ディストピア・プラント:2920 ④~日課の終わり~
Added 2022-04-22 14:06:05 +0000 UTC4:日課の終わり 「ぎゃはっっっ……ッ!? がぎゃ~~~っははははははははははははははははははは、いぎぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、うげぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、はひぃ、あひぃぃぃっっ!!」 足裏に羽根と指が同時に触り始める否や、私は絞り出せる限界以上の笑いを強制的に吐き出す事を余儀なくされた。 「ギャ~ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、えはははははははははははははははははは、いぎゃはっ! ひぎゃは~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 喉への負担を考えない……いや考えさせてもらえない程に強力な機械達による凶悪な“笑わせ”の刺激…… 私はその刺激に何の抵抗もさせて貰えず、必要以上じゃないかと思える程の笑いを搾り取られていく。 再び加えられた足裏への刺激は、新たに追加された羽根の刺激も相まって“くすぐったい”だけでは表現できない異次元の刺激を私に与えて来る。 メインの手による足裏各所への引っ掻き……。それは、無刺激の時間に晒され油断しきっていた私の哀れな足裏に対して、無慈悲極まりない刺激の応酬を各部位に送り込んで来ている。 足指の付け根や母指球の膨らみ……小指球との谷間……そういった強く引っ掻かれる刺激に弱い箇所は爪の先でほじくるようなくすぐり方を行い、私の思う“こうされたくない”くすぐり方をそのまま再現し私に耐え難い刺激を与えて来る。 逆に土踏まずを責めているメインの手は窪みの中心から外へ向けて3本の指先を薄く当ててつつ、右に左に上に下にナナメにと優しく撫でてむず痒くさせるくすぐり方を行っている。 靴下やタイツを穿いていればそういう刺激ならば少しは耐えられる可能性はあっただろうが、全ての履物を脱いだ“裸足”の足裏にソレをやられると、刺激が直接肌の神経をくすぐってくる事になり身体が勝手に拒否反応を起こす程のこそばさに苛まれる。足指の付け根を責める手と真逆の刺激であるからこそその刺激は際立ち、私を笑わせる一助となってしまっている。 そしてカカトと土踏まずの境界付近をくすぐるメインの責め手……そのくすぐりも耐え難い! カカトの少し固い皮膚と土踏まずの比較的柔らかい皮膚、その両方を同時に細く尖った樹脂製の爪先でコチョコチョと素早く刺激していくくすぐりは上二つのくすぐりよりも刺激の予測が難しく、どんなこそばゆさに次に襲われるか考えることが出来ず私の脳を更なる混乱に陥れて来る。 くすぐったいのか……こそばゆいのか、痒いのか、ムズムズするのか……その刺激の質すらも脳が判断できない。それ程刺激の強さが秒ごとに変化していく為頭が追い付かない。 カカトに近づけば強い刺激を“くすぐったい!”と感じるようになるし、土踏まずに近づけば優しい刺激に“こそばゆい!”と感じる事になる。しかし、このカカト付近を触る手は力加減を絶妙に変えつつくすぐるものだから、カカトであっても“こそばゆく”感じたり“痒く”感じる事もあるし、土踏まずであっても猛烈に“くすぐったく”感じる事もあれば“ムズ痒い”程度の刺激に留められる事もある。 その秒を追って変化するくすぐり方に私は何一つ対応策を思いつくことなくただただ笑わされる事となる。 ただでさえ他の部位を責めるくすぐりに笑わされているのに、カカト付近の手だけ意識して耐えようとするなど不可能なのである。 メインの手による残酷な足裏責めがこの様に行われていくが、今回はそれだけに留まっていない。 そう……追加で加わってきた“羽根を持った手”の存在がメインの手のくすぐりを更に際立たせ、私を更なる笑い地獄へと誘っていく事となる。 