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ショーダウン(リメイク)㉕

25:綾香と夏姫  1つの蛍光灯だけで光量を賄っている古いタイプのロッカールーム……。  そのような明かりだけでこの部屋に明かりを行き渡らせるにはいささか足りず、特に隅の方に設置されているロッカーの場所などは暗溜まりが出来ているかのような薄暗さが顕著に表れている。  そんな光量の足りていないロッカールームの片隅に、靴を履き直したり少しの休憩を行うために用意されたであろう紺色の2~3人掛け用のソファが設置されており、気を失った綾香はスタッフの手によってそこへと運び込まれていた。  そのソファには……かの仕置きによって疲労困憊に追い込まれた先客が自身の疲労を回復すべく休みを取っていたが、綾香が運ばれてくるなり「私が看病します!」と声を上げ、自分の疲労を忘れたかのように甲斐甲斐しく額にぬれタオルを置いたり汗を拭いてあげたり自分の太腿を枕代わりにして寝かせてあげたりと看病を行った。 「んんっ…………ん……」  その迅速な看病の甲斐あってか綾香が目を覚ましたのは運ばれて数分も経たずであったため、看病を名乗り出た彼女もホッと息を吐いて綾香の顔を覗き見る。 「お姉さま! 気が付かれましたか!?」  綾香が目を半分だけ開けて意識を取り戻すと、そのボンヤリとした視界には……普段は気にも留める事もないロッカールームの薄灰色の天井と、自分の顔を涙ぐみながら覗き込む夏姫の顔があった。 「夏……姫? 私……もしかして……気を失ってたの?」  目を覚まし最初に見た光景が夏姫の顔であったことに心底安堵したのか、綾香は大きく深い息をフゥと吐き泣き顔の夏姫にそのように問い掛けを零した。 「お姉さまは仕置きの途中に何度も気を失っていたらしく……ここへ運ばれた時にも意識が無くてぐったりした状態で運ばれてきたんです!」  綾香が夏姫の顔を見て安堵したのと同様に、夏姫も綾香が意識を取り戻した事に深く安堵の息を吐き目尻に溜めていた涙を一筋頬に伝えさせた。 「もぅ……何よ? 何であんたが泣くわけ?」  頬を伝った涙が綾香の頬に滴り落ち、その涙の温かさを感じた綾香はクスリと笑みを零しながら身体を起こそうと手足に力を込めようとする。  しかし、満身創痍の身体に鞭打つように強いられた責めが思いのほか身体にダメージを残していて、まるで自分の身体でないかのように手足に力が入らない。 「くっ! 痛たたっ!? 何これ? 全然力が入らないじゃない……」  手足はもとより頭さえも持ち上げる事が出来ない綾香は、僅かに後頭部を浮かせる程度の動きは出来たもののすぐにその力は失われ再び夏姫の柔らかい太腿へと頭を着地させる運びとなってしまう。 「お、お姉さま! まだ無理に動いちゃダメです! お姉様は限界以上に責められ続けたんですから……まだ身体は動かさない方がいいと思います!」  夏姫の促しに綾香は再び息を吐き「どうやらそうみたいね……」と、自分の身体が動かない事を憂いながら先程まで受けていた責めの凄まじさを改めて実感する。 「体中の節々は痛むし……まだ手とか足とかは勝手に痙攣してるし……やっぱりあいつらのアレはヤバい責めだったって事ね。確かに……アレを受けたら……もう二度といかさまなんて手を出したいとも思わなくなるわ……」  自分の手の震えと痙攣を横目に見ながら綾香は夏姫にそのように言葉を零す。  それを聞いた夏姫は再び目尻に涙を溜め、唇を震わせながら綾香に謝罪の言葉を出し始めた。 「お姉さま……ごめんなさい! 私が……余計な事をしたばっかりに……お姉さまをこんな辛い目にあわせてしまって……」  夏姫はその謝罪を吐き出すと同時に今度は両目から溜め込んでいた涙の雫を頬に伝わせた。 「何であんたが謝んのよ? 悪いのは私よ? 自分で悪いことやって……それを裁かれたってだけの事だからあんたは関係ないでしょ? 自業自得とか因果応報とかって言うのよ……こういうのは……」  力の入いらない右手をどうにか持ち上げ、涙を流す夏姫の頭にその手を運んで「気にしないで」という気持ちを込めた頭撫でを綾香が行うが、夏姫はその手に撫でられるとこれまで以上に涙を目尻から溢れさせ嗚咽交じりに綾香に言葉を返した。 「うぅっ! 違うんです! 私が…………あと少しでも……あの時、もっと我慢出来ていれば……お姉さまの負担ももう少し軽くできていた筈なのに。くすぐりを甘く見ていた私が馬鹿だったんです! まさかあんなにも辛くて怖いものだとは思わなくて、あんなに情けなく懇願してしまったからお姉さまが……」 「もう……だから、それは私の罪なんだから……こうなってしまったのは全部私のせいなんだってば。夏姫は何も悪くない……。何も……」 「いいえ! 私だって……お姉さまを騙してしまったんですから……私だって共犯です! 本当は私の方が……もっと罰を受けなくてはならないくらい罪深いのに……」 「私を……騙す? なに? 何のことを言っているの?」  不意打ちの様な夏姫の告白に綾香は動揺する。どうやら夏姫は何かしらの後ろめたさを綾香に持っている様子だが、自分はそれが何の事か全くと判断できない。  そんな不可思議そうな表情で夏姫の泣き顔を見上げる綾香に、夏姫は重い口を震わせながら開いて少しづつ事の真相を彼女に打ち明け始めた。 「あの時…………私が智恵理さんに取り押さえられたその後くらいに……突然彼女が私の横にやってきて……話しかけてきたんです…………」 「彼女って……誰?」 「……麗華さん……です」 「麗華? あの首謀者の赤ドレスの女? あんた……あいつと何か話したの?」 「は、はい……」 「何を? あいつと何を話したのよ?」 