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ハルカナ
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ショーダウン(リメイク)⑧

8:タネ明かし 「なぁ、お嬢さん? 俺ぁ~未だに疑問なんだけどよぉ……最後の“必ずバーストする”って言ってたアレ……確かにその通りになったけど、アレはどういう仕掛けでああいう風になったんだ?」  カジノの中央にある半円形のステージ上では何やら大がかりな“器具”が設置され始め、その傍らに呆然とした表情を浮かべる綾香と、必死に背中をさすって励まそうとしている夏姫の姿があった。 ステージが出来上がる様を扇子片手に口元を隠し悠々と眺めている麗華であったが、そんな彼女にあのスーツ姿の男性がせがむように勝利のタネを教えてくれと頼み込む 「頼むよ……教えてくれよぉ! ちゃんと言う通りにあんたの賭け額は俺が用立ててやったろ? さすがに500万勝負の後に今度は1000万の勝負するなんて言い出した時にはひっくり返りそうになったがよぉ……それでも無理言って用立てたんだぜ? あんたが最後まで勝負できるように……」  扇子を口元に立てながら、ジロリと目だけでその男を見定める麗華。  通常なら借りた額と約束の額を支払った時点で契約は満了となり、わざわざ勝負の裏側であるタネを教えるというような義理はないのであるが……  彼のお金が無ければそもそもこの勝負自体を持ちかける事も、最後に1千万という破格の勝負をすることも叶わなかったというのも事実であり、それを今日あったばかりの彼女を信用して取り計らってくれた彼の男気には敬服せざるを得ず、麗華はワザとらしく「はぁ」と溜息をついて扇子を口元から外し渋々ながらに言葉を返し始めた。 「本当はトリックの説明なんてするつもりはあんりませんでしたけど……まぁ、あなたが居なければそもそもの戦いが成立しなかったわけですから……仕方ありませんわね今回は特別にお教えしましょう……」  “今回は特別に”と恩着せがましく述べはしたが麗華の口元には笑みが浮かんでおり、実はそのトリックを誰かに話したいと思っていたのは彼女の方だったという事実を彼は垣間見る。 「彼女のいかさまのトリックは先程の説明で理解出来たでしょう? 彼女がカードを混ぜる振りをして実は自分が勝つカードを仕込んでいた……というカラクリでしたけど……」 「あぁ、それは聞いててなんとなく分かった。要は、マジシャン時代の技術を利用してカードの中から客が負ける手と自分が勝つ手を仕込んでいたって話だろ?」 「えぇ……。不正防止目的に行っていた毎回のカードチェンジを逆に利用して、彼女はマジシャン時代の感覚を頼りに自分の勝つ手札を順番通りに並んだカード束の中から抜き出して束の下に潜らせておいたんですの。そしてあたかも全部のカードを混ぜているかのようにお客さんには見せて、最終的には仕込んだカードを自分にもお客さんにも配ってゲームを行っていたんですわ」 「……彼女のカード捌きが早すぎて、仕込みをしていても違和感なくシャッフルしているかのように見えたから素人目には判断がつかないいかさまだった……そうだよな?」 「そう……。このいかさまは“新品のカード”である事と“彼女のカードを捌く技術”が合わさって出来るいかさまでしたの。一見噛み合えば100%に近い割合で彼女の勝ちを自動的に決定づけてしまう技ですが……実はとある一点が変化すればその勝ちは簡単に揺らいでしまうものでもありましたの」 「その一点てのが……新品のカードの部分だよな?」 「……えぇ」 「あそこにいる青髪のバニーの子に持たせてたんだろ? 仕込みをしたカードを新品に見えるように梱包し直して……」 「彼女に新品のカードだと思い込ませないとこの作戦は失敗してしまいますから……まぁそこは念入りに行いましたわ」 「っで? その仕込んだっていうカードにはどんな仕込みがされてあったんだ?」  男の質問に対し少し間をおいて呼吸を整え直した麗華は、再び「ふぅ」と気怠げな息を零しつつも男の質問に答えを返し始める。 「彼女がどのようにしていかさまを行っていたか……そのカラクリは智恵理さんの分析ですでに分かっていましたの。