SamSuka
ハルカナ
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ショーダウン(リメイク)㉖

26:対話 「いやぁ……さすがは保険会社の特殊調査員とやらだな。見事な仕置きっぷりだったよ」 「……そう言って頂けるという事は、貴方が提示した条件は達成された……と捉えてよろしいかしら?」 「条件は達成された……と言っても過言ではないが、しかしまだまだ問題は山積みのままでな……。今日来ていた客はアレで納得したかもしれんが、あの女の被害にあった客は数えきれん。今日この場に居なかったそんな客達が、いつうちのカジノに“賠償請求”をかけて来るとも分からんからな……油断など出来んからな」 「私は今日出来る事を精一杯行いましたわ。それでもお客さんの怒りが収まらないのであれば、こちらにはどうする事も出来ません。後はご自分で処理してくださいまし……」 「ハハハ……分かっているさ。お前達は良くやってくれた。今回の一件がまだ話題に上っている間にうちのカジノも信用を取り戻せるよう万全の態勢を敷くつもりだ……」 「……成程。やはり今回の一件はカジノに向けられた疑いを全て綾香さんに背負わせるための依頼でしたのね?」 「それは君には関係のない事だ……。綾香はうちの従業員だった人間だ、わしがどう扱おうと問題はなかろう? 元はと言えば奴がいかさまで勝ち続けたが故にこのカジノ全体が悪いと噂されるようになったんだ……最後くらいはうちの為に罪を背負って辞めて貰わないと割に合わんというものだよ」 「綾香さんの不正はカジノ側は一切認知しておらず……彼女個人でやった事……という事にするつもりですのね?」 「なにも間違ってはおるまい? あいつが勝手に不正をして勝手に罪を背負ったんだ……」 「彼女が不正を行っていたことは随分以前から貴方もご存じだったのでしょう? それを敢えて泳がせて自由にさせておいたのはあなた自身の判断なのではありませんか?」 「そりゃあそうさ。こっちが不正を斡旋する前からあいつはやる気満々だったんだ……説得する手間も省けて助かったぐらいさ」 「不正の斡旋? 何やら聞き捨てならない言葉が飛び出したようですが……」 「おっと! 本来ならばあんたらは……そういうのに目を光らせる側の人間だったな……」 「貴方は最初……自分の従業員が不正をやっているからその不正を暴いて断罪して欲しい……と、その様に依頼成されましたわよね?」 「あぁ……」 「その依頼を引き受けた後……後付けで“徹底的な報復を行って不正に対するカジノ客の怒りをカジノ側に向かないようにして欲しい”という条件がオマケの様に加えられましたが……本当の所はこの条件の方が貴方にとっては旨味のある依頼だったのではございません?」 「ほう……なぜそう思う?」 「貴方は綾香さんが不正を繰り返していたのを放置していた……。しかしそれは見て見ぬ振りをしていたのではなくて、敢えてそうする事で彼女に疑惑の目を集めようとしていたと私は想像しておりますの……」 「客の疑いをわざわざあの女に向けさせようとわしがしていた……と言いたいのか?」 「彼女が派手にいかさまを行う事で注目をそちらに集め……カジノ全体の胡散臭さを薄めようと考えていたのではなくて?」 「ハハ……。カジノ全体の胡散臭さだと? 馬鹿も休み休み言え! このカジノはクリーンなイメージが売りなんだぞ? そのように思う客がいる訳がないじゃないか! その証拠に日を重ねるごとに新規の客がこのカジノには押し寄せてきているのだぞ? これが胡散臭いなどと言えるのか?」 「このカジノ……。貴方が雇われオーナーとして着任してから一転して黒い噂が立ち始めましたわ……」 「……ッっ!?」 「従業員へのいかさま行為の強要……不正基盤や不正マシンの導入……会員となったお客さんの個人情報売買など、挙げればキリが有りませんの……」 「そ、それがどうした! お前さんだってカジノの経営がいかに難しいか……分からない訳でもあるまい? そういう事でもしなきゃ……大手のカジノチェーンと張り合えんのだぞ? 