メインの手の動きに追従して、その周囲を掃き掃除して綺麗にしていくかのように羽根先を左右に捌く動きをしてくるこの羽根持ちの手達…… 羽根の大きさは通常の鳥の羽根のミニチュアサイズといった感じで、小鳥の羽根を模して造られた羽根だという印象を持つのだけど、その羽根のくすぐったさは常軌を逸しっている。 恐らく天然の羽根ではなくある程度の加工をして責め具として用意したものなのだろうけど……その羽根……小さい癖に毛はやたら芯が細く頑丈に作られていて、突き刺されば痛いと感じる程に触られた感覚はしっかりした刺激を感じる。 そんな芯に支えられた細かな毛先はこれまた極限まで細く伸ばした樹脂で作ってあるのだろう強くしなやかな毛先で、触られればその毛先1本1本の感触を判別できてしまいそうなくらいにハッキリとした刺激を感じてしまう事が出来る。 小さくても触られればしっかりと“くすぐったさ”を感じられる羽根……。それを目指して作られたであろうソレを持った小さな手達がメインの手の周囲を援護するように囲み、その手のくすぐりと同時に一回り外側の肌を羽根先でこそばして回ってくる。 しっかりとしたくすぐったさを与えるメインの手に加え、小さな羽根達がその周囲の肌の神経を逆撫でしてくすぐり回していくものだから、羽根のくすぐったさに加えメイン手による強烈なくすぐりに対する耐性をも落として回ってしまう。 そのお陰でメインの手によるくすぐりは更に際立ったくすぐったさを生み出し、私の身体は電池が切れるまで笑い狂い続ける玩具のように自分の意思とは関係のない笑いを吐き出し続ける事となる。 ただでさえメインの手のくすぐりは私を強制的に笑わせる事が出来ているというのに……このような援護的なくすぐりが加えられれば、刺激が交通渋滞してしまい脳が何に対して“笑え”という指示を出しているのか分からなくなってくる。 勿論、足裏の刺激だけではない。腋も脇の下も脇腹も……全部くすぐったく感じるし、言ってしまえばあの笑潤剤とか言うガスのせいでそのくすぐったさは何倍にも高められてしまっている。 無抵抗な身体にこんな徹底的な刺激を送り込まれては、笑いを止める隙など何処にも有りはしない。 酸欠はすぐに私の脳から判断力を奪い去り、呼吸の指示すらままならず笑い狂わされる。 このままでは……酸欠が過ぎて死んでしまうのでは? と、機械の無慈悲さに死の恐れまで浮かんできてしまうのだが…… そこは奴らが“発電所”と言うだけはあって、Fuelの管理は徹底されている。 数も限られており、無機物と違い“命”が宿っている私達……人間と言う燃料をなるべく長く使役する為に、機械達は私達に最低限の生存を持続させるべく処置を行ってくる。 それはまさに……処置であり、救済や救護を目的とした生温いモノではない。 「ィギッシシシシシシシシシシシシ、かはははははははははははは、ひぃ、ひぃっっ! あぐむっ!? ンムゥゥ!!? ムアァァァァァァァァァァ!!?」 くすぐりは止まっていない。手の動きは一切止まっておらず、くすぐったいままの状態は続いているのだが、頭上から伸びてきた1本のアームが私の笑い悶えて大きく開いている口の中に侵入し歯を持ち上げるように支えて私の口を開きっぱなしの状態に維持させる。 そうして口を開かされたまま笑わされる事になった私に、頭上からホースの様なアームが伸びてきてそれも大きく開いた口の中に侵入して喉奥に当たるか当たらないかのギリギリの所までホースの先を入れ込んでくる。 そして、そのホースの先端から勢いのある空気の塊が私の喉奥に向かって噴射され、強制的に肺の空気をそのホースによって補填される事となる。 規定量の酸素の補填が終了したホースと手は私の口内から離れていき、私に再び声を出させるようすぐに処置を終えて帰って行ってしまう。 この強制酸素吸入のお陰で自力で酸素が吸えなくなった私は酸欠にならずに済むのだけど……この吸入行為も私が窒息してしまうギリギリの所で行われるという延命治療の様な行為である為、素直には喜べない。 それどころか、この酸素にはあの笑潤剤が含まれており、吸えば吸う程身体は敏感になり続ける為……やはり救済などと言う措置ではない事がそれだけでも伺える。 