「そ、それが……」  夏姫は嗚咽を零しながらもゆっくりと麗華との会話の一部始終を語り始めた。  それは、ショーの残り時間が残り15分ほどに迫っていたあのタイミング……  綾香が鈴音の責めに最初に屈服しかけた……あの時に、麗華からもたらされた話から始まった。 「あの時……私がお姉さまに“ショー終了時間が迫っている”と伝えたとは思いますが……実はその情報……最初は麗華さんから教えて貰って気付けたことだったんです」 「えっ!? あいつが……時間の事を言ってきたの? あんたに??」 「はい……。私もお姉さまの笑い悶える顔に夢中で……じゃなくて、仕置きの過酷さに目が離せなくて気付いていなかったんですが……そのショーの時間が終わるという情報は彼女が教えてくれたんです……」 「な、何で? そんな自分に不利になるような情報を……何であんたに?」 「実際には……ショーの時間だけでは終わらなかったでしょう?」 「あ、そっか……その後の営業時間まで買い取ったって話だったわよね? まぁ、そのせいで私は地獄以上の苦しみを味わった訳だけど……」 「その地獄の様な苦しみって……私が……与えてしまったかもしれないって言ったら……怒り……ますよね?」 「はぁ? 何言ってんのよ? 責めたのはあいつらの方で……あんたは何もしてないじゃない!」 「それが……実はそうでもなくて……」 「……??」  夏姫は流れ落ちそうになる涙を手で拭いながら震える口で自分が戦犯になってしまったという経緯を綾香に話し始める。 「あの時……実は、麗華さんから“ショーの時間だけでは終わらない”という事実を聞かされていました……」 「んえっ!? き、聞かされてた?? 時間が延長されるって事を?? だ、だってあんた……そんな態度あの時は微塵も……」 「はい。そのうえで……私に協力を持ち掛けてきたんです……」 「きょ……協力?? あんたに??」  夏姫の言葉に綾香は目が飛び出さんばかりに瞼を広げ驚きの表情を夏姫に見せる。なにせ、あの時の夏姫は綾香に“ショーの時間はもうすぐ終わるから耐えられる筈だ”という旨の言葉を掛けていたのだ。  しかし彼女は自分も知っていたという……。  もう少しで終わると言いながらも、麗華からはショーが終わっても仕置きが続くという情報を知っていた……。それはつまり……彼女が嘘をついていたという事になる。  なぜ彼女が、その様な嘘をつく事になったのか? 綾香はその真意に考えが至らず頭を混乱させてしまう。 「彼女は……お姉さまの事を“試したい”と私に最初に告げました……」 「試したい? 何を?」 「お姉さまの……“真意”を……です……」 「……真意?」 「あの時……麗華さんはこう言ったんです……“このまま責め続ければ恐らくお姉さまは数分も持たずに屈服の言葉を吐こうとするでしょう”“でもその言葉は、苦痛から逃れる為だけに吐いてしまった言葉かもしれないから本当のお姉様の気持ちを測ることは出来ない”“だから、試してみたい……お姉さまが本当に反省して言葉を紡いだのかどうか……それを試したい……”と」 「私の……本当の気持ち? 本当の……反省??」 「えぇ。お姉さまが真剣に謝る気が有るのかどうか……それを測りたいって彼女は思っていたようです。ですから敢えて“ショーの時間後も仕置きがある”という事実は隠して“仕置きはあと少しで終わる”という風を装って私の口から告げて欲しいと……」 「つまり……屈服しかけた私の心が……本当に反省しているかどうか……それを試すためにワザと希望を持たせようとしたって……事?」 「そうです。本当に反省しているのなら、残り時間など関係なく反省の言葉を述べるだろうし……そうじゃなければまた強気な態度を取り戻して横柄な態度を取り直すかもしれないと……その様に予想していたみたいです」 「なるほど……確かに、それだったら私の“真意”を知ることが出来るわね……。特に夏姫にあんな風に元気付けられたら……私が期待してしまうのは目に見えてたでしょうから……」 「最初は……敵である彼女のこのような話に耳を貸すつもりはなかったんですが……しかし、この仕置きの“本当の目的”を聞いた時……私は協力することを決めてしまいました」 「仕置きの……本当の目的??」 「彼女はお姉さまにそのような罠を仕掛けるよう私に迫った後、真剣な顔をしてこの様に語ってくれたんです……」 「……?」 「この仕置きは……お姉さまを“守るため”に行う仕置きなのだと……」  夏姫の衝撃の言葉に綾香は耳を疑い、そして再び驚く表情を彼女に向けなおす。 「……ッ!? わ、私を守る? え? な、何から??」 「……それは…………“お客さん達”から……です……」 「……きゃ……客??」  夏姫の更なる衝撃の言葉に綾香は目を白黒させながら驚きを露わにした。  それもそのはず、あの仕置きに何かを“守る”という目的があったなど思いもよらなかったのだから。  しかも、その守る対象が“被害を受けた客達”ではなく責めを受けていた“自分”であったという信じがたい事実。あの……周りで見ていた観客から守るための仕置きだったというのだ……。  あのような苦痛を強いられ、その苦痛が自分を守るために行われたと言われても……それはにわかには信じがたく、綾香の頭は混乱の極みに達した。 「お姉さまが行っていたあの不正……アレは、お姉さまや私が思っていた以上にお客さん達に疑いの目が向けられていたようで、ネットを介して様々な意見が飛び交っていたそうなんです……」 「うぅ……ま、まぁ……あれだけ派手にやっていれば……そりゃあ、そうなるわよね?」 「疑わしいけど証拠がない……だから、何も言えない……その様なお客さんがSNSや匿名の掲示板なんかにお姉さまの事を書き込んで広めていたらしく、中には“暴力を振るってでも自白させた方が良いんじゃないか?”