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メイド・イン・アンダーグラウンド~新人メイドの私と秘密の地下室~

1:掟  その屋敷には……鉄の掟と呼ばれる、私達……メイド(給仕係)が守らねばならない絶対的なルールが3つある。  1つ……お嬢様の命がない限り“22時以降”部屋から出てはならない。  2つ……お嬢様の命がない限り“地下倉庫への扉”を開いてはならない。  3つ……お嬢様の“命”を決して蔑ろ(ないがしろ)にしてはならない。  これらの掟に1つでも反すると……例えメイド長であってもお嬢様の“罰”を受ける事となるようだ。  拾われた身からすれば3つ目の掟というのは理解出来る。  我々の主であるお嬢様の言葉は、例えどんなに理不尽な言葉であっても絶対である事は心得ているつもりだ。それが、母親に捨てられ残飯を漁って路上を彷徨っていた卑しい身の上の私を拾って頂いた主人への恩義であり……私の忠義の証であるとも思うのだけど……  他二つの掟の意味がまだよく理解できていない……  22時以降に部屋を出てはならない……という命は、正直……必要なのだろうか? と疑問に思う事が多々ある。  そのような“子供を躾けるような”命を……成人しきったメイドたちに課すという意味が良く分からない。  通常の給仕を終える時間は基本的に20時前後……その後は食事を終えた後であれば基本的に自由にしていい時間とされている。でもこの“22時以降云々~”の制約のせいで屋敷の中で自由にできる時間など限られてしまう事となる。  その自由にしていいという時間の中にも、着替えの時間も含まれているしトイレに行く時間も含まれている。  これらを行わずに22時の時刻を迎えてしまうと最悪である。部屋の外にあるロッカールームへは行かせてもらえないし、もっと最悪なのは給仕棟から離れた場所にある共同トイレにも入れなくなるため……もしも夜中に用を足したくなっても部屋から出られないのだから用を足せなくなるという事になる。  今時トイレすらも自由に行かせてもらえないメイドが居るだろうか? 幸いな事に、このルールは22時から27時までの5時間という時間制約が設けられている為、5時間トイレを我慢出来ればそれ以降は出ても構わないという事になるけど……それでも急に用をたしたくなる事だってたまにはある……そういう欲などは気紛れなのだから、夕食の時にちょっとでも水を飲み過ぎたりしたら……簡単に尿意を催す事となるのだ……  そういう不慮の催しに対応できない不便さがそもそもこの掟がいらないと思ってしまう要因なのだ。トイレくらい……自由に行けるようにして欲しいものだ……  まぁ……そうは言っても、それ以外の部分はある程度自由にさせて貰っているのは確かであり、通常の給仕も理不尽な事なく皆和気あいあいとした雰囲気で仕事をこなしている。  今までの過酷な暮らしを考えると食事も寝る場所も部屋もあり、仕事に対するお給金まで貰えるという天国の様な暮らしであり文句を言えば罰が当たるとは思うのだけど……  どうしてもこの時間的な制約だけは未だ慣れず……その無意味さに納得がいっていないのも事実だ。  そしてもう一つの掟である“地下倉庫への扉を開けてはならない”という文言……これも有って無いような掟なのである。  なぜかというと、その地下倉庫と書かれた扉にはいつも頑丈な南京錠が付けられていて入りたいと思っても入れないようになっている。  それは早朝でも昼時でも陽が傾いてくる時間になっても陽が沈んだ後でも変わらない……  どうせ入れない様にしているのであればそのような掟をわざわざ設定せずに別の掟を入れておけばいいと思うのだけど……  お嬢様はこれら3つの掟を朝の集まりの際に必ず私達に唱和させる……。  これらは絶対に破ってはならない事だと言い聞かせる様に…… 「ねぇねぇユカっち! 聞いて聞いてぇ!」  私がその様に毎度の愚痴を心の中で呟いていると、隣から先輩メイドである瑞穂(みずほ)さんが私の耳に口を寄せて語り掛けてきた。 「な、なんですか? 突然……。今は給仕中ですよ? お喋りなんかしてる所をメイド長に見つかったら……また怒られちゃいますよ? あ、それと! 私の名前は由加里(ゆかり)です! ユカでもユカっちでもありませんからね!」  瑞穂さんは私より半年以上早くこの屋敷に拾われてメイドになった先輩で……歳は私より1つ年下にもかかわらず面倒見がよく私の事をいつも気にかけてくれている。  