更には、このホースからは空気とは別に微量の水分も霧吹きの様な物で散布され、喉の渇きを潤すと同時にミント系の薬剤が喉に付く事により笑い過ぎた喉のカスレまでも治療していってしまう。 更に更に……そのミント系の薬剤は、どうやら気付け薬の側面もあるらしく、酸欠によってボーッとなってしまっている頭を無理やりスッキリさせ回復させてしまう。これにより私はまた最初の状態にリセットされたかのような感覚で残りの時間も笑い狂わせられる事となる。 恐ろしく無駄のない……女性を笑わせる事だけに特化したこの発電カプセル…… この地獄の発電を……私達Fuelは日に2度……朝と夜に1時間ずつ行う事が義務付けられており、それを拒否すれば隣の彼女のように“懲罰発電”もしくは、最悪の場合“廃棄処分”などと言う死刑にも等しい処分が下されることもある。 懲罰発電は……こんな過酷な発電業務が天国だったんじゃないかと思える程の苦行を強いられるようで…… 通常の1時間だけの発電に加え懲罰分の更なる1時間が加えられる。 それを受けた者は……カプセルから出ても自力では立つことは出来なくなり、ロボットたちの介助を受けながら部屋へと戻る事となる。 部屋へ戻されればベッドから立ち上がる事も人と話す事もしばらくは出来ず……時折乾いた笑いを思わず吐き出してしまう程の後遺症を負う事となる。 そんな後遺症に見舞われても、通常の発電は参加させられる。 午後の懲罰であればまだ夜眠る事が許されるけど……午前中に懲罰を受ける事になれば最悪である。 1時間多く罰を受けた後、休む事もままならず夜になれば必ず発電作業に参加させられる…… 身体がもたないからとこれを拒否すれば、有無を言わさずまた懲罰発電を行われる……それの繰り返しで身も心も壊されていく…… だから、皆……文句は言えども逆らう事は決してしない。 隣の彼女のように、最近この施設に入れられたばかりで発電に耐えられなくなって逃げようとする女子の行く末を見てしまった私達は、抵抗する気力すら湧いてこないのだ…… だから……大人しく、機械達の笑わせに従い……声力を絞り出して発電に貢献していく。 それが、この発電所の現実であり……私達が置かれている絶望的なルーティーンの状況なのである。 「かはっっははは、はひひひひひひひ、いぇへへへへへへへえへへへへへへへへへへへへへ……」 意識が遠のいては酸素の吸入によって意識を保たれ…… 「はひゃ~~~~~っはははははははははははははははは、たしゅけてぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ、くるひっ! くるひぃぃぃひひひひひひひひひ、うひひひひひひひひひひ、ぇへへへへへへへへへへへへへへへ、かはははははははははははははははははは!!」 喉が掠れては薬剤によってケアされ…… 「はひぃいぃっひっひっひっひっひっひっひひひひひひひひひひひひひ、ふへへへへへへへへへへへへへへへへへ、くるひぃぃいひひひひひひひひひ、笑うのもう嫌っっはははははははは、もう嫌ぁぁははははははははははははははは!!」 機械によって“カラダ”は維持され続けるが、笑い続けた苦悶や死ぬほど苦しい思いをしている“ココロ”は決して癒してはくれない。 「はぎぃっひひひひひひひひひひひ、ひゃめへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、くすぐったいぃぃ! くすぐたぃぃぃぃぃ!!」 だから……カラダは無事であれ、ココロはすぐに悲鳴を上げ始めてしまう。 このような苦行を毎日繰り返されるのだから…… 「もう殺じでぇぇぇへへへへへへへへへへへへ、酸欠でも何でもいいからごろじでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへっ、えへ、えへえへえへへへへへへへへへへへへへへ、うへへへへへへへへへへへへへへへへへへ……」 助けの来ない絶望と……機械による無感情な日常のルーティーン…… これらの繰り返しに……私のみならず他の女性達も次第に自我を主張するという行為を諦め始めている。 