とか“誘拐して脅した方が良いんじゃないか?”っていう犯罪をほのめかす様な書き込みもされていたそうです……」 「暴力!? 誘拐!? な、何よそれ! そんな事書いてるヤツもいたって言うの!?」 「お姉さまが不正を続ければ本当にそれを実行する輩が出るかもしれない……でもそれを取り締まっていかさまをしていた事を認めさせてもお客さんが報復をしてくるかもしれない……。どちらに転んでも危ない状態だったが故に麗華さん達に白羽の矢が立てられたそうなんです……」 「そ、そういえば……あいつら、結局……何者だったの? 白羽の矢が立つって事は……やっぱり政府関係の人間とかなの?」 「いいえ、彼女達は民間の保険会社で新設された“不正賭博調査委員”の人間だと話してくれました」 「保険会社? 不正賭博……調査……委員??」  綾香は聞きなれないその聞きなれない言葉に頭が上手く働かない。政府の何かしらの機関からの何かしらの特別捜査官か何かか? と想像してはいたが、夏姫の口からは民間の保険会社の調査員的な人間だと明かされた……。それがどのような仕事をするもので……そもそも表向けに存在する調査委員なのかすらも想像だに出来ない。  それもその筈……カジノの世界では賭博という遊戯であり“保険会社が関わる”という事例を聞いた事も無かったのだから…… 「お姉さまは……IR法案というのはもちろんご存じですよね?」 「……え、えぇ……。カジノスクールで勉強さられたからある程度は知ってるけど……。平たく言えば日本でカジノを誘致させようとする法律的なヤツでしょ?」 「そのIR法が可決されてカジノが誘致され始めたのは20年前……。法案が通ってからは都市部、地方を問わず大小様々な日本製のカジノが流行っていきましたよね?」 「えぇ……私の子供の頃には“カジノバブル”なんて形容されるくらいに乱立してたわね……質の良し悪しは別にして……」 「その質の良し悪し……というのが実は結構深刻でして……。昨年の末に出された“違法賭博および不正遊戯の実態”とかいう政府がまとめあげた調査によると、日本はこの20年間で海外のどの国よりもカジノ経営の質が悪いって評価されてしまったらしいんです……」 「確かに……日本のカジノって聞くと、昔も今もぼったくり店が多いってイメージよね……。一昔前のパチンコ店みたいに……」 「カジノの経営自体はパチンコ屋さんよりも難しいからお客さんへの還元を渋くせざるをえない……それに輪を掛けて日本にはカジノの文化が馴染んでなかった……そういうのが重なって法案可決当初に大賑わいだったカジノホールも、今では閑古鳥が鳴く始末……。だからカジノのオーナーは基本的に“不正を推奨”して経営を成り立たせようとした……」 「うちのオーナーも酷いもんね……。私は自発的にやったっていう稀有な例かもしれないけど……私以外のディーラーにも不正を強要してるって話じゃない?」 「私も……促されました。むしろヤらないとお給料を減らすとまで言われて……」 「でもあんたは……別にそんなテクニック持ってるわけじゃないわよね?」 「まぁ……やり方は色々あるみたいでして……。私みたいにテクニックが無いディーラーでもカードの数字が背面を見ればわかるようなトランプだったり、狙った所に玉を入れられる全自動のルーレットが有ったりするらしいので……」 「呆れた……そんなものまでこのカジノは用意してたの?」 「ま、まぁ……そうまでしないと経営が出来なくなるカジノもあるらしいので……」 「なるほど……そういう背景があったから“不正”を行うカジノが増え始めたっていう事ね?」 「はい。そういう実態が明らかになった事でIR事業推進の派閥の政治家さん達は焦ったそうです。自分達が法案を通してしまったがためにカジノのイメージが悪くなったと言われれば次の選挙に大きく響いてしまう……って感じで……」 「政治家なんて頭の中は次の選挙、その次の選挙……ばっかりだものね……」 「不正を取り締まりつつカジノの信頼を取り戻す良い手はないか? と考えていた所、保険会社を利用するのはどうかという案が出たそうです」 「そこで保険会社と繋がるのか……」 「政府は裏で複数の保険会社に“カジノの不正に関する保険を作れないか?”という打診を送ったそうです。その打診を受けて反応を見せたのが“エレメンタル総合保険”っていう小さな保険会社でした」 「エレメンタル? 聞いた事ない保険会社ね……」 「会社としてはそこまで大きくなくて、扱ってる保険も王道の生命保険や自動車保険以外にも“お天気保険”とか“幽霊保険”とか他の会社にはない特殊な保険も扱っている……ちょっと変わった保険会社なんです」 「お天気保険? 幽霊? 何よそれ……」 「いや、実際にあるみたいですよ? 旅行先で何時間の降水を記録したら旅行代金を一部返金してくれるお天気の保険だとか、幽霊に襲われたと証明がされれば怪我の治療費を保証するっていう保険だとか……あと他にも駐車違反で払わされた罰則金の一部を保証する保険……なんてのもあるらしいですから」 「駐車違反の青切符まで保険の対象なの?? もうそれ……保険って言えるの?」 「そういう特殊な保険を多く扱っていた保険会社だったからこそ今回の要請を快く受け入れたらしくて……1年間の実験期間を経て試験的に運用していくっていう運びになったらしいです……」 「1年間の……実験期間?」 「幽霊の証明やお天気の証明同様にカジノの保険でも保険金を受け取るには不正やいかさまが行われたという“証明”が必須になります。ですからその証明を行う特別な調査員が必要でして……」 「……それが麗華達だったって……事よね?」 「はい。