲームに勤しんでいる鈴音と同じ呼び方だった。それ故この3人がグルである事がすぐに綾香にも分かった。 「フフ……安心しましたわ♥ もしかしたら最後の最後に貴女が怪しんで“アレ”を使ってこない可能性もあったので……ちょっとドキドキしてましたの。でも、ちゃんと“勝つために”最後にヤってくれて……嬉しいですわ♪ これで逆に……私の勝ちが決まりましたもの♥」   「ど、どういう事? こんなスパイまで潜り込ませて……勝ちが決まったってどういう意味よ?」  智恵理と呼ばれたバニーガール……彼女は今日……いや数日前からずっと綾香の横に立っていた。しかし綾香は彼女の存在を気にも掛けていなかった。そもそもウェルカムドリンクの準備やゲームの案内、ゲーム進行の手助けを行うだけのバニーという存在に意識を向けるなどという無駄な事を綾香は普段からしていなかったのだから当然である。  そんなただのサポート役のモブ職員がまさか敵のスパイであったとは……その事実を知ってしまった綾香は背筋に冷たい汗が伝うのを感じ取る。 「椿 綾香さん……あなたは5年前、結構大きな大会にも出る……マジシャンだったでしょ?」 「っ!? な、何でその事を……」 「調べさせて貰いましたわ……貴女の事……」  言葉を紡ぎながら麗華は、自分に配られた2枚のカードのうちの1枚をゆっくりと表に向けながら彼女の動揺ぶりを楽しむように微笑を浮かべる。 「なっ!? う、嘘!? なんで……そんなカードが貴女に?」  皆に見えるようカードを捲ると、そこにはスペードの3という……勝負手としてかなり小さな数字がそこには現れた。さして驚くべき数字でも何でもないが、綾香はその数字の出現に目を見開くほどに驚き……そして同時に口元を引きつらせて表情を曇らせていった。 「貴女の“いかさま疑惑”は、実は結構以前から噂されていましたのよ? 貴女は気付かなかったでしょうけど……」  そう言葉を繋ぎながら、麗華は2枚目のカードも表に向ける。  次に現われたカードはハートの2……こちらも勝負手としてかなり小さな数字であり別段驚く様な数ではないのだが、綾香はその数字の出現にも後退りするくらいに驚き、自分の目の前で今何が起こっているのか理解できず頭は考える力を失くすくらいに混乱を極めた。   「その“いかさま”がどんなものなのか……貴女の素性を洗っていったら、貴女が昔マジシャンをやっていたという過去に辿り着きましたの……しかも、貴女の得意なマジックは“カードマジック”だったというじゃありませんか。それで私はピンときちゃったんですの♥ もしかしたら……マジシャン時代のテクニックを生かしていかさまをしているんじゃないかしら? ……ってね?」  そこまで麗華の言葉が語られると、綾香は全身から冷たい汗が噴き出しそれがゆっくり身体中を伝って流れ落ちる感覚を味わった。  そう……彼女の言ったこと……それは何ひとつ間違っていなかったのだ。  ディーラーになる前の綾香は……日本でも3本の指に入る程のカードコントロールが上手いマジシャンとしてその界隈では有名だった。その手から捌かれるカードのシャッフルは有名なマジシャンが見ても目が追い付かない程速く、それに加えてタネを仕込む技術も正確無比だった。  複数の大会やコンテストで賞を貰うほどの実力を備えていた彼女だったが、その業界に数年身を置いていくうちに、マジシャンとしての可能性の狭さにウンザリする事となる。  賞を重ねても大物マジシャンのコネが無くては仕事にありつけず……ましてや、その先輩とも言うべきマジシャンに気に入られていなければ声さえかけて貰えない……ある程度のお金を持っていなければショーを開く事さえもできない。  実力だけがモノをいう世界だと信じて飛び込んだ世界だったのに、蓋を開けてみればコネとカネがモノをいうだけの世界であったため……プライドの高い綾香にはどうしてもその世界に馴染めなかった。  そんな折……彼女をコンテストの場で見かけ、気に入り、声を掛けてくれたテレビの関係者がいた。彼は綾香を“新企画のコーナーに出してあげてもいい”と持ち掛け、彼女の気を引いた。  しかし……打ち合わせと称してホテルの部屋へと呼ばれた綾香は……テレビへ出させてやる代わりに身体を差し出せと迫られる事となり、それを断った綾香にその男は強引に力で迫り彼女の身体を無理やり犯そうとした……  幸いにも、ただならぬ物音と悲鳴を聞きつけて入ったホテルの職員によって事なきを得たが……綾香はその時の出来事がトラウマとなり、男にも……マジシャンという業界にも嫌気がさしその道を外れる事となる。  それから……彼女が気晴らしに行ったカジノで、ブラックジャックというギャンブルに出会う事となる。  美しい照明……品のある客達……華やかなショー……カジノという場は全てが綾香の目に煌びやかに映り……そしてブラックジャックのテーブルにつきながら彼女は思った。