新人女スパイ拷問②
Added 2022-01-15 14:36:36 +0000 UTC2:潜入 「……土足で申し訳ありませんけどぉ~~おじゃましまぁ~す。」 屋敷の中は想像以上に朽ちていた。 床は穴だらけで危ないし、天井など今にも崩れ落ちそうなほどボロボロだ……。所々補修の後が見られるが、それもいつやったか分からないくらいに薄汚れていて、大雑把に打ち付けたであろう釘なども錆によって変色と劣化が顕著にみられる。 ユウはスニーキングスーツの腰ベルトに備え付けられていた室内用の微光ライトを付け、自分の周りの視界を確保し壁や床などを触りながらその状態を確認すると、人気の無い不気味な屋敷の奥に向けて土足で上がる事を詫びながらも慎重に目の前に延びる細い廊下を歩み始めていった。 どんなに注意して歩いてもユウが体重を掛ける度に床がギシギシと鳴ってしまう為、踏む箇所をミスれば床が抜けてしまうんじゃないかと不安になる彼女だったが、細身で体重が軽いのが幸いしてか彼女の身体は何のトラブルも抱えることなく次のフロアに続く扉へと進むことを許された。 ――キィ…… 裏口のドアとは違い鍵などは掛かっていなかったその扉を慎重に開けたユウは、膝を折り、低い姿勢になりながら奥の広間へとゆっくり忍び込んでいく。 「ココは……どうやら食堂だった場所みたいですね……」 忍び込んだ先には半壊した長いテーブルが中央に置かれ、テーブルの端には銀製の燭台や丸い皿、スプーンやフォークなどの飲食道具の他に、ガラスで作られた水差しや大きな中華鍋までもがその半壊したテーブルの周りに置かれていた。 向かって右の壁には大きな柱時計が時を止めたまま威圧感たっぷりに立てかけられており、その反対の壁にはこれまた威圧感を感じる老年紳士風の自画像が並んでいた。 物音一つしない不気味な食堂を中腰の姿勢で慎重に進んでいると、突然耳奥からあの不快なノイズ音が大音量で聞こえ、ユウは驚きのあまり声を上げてその場に尻もちをついてしまう。 「は、ひ!? はひゃ??」 声を上げた後、その音がエルからの通信である事を悟り慌てて耳奥の通信切り替えのボタンを押して応答するユウ。しかしその声は驚きのあまりに裏返っており、通信相手であるエルを一瞬困惑させてしまう。 『だ、大丈夫? もしかして……驚かせちゃった?』 『は、は、はひ! だ、大丈夫れす! あまりにも静かだったもので……いきなり通信が入って、ちょっと……ビックリしただけです……』 『その様子だと……その区画に人の気配はないようね?』 『え、えぇ……。確かに人の気配はありませんけど……でもこの建物に最近まで人が訪れていた……というのは間違いなさそうです……』 『……それはどうやって判断したの?』 『見た目には今にも崩れ落ちそうな床だったり壁だったりしてますけど……恐らく床の裏だったり壁の裏など見えない箇所にも補修を施しているようです。歩いた時や壁を押してみた時に少し違和感を感じたので……恐らく間違いないかと……』 『成程? それはつまり……誰かがこの屋敷を廃墟のままだと“見せかけている”と言いたいのね?』 『はい。その証拠に……この屋敷……入ってから今の部屋に至るまで……張ってある蜘蛛の巣が一つも見当たらなかったんです。壁や床に払われた蜘蛛の巣の残骸はいくつか見ましたが……それ以外の巣はしっかり取り払われているように思われます……』 『補修をするうえで邪魔だった部分の蜘蛛の巣を払った……と判断すべきかしら?』 『それだけではなく……恐らく個人的な理由で蜘蛛の巣だけは取り払っているんだと思います』 『個人的な理由?』 『例えば……蜘蛛自体が嫌いな方が所有者か……もしくは蜘蛛の巣を毛嫌いしている所有者か……』 『………………』 『蜘蛛の巣は払ったとしても一時的な対処にしかならないものです……。1日やそこら経てばまた蜘蛛は巣を張り始めるでしょうから……。だからここまで徹底的に蜘蛛の巣を掃除しているという事は……』 『余程の……蜘蛛嫌い……って事ね? 