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新人女スパイ拷問④

4:罠 ――コチョコチョコチョ♥  自分の全体重を必死になって支えているユウの右腕……その右腕の付け根である脇の下を正確に摘まむように握ってた機械の手は、ユウが再び錠の鍵に左手を向けた瞬間、指に力を込めてその部位を揉み解し始めた。 「かはっっ!? や、やめひぇっ!!」  その揉み解しがあまりにもいやらしくユウの伸びきった腋の神経をしたため、ユウは思わず身体をくねらせてその手から逃れようと身体を反らす。  しかし……指の先には赤外線センサーの様なものが搭載されているのか、ユウの身体から手が離れると担ってもすぐに同じ部位に狙いを定めしがみついてくる。そして…… ――コチョコチョコチョ♥ コチョコチョ♥  再び脇の下を掴んだ手はすぐにくすぐりを再開し、嫌がるユウを無理やり笑わせようとしつこく揉み解しを行っていく。 「ひっ!? やだっっははははははははは!! くしゅぐったいぃぃ!!」  そのあまりのくすぐったさにユウは足を宙でバタつかせながら抵抗して見せるが、機械の手がそのような行為を見て手を緩めてくれるはずもなく……ユウの脇の下を容赦なく指を食い込ませながら強く揉み解すくすぐりを続ける。 「だひゃあ~~~~っははははははは!! ワハハハハハハハ! やめへぇ~~っへへへへへへへへ、力がにゅけちゃうぅぅっふふふふふ! うへひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」  既にくすぐったさから吹き出してしまった為、部屋に溜まったガスも肺一杯に吸い込んでしまったユウだったが、そのガスはすぐにその効果を示さず……眠気や痺れなどは今の所感じられなかった。てっきり即効性の睡眠ガスの類だろうと警戒していユウにとってその事だけは吉報だと言えるだろうが、ピッキングの方は上手くいっておらず……徐々に取っ手を握りしめている手にも身体を支えておくだけの力が無くなりつつあり、ユウの心を必要以上に焦らせていった。 「はぁはぁ……ダメ! くすぐったくても……集中しないと! 鍵開けの方に集中しないと……いつまでたっても……」  滑り落ちそうになっている右手にもう一度力を込めなおし、今度こそピッキングに集中しようと気合を入れ直して左手を伸ばそうと試みるが…… ――コチョコチョ♥ コチョコチョ♥ コチョコチョコチョコチョ…… 「だひゃあぁ~~~っははははははははは!! らめっっへへへへへへへ!! やっぱりダメぇぇへへへへへへへへへへへ!! くすぐったすぎて……集中れきなひぃぃ!!」  まるでユウの笑いのツボが分かっているかのように的確に彼女の弱い箇所をくすぐってくるその機械の手に笑わされ、折角入れた気合も笑いによって空回りさせられる。  くすぐったさから逃れるためには、ピッキングに向かわせた左手を腋に向かわせてその手で振り払うしか方法がないが……それをやってしまうと当然ピッキングは進まない。それではいけないともう一度左手を錠の方へ向かわせるが、左手が少しでも錠の方に近づくとあの手がまた脇の下をくすぐってくる……  そしてまたくすぐりをやめさせようと左手を下げてしまうという悪循環が繰り返され……結局いつまでたってもピッキングは上手くいくことなく無駄な体力だけが消費され続けていった。 「くっっ! もう右手の感覚が……無くなってきてる! これ以上は……」  執拗なくすぐり妨害を受け……右手の握力が限界を迎えてしまったユウは、最後の足搔きと言わんばかりに脚を大きく振り回し無駄に思える抵抗を行ったが……その抵抗がこの時ばかりは運よくくすぐりハンドのケーブル部分に届き、そのままケーブルごとくすぐりハンドを蹴り払う事に成功した。  蹴られた勢いで壁に本体をぶつけたくすぐりハンドは、そのまま力尽きる様に壁を擦りながら地面へ落ちていきどうにかそれを無力化することが出来た。 「っっ!? や、やった! 今だ! 今しかチャンスはない!!」  力を失ったかのように床へと落ちていったそれを見てユウはこれが最後のチャンスだと察し再び右手に力を込める。  そして残った力を振り絞りピッキングツールを持つ左手を錠へと運び、睨む様な眼差しでピッキングに集中しその南京錠を開錠する事に成功した。 「よしっ!」  