こういう場所こそが私が居るには相応しい場所である筈だ……と。  目の前には自分と同じ年くらいのディラーが自分よりも不慣れな手つきでカードをシャッフルしている……  それを見ただけでも「自分だったらもっと上手くカードを捌けるのに……」「自分だったらもっと綺麗にカードを配ってあげられるのに……」等と思え、勝負の行方よりもディーラーの手つきや仕草を見て自分のカード捌きを想像の中で重ねることに夢中になった。  そんな彼女がディーラーの道を目指す事となるのに大して時間は掛からなかった。  ディーラーになる為の養成所へと通い……そこを卒業すると同時に晴れてこのホテル併設のカジノディーラーとして雇われ、そこからはその才能をいかんなく発揮しトップディーラーと呼ばれるほどまで登り詰めていく事となる。  そして、マジシャン時代に培ってきたカード捌きの技術が勝負の場でもしっかりと発揮できると自覚した彼女は、そのテクニックを存分に生かし“冷徹な微笑の女ディーラー”と称されるまで勝ち続け、主に自分のトラウマを植え付けるきっかけとなった男性の客からお金を巻き上げカジノの経営に貢献してきた。  それが椿綾香の半生であり、完全無欠なディーラーと呼ばれる彼女はそのようにして出来上がったのである。 「貴女のいかさまが手品の類なら……昔、奇術を学んでいた智恵理さんなら分かるかもしれないと思って、思い切って潜らせてみましたの。まぁ、四日程度ですけど……」 「そしたら案の定、いかさまの内容がすぐに分かったと報告が入りましたわ。さすが同じマジシャン同士ですわよね♥」   綾香はゴクリと息を呑み込み、改めてそのスパイに視線を送る。  赤い口紅を塗った口は固く閉じ……機械的な冷たい表情を浮かべているのが見え、綾香は腹の底がゾクリと寒気を帯びたのを感じる。   「貴女のいかさまは……タネが無い。ただのテクニック……でしょ?」  その言葉を聞き綾香が麗華の方を向き直すと、そこにもゾクリとさせる冷徹な微笑が目に入ってきた。  すべてを知っている……そんな、敗者を見下ろす様な冷徹な笑み……。それは皮肉にも、ゲームの敗者に向ける綾香の冷笑とほぼ同じ表情だった。 「今……初めてソレを見ましたけど……知っていても結局分かりませんでしたわ。早すぎて普通の人には何が行われているか分かりませんもの……」  麗華は凍るような微笑を浮かべたまま手でカードを切る仕草を取る。まるでそこにタネが転がっていると伝える様に……  そしてそのカラクリを静かに身振りを交えて言葉に零していった。 「毎回のゲームは不正を防止する意味合いも兼ねて全て新品のカードに交換していましたわよね? 貴女はその新品のカードの“特徴”を生かしていかさまを仕込んでいたのですわ」  そこまで言葉を零すと麗華は智恵理から新品のトランプの束を受け取り綾香の目の前でその封を解いて自分の手のひらに束を置いてみせた。 「新品のカードは混ぜる前であればどういう物であれ大体マークと数字が順番通りに並んでいるものですの。2枚のジョーカーを除けば、こんな風に……ほら、スペードのAから順番に2、3、4……という具合に……」  麗華が観客に見えるようにカードを1枚ずつ開いて見せると、確かに彼女の言うようにスペードのカードが数字の若い順に並んでいる事が見て取れる。 「そして……スペードのKまで数字が行くと……次はマークが変わってダイヤが順番通りにまたKまで並んでいますわ。後は……クラブ、ハートの順で同じように並んでいますの」  スペードをKまで捲って見せた後は、捲るスピードを極端に早くし残りのカードがキチンと順番通りに並んでいてKまで折り返せばマークが次のものに変わるという事を観客に見せた。 「この……“新品のカードはマークも数字も順番が決まっている”という普通なら気にも留めない事象が実は彼女のいかさまを成り立たせている最も大きな要因でしたの。彼女はこれを利用して自分にもプレイヤーにも好きなカードを配って勝敗をコントロールしていたのですわ♥」  その言葉を聞いてピクリと身体を反応させてしまう綾香だったが、過剰な反応を見せるのは図星である事を見抜かれてしまうと思い直し自分の腕を指で抓って痛みを自分に与え、なるべく彼女の言葉に反応を返さないよう意識を強めた。 「では実際……彼女がどうやってカードを仕込んでいたのか。それをこれからゆっくり分かり易く実践して見せますわ♥」  麗華はそのように零すと観客に見えるよう手の高さを少しだけあげて、手のひらに乗ったトランプの束の1番上のカードを1つ捲る。  混ぜてもいないカードの束であるため、捲られたカードはスペードのAが表を向く事となる。 