まだこの保険は世に出てはいません……なので今も実験を行っているっていう最中だそうですが、その調査の精度がどれだけ高く出せるかを麗華さん達で試しているらしいんです……」 「あいつら……あんなナリしてそんな人達だったなんて……。てっきり奇人変人の集まりなのかと思ってたわ……」 「彼女達、この1年の間に数百件のディーラーの不正を暴いてきていたらしいです。ですから、元々多少なりとも腕利きの保険調査員だったという事だと思います……」 「す、数百っ!? そ、そんなにッっ!?」 「どこまで本当の事かは彼女の口から出た言葉なので分かりませんけど……彼女の不正を暴く目はとにかく鋭いらしく……それによって断罪されたディーラーやカジノを経営していたホテル自体にも彼女のメスが入れられていったらしいです」 「そういえば……ここ数日で何件かの大型のカジノが潰れていってたって聞いたけど……それも彼女の仕業っ!?」 「そこまでは分かりません……。ですが、彼女の証明はそれだけ信用に値すると保険会社は見たそうで、このお姉さまの件が事実上の最終審査……みたいな言われ方もしてたそうです」 「保険導入の為の最終審査……。その為だけに彼女は私の事を断罪しに来たって事?」 「いえ……今回の件は……かなり特殊な事例だったらしくて……」 「特殊? 私の件が??」 「お姉さまの件は不正を行った人数も、搾取した額もダントツでトップクラスだったらしく……だからこの件は不正を証明すると同時にお姉さまへのケアも考えなくてはならないと保険会社の方が考えたそうです……」 「私へのケア? 客がネットに書いた暴力がどうのとか誘拐がどうのとかいう根も葉もない噂の事を信じてそう判断したって事? 何よそれ? どんだけ手厚い保険会社なの?」 「いえ、どうもこの不正の証明を行うという行為……これが、予期せぬ二次被害を生むって事が分かったらしくて……それが行われる事によって実際ディーラーの何人かは暴力を受けたり行方不明になる方も出たりしていたらしいです……」 「こ、怖っ! そ、そんな事が……起きてたの?」 「えぇ。ですからお姉さまの件は細心の注意を持って解決しなくてはならないという案件だったらしくて……だから、麗華さんはワザワザこの“仕置きショー”というものを開催する事を計画に入れたそうなんです」 「仕置きショーって……あいつらの歪んだ性癖を満たすためのリンチって訳じゃ……なかったの? 毎回あんな事してるのかって疑ってさえいたのに……」 「ショーの時間や営業時間を買い取って人の見ている前で公開仕置きをする……という流れは今回が初めてだったらしいです」 「へ、へぇ……私はてっきり……あの変態どもの楽しみのために行っているだけかと思ってたけど……」 「あれはお姉さまを守るために仕方なく行った対応策だって……麗華さんは語ってました……」 「それはどうかしら? 私を責めてる時のあいつらの顔……心底楽しそうにしてたけど……」 「そういうのも演出の一つだったんだと思いますよ?」 「……演出?」 「お姉さまの不正を暴きつつ、その制裁をお客さん達に生で見せつける事によってお客さん達の怒りを鎮めさせる……そういう意図があってあのショーは企画されたらしいです」 「私が苦しむ様子を見せて……客の怒りを鎮める? それは……効果があったの?」 「分かりません……。分かりませんが、お客さん達の怒りを鎮めるために様々な工夫を凝らした構成にはなっていた筈です……」 「むぅ~~~。そうだった……かしら?」 「私も途中から運ばれちゃったので実際に見れてはないですけど……あの後、お姉さまはお客さん達に制裁を受けたんじゃありませんか?」 「……あぁ! そういえば……あの羽根っ! あのムカつく羽根に……寄ってたかってくすぐられたわ! アレもヤバかった……何度意識が飛びそうになったか……」 「そういうのもそうですし、麗華さん達が楽しそうに苦しめている様子だったり、一切の容赦がない責めであったり……そういうのを施す事で、お姉さまに向けられていた怒りの感情を違う感情に変化させようと試みていたみたいです……」 「違う感情?」 「それは……憐みの感情ってやつです……」 「憐み??」 「こんなに苦しんでいるのに……こんなに苦しめたのに、まだ仕置きは終わっていない……。もう良いんじゃないか? もう終わってやればいいのに……。そのような感情に変化するまで徹底的に責める事で、お姉さまへの怒りの感情は消えていく……と、麗華さんは考えたそうです」 「た、確かに……仕置きの最後の方は……客も目を背けながら帰って行ってたわ……。それでもあいつら……やめてくれなかったけどね……」 「それこそが彼女が考え至った“お姉さまをお客さんから守る為のプラン”だったんです」 「……ま、まぁ……確かに…………客がドン引くほど責められたわけだから……単に怒りを鎮めるってだけなら……それは正解かもしれないわね……。死ぬほど苦しかったけど……」 「そこまでの情報を裏も表も隠さず事細かに私に麗華さんは話してくれたというのもあったので……私は、彼女の話を信じようと思えるようになりました……」 「その情報って……あまり世に出回っちゃいけない話じゃないの? 特に保険云々の話は……。なんであんたに?」 「彼女はその理由までは語りませんでしたけど……。でも、あの場面で私がお姉さまを騙さなきゃいけなかったというのはお姉さまの真意を知る為には必須事項だったと思います」 「必須事項? あんたが?」 「だって……お姉さまと敵対している麗華さんが“あと数分でショーの時間が終わってしまいますわ~”なんて言ってもお姉さまは怪しむだけで警戒を強めちゃうでしょ?」 「え、えぇ……まぁ……そうなるわね。