南京錠が外れた事によって排気口の蓋が体重の重みで外れるかと心配したが、排気口の縁に溜まった埃が思いのほか強固に排気口を固定し続けていた為外れそうで外れない状態が続く。どうやら自分の体重では軽すぎて排気口に溜まった埃の塊を剥ぐことは出来ない……と悟ったユウは、だったらこれならどうだ? と言わんばかりに自分の身体を振り子のように振って勢いをつけ、その勢いに体重を掛けて排気口に新たな負荷を掛けて見せる。  すると…… ――ガチャン!!  という音共に、排気口が勢いよく溝から抜け、ユウをぶら下げたまま排気口の蓋は天井の留め具を起点にブランコの様に天を仰いだ。  開いた勢いに振り落とされそうになるユウだったが、取っ手を両手で握っていたおかげかその勢いに振り落とされる事なく排気口の取っ手を掴み続け、地に落ちることなくそのまま排気口の入り口まで這い上がる事に成功した。  後はこの排気口をよじ登るだけ……  と、ゴールが見えて安堵の息を吐こうとしたユウだったが、先程地面へと墜落した機械の手が再び息を吹き返す様に手をもたげ始めた為、息をつくのはまだ先であるとすぐに考えを改めさせられた。 「や、やばっっ!? は、早く逃げないとっッ!!」  排気口に上る前にあの手にくすぐられれば……今度こそ何の抵抗も出来ずに床へと叩き落されてしまう。そうなればもうこの排気口まで登り込むことは不可能となるだろうから……ココはあの機械よりも先に登り切ってしまわないと駄目だ! っと、そのように危機感を募らせたユウは必死に脚をバタつかせながらも手の力だけで排気口の蓋の網に指をかけ這い上がり始める。  その様子を見つけた機械の手は、そうはさせまいとユウの無防備な身体を狙って再び腕を伸ばし距離を詰めて来る。  ユウはその接近を感じながらも先程の踏ん張りのせいで感覚がマヒしかけている指先に込められるだけの力を込めて、自身の身体を排気口の入り口まで運び込んだ。  そこまで来ると排気口の蓋に足も当たり踏ん張りがきくようになる。  足の踏ん張りと上半身を排気口の大部分に運び終えたユウは腕をダクトの地面につけて必死に匍匐前進を行い部屋からの脱出を急ぐ。  そんな彼女の脚を掴もうと機械の手が勢いよく飛び掛かってくるが……  幸いなことにくすぐりハンドの腕にあたるケーブルの長さが限界に達してしまったようで、手はユウの脚に寸前の差で届かず……悔しそうに手をワキワキして見せながらも……その手はユウの脱出を大人しく見送る事となった。  急場をしのいだユウは、ようやく一息つける……と、ダクトの中で大きな息を突き、埃まみれのダクトの中でしばしの休息をとる。休憩し、手に感覚が戻り始めたのを確認するとユウはすぐ先に見える廊下用の排気口まで這い擦って移動し、排気口の入り口を蹴破りつつ2階の廊下へと降り立つ事となった。 「はぁはぁはぁ……あ、危なかった……。まさかあんな罠が張られていたなんて……」  部屋の外に出たユウは通信が回復していないかを確認する為に耳奥の通信機のボタンを何度か押してみるが、何度押しても流れて来るのは相変わらずの不快なノイズ音だけ…… 「とにかく……この屋敷から脱出してから連絡を取らなきゃ……か」  ジャマ―の効果範囲が部屋だけでなく廊下まで有効になっていると悟ったユウは、連絡を取る事はひとまず諦め、屋敷からの脱出を優先しようと廊下を進み出した。  赤い絨毯がひかれた長い廊下……  左右には大小様々な扉が並んでいる。  そしてその扉の合間には等間隔に女性の自画像が並び、ただでさえ不気味な夜の廊下に更なる不気味さを味付けしていた。 「……あれ? この廊下って……こんな感じだったっけ?」  エルの指示で2階へ上がり、この廊下を通ってあの部屋へ入ったのは確かだったが……最初に来た時と比べ何か違和感の様な物を感じてしまいユウは困惑する。  その違和感の正体が一体何なのか……。ユウは壁にかけられた絵を警戒するように眺めながら忍び足で進んでいく。  屋敷の主人の自画像か何かだろうか? 不気味に笑みを浮かべているその絵を見て……違和感の正体が何であるかをそこでようやく悟る事となる。 『そ、そういえば! 私がココを通った時は……こんな明かりは点いていなかった!』  ユウの気付きの通り彼女が最初にココを通った時は、この廊下には電灯などの明かりは点いていなかった。