「まず……新品のトランプを受け取った彼女は封を切ったあと、ジョーカーを除くついでに……このようにトランプ束の1番上にある“スペードのA”を取って束の一番下へ移します」  分かり易く表を向けたままスペードのAをトランプ束の一番下へと運んだ麗華は、そのカードを敢えて他の束と重ならないよう少しだけ斜めに向けて、Aが一番下にあるという事を分かり易く見せた。 「このスペードのAは最終的に山札の1番上に来る予定になってますの♥ 彼女が勝つとき……いえ、いかさまをした時に最後の決め手になっていたのはこの“スペードのA”であった事……いかさまを受けた皆さんなら覚えてらっしゃるでしょ?」  その言葉を受け観客からは「確かに……」「そういえばそうだった!」等の声が上がる。 「混ぜる前にAを一番下に持って行ったのですから、当然このAの一つ上のカードはコレ……“ハートのK”って事になりますの」  麗華はその言葉が正しい事を示すようにカード束の下から二番目のカードも表に向けなおして観客にスペードのAの上に“ハートのK”がある事を認識させる。 「この“スペードのA”と“ハートのK”……更にはその上にある“ハートのQ”は、実はカードをシャッフルする際他のカードと混ぜないよう気を付けなくてはなりません。なぜかと言うと……このスペードのAは山札のトップに持ってこなくてはなりませんし、ハートのKとQは……客である私達に配られるモノになるからです……」  ハートのKとQは客側に配られるモノになる……その言葉を聞いた瞬間、観客達はこれまで以上のザワつきを見せ始める。そして誰しもが自分が負けた時の情景を思い出していた。  そう……7戦目の絶好手という言葉につられて行った7戦目は……必ず自分の手にハートのKとQが絶好手として入っていたのだ。  それを隣前後ろの客と確認をしてみると……皆が皆同じ状況で負けたという事実が分かり、観客もそれが偶然の産物ではないという事に気付き始める。 「スペードのAを1番下に持って行くだけでお客さんに渡す手札と、山札の1番上に持って行くカードを確定させた彼女が次にやる事は……自分の手札の仕込みですわ。スペードのAを捲ってきて勝てる手……つまり“合計が10”になる数字を2枚仕込むのが次の仕事ですの……」  カード束の上に手を戻した麗華はそのように話しながら束の上のカードを1枚捲って見せる。先程スペードのAを下へ移動させた事もあり、捲って出た数字は当然スペードの2となった。 「例えばこの2という数字に何を加えれば10になるか……皆さんなら簡単に計算できるでしょう?」  その問い掛けに客のほぼ全員が同時に“8”と数字を返す。2+8は10……それは頭で計算しなくても出てくる数字だ。 「そう。その8という数字をこの裏向きの束の中から抜き出さなくてはなりませんが……残念な事に私はマジシャンではないのでその数字が何処にあるか感覚では掴んでおりませんの。だから“私”は数字を見ながら抜き出しますけど……カードマジックのプロであった彼女はそういうのも感覚で掴んでいた筈ですわ」  カードを上から順番に捲ってスペードの8を見つけ出すと麗華は表に受けていた2と合わせてそれらのカードもカード束の下へと運んで見せる。 「何万回……何十万回もカードカッティングの練習を行ってきた彼女なのですから……順番に並んだカードの何処に目当ての数字が隠れているかなんてお安い御用で分かっていた筈ですの。彼女はそれを利用して自分の合計を10に出来るカードを2枚……このようにスペードのAの下に仕込ませて最初に自分の手元に配るカードとして取っておいたんですの♥」  8と2のカードを束の下に入れ込んだ麗華は「コレで仕込みはお仕舞ですの♥」と言わんばかりにカードの山札を手のひらでポンと叩いて見せる。 「ちなみに……この8と2のカードを仕込むのはカードを混ぜる動作と同時行う事ですので、彼女が繰り出す高速カッティンを見ながらいつ仕込まれたかを特定する事は、素人目には決して見抜く事は出来ませんわ」  その言葉を言い終えると麗華は観客の方に向けていた顔を綾香の方へと向けなおす。その動きに同調し観客達の視線も自然と……苦虫を潰したかのような表情を浮かべている綾香の方へと注がれる。 「後はこの下に仕込んだカード達を誤って混ぜてしまわないよう注意しながらカッティングをして、ある程度混ぜたら仕込んでいたハートのQから下の札を山札の1番上に運んで、最後に配る順番を考慮に入れた順番に置き直してカッティングは終了」  麗華はカードの束をカットする様子をたどたどしく演じながら、最後にカード束の下へと仕込んでいた2と8、スペードのA、そしてハートのQとKをまとめて束の1番上に乗せ、カードの数字を確認しつつ順番の手直しを行い、それが完了したらカードの束をテーブルの上へゆっくりと置く。  そして上から1枚ずつカードを捲りながらゲームの流れ自体も再現し始めた。 