不正の強要など……それは何処のカジノも同じだ!」 「貴方のカジノはその黒い噂が出回る一方で、特定のお客さんには不自然な勝ちを提供していたそうですね?」 「不自然? 何を言う……不自然に見えないよう巧妙に仕掛けを施しながら勝たせてやってたさ……特にうちのカジノに始めてきた客には最初だけはいい思いをして帰って貰ってた」 「そう。最初だけ……ですわよね?」 「フン! その後も時々は勝たせてやっているさ……負け続けるイメージを持たれては敵わんからな……」 「最初に大きく勝たせ、そのお客さんを常連になるよう誘導し……徐々に勝てる額を減らしていき最終的には店の利益の方が上回るよう搾取していく……。そういう事を一人一人に行っていたのでしょう? 貴方は……」 「自慢じゃないが……うちの顧客管理システムはかなり優秀なんだぞ? カメラに映った客が今までうちの店に何時ごろに何度来ていていくら負けていったというデータを瞬時に出してくれるんだ。だから、その客から次はいくら搾り取るかの計算もそのデータをもとに計算できるのさ」 「そういうのは“顧客管理システム”とは言いませんわ。それはただの搾取判定装置ですの」 「何とでも言え! だが、うちはこのシステムがあるから経営に必要な金を客から搾り取れているのさ。客側も負けた時よりも強烈に勝った時の記憶の方が残っているから喜んでうちに貯金をして帰って行くのさ……」 「おろせない貯金……一方通行に搾り取るだけの貯金ですわね……」 「客はそうは思っていないさ。自分は今は負けているんではなく貯金しているだけだと自分に言い聞かせばがら金をつぎ込む。いつか大勝ちして貯金した分を全額以上に引き下ろしてやるんだ……と、叶いもしない夢を抱いて毎日惜しげもなく金をばら撒いていってくれるのさ……」 「叶いもしない……ねぇ?」 「今のカジノはどこも同じだ……うちだけではない。客にある程度勝つイメージを植え付け……常連になってくれたら、その客からどれだけ搾り取れるかを考える……それがカジノの経営というものだ」 「その常連となるお客さん……貴方のカジノでは最近減る一方だったようですけど……それもご存じでしたわよね?」 「っッ!?」 「その原因となったのが例の彼女……綾香さんの不正が大きかったと考えたのでしょう?」 「……あぁ。あいつが勝ち過ぎたのが原因だ。こちらの想定以上に客から巻き上げたせいで……常連となる客達が離れていったんだ!」 「綾香さんが原因……ですか……。不正を野放しにして彼女に疑いの目を向けさせておいて……よくもそのような事を仰れますわね?」 「奴を自由にしておいたのは、奴だけが悪なんだと客に刷り込ませるためだけだ! 機が熟せば今日の様にいかさまを断罪して彼女だけに罪を背負わせて晒上げようと考えていたのに……あいつときたらこちらの想定以上の搾取を客に強いやがって……。お陰でこちらの計画が狂って断罪の方を急ぐ羽目になってしまった……」 「とことん下衆な考え方ですわね……。つまりは綾香さんにカジノ全体に沸き上がった不信感を押し付けて一括してそれを断罪しカジノの信用を回復しよう……と、その様に考えていたという事でしょう?」 「そうさ。不正を好んで行う女にはそういう末路がお似合いだからな!」 「彼女の安全を脅かすようなメッセージや書き込みが多数このカジノにも寄せられていたのでしょう? そういう部分は彼女には隠しておいたのですわね?」 「そこまで知っているのか!? お前の所の情報網はどうなっているんだ? CIAかKGBでも雇っているのか?」 「うちには……そういう、内情を調べるエキスパートが揃っておりますので♥ 例えば智恵理さんとか……」 「フン! あの女か……。つい先日までは顧客管理部門に居たかと思えば今日はバニー姿になっていた……。てっきり今日の為の下準備だと思て見逃していたが、まさかうちの情報まで盗みに来ていたとは……とんだスパイ組織だな……」 「顧客管理部門に入らせたのは勿論……今日の為の下準備でしてよ? 貴方のカジノの黒い情報なんて……調べなくてもいくらでも出てきていましたし……」 「嘘つけ! お前達は依頼者に対しても徹底的に情報を得て全体の流れを掴もうとする事で有名だ! それはアレだろう? 