容姿は今風の女子という感じを存分に出すかのように派手な出で立ちで……髪は派手なオレンジ……伸ばした長い髪は細いツインテールで纏めてあり、その派手な髪色とマッチするかのように彼女の顔や肌は健康的に焼けた小麦色をしている。  面倒見が良いというのは彼女を褒める唯一の言葉であるが、実際は仕事が嫌いで不真面目……暇さえあれば私やもう一人の先輩である綾さんに話しかけいつもメイド長の佳苗さんに怒られている。とっつき易さと人柄の良さは誰しもが認める所ではあるのだが……その陽気さや不真面目さはメイドの仕事にとっては不向きであると言わざるをえない。 「まぁまぁ! それよりも聞いてってばぁ! 私さ……昨日実は見ちゃったんだよねぇ~~♪」  この様に私が注意を促しても聞く耳さえもたない……。このまま会話を続ければ私の方が仕事をサボっていると捉えられかねくなる為、本当はもっと強く突き放してあげたほうが良いのだろうけど…… 「あの扉の先っ! お嬢様が秘密にしてる……あの扉の奥の部屋を昨日私見たの!」  私が彼女の顔を突き離そうと手を添えようとしても彼女はその手を押しのけて私の耳に口を近づけそのように宣ってくる。  どうせいつもの大袈裟な作り話が語られるのだろう……でも聞き終えないときっといつものように何度もしつこく話しかけに来る事だろう……だったら聞いてあげるしかない……怒られると分かっていても……と諦めた私は彼女に抵抗するのをやめ、せめて自分だけは疑われないようにとタンスや棚への埃取り様の羽箒を振りながら、耳だけ彼女の方に傾けてあげた。 「あの部屋って……地下倉庫の……あの部屋の事ですかぁ?」  私は彼女言葉を作り話であろうと決めつけ疑いを込めた口調でそのように返す。 「そうそう! 昨日たまたまオシッコしたくなって夜中に起きたんだけど、トイレに行く途中でその部屋の鍵が開いてるのを見ちゃったのよ!」 「え、えぇ!? 夜中にトイレって……それ、ルール違反じゃないですかっ!?」 「えっ!? あっ! アハ♥ ヤバ!」 「瑞穂先輩ぃ~? この会話聞かれたら……ホントにメイド長にどやされますよ?」 「ま、まぁまぁ……そこは私に免じて黙っててよ……ね?」 「むぅぅ! 聞かなかった事にはしますけど……いざって時に私に迷惑かけないで下さいよぉ?」 「ダイジョブダイジョブ~♪ 私ってば義理堅い女だからさ♪」 「ホントですかぁ~? なんか瑞穂先輩の言葉はいつも軽い感じがするんですけどぉ~?」 「そ、それよりも! 話の続き聞きたいでしょ? ね?」 「もう……先輩が話したいだけでしょう? っで、なんです? その扉の鍵が開いてたって言いましたっけ?」 「そうなのよ! “あの誰も入れねぇぞ”って言わんばかりの大きな南京錠が外れていたの! それで中を覗いてみたわけよ!」 「…………っで? 中は……どうなっていたんです?」 「フフフ……聞いて驚きなさい? その部屋の中は……」 「(ゴクリ)……な、中は?」 「なんと! 拷問器具やらなんやらが飾ってある地下仕置き部屋だったの!!」 「んなっっ!? ま、まさか!! そんな部屋がこの屋敷にぃィ!? ……って……驚くと思いましたか?」 「おっ! わかってんねぇ~♪ ユカっちノリノリじゃん♥」 「はぁ……。やっぱりまた作り話だったんですね?」 「えぇ? 違うよぉ! ちゃんとこの目で見たんだよぉ? 拘束する為のベッドが置いてあったり天井から何本も手枷が垂れていたり……、鞭や蝋燭も壁に掛かってたし……床にも足枷とか転がってたし、あと……そうそう! なんか魔女が怪しいクスリを作るような窯まで置いてあった!」 「怪しいのは先輩の作り話の方ですよ。なんですかそのテンプレの様な拷問部屋は……この屋敷にどんなイメージ持ってたらそんな発想が出来るんですか……馬鹿馬鹿しい……」 「いや、ホントだって! マジのマジ! 暗くてぼんやりとしか見えなかったのは確かだけど……そういう器具が置かれていたのはマジの話よ!」 「はいはい……。どうでもいいですけど、この話……そっちで仕事してる綾先輩にも聞こえているみたいですよ? 大丈夫なんですか?」 「ふぇ!? あ、綾っ!?」  私達がそのような話を呑気に行っていると、いつの間にやら隣で窓ふきを始めていた綾さんが私達の話に聞き耳を立てているのに気付いた。  