「下から運んできた仕込みカードの順番をお客さんに配るカード→自分が取るカード→スペードのAの順番に入れ替えている筈ですからこのまま配れば当然……」  本当の対戦では裏向きにカードは移動するが、説明の場でそれをやる必要は無いと考えたのか麗華はカードをわざわざ表に向けなおしながら説明を続ける。 「お客さんの手元にはQとKという強い役が入いる事になるからお客さんは大層喜ぶことになりますわ……ぬか喜びになるとも知らずに……ね♥」  客側に置かれたQとKの絵札……自分の手元には2と8のカード……そして山札の1枚目にはあのスペードのAが裏返しで仕込まれているという状況が出来上がる。 「後はこのスペードのAを捲った者が勝つという流れになりますが……これを捲るのは基本的にはお客さんではなく、この仕掛けを施したディーラーの側になりますわ」  客がヒットをしなかったという体で最後に山札の1番上のカードを捲った麗華はそのマークと数字を見せながらニコリと微笑みを浮かべた。 「これが彼女の行った“7戦目の絶好手”という噂の真相であり……いかさまの種明かしですの」  観客たちは一連の流れを見せられ、確かに筋が通る種明かしを見れたような気がしたのだが……そのタネがあまりにシンプルで簡単なものであったため、いかさまを受けたという実感がいまいち湧かない。それ故に、種明かしが行われても綾香を罵倒する言葉が思いつかず皆一様に顔を見合わせて首を傾げる結果となった。 「このいかさまの巧妙な部分は、お客さんの方にも勝てるチャンスが転がっていた……という部分にありますの♥ 先程も言った通り……山札の1番上にはスペードのAが待機していたのですから、これを“ヒット”さえすれば必ず勝てますの。しかし、20という大物を手にしたお客さんがヒットをするなんてまずあり得ませんわ。だからこのAは絶対に引かれない……貴女はそれを利用してこの理不尽なお客さんの負けを“自分の判断ミスのせいで負けた”という思い込みに転嫁させたのですわ」  確かに……7戦目の対戦が終わる頃には必ず綾香の方からこのように告げられていた……  「ヒットさえしていれば勝ったのはあなただったんです……」と。  その言葉を聞いた客は誰しもが思い込まされた筈だ……  『この勝負は自分の判断ミスで負けたのだ』と。  しかしその言葉こそ、いかさまの疑いを煙に巻く魔法の言葉だった。  「自分のせいだからしょうがない」と落としどころを見出してしまった客は彼女を疑うという思考を頭から外してしまう……。ドラマでも映画でもないのにこのような劇的な負けを味わったのだから本来なら不正を疑っていてもおかしくはない。絶好の手が入るという胡散臭い予言までなされたのだから疑われても仕方なしと思うのだが……客達は彼女の言葉に誘導され疑う事を放棄させられる。  「あの時ヒットさえしていれば勝ってた……」などというあたかも自分の判断ミスであるかのような自責の念を浮かべて去る者がほとんどである。 「見事なカード捌きに加え、正確な手札の仕込み……更には言葉でもお客さんをコントロールして自分への疑いを無くそうとするその狡猾さ……これはマジシャンの手法そのものであり、彼女の培ってきた技術が詰まっていると言っても過言ではありませんわ」  カードの仕込みだけでなく言葉で彼女が誘導を行っていた……それを聞いた観客は再び自分の負けた場面を思い出し、そこから怒りの声を上げ始める。  記憶の中に綾香のあの言葉が思い出されたのだ。負けた時に言われたあの“お客様がヒットさえしていれば……”という囁き声を……  その言葉を思い出した客達は今度は綾香に向けて罵詈雑言を吐きかけ罵倒を始める。 「やっぱりいかさまだったのか!」「ふざけるな金を返せ!」「よくも騙したな!」など、手に持ったジュースの空き缶や食べ残したサンドウィッチ、自分のチップさえも投げて綾香に抗議を始めた。  頭に空き缶が当たったり足に残飯のソースがついてしまったりと散々な横暴を受ける綾香だったが、彼女はそれをジッと我慢するように下を向いて表情を悟られないよう俯いたまま肩を震わせていた。  そしてその震えが笑いによって起こる揺れに変わると、彼女は床から視線を麗華の方へと上げ笑みを零しながら反論の言葉を吐いた。 「っで? 証拠は?」  その下から響く迫力ある言葉に思わず観客の手と口が止まる。 「あんたの……空想話は分かったわ。成程……良くできた面白話だとは思うけど……それが行われた証拠がまだ提示されていないじゃない。あんたはさっき言ったわよね? 証拠を見せるって!」  タネが明かされ逆風に晒され言葉も失ったかに見えた綾香だったが、ここにきて麗華の急所を刺すべく反論を開始する。 「マジシャン時代のカード捌き? 手札の仕込み? 言葉での誘導? まぁよくもそんな事思いつくわね。あんたの想像力……というか妄想力には感服するわ。でも肝心の証拠が何も出されていないじゃない! 私を追い詰めたいんだったらまずはその証拠を見せてからになさいよ! そうでなければ“誰も”納得なんてしないわ!」  