あいつらの口から出る言葉なんて信用したくなかったし……」 「その警戒でもし“ショーの時間だけで終わらないかも”っていう考えに至れば……お姉さまは機転を利かして反省するふりをしてしまうのではありませんか?」 「うぅ……まぁ……実はそのつもりだったから……否定は出来ない……」 「そうなればお姉さまの真意は分からないまま……。結局うやむやなまま罪の清算という名の仕置きを行わなければならい流れでした……」 「だから……あんたを取り込もうとしてたって訳ね? 私に一番近しいあんたの言葉なら信用すると……思ったから……」 「でしょうね。私を納得させるために……彼女は必死でしたよ? 最後には正規の保険調査員である事を証明する為に社員証まで見せて来たくらいですから……」 「社員証っ!? あんたを信用させるためにそんな事まで!?」 「えぇ……だから話は信じました。話は信じましたけど……でも、ワザワザ過酷になると分かっている仕置きを……お姉さまを騙してまでも行わせるというのはどうしても納得できなくて……私は彼女の計画に従う代わりに3つの条件を彼女に出しました」 「3つの……条件?」 「1つはお姉さまの身の保証……」 「私の……身の保証?」 「どれだけ過酷な責めを強いるのかまでは聞いていませんでしたが、恐らく死ぬほど辛い目に合わされるだろうって事は分かってました。でも、もしそんな辛い目に合わされたにもかかわらずお客さん達の怒りが収まらず後日お姉さまを襲ってきたなら何のための仕置きだったのか分からないじゃないですか……」 「え、えぇ……まぁ……。でも、それも自業自得ではあるんだけどね?」 「だから、もしそうなるような事があれば、今度は保険云々は抜きに麗華さん個人がお姉さまの身の安全の確保を行ってほしい……って伝えたんです」 「麗華……個人が?」 「そうでもしないと……ただ仕置きを受けて苦しんだだけで終わってしまいますから……」 「うぅん……具体的にはどんな事をする予定なの? まさか……ずっと監視下に置かれるとか?」 「さぁ、具体的な案とかは分かりませんが……しかし、それは麗華さんも考えていたらしく“計画の内”に含まれているそうです……」 「なんか……怖いわね……。そっちの方が客の復讐よりよっぽど怖いんだけど?」 「条件の2つ目は、お客さんが納得したなら速やかに仕置きを終えてお姉さまを解放する事。それも1つ目と同じく仕置きを無駄に行わないで欲しいっていう思いから付けた条件でしたけど……」 「……それは守られてなかったわね。だって……お客さん……誰もいなかったのにまだ責められっぱなしになってたもの……」 「あらら……やっぱりですか。まぁ、この件に関しては“努力はします”ってだけ返してたので……そんな気はしてました……」 「最後の方はあいつら3人とも私の苦しみ顔を見て喜んでたのよ? 私が笑いながら死にかけている姿を見てさ!」 「ま、まぁ……彼女も“徹底的に責める”って力強く言われていたので……そこは私も強くは言えませんでした……。努力はしてくださいとだけ……」 「っで? 3つ目は何? 条件の3つ目は!」 「3つ目は……お姉さまの“不正を認める言葉”を引き出す役を……私に託してください……って……お願いしました……」 「私の不正を認める言葉を……あんたが引き出す?? それは……どういう意味?」 「ほら……あの時……。お姉さまの代わりに……私が磔にされて責められた時間があったでしょ?」 「え? え、えぇ……」 「あれは……私がそうしてくれって……頼んだんです……」 「頼んだ? 私に嘘をつく前に?」 「えぇ……そうなんですが……」 「なに? 何をそんなにモジモジしながら目を逸らすわけ?」 「あ、あ、あの! お、怒らないで……聞いてくださいね?」 「内容にもよるわ」 「うぅ……。じ、実はですね? その……」 「何よ? ハッキリ言いなさいよ!」 「そ、そのぉ……私の見立てでは、私が責められて苦んでる姿をすぐ傍で見せられれば……お姉さまはお優しいから……私の事を助ける為に……認めてくれるかな? って思いまして……」 「認めるって……不正を?」 「は、はい。お姉さまは……自分の事となると意地を張って中々素直に認めようとしませんが……他人の事となれば……特に……私の事となれば仕方なくでも認めてくれるかなぁ~って思い至った次第で……」 「あんた……その為だけにあの仕置きを受けたの? 私が認めないかもしれないって思ったから?」 「い、いえ! それだけじゃないんですっ!! 本当はそういう騙すような行為をしたくないって思ってましたから……罰というか……そういう事に加担してしまうという自分への仕置きの意味を込めて名乗り出たというのもあるんです!」 「呆れた……それであんなに強引に名乗り出たの?」 「だ、だ、だって……加担する条件を言った時に……麗華さんに言われたこともありましたから……」 「……言われた事?」 「私が出した条件……特に最初のやつは、あくまで“お姉さまが不正を認めた時に有効する”っていう条件を返されたので……どうしてもお姉さまの言葉は引き出さなくちゃいけないと思いまして……」 「……ま、まぁ……そうでしょうね。私が認めなきゃ始まらないってのは……あいつの計画上は必須だっただろうし……」 「勿論、私が身代わりにならなくてもお姉さまには“認めさせる”って麗華さんは仰ってましたので……きっと酷い仕打ちになるだろうなって……想像出来てたのもあって……」 「うわ、怖っ!」 「なるべく穏便にお姉さまの言葉を引き出したかったのもありましたし、もしも引き出せなくても私が粘って責められ続ければお姉さまに執行される予定の時間も自分が少しでも肩代わりできて負担を減らせるはずだって考えたのもありましたので……」 「……夏姫……」 「すみません! 