少しの時間でそこまで情報を考察するなんて……流石ね……』 『え? いえ! これは私の勝手な想像でして……』 『ユウの言う通り。この屋敷の利用者として候補が上がっていた犯罪者の中の一人に……大の蜘蛛嫌いの女が一人居るわ。状況から察するに……その女が本命で間違いなさそうね……』 『は、犯罪者?? って……それはさっき言ってた……』 『えぇ。闇の奴隷商……人身売買を斡旋している犯人候補の内の一人よ……』 『犯人候補……?』 『被害に合った女性が奴隷として売られた……っていう事実だけは流れてきてるけど、それもまだ裏付けが取れていない情報だし、それに関わったとされる人物も1人だけとは限らない……。だから公式に指名手配犯として情報を出すわけにはいかず今は“候補”っていう枠組みで犯人を絞り込んでいるの……』 『な、成程……』 『ちなみにこの情報を仕入れてきたのは……ケイなの』 『ケイさんが!?』 『どこから仕入れた情報かは教えてくれなかったけど……その裏付けを取ってやるって言って単独でココへ潜入したわ……』 『裏付けを取る為の潜入だったんですか……』 『でも、その裏付けはユウが潜入した事で取れそうね。この廃屋敷は恐らくケイが睨んだ通り……人の手が加えられている。そしてこんな廃屋敷に手を加えてやるような事と言えば……』 『人身売買……ですか?』 『それか、調教の為の施設にしているか……よ……』 『ちょ、調教!? 調教って……どんな事を?』 『さぁ……。それは買い手によって異なるとは思うけど……でも、いかがわしい目的で奴隷を買うという富豪は沢山いるわ。そういう目的であれば……勿論……』 『う、うぅ……え、エッチな……やつ……とかですかぁ?』 『そうね……』 『あうぅぅぅ! やっぱりぃ……』 『なぁに? そういうの……見たり考えたりするのは苦手?』 『ほえ!? や、いや! あ、あの……それは別にぃ……』 『フフ♥ スニーキングスーツの体温が上がっているのがデータとして上がってきてるわよぉ? ユウはそういう話が苦手なのね?』 『あひぃ!? あうぅぅ……だ、だって……恥ずかしいじゃないですかぁ……』 『別にいいじゃない。女同士なんだから♥』 『うぅぅ……それはそうですけどぉ……』 『それとも……そういう話に全く興味がないとかなのかなぁ?』 『うぐっ!? そ、そういう訳じゃ……』 『じゃあ、ムッツリさんなのね? ユウちゃんは♥』 「うぐぅ! も、もういいでしょう? そういう話はっ! そんな事より……この先どうするかの指示を下さい! 指示を!』 『フフフ……可愛い♥』 『むぅぅ!!!』 『ハイハイ……指示ね? えっと……今ユウが居る場所は確か1階の食堂辺りだったわよね?』 『は、はい……』 『だったら、まずはその先にあるエントランスに向かって、階段から2階に上がって貰える?』 『2階……ですか?』 『えぇ。この……アンチジャミング仕様にしてる通信機でさえも時々途切れちゃうくらい強力なジャミング装置だから、恐らく設置されてあるとすれば2階だと思うの』 『そう……ですか? 屋敷全体を囲うなら1階のほうが効率的なのかなぁって思ってましたが……』 『ううん、このジャミング……どうやら屋敷とその上空をカバーできるよう設置されている可能性が高いわ』 『上空?』 『ドローンの限界高度ギリギリまでこのジャミングが届いているのがその証拠よ。普通ならジャミング装置は拠点の中央に置くのがセオリーだけど……それだと屋敷の上空までジャミングは届かない筈よ……』 『つまり……ドローンとかの空中偵察を警戒して……ジャマ―が置かれているという事ですか?』 『そういう事になるわね。私達が考える以上に敵はガチガチに警戒しているって事よ。うちらみたいな諜報組織に侵入される事を……』 『その割には……屋敷の中には人の気配が有りませんけど……』 『そこは謎ね。もしかしたら……この屋敷には何かしらの秘密が有るのかもしれない……』 『何かしらの……秘密?』 『まぁ、それを調べる為にも今はジャミング装置の無効化が最優先よ! ユウ? とにかく2階へ上がってみて?』 