綾香のこの“誰も”納得しないという言葉に観客たちは怒りの溜飲を下げざるを得なくなる。  別に客達は証拠など求めてはおらず、ただいかさまの真偽だけに興味を持っていただけなのだが……彼女がそのように“皆が納得できない”という風に煽るものだからそれに賛同しない訳にはいかなくなる。確かに仮説は提唱されているとはいえ証拠は提出されてはいない……綾香はそれを巧みに利用して絶対的に不利な状況から起死回生の流れを作り上げる。 「まさか、言いがかりだけで私をいかさま師扱いするつもりではないでしょうね? 確かに理論上はそれが行えるかもしれないけど……今私がそれをしたっていう証拠は何処にもないじゃない!」  これ見よがしに言葉で畳みかける綾香……。  そう……彼女は知っていた。あのテクニックを“行った”という証拠など提出する事など出来るはずが無いのだ……  証拠が出せなければ彼女の空想だと言い逃れは出来る。かなり怪しまれるのは間違いないだろうがこの勝負に勝ちさえすれば彼女を嘘つき呼ばわりして晒し者にすることで自分への嫌疑もそらすことが出来る。  証拠さえ提出されなければ逃げ切れるし、その証拠を上げるということ自体が不可能だと思っている為、この言葉に絶対的な自信を彼女は持っていた。  どちらの言葉に従うべきなのか判断できず困惑する観客達、それとは対照的にここぞとばかりに言葉で捲し立ててくる綾香……  しかし、広げた扇子の内に顔を隠していた麗華は彼女の反論を聞き静かに笑みを零す。 「証拠……そう、証拠ですわよね……」  そのようにボソリと零すと笑みを浮かべたまま扇子を閉じ、再び綾香の目を見て対峙する。 「まぁ正直申しますと……このテクニックを“使われた”という証拠を提出できる人なんていないと思っていますわ。余程性能の良いスローモーションカメラで撮影していない限りは手の動きなんて追えませんし……その映像だってトランプは裏返しのまま映るのですから何処に何が移動したなんて証明も出来ず証拠にもなり得ませんし」  まるで自分の非を認めるかの如く証明は出来ないと語ってしまった麗華に、綾香はニヤリと勝ちを確信した笑みを浮かべる。しかしその勝ちを悟った笑みは語り部たる彼女も浮かべる事となる。 「だから、この勝負を持ちかけたんですわ……。勝つだけでいかさまを認めて貰えるというこの特殊なルール……それを持ちかけてあなたにいかさまを“使わせ”自分が勝つよう仕向けさせることこそが同時に証拠を提出する事になるんですの♥」  含みのある言葉を放った彼女に綾香は口元の緩みを正して改めて顔を強張らせる。  彼女の言う“使わせ”という言葉にある種の気色悪さを感じ、自分の優位性が脅かされている事を感じてしまう。 「貴女はこの勝負……絶対に勝たなくてはなりません。いえ、逆に言えば勝ちさえすればどんなに怪しい勝ち方をしたとしても無罪になれる……だからどんな手を使ってでも勝つ! 例えネタをばらされて逆風に立たされたとしても……証拠さえなければ逃げ延びれる筈……そう思ったはずですわ」  綾香の頬に冷たい汗が伝いそれが身体を震わすほどの寒気を帯びさせる。  証拠など示す事など出来ないのは明らかだから優位に立っているのは自分である筈なのに……しかし彼女の自信ありげな顔を見ると妙に胸奥がザワついてしまう。何か見落としをしてしまっているのではないかと……気が気ではなくなってしまう。 「だから堂々といかさまをしてもバレやしない……どうせ証拠も出せないんだから、この勝負で勝って自分の憂いを払拭して見せる……と意気込んで誘いに乗って下さったと思うんですが……残念ながらこれも私の計画の内でしたの♥」  綾香はその瞬間思い出した。本数分前に起きた違和感……  麗華が捲ったカードの数字が、自分の配ったと思っていた数字でなかったという違和感……それをハッキリと思い出した。  改めて彼女の手札を見てもその事象は変わってはいない。彼女が手にした札は2と3というごく小さなカード……  しかし綾香が仕込んだカードはいつも通りのハートのQとKのコンビであったはずだった。  山札にはスペードの“2”を仕込んで、自分の手には合計がスペードの10とスペードの9を仕込んだはずだった……  これなら、例え麗華が怪しんでヒットをしてもバーストするし、スタンドして自分が引けば21になり勝ちが確定するという流れになっていた筈だったのに……  彼女が手にしたのはなぜか2と3という小さな数字……しかもマークはスペードで合わせていた筈なのになぜかハートが彼女の手札には在った。  この違和感に嫌な予感はすぐに過ったが、その後の彼女の種明かしのお陰でその事実は頭の隅から離れてしまっていた。改めてその出来事を思い返すと……すでに出だしから自分の想定外の出来事が目の前で起きている。仕込んでいた筈のカードがそこには行き渡っていなかったのだ……。  