つまりは真っ暗な廊下を通った事になる故、この様に廊下に敷かれた絨毯の色が赤いという事も、壁に自画像がいくつも飾られていたという事にもその時は気付かなかった。  しかし今は電気が通っており廊下の様子がはっきりと分かる。壁の色が茶色だったという事も大小ある扉の色も全て違う色であったという事にも気付けてしまう。  だから違和感を覚えたのだ……。見えなかったものが見えるようになっていたから……。  先程ユウがジャマーの電源だと思って切ろうとした黒いボックス型の機械……それのスイッチを弄ったらあの部屋にも電気が通い消えていた筈のモニターにも自動的に電源が入った……  もしもそのスイッチを弄ったせいでこの電気も点いたと考えるならば……あのボックスのスイッチはどうやら屋敷全体の電源になっていたのではないかと考え至ることが出来る。    あの赤髪の女はこう言っていた…… 『わざわざ罠のある部屋に自分から乗り込んできてくれるなんて……お姉さん嬉しいわぁ♥ しかも自ら罠も“起動”してくれたようだし』……と。  そして更にこんな事も言っていた…… 『たとえその部屋を出られても……屋敷には罠を張り巡らせてあるし……さっきの貴女の行動でその罠の電源もしっかり入っているから、何処へ逃げても捕まるわよ?』……と。  もしもその言葉が真実であるなあらば、あの黒いボックスのスイッチは単に電源を入れるだけの物ではなく……罠も同時に起動させる仕掛けになっているという事となる。そして……屋敷には罠が張り巡らされているという言葉も真実であるなら……  今歩いているこの廊下も……  そのように赤髪女の言葉を思い出しながら考えを巡らしていると、突然ユウの踏みしめた床がメリッと音を立てて僅かに沈み込む。  その沈み込みにつまずきそうになるユウだったが、とっさに壁に手を突いたのが功を奏し床へ前のめりに転ぶことは回避された。  しかし、その床から足を離そうとした次の瞬間! ――ガチっ!! ガタンッ!!   踏み込んだ床のすぐ先の床が突然音を立てて真ん中から真っ二つに切れ目が入り、その床は観音開きの扉を開けるが如く左右に開き、ユウの目の前に大きな縦穴を出現させた。 「あ、あぶなっっ!?」  もう一歩足を踏み出していればその穴へ落ちてしまうところだったが、これも壁に手をついていたお陰で身体を支えることが出来、九死に一生を得ることが出来た。  穴は廊下の床を完全淫消し去ってしまう程広範囲に広がっており……見る限りは2階へと上がる階段の手前まで抜け落ちているようだ。  そして肝心の深さだが……  この穴の深さは、どうやら単純に2階から1階へ落ちるだけというものではないらしく……明かりが点いているにもかかわらずその穴の底までは確認することが出来ない。恐らく2階の床だけでなく1階の も連動して抜けていったのだろう……その深さは想像すらできない。  ユウの居る場所から階段手前までの距離はおよそ15メートルほど……  勿論、そんな距離をジャンプして飛び越える事など不可能だ。  辺りを見渡しても梯子や足場になるような物は見当たらない。  穴を下る事もジャンプする事も出来ないとなれば引き返して別のルートを探す以外に方法はないのだが……  この廊下の奥は行き止まりで……その行き止まりの所にあった部屋があの部屋だったのだ……つまりは他にルートなどはない。戻っても……あるのは別の部屋の扉だけだ。  だったら……思い切って他の部屋に入って窓から脱出を試みるというのも一つの手だが……罠が張り巡らされているという事であれば、当然他の部屋にも罠が待ち構えているに違いない。  今は運よく捕まらずここまで逃げ延びてはいるけど……他の罠は有無も言わさず捕まってしまう事だってあるかもしれない。  そうであれば、この進路妨害とも取れる罠をどうにか攻略して先に進んだ方が……幾分かは安全かもしれない。  ココさえ渡り切ってしまえれば、来た道を戻るだけであるから地の利があるとも言える。  少なくとも未知の部屋に入って未知の罠をかいくぐるよりも知った道を戻る方が遥かに動きやすいだろう。  と、そのように考えをまとめたユウは改めて廊下の様子を注意深く観察し直す。なにかこの長い縦穴を渡り切る手段はないか? 何か渡る手段になり得るものはないか?  それを見つけるべく隅から隅まで観察を続ける。  