『……了解! では、今から食堂を出ます……』 尻を床につけ完全に座り姿勢で通信を行っていたエルはその指示を聞き顔を引き締め直しその場に素早く立つ。そして壁を背に慎重に聞き耳を立てながらも食堂の奥へと進み大きな両開きの扉の前へ立った。 扉の装飾ガラスから奥の様子を見てそこがエルの言った通りエントランスである事を確認したエルは両手で静かに片方の扉を少し開け少しだけ開いた隙間から身体を横にしながらその部屋を出ていった。 スニーキングスーツ以外の衣服は着用していない為服の厚みを気にしなくて良いとはいえ、女性特有の膨らみがそんな細い隙間を出ようとすればつっかえてしまうのではないかと思う者も少なくないだろうが、子供の様に洗練された小ささと細さを併せ持つ身体の持ち主であるユウにはその心配は皆無である。例え辞書が挟まるくらいの狭い隙間でさえも彼女のスレンダーな身体と滑りの良い薄生地のスニーキングスーツをもってすれ簡単ににすり抜けられる。 母性の無さを突き付けられているかのようで、ユウ本人はその事に苛立ちや悔しさを良く滲ませるが……しかし、この様な目立たず静かに潜入しなくてはならない任務にはなくてはならない要素なのである。 本人が納得できているかどうかはともかくとしてだが……。 『エントランスに辿り着きました。今から階段を上がります!』 自分の母性の少なさを今の事象で再確認してしまったユウは、複雑な表情を浮かべながらもエントランスへ忍び込めたことをエルに報告する。 エルはその報告を受け改めてユウに2階へ上がる事を促していく。 『2階に上ったらいくつか部屋へ通じる扉が見えてくると思うけど……その中から一際大きな扉を見つけたらその中の部屋へ入ってみて! 多分そこに……ジャマ―が置いてあると思うから……』 『一際大きな扉? は、はい……了解です……』 大きく半円を描くような形にデザインされた階段を登りきると、そこにはエルの言葉通り大小様々な扉と絨毯の敷かれた通路が目に入ってきた。 そしてその通路の奥端には他の部屋とは比べ物にならない程大きく豪華な扉が現れ、彼女の言った部屋がココである事をすぐに確信する。 『エルさん……大きな扉……見つけました……』 なぜ、見た事もない屋敷にこの様な大きな扉が存在するのを彼女が知っていたのか……ユウは若干の違和感を覚えつつもエルの『じゃあそこへ入ってみて』という促しに従ってその部屋へ入っていく。 ――ギギギ……ギィィ…… 鋼鉄製の頑丈な扉を必死の力で少しだけ開き先程同様身体を入れ込んで部屋へと侵入を果たしたユウは、その部屋の様子を見て嫌な予感に襲われる。 廃墟とは思えない手の加えられた真っ白な清潔そうな壁……。外の土壁とは違う科学的に作られたであろうシリコン製の壁には無数の小さな穴が開けられている。 そんな真っ白にコーティングされた壁や床の部屋の中央には、小さな細脚の丸テーブルが置かれ、その上にはPCモニターが1つ置かれていた。 『え、エルさんっ!? こ、これは……』 異様な雰囲気の部屋に入ってしまったと取り乱したユウはすかさずエルにコンタクトを取ろうと試みる。 『……ザ、ザザザッ! ザザザザ……ユ……ウ? 大……丈夫? ユ……ザザザ……ウ!』 しかしユウに返っていた通信は激しくなったノイズに埋もれ上手く聞き取れない。 『ザザザ……じゃ、ジャマーを……ザザザザザ……切って……ザザ……ザァーーー。これじゃあ何も……聞こえな……ザザザザーーー』 ノイズの隙間から聞こえてくるエルの指示……ユウはその言葉を聞いて辺りを見回し部屋の隅に怪しげな黒いボックス型の装置が置かれているのを発見する。 「あれがジャマー!? アレを切ればいいんですね?」 ユウはすぐにその黒いボックスへと歩を進めその装置を切ろうと電源らしきスイッチをOFFに切り替えるが…… ――カチッ! ……ガチャン! そのスイッチがOFFと書かれた方に切られると同時に部屋の扉の方から電子式の鍵が掛けられる重厚な音が鳴り響く。 