つまりそれが意味する事は…… 「ですから……こちらも仕込ませて頂きましたの♥ 貴女が……“いかさま”を使えば必ず……負ける事になる様な仕込みを……♥」  ハッと何かに気付いた綾香は慌てて自分の手札に視線を移し直す。テーブルの上に置かれた、まだ裏を向いたままの2枚の手札……彼女の言葉が正しいのであればこのカード達も……  そのように思いが巡るや否や綾香は手札の1枚を慌てて捲って表に向けた。するとそこにはやはり綾香の想定とは全く違うマークと数字が現れる事となった。 「だ、ダ、ダイヤの……6!? そ、そんな馬鹿なッっ!?」  現れたのは10という数字でも9という数字でもなく……ましてやスペードでもない想定外の札……ダイヤの6……  嫌な予感が具現化したような展開になっていくこのゲームに綾香は焦りの感情が抑えられない。 「相手がいかさまを使うって事が分かっていればヤる事は簡単ですの♥ 順番を並び替えたトランプを新品のトランプだと偽って貴女に渡して混ぜさせるだけ……。貴女は自分の思い通りにカードを配置したと思っていたでしょうけど実際は“私の思い通り”のカード配置になっていましたのよ♥」  綾香が混ぜたトランプ……それは麗華たちが先に手を加えていた仕掛けのあるトランプだった。  そんな事など知りもしなかった綾香は、自分が確実に勝つためにいつも通りの“仕込み”を行ったのである。 「そ、そんな筈がない! そんな筈が……」  未だそのような事が行われていたと信じ切れない綾香は焦りの色を濃くしながら自分の2枚目の手札を捲って見る。  出来れば片方だけでも自分の思い通りの数字が出てきて欲しいと願ったのだが……現れた数字は彼女の求めていたモノとは程遠く…… 「あっっ……がっ……クラブの……9!?」  現れた数字は9であり、合計は15という……山札から例え2が出てきても21にはならない数字が彼女の合計点となってしまった。 「仕込んだカードを新品同様に包装しなおして、それを智恵理さんに持たせて最後の対戦の時にそれを渡すよう指示しておきましたの♥ 貴女は彼女がそれを渡しのを気付きもせずにまんまと罠にかかった……というわけですわ♥」  その言葉を聞いた綾香は動揺しながらも反論の言葉を返す。 「そ、そ、そんなの! そっちの方がいかさまじゃないっ! 予め負けるような仕込みをしてくるなんて……」  負けるように仕込むならそれもいかさまだ! と綾香は苦し紛れに主張するのだが…… 「あら……仕込んでいたとしても結局ゲームの前には貴女が混ぜるじゃありませんか♥ もしも貴女が普通にいかさま無しでちゃんとカードをシャッフルしていたならば本当に運任せのゲームになっていた筈ですのよ? それはご自身が一番お分かりになっているでしょうに……」  麗華の返しに綾香は何も言い返せなくなってしまう。  確かに……彼女が言った通り、シャッフルする前に仕込むいかさまなど何の意味もない。混ぜれば仕込みはランダムな場所へと送られるのだから。つまりは自分がいかさまを仕込まない限り彼女の仕込みも意味をなさない……そういう仕掛けを彼女は仕掛けたのだ。 「貴女はこれから必ず21を超えてバーストしてしまいますわ。この運命はもう決まってしまった事ですの……貴女がいかさまをした瞬間にね。だから、私はこの最低の5という数字でスタンド致しますわ。本来なら勝負にもならない、この5という数字でね♥」  ブラックジャックの勝負に置いて、合計5という小さな数字でスタンドする者はいない。普通はディーラーがバーストする事を前提に勝負をするわけではないのだから当然である。  しかし、麗華は宣言している。綾香は必ずバーストする……と。  だから、この小さな数字の5で勝てるのだ……と。 「ふ、ふざけんじゃないわよ!! 仕込みって何よ! たったの5で私と勝負するとか馬鹿も良いところだわ! 私が17とか、18とかの安い手でもいいから作れば簡単に勝っちゃうのよ? それが出来ないとでも言うわけ?」  俯きながらも肩を震わせ、拳に力を込めて精一杯の声を出す綾香。未だかつて5という数字で勝負を挑まれた事など勿論無い。ディーラーがバーストするなどという宣言も当然された事などない。  そんな馬鹿にした様な宣言をされ、悔しさがやがて怒りに変わり始めた綾香は……拳をテーブルに叩きつけ、ギラつく視線を麗華に浴びせる。しかし麗華はそのような怒りの視線などものともせず相変わらずの涼しい表情で彼女に言葉を返す。 「えぇ、その予定ですの♥ 貴女は……負ける運命ですのよ? 認めなさいな♥」 「あ、有りえない! こんなクズみたいな数字に……私が負けるですって? そんな事が……ある訳……」  勝負手にもならない5という数字でスタンドをかけられ怒りの感情が抑えきれない綾香だが、その反面背筋が凍る程の不安も同時に体中に駆け巡っている。  