いつも大人しく真面目で口数が少ない彼女……  彼女は瑞穂先輩よりも半年以上前にこの屋敷に雇われており私たち3人の雑用メイドの中では1番の先輩にあたる。  瑞穂先輩よりも更に先輩であるにもかかわらず、年齢は瑞穂先輩より下である為彼女からは気軽に呼び捨てで呼ばれているようだが……本来なら彼女にこそ敬称で『さん』か『先輩』を付けるべきである。  しかし瑞穂先輩はそのような仕事上の上下関係的なものを気にするような性格でもなく……背が低く人形のように大人しく可愛らしい彼女をワザとらしく可愛がって見せたり今の様に呼び捨てにしたりと失礼極まりない扱いを行っている。そのような扱いに嫌がる綾先輩は様子を見せることはないが、静かながらも迫力のある佇まいが幸いし瑞穂先輩をその存在感だけで大人しくさせる事が出来る。  艶やかな長い黒髪を腰辺りまで靡かせ、少し段の有るパッツンに切りそろえた前髪から覗く芯の強そうな瞳は、長さが違う前髪のせいで片方が隠れてしまっている。しかし、彼女の目力は片方だけでもお調子者の瑞穂先輩をも黙らせてしまう程力強く……瑞穂先輩とは水と油の様に正反対の性格をその小柄な体躯に宿している。 「あ、あ、綾は……今の話聞いてないよね? ね? 聞いてなかったよねぇ~?」  申し訳ないとは思いつつも、私は瑞穂先輩の相手が面倒くさいと感じ始めたら自分から綾先輩の方に近づき瑞穂先輩のターゲットを押し付ける形で逃げさせて貰っている。  綾先輩もそれを感じているのかそんな事をする私に表情一つ崩さず、騒がしい瑞穂先輩を受け止めつつ彼女が仕事の方を向くよう促しを入れてくれる。 「聞かなかった事に……してあげる……。だから、掃除……手伝って……」 「お、お、おう! 任しときぃ! 私に掛かれば窓の掃除くらい数分で終わらせてあげるんだから! ハ~ッハハハハ!」  マイペースで仕事のスピードは3人の中でも遅い方である綾先輩、逆に仕事は早いけど無駄口が多くて仕事量をこなさない瑞穂先輩……丁度その中間くらいの仕事量をこなす私……というある意味バランスの取れた3人がこの屋敷での下働きメイドの主戦力であり、後は……怒らせると怖いメイド長の佳苗さんが居るのみとなる。  いつも目を閉じているかのような笑顔を向け皆を温かく見守ってくれているメイド長の佳苗さんだけど……ひとたびルールを破ったりズルをしようとすると彼女の静かな怒りに火が点いてしまう。  普段の口調は丁寧で優しいが、怒っている時はその口調がかなり高圧的なお姉さん口調に変わる。余程の事が無いと怒る事はないけど……仕事をよくサボる瑞穂先輩には度々その怒りの矛先が向いているのを見かける。その時の彼女はもう……さながらSMの女王様の如く瑞穂先輩を精神的に追い詰める。人格を否定し……普段の不真面目さまでもほじくり返し……溜まりまくった日頃の鬱憤を爆発させるかのように彼女に当たり散らす。  いつも朗らかで優しいお姉さんの印象を持つ彼女がそのように豹変する姿を見て、私は何も悪いことをしていないのに彼女が横に来ただけで緊張してしまうようになってしまった。  例えるなら……パトカーが赤信号で横に並んだというだけで緊張してしまうアレに似ている。  悪いことやズルい事は何一つ行ってもいないのに……何かを見透かされているのではないだろうかと不安に陥ってしまう感情……それが生まれてしまってからはどうしても彼女の姿を見ると緊張を強いられてるようになってしまう。 「あらぁ~? 今日は瑞穂さん……真面目ですねぇ~♥ どうされたんですかぁ?」  そんなこんなを心の中で呟いていると……扉の入り口が静かに開かれ、噂の彼女が顔をヒョイと覗かせ様子を見に来た。  緑色の長い髪をポニーテールに結び、まさに大人の女性だという色気を存分に纏った綺麗な整った顔を扉の隙間から覗かせた彼女は、私達の仕事っぷりが真面目であったことに安心したかのように朗らかな笑みを浮かべている。   「や、ヤ、やだなぁ佳苗さんてばぁ♪ 私がサボったりするわけ……ナイジャナイデスカァ~♥」  言葉の端々にぎこちなさを発しながらも先程よりも早く手を動かし窓を拭き始めた瑞穂先輩に、佳苗さんは何かを悟ったかのように「はいはい♥」と呆れ声の言葉を零す。 「別に全く話すなとは申しませんけど……手を止めて話し込むのはダメですからね? み・ず・ほ・さん?」  先程の先輩の行動を見ていたかのような促しに、瑞穂先輩はギクリと顔を強張らせ「ふぁ~い」と歯切れの悪い返事を返す。