本当は……もっと時間をかけてお姉さまの負担を軽減しつつ言葉を引き出そうと思っていたのですが……あまりにもあのくすぐりが……辛くて……つい言葉を急がせるような発言をしてしまって……」 「………………………………」 「私がもっと頑張っていれば! もっとお姉さまの為に時間を稼げていれば、お姉さまがこの様にぐったりする事もなかった筈なのにっ! すいません! 私の根性は……お姉さまほど強くはなくて……」 「…………………………………………」  夏姫が抱えていた裏事情を聞いて、綾香は無言になりつつも目を閉じてフフ……と笑みを浮かべる。  その笑みは夏姫の前でいつも浮かべる“全く……夏姫はしょうがないわねぇ”という意味を込めた笑みではなく“こんな自分の為にそこまで想って行動してくれたんだ”という感謝の意味を込めた優しい笑みだった。 「うぅ……ごめんなさいお姉さまっ! 私が……私が頑張れていればお姉さまをここまで疲弊させる事もなかったのにっ!!」  自分の不甲斐なさを思い出し再び涙声に変わろうとしている夏姫に綾香は優しく微笑みを返してあげた。  そして感謝の気持ちを述べつつ夏姫を労う言葉を返してあげた。 「ありがとう……夏姫。そこまで私の事を想って……身代わりになってくれてたなんて……思いもよらなかったわ……。辛かったでしょ? あいつのくすぐり……容赦なかったでしょ?」 「うぅ……辛かった……ですぅ。でも、お姉さまは……私の何倍も……辛い思いをされて……うぐぅ……」 「馬鹿ねぇ……私の辛さなんて……それを聞いたらどっかに吹っ飛んじゃったわよ……」 「で、でも! こんなにグッタリされてるし……意識が中々戻らなかったから……私凄く怖くなって……」 「私が……本当に辛いと思ってたことは……くすぐりなんかより……もっと内面的な不安の方よ……」 「内面的な……不安?」  綾香のその言葉を聞き夏姫は涙を溜めた目尻を手の甲で拭いながら綾香の穏やかな顔に疑問の言葉を返した。  綾香はそんな夏姫のキョトンとした顔に笑みを返し遠い目をして言葉を続けた。 「あんたと……。夏姫と……別れる事になるかもしれないっていう不安の方が……よっぽど怖かったし辛かったの……」 「わ、わ、私と別れるっっ!? 何ですかそれっ!? まさか……誰か他に好きな人でも出来たとか言いませんよね!?」 「違うわよ馬鹿……。今でも私はあんたの事が好き……それは変わらないわ……」 「わ、私だってお姉さまの事世界の誰よりも好きです! 愛してますよっ!!」 「うん……それをちゃんと確認して無かったから……こんな不安に襲われたんだと思う……」 「確認?」 「ほら……私ってさ……プライド高いし、意地っ張りだし、素直じゃないでしょ?」 「うぐっ!? 何ですかそれ? 私はそれに対して何とお答えすれば……」 「良いのよ……自覚してる事だし……正直に返してくれて……」 「うぅ……まぁ、ちょびっとはそんな所も……有ったり無かったり……するかもですけど……」 「だからさ……いつもは直接言ったりしてなかったじゃない? 私がどれだけ夏姫の事を想っているか……とか……」 「え? そ、そうでしたっけ? ベッドの中では……結構大胆な事言ってたりしてましたけど……」 「そ、それは別にいいのっ! でも……私もそういう……気持ちの確認……するのを怠ってたなぁ~って思っててさ……」 「私は……お姉さまの愛を感じてましたよ? いつでも……」 「あんたはそうでも……私は自信が無かったの。自分の想いは……実は一方通行じゃないのかとか……私の愛は重すぎて夏姫が負担を感じてるんじゃないか……とか……勝手に思い込んじゃててさ……」 「そんな! 重いなんて感じたことありませんっ! 強いて言うなら、お姉さまのお胸が顔に被さった時は重いって感じた事はありましたけど……」 「あんたねぇ……真面目に話してんのに茶化さないでくれる?」 「わ、わ、私も真面目ですぅ! お姉さまへの愛は最初から真面目だったんですっ!!」  アレほどの酷い仕打ちを受け頑なに罪を認めようとしなかった綾香の強情さの背景にまさか自分が絡んでいたとは思いもよらず、驚いていいやら喜んでいいやら感情が定まらない夏姫は綾香に対する返答にも動揺が見られてしまう。  しかし、どんなに動揺した言葉が発せられても、綾香を想う気持ちは言葉の端々や語気の強さに現われており……それを聞いて綾香は安堵するような表情を作り、勢いで返答してきた夏姫の呼吸が回復するまでしばしの間を空ける。 「…………確認……ですか……」  綾香が少しの間を空けてくれたことにより呼吸を整えすことが出来た夏姫は、改めて綾香の言った“確認”という言葉を咀嚼するように反復した。 「そう……その確認をね……してなかったから……勝手に不安になっちゃてたの。このまま不正がバレたら……このカジノもクビになるだろうし……そうなれば夏姫とも離れ離れにってしまって……想いが届かなくなってしまうんじゃないかって……」 「そんな事ある訳ないじゃないですかっ! お姉さまがディーラーを辞めるっていうなら私も辞めるつもりなんですからっ!!」 「ちょっ! あんたが辞める必要なんてないでしょっ! 悪い事をしたのは私だけなんだし……」 「いいえ! 私はお姉さまが行く場所についていくつもりです! 働く気が無くなったなら私が代わりに働いてお姉さまを養っていく所存でいますからっ!!」 「それ……私、完全にヒモじゃない……」 「そういう心づもりでいるというだけです! 願わくば……またお姉さまと同じ場所で働くのが理想ですけどね?」 「カジノ養成校に通って資格まで取ったのに勿体ないわよ……って言いたいけど……それを聞いてたら私も意地なんて張らずに洗いざらい素直に認めていたと思うわ……不正の事……」 「え? そ、そうだったんですか? あのお姉さまがっ!?」 