依頼料が払われなかった時の保険でも打っているんだろ? 保険屋だけに……」 「私達が“事件の全体を把握する”というのは保険屋として当然の行為ですの。だって……稀にいらっしゃいますからね? 依頼主を装って保険金詐欺を働こうとする輩が……」 「ッく!? わしがそういう輩だと言いたいのか?」 「いいえ。これはあくまで仮想保険事故の調査実験ですから……そういう可能性も考慮して動いたというだけですわ。別に今回の件が特別だったという訳ではありませんことよ?」 「どうだかな……。うちの噂は聞いていただろうから……会社の方からもそのように動けと言われたのではないのか?」 「フフ♥ ご自分のカジノの噂はご自分が良く理解されている様子ですわね?」 「……………………」 「今回の一件……全体の流れはおおよそこの様になっていたのでしょう?」 「………………」 「貴方は不正を繰り返す綾香さんを利用しワザと綾香さんに疑いが向くよう泳がせておいた。本来ならもう少し機が熟した段階で綾香さんの事を大々的に断罪しカジノの信用をそこで取り戻そうと画策していましたが、綾香さんの搾取が思いのほか大きくなりすぎてお客さん達の怒りが短期間で膨れ上がってしまい……限度を越えそうになってしまっていた……」 「……………………」 「最初はこのカジノだけで断罪を行う計画を立てていたけれど、もはやお客さんの怒りはカジノだけでなく母体であるホテルの方にも向けられるようになり収集が付けられなくなりつつあった……」 「……チッ! そこまで知られていたってのか……」 「カジノだけの断罪を行っては演技臭く捉われてしまうと考えた貴方は、第三者に彼女を断罪するよう依頼を出した……」 「…………………………」 「その第三者というのが腕利きで有名だった我々であり、貴方はいかにも被害者ですよと言わんばかりの顔で我々に依頼を申し込んできました……」 「フン! 自分達で腕利きだとか言うかね? まぁ界隈では名が挙がる程有名だったというのだけは認めるぞ? 変態集団としてだがな……」 「コホン! 腕・利・き・集団である我々がこの事件を解決した事により綾香さんは不正をしていた事が白日の下に晒される事になりました。そこで貴方は次の計画に移る予定ですのよね?」 「その後の予定まで調査済みだったのか? もはや依頼など関係ないだろうに……」 「貴方はカジノ界隈にこの様に触れ込む予定ですわよね? 綾香さんの不正は……カジノ側が“依頼した”プロの調査員に見破らせ断罪させた……。今後この様な不正があった場合は速やかにプロに依頼をし、同じように見破らせ断罪させる! 当カジノは不正を絶対に許さない! NoMoreいかさま! などと……あたりの良い言葉を並び立てて……」 「貴様……配布予定のチラシのテンプレートまで見たのかッ! 普通に犯罪だぞ! そこまで依頼に関係ない事をするのは……」 「先ほども言ったでしょう? 私達は依頼の全体像を把握する為に情報を集めていると……。不正を行った彼女がどういう意図でそれを行っていたのか……依頼主である貴方にはどのような思惑が隠されているのか……そういうのを知って動かなくては、私達が本当に守らなくてはならないものが何なのか……判断できかねますから……」 「本当に守るべきもの? なんだ? 今度はレスキュー隊にでもなった気でもいるのか?」 「保険というものは必ずお金が関わってくる繊細な事件が多いのです。誰が本当の被害者で……誰が本当の加害者なのか……そういうのを把握するには全体の流れを知っていないと見抜けません」 「おいおい、まさか……不正を行っていたあの女が被害者だとか言い出さないよな? どちらかと言えば被害者はコッチだぞ? カジノの信用を必要以上に落としたんだからな……」 「何をおっしゃってますの? 真の被害者はお客様だけですわ。それ以外に被害者はおりませんことよ?」 「客? 別に客などどうでもよかろう? 騙されるのが悪いんだ……」 「貴方がそのような考え方を持っているから、綾香さんは不正を止めなかったし被害に合われるお客さん達も増えていったのではありませんか!」 