文句を言ってもやめてもらえない発電…… 人間を人間だとも思っておらず……発電の燃料としか見ていない機械達…… それらに支配された日常に、希望など湧くはずがない。 言っても無駄で抵抗も無駄だと悟ったなら……後はもう……従う事を余儀なくされるだけだ…… どちらにしても女性だけのこの施設で……あの屈強なロボットたちに敵うはずも無いのだから…… ――ジリリリリリリリリリリリリリ、ゴウン、ゴウン…ゴウン……ゴウン…………ゴウン…… 頭の中は色んな感情の洪水により混乱の渦中に落とされたままだが、そんな私に気を遣う素振りも見せずカプセルの中で耳を劈かんとするかのような甲高いベルの音が鳴り響く。 そのベルの音と同時に、私の身体中に張り付いていた機械の責め手達は潮が引いていくかのように手を引かせていき……出てきた穴へと音もなく引っ込んでいく。 やがてカプセル全体の機械音が鳴りやみ始め、最後に「プシュッ!」という油圧の音が鳴ったかと思うと手足を拘束していた枷が次々に外れていき、それと同時にカプセルの蓋が再び上に勢いよく開いていった。 ……終わったのである。 今日の日課である“夜の発電活動”がようやく終わりを迎えたのである…… 私は、未だ整う事のない呼吸を肩を震わせながら全力で行い、手首、足首についた“抵抗の跡”をぼんやり眺めながらしばし思考を停止し呼吸だけに専念する。 身体の節々が痛い……これは発電が行われれば必ずどこかしらは痛み出す部位が出て来るが……今回は前回よりも身体を暴れさせようととしてしまったらしく、至る箇所の関節が軋むように痛んでいる…… 回を重ねるごとに……なぜか……くすぐりの刺激に……弱くなってきている気がする…… これはあの笑潤剤とか言うガスのせいなのだろうけど……アレを吸わされると毎回くすぐりに対しての嫌悪感が増していっている気がする……。そして、それと同時に身体の感度も底上げされている気がしてならない。 それを考えると……この発電所が、いかに効率的に電気を得るための発電を行っているのかが改めて見えてきてしまう。 そして同時に……徐々に発電用に肉体を改造させられているかのようで……変わっていく自分を感じるにつけこの発電所の不気味さが一層際立ち、絶望と恐怖が私の心を支配し始める。 このような場所に……一日たりとも長く居たくはない…… とは思うのだけど……その想いとは裏腹に、この施設での1日はまたこうやって終わりを迎える事となり、前日の朝をコピペしたかのような朝が明日も訪れるのだ。 ――ドン! ドスン、ゴン! ドン、ドン! ボンヤリした頭で物思いに耽る私に隣のカプセルから激しい物音が響き、私はゆっくりと自分のカプセルから上半身を起こし何事かと外の様子を確認しようとする。 他のカプセルからは続々と女子たちが疲弊し切った顔で出てきており、中には「もう嫌だ」と叫んで隣の女子の胸で泣き喚く女子も見受けられた。 そんな中……私の隣のカプセルは未だ稼働を続けたままになっている。 懲罰を宣告された彼女のカプセルは……最初の1時間だけでは彼女を解放したりはしない。これから更に1時間の責め苦を彼女に味合わせるのだ…… 考えるだけで気がどうにかなってしまいそうだ……休みなしで二時間など……耐えきれるとは思えない。 耐え切れるとは思えないが……しかし、機械は“耐えられるよう”処置を施して彼女を二時間丸々笑わせ続けるのだろう…… 休みなく……延々と……。 その苦しさ……その辛さを表すように、彼女のカプセルは左右に揺れている。 きっと中の彼女があまりの苦しさに身体を振って暴れているのだろうと想像つくが……カプセルの中を埋め尽くすケーブルの多さが彼女を包み込むように覆っている為彼女がどのような責め苦に晒されているのか見ることは出来ない。 ただ……蛇のように蠢くケーブル達と、カプセルの揺れだけが彼女の苦悶を物語っているだけだ……。後は想像する事しか出来ない…… 想像などしたくもない事だが…… 「大丈夫ですか? 立つ事……出来ます?」 隣の悲惨な状況に気分が悪くなり前屈みに腰を崩した私に、優しいお姉さん声の女性が甲斐甲斐しくも私の身体を支え心配そうに声を掛けてくれる。 