そして……今まで点いていなかった部屋の電灯が突然部屋を明るく照らし始め、部屋の中央に置かれたテレビモニターにも電源が自動的に入り始める。 「な、な、何これ!? どうなってるんですか!? これ……」 電気機器は息を吹き返すかのように次々に点き始め、黒いボックス型の装置も音を立てて稼働を始めたのを目の当たりにしユウは血の気が引いたように顔を真っ青に曇らせる。 自分はジャマーらしき装置の電源を確かにオフと書かれた方向に切ったはずなのに……なぜか部屋中の電気がオフからオンに切り替わったかのような印象を受ける。 これが一体何を意味するか……ユウは慌てふためきながらも、その行為自体が罠であったのではないかと疑いを向ける。 ――ピッ! ブゥゥン! どうにか部屋を出られないかと慌てながらも部屋の隅々まで目を凝らしていると、突然電源の入ったモニターに映像が再生され始めた。 『ハロォ~? 聞こえてるぅ~? 哀れな女スパイさぁ~ん?』 ユウはその甘ったるい声がモニターから発せられたことに気付き、視線をそのモニターへと移す。 するとそのモニターには、カメラに方に向かってこっちを見てと言わんばかりに手を振るスーツ姿の女性とユウと同じスニーキングスーツを着せられた女性が同時に映される。 映像を映しているカメラはどうやら別の部屋の天井に下げられているらしく、映像を見る限り天井から真下に向かって撮影がされている事が壁や床の位置関係で悟ることが出来る。 そんな天井に備え付けてあるであろうカメラに向かって下から見上げる様に呑気に手を振りながら覗き込んでいるスーツ姿の女性は、その地味なスーツの色とは対照的に髪の色は派手な赤色をしており、解けば長いであろうその髪を後頭部で結ったポニーテールによってまとめた髪型を見せていた。 活発的で明るそうな見た目の彼女はモニターを見に来たユウに向かって、無害そうな顔で二カッと笑みを浮かべるとカメラから少しだけ顔を離し、もう一人の登場人物であるスニーキングスーツに身を包んだユルフワ金髪の髪型が特徴的な女性の方の全身がカメラに収まるよう位置を調節し始めた。 ユウと同じ……ウェットスーツを模したかのように作られた潜入用のスニーキングスーツ。 上と下が1枚の生地で繋がっており普通に着れば身体のほとんどの部位をその保温性に優れたサラサラ素材の生地にで覆われる格好となるはずなのだが…… 機械式のベッドの様な物に寝かされる格好になっている彼女のそれは、ユウの着ているスーツとは別物であるかのような加工が施されていた。 足首から首下までを覆い尽くしている黒い生地の所々にナイフか何かで切ったような鋭い切れ目が多数入れられており、その切れ目からは彼女の肌の色が所々露出している。 スーツの下には下着など穿いてはいけない決まりになっているのだから、その切れ目はそのまま彼女の地肌を露出させる事となる。 そうであれば胸や性器などを露出させて直接弄って快楽責めを行う……という事も出来るのだが、幸か不幸かそのような局部への強制露出はされていない様子…… 局部は切られていないのは確かだが、その代わりにと言わんばかりにとある箇所はザックリと斬り捨てられてしまっている。 それは腕の部位…… ユウのスーツは足首から手首に至るまでをしっかり生地で隠れるよう保護しているのだが、金髪女性のそれはなぜか切り取られていた。 具体的に言えば腕の部位から胸横に至るまでの箇所を敢えて取り外すかのように切り取られている。 最初から袖の部分は無くて彼女特有のスーツだったのではないだろうか? とユウは一瞬考えはしたが……ナイフを入れたであろう肩の部位から脇の下にかけてのスーツのほどけ具合が自然なものとは言い難く、明らかに切り込みを入れたのが見て分かってしまう程に雑であったためやはり彼女の腕の部位は切り取られたのだと改めて想像できてしまう。 他にも、横腹の所には長く切れ目が入れられていたり、内太腿の所にも複数切れ目が入っていたりと、スーツをズタズタにする為だけならもっと効率的なやり様が有っただろうにと思わせる箇所がいくつも目についた。 