「じゃあ何か? 依頼を出したわしでさえも被害者ではないと?」 「貴方は綾香さんを利用しようとしただけに飽き足らず……この依頼そのものも利用しようとしているただの小悪党ですわ。本来なら貴方こそ断罪すべき対象ですのに……今回はあくまで疑似的な実践調査であって本当の調査ではありません……。ですから今回だけは見逃してあげますからせめてその被害者面を装うのだけはやめて下さいまし。吐き気が込み上げてきますわ!」 「何とでも言え! とにかく依頼だけは達成してもらったんだ……何を言われようが約束の金だけは払う。それを受け取ったら出てってくれ! お前を見ているとわしだって気分が悪くなる……」 「勿論、お金を頂いたらこんな所さっさと帰らせて頂きますわよ! でも、報告ついでに一つだけ忠告はさせておいて頂きますわ!」 「忠告? なんだ?」 「この綾香さんの一件を利用してカジノへの信頼を回復させたいというのであれば……それはそれで構いません。なにせ綾香さんも罪を犯した人間なのですから……そういう憂き目に会う事など覚悟していたでしょうし……それ自体は自由になさったらいいと思います」 「あぁ、勿論利用させてもらうぞ? 不正の経緯だって都合よく解釈を変えて記事に載せるし、仕置きされている情けない映像もカジノだけでなく他の系列ホテルにも大画面で流してやるつもりさ!」 「カジノに不都合となる言葉は載せない……というのも理解出来ますし、別にそれを咎めようとは思いません……ですが! 必要以上に事実を捻じ曲げて掲載したり彼女の個人情報にかかわる情報開示は一切認めません! それだけは心に留めて置いてくださいまし?」 「あぁ? なぜだ? 別にどう掲載しようと自由だろう? あいつを悪人に仕立て上げるんだから……」 「それでも……彼女は今日……我々の制裁をしっかりと受けています。これ以上彼女を辱める意味は……もはやない筈です」 「それはあんたらの制裁だろ? わしはわしなりの制裁を加えるつもりさ……。なにせあいつは……全てのカジノの敵なのだからな。二度とディーラーとして表舞台に立てないよう徹底的に晒してやるつもりだ!」 「そんな事をなさらなくても綾香さんはもうディーラーとしてやっていくことは出来ないはずです。ディーラーとしてやってはいけない事をやってしまってしまったのですから……それは当然ですの。今回の件とそれだけでも十分に制裁は受けてますわ! ですからそれ以上の制裁は彼女に対する私刑(リンチ)と捉えますわよ?」 「それがどうした? 依頼を終えたお前らにはもはや関係のない事だろう? それともわしの事もそれで糾弾するつもりか? 何の力も持っていないただの保険屋のくせに!」 「私も……この仕置きを成功させるためにとある約束をあの人と結んでますから……」 「約束? フン! 知るか! わしには関係のない事だ!」 「貴方に関係が無くても……私にはそういう小さな約束を守るこそ大事だと思っておりますの。それが信用を得る事にも繋がりますし、そもそも約束した事を破るなど……貴方とやっていることは変わらなくなってしまいますわ! 人を利用して……人を貶めて……益を得ようとする……貴方のやり口と同じになってしまう!」 「何とでも言うがいいさ! だがわしは利用できるものを何でも利用するつもりだぞ? 今までもこれからもなっ! カジノ経営って言うのはそうやって成り立たせるものなのだよ! 客の感情や不正を行った女の感情など関係ない! カジノが信用され騙される客が増えればそれだけでこのカジノはやっていけるんだ!」 「……………………」 「どうだ? まだ何か言い返せる言葉はあるか?」 「いえ、ここまでお客さんを侮蔑し……職員をもないがしろにするオーナーは聞いた事が有りませんでしたから……正直、呆れて言葉も出ませんわ」 「そうか、じゃあ出てってくれ! わしはこれでも忙しい身なのでね……」 「出ていく前に……先程の忠告の続きですが……」 「なんだ? まだあの女の事を語りたいというのか?」 