恐らく最終戦も同じように仕掛けて来ると予想してましたので、まずは私に配られる予定だったハートのQとKの数字を2と3に入れ替えておきましたの」 「あぁ……そういえば、2と3だったな……。ところで何で2と3だったんだ? もっと大きい数字でもよかったんじゃないのか?」 「そりゃあ……ほら……彼女が負ける事は分かっていましたし……どうせなら、なるべく小さな数字でスタンドしてあげた方が……彼女の、悔しさも大きくなるかなぁ? って思ってましたので♥」 「うわ……性格悪ぅ……」 「コホン! 私に配られる手札をそう仕込んだ後は残りの仕込みも行いましたわ」 「ディーラーが手札にするはずのカードも予め変えておいた……って訳だよな?」 「そう……。自分の手札を合計11にする手札を仕込むだろうと読んでいたので、私はスペードのカードをそういう合計にならないよう計算して仕込みましたの」 「11? 彼女が勝つときはいつも10に合わせていたって……あんた言ってなかったか?」 「えぇ。そりゃ言いましたけど……でも考えてもみて下さいまし? 6戦目の時に私は彼女のいかさまを疑ってヒットコールを出したんですのよ? 私が疑ってると分かってて彼女がわざわざ同じような手札を配って来ようとするかしら?」 「そうか……確かにそうだよな。いかさまを疑っている相手がヒットしてくるかスタンドするかなんて読めないんだから……確実に相手が負けるよう仕向けなくちゃいけなくなる……か……」 「えぇ。だから“山札”に彼女は2以上のカードを仕込んで来る事も分かっておりましたの」 「2以上……? 山札に仕込むカードだったらスペードのAを仕込むんじゃないのか?」 「んもう! ちゃんと考えて発言してますの? 彼女が勝つために手札を11にしてきたら……Aでは勝てなくなってしまうでしょう?」 「あ、あぁ……そうか。11って計算したら22になっちまうもんな?」 「まぁ2以上とは言いましたが、結局山札に仕込むカードとして一番楽なのは絵札を仕込む事ですので、恐らく彼女の手札は絵札を引いてきて合計が21になる数字を揃えるはずだと推察できますわ」 「なるほどね……だから合計が11になる手札って訳か……。仕込むのが楽っていうくだりもアレだろ? あんたに配るQとKの上にJがあるからわざわざ用意しなくていいって考えたとかだろ?」 「ご明察。ですから後は11になる組み合わせの……例えば3と8とか4と7とかの所に別のカードを仕込んでおきましたの」 「確か……彼女は6と9で合計が15になってたよな? そうなる様に仕込んだって事か……」 「そして山札に来る予定だったハートのJを7に変えて準備完了! 後はその仕込んだカードをばれない様に新品同様に梱包し直して智恵理さんに渡していた……と、まぁそういうカラクリでしたの♥」 「なるほどねぇ……。いかさまのタネは既に分かっていたとかいうあの言葉も嘘じゃなかったって訳か……」 「だから何度もそう言ったでしょう? そのいかさまを暴いて負けたお金も取り返すって……」 「いやぁ……だったらあの6戦目の流れはラッキーだったって事だよな?」 「……なぜ、そう思います?」 「だって、あの時……6戦目で彼女がいかさまを使って、あんたがそれを見破ったからこそあの7戦目で彼女を自爆させることが出来たんだろ? 彼女がいかさまを使ったのを見逃さなかったあんたもスゲェけどさ……まさか本当に500万の勝負で彼女がいかさまで勝負を仕掛けるなんて思いもしなかったよ」 「あら……どうやら誤解しているようですので……ついでにそちらの方も説明しておきますけど……」 「……ん?」 「あの500万を賭けた大勝負の6戦目は……彼女……実はいかさまなど使っていませんでしたのよ?」 「えっ? はっ? はぁぁ!? どういう事だよ? だって実際……いかさましてたようになってたじゃないか! あの対戦……」 「確かにいかさまをしたっぽく言及はしましたが……あの対戦を見ていた智恵理さんいわく、彼女はあの時いかさまは使っていなかったと判断してますわ♥」 「お、おい! じゃあ……あの6戦目のいかさま騒ぎは……」 「彼女は正真正銘……無実ですの♥」 「はぁ? 