あの山札の一番上には彼女達が施した罠が置かれているかもしれない……  自分が勝つようにカットし仕込んだはずのあのカード束である筈なのに……今ではその束が別の何かに見えて仕方がない。  麗華を打ち取る為の正義の刃を仕込んだと思っていたが……今はあのカードは自分を切りつける鋭い刃に見えて仕方がない。  そのように想像が行き届くと、途端にあのカードに手を伸ばすのが怖くなり始めた。  あのカードは捲ってはいけない……そのように本能が自分に警告を鳴らしている。  あのカードは引きたくない……  もう……カードは引きたくない……  テーブルの中央に不気味に鎮座するその山札は、綾香を細胞レベルまで恐怖させていた。  カードを引けば負けてしまう……  きっとそうなっている……  しかし、綾香は引かなければならない。ディーラーは合計が17以上になるまで引くルールであるのだから、合計が15である彼女は必ず引くことを強要される。  例え、彼女がどんなにそのカードを恐れようと…… 「さっ、早く引いてくださいまし♥ 分かっているとは思いますけど、貴女の合計は15……つまり7以上の札が出てしまえばその時点で貴女の負けが決まりますの♥」  山札に対して怯えている綾香の腕を麗華は無情にも鷲掴みして、そしてそのまま強引に山札のある方へ腕を運んで行く。  まるで死刑執行人の様に……彼女の腕を処刑場へと運んでいく。   「ひっ! い、いやっ!! やめて……」  山札の上に指が少し触れた瞬間、脳内で拒否反応の様な電気刺激が走り、カードを捲るのを嫌がらせる。  綾香は反射的に手を離そうとするが、麗華の腕がそれを許さない。  逃がしはしないとしっかり腕を掴んでいる。 「ほら……お引きなさいな♥ たっぷりお仕置き……してあげますからね? ウフフフフ……」  決して逃げる事は許さない……という思いを乗せているかのように、しっかりと握ったその腕は跡が残るくらいに力強い。  とても逃げられるような状況ではないと観念した綾香は、渋々その不吉な山札の1番上のカードを自分の正面まで運んだ。 「さぁ開きなさい……貴女の最後のカードを……」  中のカードが分かっているかのように“最後のカード”と言い切った麗華。  綾香は頭の中を真っ白にさせ、そのカードに焦点の合わない視線を送る。ぼやけて見えるそのカードの裏面……彼女には裏面の模様が歪んで見え、どんな形状の模様だったのかすらも思い出せなくなっていた。  そして、不安に耐えきれなくなった綾香は恐怖の冷気に当てられた唇を僅かに動かし、麗華に恐る恐る弱気な質問を零し始める。 「ね、ねぇ……お、お仕置きって……何をするの? 何を……私にしようと考えてるの?」  負ければ自分に科せられるであろう罰……それが何なのかまだ教えて貰ってはいない。罰を受けるつもりなど微塵も思っていなかった彼女は特にその言葉を気に留めることはなかったが、いざ自分が追いつめられる立場に立って見るとその“お仕置き”という得体のしれない表現に不安を通り越して恐怖さえ感じてしまう。 「フフ……酷い事はしませんわよ? 痛い事はしませんし……反省をしてくれるなら、あまり長くならないかもしれませんのよ?」  ニコリと微笑んで青ざめる彼女の顔を覗き込む麗華。安心させようと優しい声で言葉を返すが、その未だ中身の分からない“お仕置き”の中身が不気味すぎて、綾香はますます不安を募らせてしまう。 「ほ、本当に? 服を脱がせたり……鞭を打ったり……その……私がさっき言ったような……エッチな事とか……皆の前でしたり……しないわよね?」 「えぇ。痛い事もエッチな事もしませんわ。靴とかは脱いでもらう事になりますけど……服とかはそのまま着ていただきますし露出もあまり多くはしませんの。怖がらなくても大丈夫ですわ♥ きっと楽しんでもらえると思いますの♥ お客様も……貴女も……」  腕を握っていたままの麗華の手が、不意に力を緩め彼女の手を解放していく。  しかし、完全に開放したのではなく……その手の位置を少し動かしてやがて別の箇所を狙って移動したに過ぎなかった。 「楽しむ? 楽しくなるような事を……するって事?」 「そう……貴女がついつい笑い出してしまうような……そんな、楽しい罰を考えていますのよ♥ 思う存分笑って……楽しんでくださいましね?」  麗華の手は綾香の手の甲の方へ移動し、そして優しく包み込む様にその手の甲を握ってあげた。  温かな麗華の手と、血が通っていないかのように冷たくなっていた綾香の手……その対照的な手が重なり合う。 「ほら、そんな事はいいですから……早く最後の札を捲りましょう? ほらぁ♥」  妖しい笑みを浮かべながら麗華は、震えて動かなくなっていた綾香の手を誘導しカードを表に向けるように促していく。  まるで操り人形の様に麗華の指の動きに合わせて綾香の指も動いていく。その指はカードの端を少し捲り、少しずつ持ち上げながら表に向けようと動いていく。 