「もしも……彼女の個人情報や過度な情報操作で彼女を辱めるような内容を宣伝するようなら……」 「なんだ? わしにもお仕置きか? お前らがやってくれるのか? だったら受けて立つぞ? 特にあの生意気そうなガキの責めなら喜んで……」 「このカジノのみならず……母体であるこのホテル自体も潰れるとご理解くださいまし?」 「……は、はぁ? な、な、何を言っている?」 「いえ……ですから……必要以上に綾香さんを陥れるような行為をすれば……このホテルごと潰すぞ? と申しているのです」 「ッっ!? 一介の保険屋が何を言ってやがる! カジノだけでなくホテルごと潰すだと? 馬鹿も休み休み言え!!」 「貴方は雇われオーナーですからホテルの事情など知ってもいないでしょうけど……今日会ったあの方は……実はとってもこのホテルにとって致命的なお方でしたのよ?」 「あの方? だ、誰の事だ? それは……」 「今日私に資金提供をしてくださった……あのグレースーツの殿方……。あの方はとある会社の若き社長さんでいらっしゃいますの?」 「お前が“結城”とか呼んでいたあの男か? それがどうした? あの男が社長だろうが何だろうがこのカジノには関係の無い話……」 「貴方の言う顧客管理システムですが……アレは本当にお客さんから搾取する為だけにしか使われていなかったようですわね? お客さん一人一人の生い立ち、素性……どういう人間かを知る為の情報は極力省かれておりましたわ……」 「そんなの当たり前だ! 客の人生や職業など興味はないっ! 大事なのはいくら搾り取れるかという指標だけだ!」 「それだから……彼が何者なのかを今の今まで知り得なかったのでしょうね……?」 「だ、だから! 奴が何だというのだ! 何か特別な能力を持った男だとでも言うのか?」 「彼は結城製薬の社長さんでありながら、その裏では総合型のアミューズメント施設を経営する為に複数のホテルの株主になっているという実業家の顔も持っていらっしゃいますの」 「複数のホテルの株主? それが……どうした?」 「その複数のホテルの中に……このホテルは入ってございますわ♥」 「な、なにっ!? このホテルの……株主になっている……だと?」 「しかも筆頭株主でいらっしゃいますから……実質、彼がこのホテルの経営者であると言っても過言ではありませんわ♥」 「ひ、筆頭!? ば、馬鹿なっ! 何でそのような男がこのような場に!?」 「彼は……もう4度ほど……このカジノの視察を行っておりましてよ? 顔認証できるカメラはしっかり搭載されていますのに……そういう情報は得ていなかったんですのね?」 「し、視察!? そんな事知るか! うちのシステムにそれを判断できる機能なんて備わっていない! せいぜいその客がいつ来ていくら落としていったかくらいの情報くらいしか……」 「彼は近いうちにホテルの統廃合を進める予定にしてますの……つまりは、このホテル……下手をすればなくなってしまう可能性が有りますわよ? 貴方のカジノのせいで……」 「ば、馬鹿なっ! そんな勝手な事出来るはずが……」 「出来ますわよ。だって彼……ホテルを買う事も潰す事も出来る……社長さんなのですから……」 「ふざけるな! だからと言って採算の取れているこのカジノを潰すことは出来ないはずだ! 何せ利益は母体のホテル以上に出す予定になっているんだからなっ!」 「利益が出ていようと出いていまいと……彼の計画に必要ないと判断されれば簡単に切り捨てられると思った方がよろしいですわよ? そういう部分は彼……淡白ですし♥」 「カジノが潰されれば……わしはどうなる? オーナーであるわしは……」 「あらあら♥ 従業員の心配よりも自分の心配が先ですの? 流石は雇われオーナーですわね♥」 「う、うるさい! わしはまだまだ金を搔き集めにゃならんのだ! 無理して買った家だったり外車のローンだってまだ……」 「それも私の報告次第……と思って頂いて構いませんわ♥ いちお……彼の判断材料として私の意見も聞いてくださると仰っていただいてますし……」 「た、たかだか一日やそこらな出会いでそこまで親しくなれる訳があるか! わしを脅そうとしているだけだろ? そうなんだろ?」 