意味わからん! つまりはあんたのでっち上げだったという事なのか? あんなに自信満々に糾弾しておいて……」 「えぇ……。私の計画では、彼女がいかさまを使おうと使うまいと5戦目までは大人しく勝負をして様子を見ると決めておりましたの。そして自分の結果がどうであれ6戦目には必ず大きな勝負に出る! そのように考えておりましたわ♥」 「あの例の500万勝負だよな? 俺はあの勝負をするって聞いた瞬間、膝から崩れ落ちそうになったんだぜ?」 「それはご愁傷様♥ でもこの500万の大勝負は必ず行わなくてはならない大切な勝負でしたの」 「それは……アレか? 高い金をちらつかせて、彼女がいかさまをするようにプレッシャーをかけたとかそういう作戦か?」 「いいえ。あの勝負……いかさまの有り無し関係なく私は最終的に彼女を糾弾する予定にしてましたの」 「いかさまの有り無しに関係なく?」 「私の目的はあくまで“いかさまが行われた証明をする”という一点だけでしたので、そもそも彼女がいかさまをしてくれないと話になりませんの。それを彼女はよく理解していたでしょうから……だから彼女は5戦目まで全くいかさまを使ってはこなかった……」 「んえっ!? あの負け続けた勝負……アレはいかさま無しで負けてたってのか!?」 「えぇ♥ それも智恵理さんから聞き及んでいますわ……残念ですけどね……」 「あ、あんた……いっちょ前に勝負事に強そうな成りしてんのに……そういう運は持ってないんだな……」 「う、うるさいですわね! そんな事はどうでもいいでしょう? とにかく……彼女がいかさまを使わないと証拠も何も出せないので私も手の施しようが無かった……というのが現実でしたの」 「……だから、いかさまの有無にかかわらず糾弾する予定だったってのか?」 「えぇ。いかさまを糾弾され追い詰められた彼女が立場を逆転させるために7戦目に勝つためのいかさまを使ってくる……その使われたいかさまを私が逆利用して勝ちを納める……それが私が立てた計画の流れでしたの」 「で、でもよ? 6戦目は確かにいかさまっぽい流れになってたよな? ほら……なんだっけ? あんたがスタンドしてれば実は彼女の方が勝っていたとかいうアレ……」 「えぇ。確かにあれはいかさまっぽく見えはしましたけど……実はあれ……彼女のいかさまではありませんの」 「ん? 彼女の……っていうのはどういう事だ?」 「彼女のいかさまではなく……どちらかと言えば我々のいかさま……と言えば分かり易いかしら?」 「はい? 我々って……まさか、アレもあんたらが仕組んだってのか!?」 「フフフ……仕掛けは簡単ですのよ? ほら、覚えてます? 私が山札にいかさまが仕込まれていると疑ってスタンドでなくヒットを宣言した時の事を……」 「あぁ……俺の時と状況が似ているとか……そんな事言ってたよな?」 「状況が似ていたというのは完全に偶然でしたけど……私はその偶然を利用して、似ていると発言し山札のカードを引きに行きましたわよね?」 「あぁ……結果は、何の疑いもない普通の数字だったけどな……」 「そう。お陰で私はバーストする事になってしまうのですが……でもそのバーストしてしまうという流れは実は私の計画通りでしたの。」 「負けるのが計画通り? どういう事だよそりゃ……」 「ここで大事なのは山札の数字がなんだったか……ですの……」 「……山札の数字? あぁ……確か……ダイヤの6……だったよな?」 「そう。数字は6だった……。この6という数字を智恵理さんが見る事で次の仕掛けの“仕込み”を行うことが出来ましたの」 「あのバニーが次の仕込みを?」 「あの時……ディーラー側の手札は1枚は見せ札として捲られていて、もう1枚のカードはまだ伏せられたままという状況だったでしょう?」 「あぁ……彼女の見せ札は確か……クラブの8だったよな? もう一枚は確かに伏せられたままだった……」 「その伏せられたままのカードをすり替えて貰いましたの♥ 彼女が合計21になる手を……」 「なッっ!? す、すり替えただと!? 客があんなに見てた場でか?」 「私達にとってラッキーだったのは、あの時……彼女はディラーらしからぬ態度を取って自ら隙を作るような動きをしてしまった所にありますわ♥」 「ディーラーらしからぬ態度?」 