そんな複数の切れ目を入れられたスニーキングスーツを着せられている金髪姿の女性は、ベッドマットもなく寝るだけで背中が痛くなりそうな白いベッド(と言うよりも台)にただ寝かされているという訳ではない。 過剰に縦に長いその寝かせ台は、背が高そうな金髪女性が手を一杯に上に伸ばしてもまだ幅に余裕がある。 そんな縦幅の長い寝かせ台に仰向け格好で寝かされている彼女は、今述べた様に頭上一杯に手を伸ばし万歳をするような格好で寝かされていた。 勿論自分の意志で万歳の格好をしている訳ではない。 彼女が自主的にそうしていないという事実は手首につけられた頑丈な枷によって証明されている。 鉄の塊で出来たかのような大きな枷が限界まで手を伸ばした先の手首の部分に装着されており、しっかりとその寝かせ台と一体になるよう固定されてしまっている。それ故、彼女が万歳の格好を辞めたいと思って手を降ろそうとしても、その枷が手と腕の自由を奪っており彼女の力では降ろせないように固定してしまっている。 ならば脚の方を動かして少しでも身体を起こしてみるのはどうか? と考えるだろうが、残念な事に彼女はその“脚を動かす”という行為も枷によって封じられてしまっている。 スニーキングスーツが保護してくれていない脛から下の部位…… 脛の少し下に位置する足首の部位……そこにも手首と同じような頑丈そうな鉄枷が左右共に嵌められており脚の自由を奪ってしまっている。 手が頭上真っすぐに万歳の格好を強いられているように……脚の方も両足共に揃えて真下に伸ばされ足首の所で枷が付けられている。それ故どんなに足をバタつかせて抵抗を試みようと考えても動かせるのは足先だけで足首より上の部位はピクリとも動かせない。 つまりは……彼女は完全に“拘束”された格好で台に寝かされているというのが正しい表現となる。 無邪気に手を振りながらユウの事を“哀れなスパイさん”と言い放ったスーツ姿の女性と……何やら怪しげな寝かせ台の上に完全拘束され口枷、目隠しまでされて身動き取れないようにされている金髪の女性…… それらが何を意味する事なのか……ユウの頭が理解出来ない筈がなかった。 『わざわざ罠のある部屋に自分から乗り込んできてくれるなんて……お姉さん嬉しいわぁ♥ しかも自ら罠も起動してくれたようだし……こっちで遠隔操作しなくて済んで一石二鳥よ♪』 ユウはその女の放つ罠という言葉に過敏に反応し必死に耳奥の通信機のボタンを連打する。 どうにかエルに連絡さえ取れればこの異常事態を打開できるサポートを受けられると思ったのだが……通信機は未だにノイズ音しか耳奥に送られず、エルの声は一つも彼女の耳に入ってこない。 そんな慌てた様子を隠してあるカメラで見ているのか、赤い派手な髪の女はクスリと口元に笑みを浮かべてユウに語り掛けて来る。 『通信しようったって無駄よ? さっきので通信用のジャマ―も起動したんだから、貴女が誰かに連絡しようとしてもその通信は届かないわ。例えそれが……“通信ジャマ―用のプロテクトを掛けた通信機”だとしても無駄よ♥ 私達はそれを上回るジャマーを屋敷に仕込ませてもらっているから……』 何度押しても一向にノイズが収まらない通信機に希望を捨て、今度は自分が弄った黒い箱型の装置の方に視線を移したユウは、ならばそっちの電源を元に戻してやろう画策するも、その装置は彼女の意志を読み取ったかのようにスイッチ部分に鋼鉄製のカバーをかぶせ自らの電源を守る動作を始めてしまった。 『電源を切ろうとしても無駄な事よ? 一度その電源を入れたら貴女を捕まえるまではその電源は戻せないようになってるの♥ どうせその部屋から出られないんだし……抵抗せず大人しくそこで待ってて頂戴♥』 「くっっ! そこに捕らえられているのがケイさんですね? 彼女も……同じ罠にかけられたという事ですかっ!」 『あら……この子ケイちゃんって言うの? それは知らなかったわぁ♥ 教えてくれてありがとう♥』 「んなっ!? 知らなかった……ですって?」 