それを横目に見ていた綾先輩はそんな彼女たちのやり取りを見て独りクスクスと笑いを零しまたマイペースに窓ふきの仕事を再開する。  コレがいつもの私達の日常だ。  過酷な仕事があるわけでもなく……厳し過ぎる先輩やメイド長が居るという訳でもない……  仕えている主人であるお嬢様でさえ…… 「佳苗さ~んっ? ねぇ佳苗ってばぁ? どちらにいらっしゃいますのぉ? 佳苗ぇ~~!」  ドタドタとお嬢様らしからぬ足音を立てて廊下を走り回ってはメイド長の佳苗さんを探し回っている彼女が、今心の中で紹介をしようとした亜理紗(ありさ)お嬢様。  歳はメイド長の25歳より若く、メイドの中で一番の年上である私の22よりも一つ高い23歳!   見た目はザ・お嬢様を体現したかのような、煌びやかな金髪が縦ロールになるよう癖をつけた昔ながらお嬢様スタイル。お召し物も西洋の王妃か皇女を思わせるような豪華絢爛なドレスを纏い話す言葉遣いもその世界観を守る様にコテコテのお嬢様言葉であり、敢えてそのように振舞っているのかそういう風に振舞えと命令されたのか定かではないが……日本という国では馴染みのない世界観を凡な日本人である我々に見せてくれている。 「はいは~い! 私はココにおりますよぉ~? 亜理紗お嬢様ぁ~」  時折、高飛車で高圧的な態度を取る事がある彼女だが……その態度自体は嫌味が無く鼻につくような事もない。むしろ主人という立場なのだからそれらいの態度を取って貰う方がやり易いというものだが……お嬢様という立場を無理して演じているのが分かるかのように不意な場面で素に戻る事がある。  遊んでいる時や映画を見ている時……美味しい食事を食べている時など、そういう場面ではしばしば素の彼女が見られる場面がある。  そういうギャップがあるからこそ彼女の高飛車な態度も「あぁ……今は無理しているな……」と感じられ優しい気持ちにさえなってしまう。  メイド長の普段と怒っている時のギャップもある意味魅力と言えば魅力ではあるが……亜理紗お嬢様のギャップはそれをも凌ぐ魅力が有り、彼女と触れ合える時間は私の密かな楽しみでもある。 「あぁ! 居た居た! ねぇ佳苗! 後ろのボタン留めてよぉ! 私の手じゃ届かなくて――」  メイド長の傍まで走り込んできた亜理紗お嬢様は、扉の隙間に私達が居る事を察すると「しまった」と言わんばかりに口を手で覆い言葉を言い変え始める。 「か、か、佳苗~さぁん? わたくしの……ドレスのおボタン……付けて下さらない? わたくしの控えめな手では届きませんことよ……オホホホ……♥」  この様な場面に遭遇してしてしまうから、失礼だとは思いつつも亜理紗お嬢様の事が“可愛らしい”と思えてならないのだ。  それはメイド長も同じように思っているようで…… 「はぁ~い、はい♥ 今“お”ドレスの“お”ボタンを“お”付けて……差し上げますねぇ~?」  違和感のあるお嬢様言葉をからかうように強調しながら亜理紗お嬢様の頭を撫でたりして子供をあやすような態度で接している。  この様なやり取りを毎日のように繰り返しているのだから、私がこの給仕の仕事を嫌になるような事は決してない。  嫌ではないからこそ……あの妙な“鉄の掟”とやらが余計に無駄じゃないかと思えて勿体なく思ってしまう。  なぜ22時以降……トイレにすら行かせないほど部屋を出てはならないのか?  なぜ厳重に鍵が掛けられている地下倉庫の扉をわざわざ“開けるな”と指示しているのか……?  この二つの掟に関してだけはやはり私は納得がいかない。  せめて……22時以降の部屋出だけは許してもらえないものだろうか? それだけでも改善されれば私の気に掛かりも随分と収まりを見せるのだけど……  しかしこの鉄の掟と呼ばれる珍妙なルールを私が破る事になるのは……その日の夜の事であった。  私は……3つの掟全てをことごとく破る事となる……  この平和な世界に慣れてしまっていた気の緩みがそうさせてしまったのだろうが……まさかあの様な場面を目撃する事になるとは……  お嬢様たちのやり取りを微笑ましく見ている今の私には……到底想像すら出来てはいなかった。

Comments

もちろんありますよ🎵 チャプター3を楽しみにお待ちくださいませ❗

ハルカナ

新小説ですね!楽しみです!!瑞穂がくすぐられるシーンはあるんですかね?

toshi0325monst


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