「実は私……彼の弱みも握ってしまっておりますので♥ 私には頭が上がらないようですわ♥」 「ふ、ふざけるなっ!! そんな話……信じんぞ! お前に脅されてもわしは絶対に屈したりは……」 「別に脅そうなんて思っておりませんわ♥ ですから、これは忠告だと申し上げたでしょう?」 「……ちゅ、忠告??」 「綾香さんの件に関する、過度な辱めや過度な情報公開……そういう類の嫌がらせは一切なしでお願いいたします……と……」 「か、過度なとは……何処までが判断基準なんだ? 確か……少し改竄するくらいは良いってさっき言ったよな?」 「改竄を良しとは言ってまんよ? ある程度は目を瞑るというニュアンスでは言いましたが……」 「じゃ、じゃあどれくらいだ? どこまで書き換えたり開示したりするのが許される?」 「それは……貴方が考えてくださいまし?」 「は、はぁ??」 「私が後日その発表を見て……これはやり過ぎだなって思えば彼に報告しますし、許せる範囲内だと感じれば彼には報告しませんので……」 「そ、それじゃあ基準が無いじゃないかっ! どれだけカジノ側に寄せて書けば良いか判断できんじゃないかっ!!」 「それを教えてあげる程私は甘くはありませんよ? せいぜい……私の怒りに触れないよう慎重にカジノの宣伝でも晒上げでもやって下さいまし♥」 「それが脅しでなければ何が脅しだ! 結局お前は……情報を集めて人を脅して回るだけの調査員じゃないかっ!」 「全体の流れを知って……どのように事件が収束するのがいいかを見極める……それが私達の仕事ですの♥ その為の情報収集は、私達の命綱だと思って頂いて構いませんわ♪」 「何が事件の収束を見極めるだ! 神にでもなった気になってるのか!」 「あぁ、そうそう! 忠告ついでに……もう一つ追加で忠告をして差し上げますわ♥」 「つ、追加で……忠告??」 「この一件が片付きましたら……カジノ保険はすぐにでもプランの一つとして機能するようになりますわ。そうなれば……恐らく真っ先に……保険を受けられた方はこのホテルに来るようになると思いますの♥」 「う、うちに??」 「貴方は先程……“綾香さんのせいでカジノが信頼を失った”と仰られましたが……残念な事に、調べたところによりますとどうやら貴方の悪名のせいで着任早々から警戒されていたようですわよ?」 「わ、わしが?? な、なぜ?」 「貴方が転々と巡ってきたカジノ……そこでやってきた悪行の数々をお客さん達は勘付いていらしたようで……SNSなんかで情報交換しながら貴方がオーナーになったカジノには気を付けていたそうですの……」 「ば、馬鹿な! しかし、現に新規の客は入ってきているし……常連客だって減ってはきたが確実に付いている筈だぞ!」 「そうですわね。新規のお客さんは次々に入ってきてる……その様に貴方にはあの顧客何たらというシステムから教えて貰っていたのですわよね?」 「あぁそうだ! 常連は減っても新規の客が入ればいずれはそいつらも常連になって……」 「新規のお客さんを常連にするために貴方は新規のお客さんに限りワザと勝たせておりましたわよね? 強烈な印象を与える為に……派手な勝ちを……」 「……それはさっきも言ったはずだ! それが何だ? 何が言いたい!」 「その一連の常連を増やす為のシステムは……とっくの昔にお客さん達に対策されていましてよ?」 「な、なんだと?」 「貴方が新規のお客さんだけに勝たせている……というのは常連さん達の目から見ればすぐにバレてしまっていましたわ。そして逆に常連となった自分達は勝ちがどんどん渋くなっていく……そういう流れを感じ取った常連さん達はどのように立ち回るようになったか分かります?」 「た、立ち回るとは何だ! どういう意味だ!」 「仕掛けは単純で簡単ですの。常連さん達が“このカジノに初めて訪れた風を装って”来店するようになったというだけですわ♥」 「初めてを装って来店? そ、そんな筈はない! うちの顧客管理システムは完璧なはず……」 「顔を隠して入店されれば……そのシステムも及ばないのでしょう?」 「うぐっ!?」 