「どのお姉さまよ! 全く……あんたの中の私って余程強情な性格をしているみたいね?」 「い、いやぁ……だってほら……あの様に不躾な態度で対戦を申し込んできた相手に……素直になれないのがお姉さまだろうなぁって思ってましたから……」 「それは否定できないわ。実際……あの女共にはムカついてたし……」 「アハ♥ やっぱり……」 「でも、自分の犯した事がどれだけ罪深い事なのかは……自覚してはいたわ……だから……いつかその報いは受ける事になるだろうって……覚悟もしてた……」 「……お姉さま……」 「罰を受ける覚悟は出来てたけど……あんたと離れ離れになる事だけは避けたかった。その思いが強かったから素直になれなかったって……今になれば思うわ……」 「私と……離れ離れにって……そうはならないって今言ったじゃないですか! 例えそうなったとしてもいつでも会える距離に引っ越したりするしっ!」 「物理的な距離だけの話じゃないの。心の距離……とかもよ?」 「それも今確認したじゃないですかっ! 私の心はいつでもお姉さまの物なんですって!」 「その確認を今まで怠ってきてたから……こんな余計な心配をしてしまったのよ……。せめて私の方からあんたに自分の気持ちを伝えていれば……少なくともここまで不安な気持ちにはならなかったと思うし……」 「だったら! これからは確認していきましょうよっ!! いつでも! どんな時でもっ!」 「……夏姫……」 「私だって……確認したかったんです……お姉さまの……本当の気持ちを……」 「…………………………」 「言葉を交わさないと……すれ違いは簡単に生まれちゃいます! 特に恋愛感情や愛の感情なんて……形が無いものなんですから余計に!」  夏姫の言葉に綾香はしばし言葉を失ってしまう。  お互い身体を重ね合わせていた時は雰囲気で愛の言葉を囁くことは出来ていたが、普段の生活の中でそのような言葉を掛け合う事などしてはいなかった。夏姫の方からは一方的に好きですオーラをぶつけられてはいたが、それも照れを隠す様におちゃらけて交わしていた好きだった。  その好きを……綾香はどうしても真剣に捉える事が出来ていなかった。“あぁ……いつもの好きか……”という淡白な反応しか返せていなかった。  それは自分の方が愛を告げていなかったが故のすれ違いだった……  自分の気持ちを知ってもらおうとせず……ただ一方的に愛を受け取る事しか出来ていなかった。  それが不安を生んだ。  自分の気持ちが……理解されていないかもしれない……と、恐れを生んでしまった。 「……そうね……。今度からは……しっかり言うようにする。私の気持ちとかも……」  最初から素直に自分の言葉を紡いでいれば……こんな不安は生まれなかっただろう。  だから、綾香は素直に夏姫の促しを受け入れた。  そうだ……これからは、自分の想いを知ってもらうために紡いでいこう……と。 「だったら! 今すぐにほら! “愛の証”を交わしましょう! ほらっ!」 「な、何よ? ほらって……」 「言葉の次に大事なのは……分かるでしょ? 愛の言葉を紡ぐ唇をしっかりと重ねて、お互いの肌を感じ合って……愛の言葉が本物であったという証を確認するんです♥ ほら……お姉さまも目を閉じて……」 「……それって、あんたがキスしたいってだけの話でしょ? なによ……その回りくどい解釈は……」 「でも、そういうのも……嫌いではないでしょう?」 「……むぅ……。ま、まぁ……嫌いとは思わないけど……」 「私と……キス……したいでしょ?」 「……………………」 「したくないんですかぁ? ここまでお膳立てしたのに……」 「…………うぅ! し、したいわよ! 悪い? あんたとキスしたくないなんて思うワケないじゃないっ!」 「ムフフ♥ そういう意地っ張りなところが好きなんです♥」 「んぐっ! むぅぅぅぅ!!」  綾香は顔を赤らめながらも夏姫の言葉に誘われるように目を閉じた。  そして、夏姫の顔が自分の顔に近づいてきた気配を察すると、関節が軋む程の痛みを感じている両手を夏姫の後頭部に両手を回し、自分も彼女の太腿から少し頭を上げ……彼女の顔を自分の方へと強く引き寄せていった。  奥手ながらいざ事に及ぶとなると積極的になる綾香の行動に、夏姫はクスリと笑みを零しつつもその強い引き寄せに逆らわず綾香の唇に自分の唇を重ねる。  縦と横……綾香が寝ている格好であった為顔は互い違いに交差する形となったが、その普段は取らない態勢で行ったキスが新鮮過ぎたのか夏姫とのキスがいつも以上に特別に感じられ、綾香はこの感触をもっと味わっていたいと何度も何度も夏姫に求愛のキスをねだっていく。  いつも合わせている筈なのに……今日はやたらと夏姫の唇が柔らかく感じる。  いつも感じている筈なのに……今日はやたらと夏姫の吐息が熱く……甘く感じてしまう。  二人は痛む身体を気にも留めず無理な態勢のままキスを続けた。  やがて……キスを続けながらも綾香が身体を起こし夏姫の太腿に跨る様に座り込むと、今度は正面同士に唇を重ね合わせ深い口付けを堪能し合った。 「プハ! はぁはぁ……。いやぁ……やっぱりお姉さまの唇は柔らかくて美味しいなぁ~♪」 「何言ってのよ! もう! ほら、もう一回するわよ? くち……閉じなさい!」  夏姫に言われるまでもなく綾香も彼女の唇が“美味しい”と感じてしまった。  甘く柔らかい……パンケーキの様なキス心地……それが美味しいという形容にピッタリだった。  綾香は目を閉じ口を差し出す夏姫にの顔に勢いよく自分の顔を近づけさせ、彼女の唇を食べんとする勢いで無心にキスを繰り返した。 