「余程……いかさまが無いと証明できたのが嬉しかったんでしょうね……貴方も覚えているでしょう? 山札の数字が6だと分かった瞬間……彼女がどんな態度を取っていたか……」 「あ、あぁ……確か……山札がAじゃないって分かった瞬間『いかさまじゃないって事が証明された!』とかなんとか騒ぎ立てて客の方にアピールしてたよな。手なんて広げてさ……」 「常に冷静に場を進行しなくてはならない筈のディーラーがそのような態度を取れば、当然お客さんの目はそちらに向きますわよね? なにせ珍しい光景でしたし……」 「そう……だな……俺も彼女の方を向いてたし……他の客もそうだったかもしれない……」 「その隙を利用して智恵理さんにカードを入れ替えて貰ったんですの♥ 彼女に持たせた予備のカードの中から綾香さんの合計が21になる……ハートの7をこっそりとね……」 「そ、そんな事があの時起こってたのかよ!? 全然気が付かなかった……」 「まぁ、智恵理さんも奇術を学んでいたので、そういう隙を突く技術は普通の人より長けていたというのが勝因ですわね。ホントに彼女には助けられっぱなしですわ♥」 「なんだよぉ……結局なんだかんだ言ってお前さんの方でもいかさましてたんじゃねぇか……。全く……いかさまを見破る立場の側がいかさまして罠を仕掛けるなんて……聞いた事ないぜ……」 「もう! そんな言いがかりが付けられそうだからこれは話したくありませんでしたのに……」 「あ、いや……すまん……つい……」 「でもよく思い出してみて下さいまし? そのいかさまを仕掛けて……私は6戦目……勝ちましたか?」 「えっ? い……いや……バースト負け……だったっけか? いや……最終的には引き分けになったんだっけ?」 「どちらにしても勝ってはいませんでしょう?」 「ま、まぁ……そうだな……」 「いかさまっていうのは……それによって利益を得るからいかさまでしょう? 私の場合はいかさまというよりも作戦の一部と思って頂きたいですわね!」 「あぁ……分かったよ、悪かった……」 「まぁ最終的には彼女の正体を暴いてお仕置きを楽しめるという私得な展開になりましたから……利益が無いとは言い切れませんけどね~♥」 「どっちだよ! 結局あんたが得してんじゃねぇか!」 「ウフフフ♥」 「ったく……食えねえ姉ちゃんだ……」 「さて……今回の計画と仕掛けは以上になりますけど……他に聞きたいことはありまして?」 「あ、あぁ……じゃあもう一つだけいいか?」 「なんでしょう?」 「いや……俺の隣に居たやつが見たって言ってたんだけどさ……」 「……はい?」 「あんた……俺に話しかける前に……ココのルーレットやって散々負けを重ねてたらしいな?」 「……(ギク!)」 「そんな派手なドレス着ててギャーギャー喚いてたから悪目立ちしてたって言ってたぞ?」 「うぐぅぅ……」 「結局……あんたはこの勝負をするためにいくら用意していて、いくらスられちまったんだ?」 「あ、え、えと……200万……程……ですかね? ホホホ……」 「それ……全部スっちまったのか?」 「……まぁ、気が付いたらチップが1枚だけになってなっていたりしましたわね……」 「……………………」 「…………オホホ……♥」 「いやぁ……俺がいうのもなんだけどさぁ……」 「な、なんですの! そう言えば! それもこれも、あなたが負けるのを待っていたから全部持って行かれたんですのよ? その分の請求も追加して構いませんわよね? コレが終わったらスロットでもう一勝負して帰るつもりでしたしっ!」 「いや……あんたはギャンブルはやらない方が身の為だぜ。そっちの方の才能は欠片もなさそうだからな……」 「んまっ! 余計なお世話ですの!」 「ハハ……」  スーツ姿の男性の疑問が晴れ、緩やかな談笑が行われた頃……いよいよステージのセッティングが完了を告げた。  複数のスポットライトがステージの中央に交差し、その中央に鎮座しているある設置物を照らしていた。  そのある物とは……  罪人を磔にするために使われるであろう……Y字の形を模した……拘束台であった。


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