彼女の名前は“クラリス=シルヴァニア”。私と同室の……言うなればルームメイトであり、出会って日は浅いものの、寝食も苦楽も共にしたこの発電所で唯一心許せる友人とも呼ぶべき存在だ。 目元のホクロが印象的で、私よりも背が高く体格もスラッとしていて格好いい印象を受ける彼女……。母性を象徴するかのように膨らんだ胸元まで伸ばしている青み掛かった黒の美しい艶髪と普段のゆったりとした話口調が相まって、彼女を大人の女性であるとこれ見よがしに主張している。 知的で妖艶さも併せ持つそのお姉さん属性の彼女……クラリスは、私がココに入れられて間もない頃……私が記憶を失っている事を伝えると、何かを悟ったかのように目を瞑り「その記憶はもしかしてら強引に思い出そうとしてはいけない記憶かもしれません」と語り、私に対して“余計な”記憶の詮索はしない方が良いと、忠告してきた。 彼女いわく、今の世の中では“記憶の消去・再生”等は容易な事であるらしく……もしかしたら、私は“記憶を操作されて”この中へ入れられた可能性があるのだと言う。 そういう類の記憶消去はトリガーとなる出来事や時間が来ると自動的に一部ずつ思い出す事になり、最終的に全ての記憶は蘇る事になる……とも説明してくれて、私はその言葉にあの首輪を付けられた瞬間にフラッシュバックして戻ってきた記憶の事を思い出し、その言葉に納得した。 記憶を消した誰かの手によって“何らかの意図”があって、この様に順序だてて記憶を戻してきているのだから……それを無理に思い出させるような事をしては、その意図に反する事になって記憶障害を起こす事になりかねない……。だから多くの情報を頭に入れない方が良い……との事で、私は未だ彼女に“外の世界がどうなっているのか?”や“なぜこのような施設が存在しているのか?”などの、気になる世界情勢に関わる質問を返してもらっていない。 その情報を知る事で……記憶に不具合が出る可能性がある……と言い、彼女は頑なに私に教えようとしないのだ。 「えぇ、クラリスさん……ちょっと気分が悪くなっただけです……。大丈夫……」 彼女の肩を借り身体を起こした私はその様に返すと、不安気に覗き込む彼女の顔に笑顔を向け、もう心配ないと言わんばかりに頷きを入れる。 機械に無理やり引き起こされる笑いではなく……自らの意思で作った私の笑顔を見たクラリスさんは、ホッと胸を撫で降ろしつつもそのまま肩を貸したまま私を発電室の外へと運んでくれた。 大小様々なパイプや、鍵のかけられた倉庫らしき鉄の扉、天井には色んな部屋に繋がっているダクトが走っているといういかにも発電所と言わんばかりの廊下を歩いていくと、私達が発電以外でいちお自由に過ごして良いとされている居住区画へと辿り着く。 発電所の中心近くにあるであろうその区画は、周りの壁こそ今歩いた廊下と大差がないようにゴツゴツした機械やらパイプやらダクトやらが混在しているが、壁際に沿うように配置された居住部屋には女子二人が一つの部屋で過ごせるよう二段ベッドや小洒落たテーブルや椅子、必要最低限の小物入れチェストなどが備わっており、いちお居住していくうえでの不便さは感じさせないような簡素な気遣いはされてあった。 しかしながら若い盛りの女子二人が1日を過ごすには、その部屋だけでは手狭でありプライベートも殆どないと言っても過言ではない環境である為、自由な時間は部屋の外の広い空間で各々が過ごし就寝の時間が来たら部屋に戻って寝るだけ……というルーティーンの女子も多い。 かくゆう私も、最初こそそのように振舞っていたのだけど、同室のクラリスさんが何やら私に対して積極的に世話を焼いてくれるようになってくれたため……私の警戒心もすぐに解れ、一緒に居ても苦にならない関係になり得たおかげで部屋に居ることも増えていった。 部屋の外で過ごしても、どうせ他の女子とは長くは話せない。 なぜなら、この“思考を読み取る”と言われているこの首輪が……楽し気な話や怒りの感情を露にすると、すぐに反応して警備のロボットが駆けつけて来てしまうからだ。 だから、皆……部屋の外で過ごしてはいるが、会話という会話は殆ど見受けられない。 