「全てのカードを白日の下に晒す……ポーカー用語ではこう言うんでしょ? ショーダウン……と」 ある程度カードが持ち上がり……あと少しでカードの中身が見えるという段になった時、麗華は掴んでいた手を離し人差し指だけを綾香の手の甲に優しく当て、筋張った彼女の手の甲を愛撫するように上下に撫で始めた。  その触り方の気色悪さに綾香は「ひィ」と小さな悲鳴を上げるが、麗華はなおも彼女の手の甲をくすぐる様に触り、ついには人差し指だけに留まらず全ての指を綾香の手の甲に乗せコショコショと耐え難い刺激を送り込み始める。 「とてもいい言葉じゃない? カードの勝負もこの1枚で終わるし、貴女のいかさまのタネ……全部白日の下に晒したし……だからこれで『ショーダウン』……ですわ♥」  そのあまりに深い極まりない刺激を手に受けた綾香は、その瞬間あのトラウマとあの自分に乱暴を働いた男の顔が脳裏に過り思わず悲鳴を上げてしまう。 「いっ、いっ……いやぁぁぁぁぁ!!」  パシッ!  悲鳴と共に勢いでカードは捲られてしまうが、綾香はそのカードを確認する事なく手を庇いながらしゃがみ込んでしまう。  麗華の触り方があまりに気色悪すぎて……思い出したくもないあの場面をリアルに思い出してしまった。  あの男も……丁度このように彼女の手を触って……その気にさせようとしてきたのだ。  握手をすると見せかけて……彼女をベッドへと誘う呼び水にするように手の甲を妖しく撫でてきた。その時の綾香も当然このように手を庇って床へしゃがみ込んで拒否したのだ。  しかし、その男はしゃがみ込んで嫌がる彼女を無理やりに押し倒し……行為に及ぼうと行動に移した。激しく抵抗する彼女の服を野獣のように破って……盛りのついた狂犬のような目つきで…… 「ウフフフ♥ 残念ね……貴女のカードはクラブの8。合計は23だから、宣言通り……貴女のバースト負けですわ♥」  本来ならディーラーである綾香が勝負の結果をアナウンスする場面だが、彼女はそれよりも今触られた嫌悪感を払拭する事の方に必死になっている。  綾香が一向に立ち上がれないのを見かねて代わりに結果を麗華が伝える事となったが、結果が分かってもなお綾香はその場から立ち上がろうとはせず、肩を震わせながら手を自分の手で摩る動作を続けた。 「フフフ……ディーラーさんは呆然自失のようですし……智恵理さん? 彼女を連れていって早速アレの準備を整えてくださいまし♥」  綾香の斜め後ろに立って待機していたバニー姿の智恵理はその言葉に頷きを一つ返すと、彼女が怯えていようが怖がっていようがお構いなしに彼女の身体を力づくで起こし、主人の要望通りに彼女をショーが開催される中央のステージへと誘導していく。  その様子をニンマリとした笑顔で見送った麗華は、自分の勝ち額である20枚の100万チップを手繰り寄せ、それらを手に取り数えながら別のバニーガールに換金の申し立てを行った。  それらが終わった後、隣で相変わらず携帯ゲームに夢中になっているおさげの少女ににソッと声を掛けた。 「さぁ、鈴音ちゃん? 貴女の出番が来ましたわ♥ 存分に可愛がってあげて下さいまし……」  そのおさげの少女は、ゲーム機から不機嫌そうに顔を上げると、これまた不機嫌そうな口調で自分の主人に言葉を返した。 「お嬢……何度も言ってますが、私はハタチなんです! “ちゃん”はやめて下さい」  先程も同じような事を注意されたが、麗華は気にしてない様子で「は~い はい♥」と不真面目な返事を返す。  その態度に「はぁ……」と諦めの息をついた鈴音は、またゲーム機の方に視線を戻し忙しなく指を動かし始めた。 「フフフ……でも、楽しみでしょ? 貴女の事を子供呼ばわりした彼女をお仕置きできるのだから♥」  ゲームを続けながらもその言葉にピクリと反応した彼女は、フフフと小さく笑みを零して麗華の好みそうな言葉を返してあげる。 「……えぇ。容赦なんてしませんよ……とことん責め抜いてやります……」  その言葉を聞いた麗華は、やはり満足気な笑みを浮かべて……ポツリとこう呟くのだった。 「ウフフ……彼女ってばプライドだけは一人前に高いから……堕とすのに時間は掛かるでしょうけど……でもその分濃密でとても楽しいショーになる筈ですわぁ♥ ホントに楽しみ……ホントに……♥」

Comments

かなり興奮度高いです(笑) ここから綾香さんがどこまで"笑わされる"事に戸惑い反応するのか♥️

こーじ

まずは軽いジャブを入れさせて頂きました笑 上手く生かしたいっす✨

ハルカナ

お仕置きの内容を確認するシーンでも"笑う"と言う要素を綾香さんに伝えてるシーンがありましたね✨これが、拘束された時のシーンでより活きる要素になりますね🎵

こーじ


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