「やだぁは♥ こんな情熱的なキス……初めてで……私……身体が……」  綾香の野性的ともいえる唇重ねに身体の芯まで火照る熱さを感じた夏姫は、その後に自分がどんな気分になってしまうのかを悟ってしまいついつい綾香の顔を強引に手で離そうとしてしまう。  しかし、綾香はそんな夏姫の反射的な行動にも負けじと顔を近づけさせキスの続きをせがむ。 「私はね……夏姫が好き! 夏姫の事が大好きっ!!」  再び放たれた直接的な告白に手の力が抜ける程惚けてしまった夏姫は、そのまま綾香の力に押し切られる形であの濃厚な口付けをまた繰り返す事となる。 「わだじも……プハっ! 好きですぅ! お姉さまの事がぁ……ムチュ!」  キスの隙を突いて夏姫も綾香に愛を伝えようと懸命に口を開けるが、そんな彼女を黙らせるかの様に綾香の唇が容赦なく被さり覆ってしまう。 「ハァハァ♥ いいから! あんたは黙って私の気持ちを聞きなさいっ! 私がどれだけあんたの事を愛してるか……今からたっぷり聞かせてあげるからっ!!」 「ど、ど、どうしたんですかぁ? いきなりそんな積極的になっちゃって……。私もお姉さまに愛を……囁きたいのにぃ……ンムチュ♥ ンチュ……」  いつもは感情のストッパーが働いてしまい出せなかった言葉も、今の綾香はそのタガが外れてしまったかのように自分の想いを吐露し始める。  頭の中で浮かんだ好きという感情の言葉を何の咀嚼も無しに口から放っていくその理性の欠片もない綾香の行動に、流石の夏姫も困惑を強いられるが……   「好きッ! 夏姫が好き! 夏姫の事が好きで好きで堪らないのっ! 好きなのっっ!!」  その飾らない、想いのこもった愛情表現の連続に夏姫の小さな胸も熱く滾る様に満たされていく感覚を味わった。  今までこの様に誰かに直接的に愛を受け取る機械などなかった。自分を生んでくれた両親でさえも……その様な言葉を言い聞かせてくれることもなかった。  だから、混じりっけなしの純粋に嬉しかった。  綾香の想いが直接体内に入り込んでいくかのようで……嬉しくて胸が苦しい程の切なさに襲われた。 「お、お姉さま……あの……私……」  心臓は止まる事を知らない勢いで鼓動を速め、頬も額も首筋さえも熱く火照って仕方がない。  普段は、キスだけでここまで身体の制御が効かなくなる程の火照りを感じることはなかったが……今日の夏姫は体質が変わってしまったかのように綾香の身体を求めたくて仕方が無くなっている。 「胸……触って……欲しい……です。もっとキスも……したい……です……」  火照った唇からは甘い吐息と本能に忠実な言葉だけが綾香の顔にかけられる。  綾香はその言葉を受け取ると上着を破かんとする勢いで夏姫からディーラー服を剥ぎ取り、触って欲しそうに熟れた二つの小さな柔らかい膨らみに右の手を差し込んだ。 「あっ♥ はっ♥ あぁぁ♥♥」  柔らかな丘陵を絞る様に揉み上げると、夏姫の口からも絞り出されるような喘ぎ声が漏れ始めた。  いつもなら反撃を返す様に夏姫の手が綾香の胸を触ろうとするが……今は綾香の愛撫に身を任せたいと思ったのか今日に限って彼女の手は伸びてこない。 「夏姫。また口……重ねるわよ? 良いわね?」  身体が痙攣する程の快感を胸に与えられ言葉も返せなくなった夏姫だったが、綾香は彼女の返事など待つそぶりも見せずに強引に唇を重ねに接近する。 ――ンチュ♥ ムチュ……クチュ♥  唇が重なり合うとすぐさま綾香の舌が夏姫の口内に侵入し始める。  そしてダラリと力なく口下に寝そべっていた夏姫の舌を叩き起こすかのように舌先で力強く撫で、彼女の舌を無理やり起こさせてその舌に絡みつかせていく。 「ンアァァアァアッァ♥ かは♥ あはぁぁあぁぁぁ♥ ンムゥゥ♥」  胸を手で絞られ、舌も綾香の舌に絡みつかれた夏姫は、同時に送り込まれてくる強烈な快感に再び全身をビクビクビクっと痙攣させ綾香の背中に手を回して力強く自分の方へ引き寄せる仕草を取った。  その抱きつきに応えるように綾香も胸を触っていない方の手で夏姫の背中を抱き、彼女に負けない程の力を込めて強い愛をその強さで示して見せる。 「はぁはぁはぁ……夏姫っ! 好きだからねっ! ずっと好きだからねっ!! ンチュ♥」 「プハ! はぁはぁ! 私もお姉さまの事がぁ……んぴゃ!? ムチュっっ♥」  自分の気持ちを一方的に出し尽てはすぐに口付けを再開する綾香。隙あらば自分も愛の言葉を返そうと試みる夏姫だったが、その言葉を出しかけようとするとすぐに綾香の唇が塞いでしまい声として出すことは出来なくなる。  今日はそういう日なのだろう……今日は自分の想いを伝えたい日なのだろう……  今までそういう事が出来なかったから……だから今日は……伝えたいのだろう……自分の想いを……  夏姫は繰り返される綾香の強引な口付けに、そのような思いが込められていると察し、それ以降は言葉を出そうとするのを諦めた。  子供の様にがむしゃらに愛を伝えようと必死になっている綾香を見て……夏姫は“それも幸せだ”と思い、彼女の言葉をしっかりと脳内に焼き付ける事にした。  二人の愛の営みは閉店により職員が誰もいなくなったロッカールームで際限なく続けられた。  誰にも邪魔されず……誰にも見られない……二人だけの空間。  そんな空間に愛する者と居れるという幸せを噛みしめるように……二人は身体を重ね合わせた。  壁にかけられたアナログ時計だけがその二人を見下ろしている。  長身と短針がまるで二人の体制を表すかのように重なった午前6時33分……  二人はそれまでの時間飽きずにキスと身体のまさぐり合いを続け、お互いの愛を確かめ合うのだった……


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