そして……この方法なら渡れるかもしれない……と思える事象を2つ見つけ出し、早速その方法で本当に行けるかのシミュレーションを頭の中で行った。  左右に観音開きするように開いてしまった廊下だが、よく見ると廊下の端の方には僅かな溝が彫られているのが確認できる。  その溝が何を行う為の溝かは知る由もないが、その溝の幅であればギリギリ足の指を入れ込んで身体を支える事が出来そうだと思い至る。  しかし足の指が入っただけでは上半身の方は支えられない。だったら上半身の方はどうするか? という問いに答えを与えたのは……あの不気味な笑みを浮かべている自画像達だった。穴が開いた所からも等間隔に壁に飾られて続けているこの自画像達。これらは手を伸ばせばギリギリ隣の自画像まで届く距離に飾られている為、その縁を手で掴みながら移動すれば上半身の方も支える事が可能だ。  自画像のフレームは親指程はある大きなネジで四方を固く壁に固定されている為ユウが体重を掛けても簡単には外れたりはしないだろう。絵の縁も厚みがある為指を乗せやすいし……力も入り易い。これならば例え足の指が溝に入らなくてもボルダリングをやる要領で肖像が伝いにわたる事も可能だ。  ……これならば行ける!  そのように確信したユウはフゥと息を吐き、履いていた靴と靴下をその場で脱ぎ始めた。  壁に開けられた溝は図ったかのように狭く細い……  恐らく靴を履いたままだと爪先さえも入ってはくれないだろう……  靴下の姿で溝に指を入れればきっと滑ってしまって踏ん張りがきかなくなる。よって選択の余地なく裸足になる事がユウには課せられる。    しかし裸足になったとしても親指などの太い指は溝には入らない。ギリギリ入って小指と薬指……あと中指の第一関節までであり、身体を支えるには少し心もとない。 「うぅ……仕方ないか……これでも身体は支えられるし……」  結局手による支えの方が比重は大きくなってしまうが、それでもさっきの様に足が宙に浮いているよりはマシだと考えを改め、ユウは早速手近にあった自画像の縁上に手を伸ばし、指先に力を込めてその縁をしっかりと掴んだ。  そして慎重に片方ずつの足指を溝に差し込みながら支える体重を分散させながら1歩1歩壁を伝い始める。  溝が細いため、足の指を掛けるのに難儀を強いられるが、それでも思惑通り穴の開いた廊下を少しずつではあるが渡ることが出来ており、ユウは緊張しつつも安堵の息を零す。 「うぅ!? は、裸足になってるせいか……下から風が吹きつけるだけで……くふっ! あ、足の裏が……こしょばく感じるっ!」  深い奈落の底から定期的に吹き上げて来る冷たい風……。ユウはその風のそよぎを裸足の足裏に感じ思わず身震いを起こす。  普段なら……このような風に意識する事もないのに……  今は緊張も相まってか……それとも、あんな映像を見せられた後だからか……足裏が敏感になってしまったかのように感じてしまう。 「ひぃっ! ぷふっくくく! や、やだ! なんか……意識したら……余計にこしょばくなってきたっ! わ、私って……こんな足の裏……敏感だったっけ? うぷぷぷぷ……くふぅぅぅっっ!!」  風が吹くだけでこそばゆい……  ユウはその不可解な感触を我慢しながらもどうにか穴の中央付近まで辿り着く事が出来た。 「はぁはぁ……はぁはぁ……お、お、おかしい! なんか……おかしい! 足だけじゃなく……なんか身体全体が……」  そして、穴の中央まで辿り着いた頃合いでユウは自身の身体に異変が起きている事実に気付く。 「あひっ!? あへへ?? な、な、何これ!? 体中がムズムズしてッっ! なんか、気持ち悪いっ!?」  最初は下腹部が蚊に刺されたように痒みを感じ、その痒みが徐々に体中に伝播していく感覚を受けた。  そして体中に痒みが行き渡ると、今度は服に覆われていない露出している肌が過剰に空気の冷たさや壁の冷たさなどを感じるようになりユウの感覚を狂わせ始める。 「いひっ!? や、や、やだっ! 何これっっへ!? 体中に虫が這ってるみたいにゾワゾワするぅぅぅ!?」  露出している肌は感覚が鋭くなったかのように過敏になったのを皮切りに、スーツに守られた生地の内側の肌もスーツの生地が擦れた刺激が虫の這い回りを錯覚させてしまう程敏感になっているのが分かりユウは冷静に判断する事が出来なくなり穴の真ん中で立ち往生してしまう。 「あ、あ、あははっ! えははははは! だ、だ、ダメだっッハハハハハ!! 