『そうなのよぉ……この子ったら私がどんな拷問にかけても名前一つ教えてくれなかったの……だから何て呼べばいいかも分からずに今まで責めてきたのよ? まさか新人さんの言葉から彼女の名前が明らかになるなんて思いもよらなかったわぁ? フフフ……これは感謝しないとよね?』 「うくっっ!? しまった……」 『さて……名前を教えてくれたお礼も兼ねてだけど……“アレ”の準備が整うまでの間……私がどんな手段で彼女を拷問にかけて来たのか……折角だからそれを見せてあげようかしら……』 「拷問の方法を? 私に?」 『女のスパイが敵に捕まったら今時どんな拷問をされるか……興味あるでしょ?』 「きょ、興味何て……ある訳ないじゃないですかっ!」 『そう? でも知っておいた方が良いかもしれないわよぉ? だって……次は……貴女が受ける拷問になるんだから……』 「くっっ! このまま私が大人しく捕まるとでも思っているんですかっ? 馬鹿馬鹿しい!」 『貴女はこれから何の抵抗も出来ずに私に捕まる事になるわ♥ その準備を今やってるトコだから、もう少し待ってて頂戴ね?』 「うぐっっ! 何を企んでいるんですか! それに……拷問って……」 『あぁ。でも安心して? 私は別に可愛い女の子の身体を無為に傷つけようなんて思ってはいないから♥ 痛くならない様にちゃんとプログラムしてあるからそこの所は安心して大丈夫よぉ?』 「痛くならない? ……プログラム? 何ですか……それ……」 『まぁまぁ……見てて頂戴よ♥ これからソレを実際にして見せてあげるから……』 そのように零しながら不敵な笑みを浮かべた赤髪の女性はいつの間にか手に持ったいたリモコンをカメラにかざして見せ、更に電源とみられる赤いスイッチを押す動作も同時に見せた。 ――ウイィィィィン、ゴゥン……ゴゥン……ゴゥンゴゥン…… カメラ越しにもそれが轟音である事が分かるくらいに激しい機械音がモニターのスピーカーから流れ始める。 その音は金髪の女性が寝かされている寝かせ台の下から鳴り響いている音であるようで、カメラ越しにも音と共に寝かせ台が振動で揺れ始めたのが見て取れる。 そしてこの音を聞いた金髪の女性は驚くように身体をビクつかせ、降ろせない手を降ろそうとしたり、動かせない脚を動かそうとしたりと出来ないと分かってるだろうが抵抗しようと必死に身体を動かし始める。 『あらあら……起きちゃった? もうこの音を聞くだけで嫌がるようになっちゃったのね? ウフフ……可ぁ愛いぃ♥』 目隠しをされている為周りは見えないし、ボールギャグを口枷として装着されている為喋る事も出来ない。ただ耳だけで何も制限されてはいないものだから、きっと何度か聞いたであろうこのマシンの駆動音は直接耳に入りこれから何をされるのかを彼女に悟らせてしまう。 何をされるか分かっている彼女は、身動きが取れない事は分かっていながらも必死に身体を捩ろうと力を込めている。 「い、いったい……何を始めようと……しているんですか?」 機械の駆動音が低音から甲高い高音に切り替わり、いよいよ機械が何か行ってくるのではないかという雰囲気になり始めると、機を計ったかのように赤い髪の女がもつリモコンの小さなボタンが赤から緑色に切り替わり……それと同時に“準備中”のボタンの表示が“開始”という文字に切り替わった。 『さぁ……ケイちゃん……だっけ? 準備が整ったみたいだから……これから後輩ちゃんが見てる前で……またさっきみたいに無様に笑わせてあげるからね?』 赤髪の女言葉にケイと思わしき女性は喋れない口で「むぅ! むぅぅぅ!」とくぐもった声を出し、必死に首を横に振って嫌がる仕草を見せる。 「わ、わ、笑……わせる??」 ユウは赤髪の女の言葉に困惑の表情を浮かべてしまう。 『ウフフ♥ 今度はどれだけ……正気を保っていられるかしらぁ? 楽しみだわぁ♥』 彼女の言葉にこれから始まるであろう拷問とやらの想像が一切浮かんでこないユウは、困惑する一方で何やら不安を助長する寒気を背筋に感じ始める。 涎を撒き散らす様に必死に首を横に振って嫌がる反応を繰り返すケイ……その異常な拒絶っぷりを見るにつけユウはモニター越しであるにもかかわらず額に冷や汗が垂れ始めた。 