故に人同士の関係が希薄であり……この施設に長く居ても、気の許せる相手を見つける事は困難なのである。 「部屋に入ったらいつも通り……感情の起伏を出来るだけ抑えて話をしてくださいね?」 ではなぜ、クラリスさんとだけは打ち解けることが出来たのか……? それは彼女が……この首輪の仕掛けをある程度理解している人物であるところが大きい。 「ポジティブな感情と、激しく起伏のある感情……そういうモノをこの首輪は敏感に感知しますから、出来る限りネガティブな感情を浮かべる事を心がけるようにしてください。私に話しかけているっていう意識を持たず“独り言”を喋っているという気持ちで話すのがコツです……」 彼女がこの首輪の仕組みをある程度理解していて、尚且つ思考を読み取られない対処法までも編み出してくれているお陰で、私とクラリスさんはお互いの身の上話しをすることが出来、互いの状況を把握することが出来ている。 「前にも説明しましたが、この首輪は“思考を読み取っている”と説明されたと思いますけど……実際は“感情の波形”を機械で読み取っているだけで、その人が実際に何を考えたかという具体的な内容までは察知できないようになっています。だからこの施設で反乱を起こそうと考えていても、感情さえ抑制出来ていればほとんど感知されないと思って頂いて大丈夫です」 彼女がなぜこの様に首輪の事に詳しいのか…… それには、ここに捕まる前の仕事に関係していたと彼女は言う…… 「この首輪は反乱しようとする攻撃的な意思や、逃げ出せる希望を見出したかのようなポジティブな感情を読み取って、その感情が生まれた瞬間ロボによる警告を行うようにしてます……だから、希望や期待をするような感情は持っては駄目なんです。出来れば……発電活動の直前に浮かべるような絶望的な感情を頭に過らせながら話してくれるといい塩梅になるかと思います……」 彼女はココへ収監される前……まさにこの“思考読み取り首輪”の開発を手伝っていたのだと教えてくれた。 元々は意思疎通の出来なくなった人に対して意志や希望を簡易的に知る為に開発してきた機械だったそうで、実際に機械を発明したのは別の人物だけど開発には携わっていたから機械の仕組みは理解しているのだという。 「さて……前置きはこのくらいしにして……。今日はどうでしたか? 何か……思い出す事はありましたか?」 仕組みを理解しているのであれば、なぜその事を私だけにではなく他の女子にその話をしないのか? と最初、私は聞いてみたのだけど……彼女はその時、とある“計画”を立てているとの事で、なるべく目立たず先に情報を集めておきかったからだと話していた。 その計画が何なのかは聞かせてくれなかったのだけど……恐らくそれを聞いたら無駄に期待を持たせてしまったり、感情を波立たせてしまう原因になると考えたのだろう……今でもその内容までは教えてくれてはいない。 教えて貰ってはいないが……何となく雰囲気で察することは出来ている。 きっと……この絶望から逃れられる“期待ある計画”を彼女は水面下で進めているのだろう…… その為の下準備を行っている最中なのだろうと私は個人的に予想している…… しかしながらその計画を想像する事も、感情に過剰な波を立ててしまう可能性があるし、変な期待を込めればクラリスさんに迷惑が掛かる可能性も出てくるため、なるべくそれらの事を考えないよう勤めている。 「いえ……今日も、何も……」 彼女の計画の部分はとりあえずあまり意識に入れないよう心掛け、私は彼女に聞かれた質問だけを頭に入れ素直に結果を報告してあげた。 「確か……七日後に何かしらが起きそうな雰囲気の会話をしていたって言ってましたよね?」 私の報告を聞いたクラリスさんは表情を暗くし重い言葉でそのように聞き返してくる。 その言葉の重さに、私の感情もなにやら申し訳ないような気分に苛まれ同様に言葉を重く濁して返す事となる。 「はい……。それがいつから七日目の事なのかは……分かってませんが……」 私の意識がはっきりしたのは三日前の午前中頃…… そして一部の記憶がフラッシュバックしてきたのも同じ日の同じくらいの時間だった……。 