黙っているだけでも体中がこしょばく感じてっ! はひひひひっ!? わ、笑いが勝手に……」  体中を襲う耐え難い痒擽感。ただ風が吹いただけでそのように笑いが込み上げてきてしまうこの異常感覚にユウは手の力が抜け思わず額縁の端から指を離してしまいそうになる。 「はひっひっひっ! うひひひひひひ! 駄目っ! 手を放しちゃ……ダメっっへへへへへへ!! 我慢しなきゃ! ちゃんと力を込めておかなきゃッっ!!」  放しかけた指に再び力を込めなおし、どうにか笑いを我慢しながらまた1歩1歩と壁を伝い始めたユウに……今度は別の異変が彼女の周囲から起き始める。 『キャハハハハハハハハハハハ! ヤハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』  突然、廊下の至る所から女性の甲高い笑い声が大音量で響き渡った。 「えっ!? な、な、何?? いきなり何なの??」  突然の笑い声に不安と緊張が同時に襲ったユウだったが、その笑い声がどうやら自分の掴んでいる自画像から発されているという事が分かり、その不気味さにユウは目を白黒させて慄いた。 『ギャ~~~~ハハハハハハハハハハハハハ!! イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! エヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』  前の絵からも後ろの絵からも今しがみついているこの絵からもその気味の悪い笑い声は響き渡り、これが何かしらの罠の前兆だと悟ったユウは、何かが起きる前にこの廊下を抜けてやろうと必死に足と手の指に力を込めて穴渡りの続きを再開させる。  しかし、そんなユウの慌て様をあざ笑うかのように自画像たちは一際大きな笑いをあげた後に、今のユウにとって“これだけはされたくない”と心の奥で思っていた妨害を無慈悲に行い始めたのだった。 『アヒャヒャヒャヒャ、ウヒャヒャヒャヒャヒャ、イ~~ッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……』 ――ウィィ~~~ン!  ユウが歩を進めている反対側の壁……  その壁の至る所に丸い穴が開き始め、それと同時に中からあの憎っくき機械の手がワラワラと這い出して来るのが見えた。 「う、う、嘘でしょ!? こんな時に! ま、またあの手がっ!!」  細いケーブルを腕の代わりに伸ばしながら、蛇が石垣から這い出して来るようにウネウネとケーブルをくねらせて無防備な身体めがけて近づいてくるその機械の手達は、先程の手とは違いその手に一つの道具を摘まんでユウとの距離を詰めてきた。 「ひっ!? ひぃぃッっ!? ま、まさかっ! あの手に持ってるのは……鳥の……羽根!?」  伸びて来る手の一つ一つが持っている白くて柔らかそうなソレは、くすぐりでは定番の“鳥の羽根”だった。  このような無防備な場面で……しかも溝に指を入れる為に裸足になってしまっているユウに、あの手に握られているあの柔らかそうな羽根が少しでも触れれば……一体どれほどのくすぐったさを受ける事になるか想像も出来ない。  しかも……今しがた身体の異変を感じたばかりなのに……  風のそよぎでさえもこそばく感じてしまう程身体が敏感になってしまっていると自覚したばかりなのに!  これ以上の責めを受ける訳にはいかない!   ユウは顔を青ざめさせつつ必死に手足を動かして穴の通路を渡り切ろうと自分を急かす。  しかし、慌てれば慌てる程細い溝に足指を入れる事は困難を極め、普通に移動するよりも手間取ってしまう。  そうこうしている内に複数の手がユウの背後に近づき、それぞれ手がそれぞれの担当する箇所へと割り振られるように上下に別れ、それぞれユウの足と手を狙って配置についていった。  手を狙っている羽根はユウの額縁を掴んでいる手の指を……  そして足を狙っている羽根は、小さな溝に収まり切れていない彼女の足の裏を……  それぞれが狙いを定め……その時を待った。  そしてまた自画像が甲高い笑いを発し始めると同時に……  その羽根はユウの無防備な手足に……その毒牙を向け始めたのだった。


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