これから何が行われるのか…… 痛い事なのか? それとも苦しい事なのか? 未だ何の変化も訪れないその寝かせ台の不気味さに、ユウは身震いを起こしながらそのモニターをジッと見つめ続けた。 そして、カメラに向かってリモコンをかざして見せていた赤髪の女は、そのリモコンを手元へと戻すと、何の躊躇もなく“緑色に光る“開始”のボタンを押して見せた。 すると……今まで轟音を掻き鳴らしていた寝かせ台が、一瞬……全ての動きを止めたかのように音を止め周りがシンと静まり返えり……ゆっくりと台の至る所に丸い穴を開け始めた。 ケイが寝かされている身体のラインに合わせて等間隔に……コップの縁ほどの大きさの丸い穴が1つ2つ……と、まるで穴で彼女の身体を囲む様に次々に寝かせ台の上に開いていく…… 恐らく始めから稼働すれば小窓が開くように設計されていたのであろうが、真上からその様子を見ているユウには今まさにリアルタイムに穴が開けられているかのように見えて仕方がない。 腹、腰……胸の横……首の横……二の腕から手の指先の上……更には太腿や膝付近はもとより足首や拘束された足の足底部の下に至るまで、ありとあらゆる箇所に開いたその穴の底に目を凝らすと……そこにはウネウネと細くて小さな何かが寝かせ台の中で蠢いている姿がハッキリではないが見て取れた。 見た目には蛇の様な細くて丸い何かが動いていた…… それが一体何なのか? その答えは……機械が次の段階に進むことでようやく理解することが出来る。 ――ウィィィィーーン! 音を止めていた寝かせ台からこの様なザ・機械音とも言うべき音が鳴り響いた。 それと同時に、先程チラリと見えていた蛇の様な何かが一斉にその穴から這い出す様子がモニターに映し出された。 「……っ!? て、手!? 機械の……手っ!?」 蛇かと思っていたその小さくて細い何かは、人間の赤子よりも小さな機械の手だった。 1つの穴から1本ずつがゆっくりと這い出し、皆一様に指を真っすぐに伸ばした格好でケイの身体の高さまで上がってくる。 身体を穴で囲まれているケイは、今度はその這い出してきた機械の小さな手に囲まれる格好となる。 「ま、まさか! あの手の数で……一斉に暴力をっ!?」 這い出してきた手の数に圧倒されたユウは思わず『拷問と言えば=痛めつける』という図式に頭が切り替わり、それらの手がケイに暴力を振るうのでは? と警戒を高めた。 しかしその考えはすぐに、先程赤髪の女が言っていた言葉と矛盾してしまう事に気付いてしまい、考えを改め直す事を余儀なくされる。 「で、でも……そういえば……さっきは“傷をつけるような事”や“痛い事”はしないって……」 彼女がそのように言った事を思い出し、ますます頭が混乱しそうになりかけたユウだったが……指をピンと伸ばし切ったまま上がってきた手が「ピピッ!」という電子音の合図とともに指を一斉に曲げ始め、その指が“とある行為”を模倣するかのような動きを見せ始めた為、その手の大群がケイの身体にこれから何を行おうとしているかを悟る事となる。 「あ、あ、あの動きって……ま、まさか……嘘でしょ?」 寝かせ台の上に万歳の格好を強いられた状態で拘束された彼女の無防備な身体は…… 「そ、そんな! だって……ケイさんは……万歳の格好から、腕……降ろせないんですよ?」 上着の腕の生地が切り取られており……あの肝心な箇所が衣服に守られておらず…… 「あ、あ、足だって……あの足だって……裸足にさせられてるし……寝かされた状態だから……足の裏も……隠せないのに……」 隣同士並べる様に拘束されている彼女の足は履いていた筈の靴も靴下も脱がされ、今では裸足の状態…… 「こんな状態の彼女を……こんな無防備な格好で拘束されてる彼女の事を……この手は……まさかっ!」 そんな“あの刺激”に弱い箇所をことごとく晒され抵抗できないようベッドに磔にした彼女を…… 「まさか……く……くす……」 無抵抗極まりない彼女の事を…… 「……くすぐろうと……してる……の?」 ……そう……。“くすぐろう”としているのだ。