「最近増えたと思いませんか? マスクをして入店する方や……サングラスをかけて入店する方……」 「ま、待て! 確かに顔認証で組まれたシステムだからそのような対抗策は有効かもしれんが……それは、そういうシステムが導入されていると完全に気付いていないとそもそも対抗策を講じない筈……」 「お客さんが気付いてしまう位に貴方はやり過ぎてしまっていたのですよ。特に苦渋を呑まされ続けていた常連のお客さん達にはその傾向が簡単に見破られてしまったんですわ……」 「じゃ、じゃあ……まさか……常連が減って新規が増えてきているという……あの情報は……」 「常連さんが新規を装って入店してきたから相対的に常連さんの数が減って見えて……新規のお客さんが増えているように感じられていただけの事ですわ♥ そのシステムとやらに頼りっぱなしで経営するから……いざこのような事になっていても早く気付けないんですのよ?」 「確かに……わし自体がカジノに出入りする事はまずない……。客の管理や利益の確保も全部システムに任せっきりにしていた……」 「常連さんからそのような不正を逆利用されている現実があるのに……たかだかディーラーの一人を人柱にするだけでカジノの信用を回復させられると……本気でお思いで?」 「うぐっ!? くっ……」 「先程申されていた“母体のホテルよりも利益を上げている”という発言も……それは新規顧客が増えた事による今後の“予想利益”を持ちだしてそのように仰ったのでしょう?」 「……っ!?」 「その新規顧客は……これからも増え続ける事になると思いますよ? 同じ人が何度も別人に成りすまして……」 「……うぐぐっっ!! うぐぅぅ!!」 「お客さんも馬鹿ではございませんわ。彼らも彼らなりに考え……疑い、自分の益を求めようとします……」 「……………………」 「貴方が不正を続ければ続ける程に……お客さんはその上を行こうと知恵を絞ります。そして……騙していると思っていたカジノの方が騙され搾取されていく……。それが不正に頼って経営してきたカジノの末路に他なりませんわ……」 「た、例え……そうだとしても! そうだとしても……不正はなくならんぞ!! 結局はイタチごっこにしかならん! いかさまで利益を得たカジノが簡単にいかさまをやめられるはずがないんだ!」 「そうですわね。だから……こういう保険が生まれる事となって、我々が働かなくてはならなくなったのです……」 「これからも無くなりはしないぞ! カジノが増え続ける限り……新しいいかさまのシステムが作られていくんだ! 今までがそうだったんだから……これからもそうさ!!」 「その時はまた……私達が見破って……制裁を加えてまいります♥ 今度はカジノ側ではなく……被害に会われた……お客様を守る立場となってですがね?」 「それでも無くならん! 不正は続くぞ!! 賭博というのは胴元が勝たなくては成り立たない遊びなんだからな!」 「それは悲しい事ですが……しかし嬉しい限りでもありますわ♥ 我々も……力の限りその不正に戦っていけるのですから……」 「そのように正義面しても無駄だ! 必ず破綻する事になる!! そのような保険が成り立つわけないんだからな!」 「成り立たせて見せますわ♥ 貴方たちのような考え方をするオーナーがいる限り! ずっと……」 「……ッっ!!」 「よぉ~く覚えておいてくださいまし? この保険が稼働を開始すれば……我々は貴方がたの敵に回る事となります。我々はどんな手を使ってでも不正を暴きますわよ? その手際は……しっかり見て頂けたのでわかりますでしょう?」 「うぐっ!!?」 「ですから……無理であると事は承知で……再度忠告しておきますね?」 「……ッっ!!?」 「今後は……不正などせず堂々と経営をなさった方が……ご自身の為ですわよ?」 「そうでないと……近いうちにまた訪れる事になるかもしれませんし……」 「貴方の様な……劣悪なオーナーが経営するカジノでしたら……特に……ね♥」 「くっっ……うぐっっっっ…………」


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