それ以降、同じようなフラッシュバックによる記憶の蘇りは経験していない。 もうこの施設に入れられて三日目が終わろうとしているのに……私の記憶はアレ以降何一つとして戻ってきていないのだ。 「貴女がこの施設に入って三日が経ちましたよね? 今日は後は寝るだけでしょうから……明日で……もう四日目であり、残りは三日を切るという事になるのですよね?」 「は、はい……」 「七日目にこの施設で何かが起こって、貴女がそれに関与するという事であれば、そこで貴女が何をするべきなのか……とかの他の記憶が蘇ってきてないとおかしいと思うのですけど……」 「……ですよね? 私も……そう思っているんですが……。何処を歩き回っても、何を見ても記憶は戻ってこなくて……」 3日目が終わろうとしている段階で何の進展も見せない私の記憶に、クラリスさんは深い息を一つ零す。そしてあれやこれやと考えを巡らせる仕草を見せながら、再び息をつき私に言葉を返し始める。 「何かしら記憶にトラブルが起きてて思い出せなくなっているのか……それとも、記憶復活となるトリガーを探し切れていないだけなのか……はたまた、まだその時が訪れていないだけなのか……。下手をしたらそのどれにも当てはまらない……私達の想像だにしていない事案が起こってしまっている可能性だってありますよね……」 「……想像だにしていない事案?」 「いかんせん情報が少ないので何とも言えませんが……記憶が戻ってこないという事は、そういう可能性があると考えた方が良いと思います」 「……い、いえ……でも、ほら! もしかしたら……ほら、本当にただの記憶喪失になっただけって事もあるでしょ?」 「……う~~ん、あり得なくはないと思いますが……。でもそれは……限りなくゼロに近いかと……」 「え? そ、そうなんですか?」 「そもそも、外因性であれ内因性であれ記憶を失った患者さんは、貴女の様な記憶の回復の仕方はまずしないものなんです……」 「私のような回復の仕方?」 「普通であれば“思い出すきっかけ”を見つけたら、それに関わる記憶が連鎖的に思い出されて広範囲の記憶を回復させるものなんです……」 「は、はぁ……」 「でも貴女の場合、断片的な記憶がポツンポツンと思い出せるだけ……でしょ?」 「え、えぇ……」 「通常の記憶喪失であれば、その前後も含めて思い出して然るべきなのですが貴女の場合はそうではない。貴女の場合は……意図的な記憶障害を仕組まれている……と考えるべきなんです」 「意図的な……記憶障害!?」 「誰が何の意図で行ったかは勿論分かりませんけど……この手の操作的な記憶障害は、キッカケを追う事で順番に回復していく傾向にあります……」 「キッカケって……記憶が蘇るトリガー的なもの……ですか?」 「そうです。逆に言えば……そのトリガーを見つけない限り記憶はそのまま失い続ける事になると思います……。時限式の暗示とかでない限りは……」 「失い続ける事に……なる?」 「でも……もしかしたらですが、貴女の記憶……それを思い出させられる人物を……私は知っているかもしれません……」 「えっ!? ど、どういう事……ですか!?」 ――ピッ! ピピピピッ! ピーーーーーーーーーーーーッッッ!! 私がクラリスさんの言葉に声を上げると、突然首輪から甲高い警告音が私の声に負けない音量で鳴り響き始める。 「シーッ! 声を抑えて! 感情が乱れ始めてます。頭を空っぽにして……気持ちを落ち着かせてください」 「あっ……ひゃえ、ひ、ひゃい!?」 ――ピピピピピピピピピピーーーーッ! ガチャ! 『Fuelナンバー3543ニ、規定水準以上ノ思考ガ検知サレマシタ! 直チニ、危険思考……及ビ、抵抗感情ヲ捨テ、従順ナ思考ニ戻シナサイ……サモナクバ……』 私の感情の起伏を敏感に察した首輪は近くに居た人間型の看守を無線で呼び出し、私達の部屋へと送り込んで何度も同じ警告を首輪の音声と共に私に浴びせていく。 そして、クラリスさんに言われるがまま頭を空っぽにし呼吸を落ち着かせ、自分の感情の高まりを自分自身の抑制によって抑え込んでいく。 ――ピッ……ピッ……ピッ………… 息を整えていくと感情の波は収まっていっているらしく、首輪の警告音も間隔を広め小さくなっていった。 『……感情ノ数値……プラス5以内……。平常値ト判断……。脅威レベル2以下ト判断、通常ノ持チ場ヘ帰還シマス……』 私の感情が落ち着くのを睨むように待っていた看守のロボは、感情が基準値以下に下がったと判断すると何事もなかったかのように部屋を後にしていった。 「は、はぁ……危ない……。無意識的に……気持ちが上がってしまったんですかねぇ?」 「油断しないで。感情がオーバーしてしまった女子はその数値と回数が記録されてしまって、何度も繰り返せば懲罰の対象にされてしまいます……。今はゆっくり呼吸をして……頭は空っぽに……」 「は……はい……」 少しの感情の起伏にも敏感に反応するこの首輪…… この感情の読み取りによって、私達は機械に対する反抗や暴動を起こすような思考を封じられてしまっている。 少しでそのような感情を起こせば……今のように警告が行われ……その様な思考をしなくなるまで看守が睨みを利かせて来る。 だから、脱出や逃亡の計画とか……暴動を起こす計画などを仲間内で立てる事は不可能と言っても過言でない。 一人が感情を抑制出来ても……誰かしらがロボットに対し敵意を抱いたり、逃げ出せる希望を抱てしまえばすぐさまこの様に警告されるからだ……。 「いいですか? ここからは……何も期待せずに聞いてください……。私の情報など嘘だと思いながら……期待せず……絶望するくらいの勢いで聞くようにしてください……」 「……はい……」 「実は……貴女がココに収監された日の事ですが……」 「………………」 「貴女以外にももう一人……同じように“記憶を失って”収監された女性が……居ました……」 「私……意外に……記憶を失った……女性が……もう一人?」 「その方は、残念ですが……ココではなく二階の部屋に収監されてしまったので……会う事は出来ませんが……」 「……二階?」 「私が今日……得た情報では……その彼女……」 「………………?」 「貴女の言っていた……“肩まで掛かる長い金髪の女性”だったそうなのです……」 「金髪の……長い髪の……女性っ!?」 ――ピィーーーーーピピ…… 「落ち着いてください。感情を……抑えて……」 「は、はい……」 「貴女と同時にこの施設に入ってきた……記憶を失った金髪の女性……。貴女の記憶にある女性がその人であるのなら……それが偶然だとは思えません……」 「………………」 「恐らく……貴女の記憶のトリガーは……彼女がそうなのではないかと……思います……」 「……ッっ!?」 ――ピィィィィィィィ! ピピピピピピピ! クラリスさんから教えられた情報により基準値以上の感情を抱いてしまった私は、この後機械の看守から2度目のイエローカードを出され次は懲罰を行うと警告を受けてしまう。 警告を受けた恐怖により私の感情は不安や恐怖の感情が高まり、すぐに基準値を下回る数字に落ち着けることが出来たのだけど…… 記憶が戻るかもしれないという期待を持つだけで警告されてしまう事が分かってしまった私は、それ以上の会話をすることなくお互い就寝の時間を迎える事となった。 私同様に記憶を失った金髪の女性が同じ発電所内に居る…… その女性に会えば……失っていた記憶を取り戻せるのかもしれない…… しかし、2階へと登る手段がない以上……その女性に会う事は出来ない…… だから、結果として私の記憶を復活させる方法は未解決のまま四日目を迎える事になるのだけど…… 少なくとも……私の記憶消失は、やはり“何かしらの意図”があって行われたと思わざるをえない。 何かしらが七日後に起こるとするならば、それまでに記憶を取り戻したいと思うのだけど…… 幸か不幸か、未だその目途が立たず何かしらの希望を持ったりする事なく四日目も何事もなく過ぎる事となる。 焦りや不安という感情は首輪には感知されないらしく、私はこれ見よがしに焦りの感情と不安の感情を抱いていく事になるのだけど…… そんな私の記憶に変化が訪れたのは…… なんと、七日目の前日…… 六日目の昼のある出来事が原因で、不可抗力的に……自分の記憶に進展を受ける事となるのである。