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ショーダウンⅡ 『6:綾香の弱点』

6:綾香の弱点 「キャハハ♥ 良い格好になったわね~綾香ちゃん♪ 手なんて万歳の格好になってるからを“大事な場所”が隠せなくなってるじゃん♥ その格好……綾香ちゃんには不安に思っちゃう格好よね?」  紅葉は綾香の睨み目を見ても“拘束された彼女など恐るるに足らない”と言わんばかりに腕を組んだままクスクスと笑い、綾香の姿を舐め回すように見る仕草を取っている。 「不安? 何の事よ? 別にこんな拘束をされたところで……不安なんて湧く訳ないじゃない!」  綾香は自分の心中を悟られないよう精一杯の睨みを利かせ、余裕がある風を装ってその様に強がって聞き返す。紅葉はその強がりにも妖しい笑みを携え、腕を組んだままわざと腰を揺らして綾香の前へと歩み寄っていく。 「あら、不安じゃないのぉ? そんな無防備な格好を強いられてぇ?」  椅子の脚元に移動した紅葉は妖しい笑みを浮かべつつ綾香の顔を下から見上げ、彼女が実は“何かを恐れていて”口元を引き攣らせて不安がっていると知って再びクスクスと笑いを零す。 「わ、私が不安なのは……そこの麗華という女が……軍資金の2千万をすぐ溶かしてしまわないかって事くらいよ!」 「あら、そんな心配? 自分の事ではなくて?」 「そうよ! 別にあんたがどんな罰を私に与えようと……私はその罰を甘んじて受けてあげるわ! でも、あんたの勝つカラクリは私が必ず見抜いてやるつもりよ! その為にあいつには軍資金を持たせてやったんだからっ! 早々に負けられちゃ困るのよ!」 「あぁ……成程ぉ? 麗華ちゃんは噛ませ犬ってヤツかしら? 本命は綾香ちゃんが私のイカサマを見破る……と?」 「当たり前よ! イカサマを見抜いて、逆にあんたから莫大な金を毟り取ってみせるわ!」 「クフフ♥ そんな事……出来ると思ってるぅ? 今のあなたに……」 「……出来るに……決まってる!」 「でもさぁ? こ~んな無様な格好で拘束されているのに……どうやって私と勝負するって言うのかしら?」 「……くっ!?」 「綾香ちゃんへの罰は麗華ちゃんが破産しても続ける予定よ? そして軍資金が尽きたら……今度は貴女と一緒に彼女にも罰を受けて貰うつもりなの♥ 私に在りもしない疑いをかけた……罰をね?」  紅葉の言葉を聞いて麗華は顔を青くさせた。そして慌てて“それは聞いてませんわ!”と言って紅葉の腕を掴んで発言の撤回を訴えかける。  紅葉はそんな麗華の手を面倒くさそうに払い除け、片方の目で睨みを利かせて低く言葉を返した。 「麗華ちゃんは分かっているの? 貴女の用意したその2千万……それが無くなれば、貴女の借金は1億よ? そんなお金……すぐにポンと払えるの?」  麗華はその言葉を聞いて「うぐぐ」と唸り声を零す。 「払える訳ないわよね? そんなお金……貴女の会社にもそんな蓄えは無いでしょうし?」  麗華は反論する言葉も捻り出せず、犬の様に呻いて冷や汗を額に滲ませる。紅葉はそんな彼女を目だけで睨んで「フン」と呆れの息を零す。 「別に……名誉棄損だとか営業妨害だとか……貴女が言い出した“妄言”に対して被害届を出して、会社に裁判でも起こして借金を倍くらいまで増やしてやってもいいのよ?」  麗華はその言葉を聞いてギクリと身体を強張らせる。 「でもそれじゃあ、私の気は済まないし……和解案とかで毎月20万づつ返します~とか言われて、返済はお婆ちゃんになっても終わらない〜とかだと興覚めも良いトコじゃない? だから、私に妄言を吐いた事に関してはお金ではなくて身体で払って貰うと決めたのよ♪ 貴女もその方が良いでしょ? 借金が膨らむよりは……」  紅葉の言葉に増々ぐぅの音も零せなくなる麗華……確かに彼女が言う通り、警察沙汰・裁判沙汰にされるのは本意ではない。イカサマを見つけてもいないのにイカサマをやったと難癖をつけたのは確かに麗華の方なのだ……店からすれば立派な営業妨害であるし、店に対しても紅葉に対しても名誉棄損を働いてしまっているのは明らかだ。  だから、この申し出は素直にありがたいと思うべきなのだが……麗華は腑に落ちない。  明らかに訴えた方が利益が得られるという状況なのに、それを“罰”とかいう私刑で済まそうとしているのが気に食わない。  その“罰”というのが何なのか……? もしかすると、自分の想定以上の苦痛を味合わされる凄惨なリンチではないかと不安さえ覚えてしまう。 「さっきから……ゴチャゴチャうるさいのよ。ヤるならさっさとヤれば良いでしょ? その罰ってやつを……」  麗華が言葉を出せずに顔を青ざめさせて戦慄していると、拘束されて不安を抱えている筈の綾香の方から紅葉に頼もしい言葉が交わされる。 「あら? そんな格好にされているというのに……随分と余裕じゃない? さっきは不安そうな表情を浮かべていた筈だけど……」 「フン! 不安になんて思ってないって言ってんでしょ! さっきも言ったけど……私の心配事は、麗華が早々と負けてあんたのイカサマを見破れずに私が勝負を挑む事になるって未来だけよ。それ以外は不安に思う事なんて何一つも無いわ!」 「だぁ~かぁ~らぁ~~! 綾香ちゃんはその格好から逃げられないって言ってんでしょ? 勝負するとか言ってるけど……拘束されてる相手と私はどうやって勝負するって言うのよ?」 「こんな拘束……すぐに抜け出してやる!」 「へぇ~? 脱出マジックか何かでも披露してくれるのかしら?」 「そうよ! 見てなさい! こんな拘束……簡単に抜け出してやるんだから!」  「フフフ♥ でもお生憎様……ここはマジックをする舞台でもないし、拘束椅子はマジック用の特注品でもないわ♪ その手首を拘束している枷は本物だし、貴女には見えていないでしょうけど足首に付けてる手錠型の枷も一度装着したが最後……牡丹さんが持っているあの鍵を使わないと外せない仕様になっているのよ♥」  紅葉がその様に言うと、牡丹が着物の帯に挟んでいたリモコンを再び持ち出し、そのリモコンの端をスライドして下蓋を開いてその中を見せつけてきた。  リモコンの中には手錠用の小さな鍵が二つ入っていて、リモコンを軽く傾けるとその鍵が動いてカラカラと音を鳴らせている様子が伺える。牡丹はそれを綾香に見せるとすぐに下蓋をガチャっと音を立てて閉め、大事そうに着物の帯の後ろへと戻していく。 「手を動かせない貴女が牡丹さんからこの鍵を盗むことは不可能よ♥ まぁ、例え盗めたとしても肝心の枷は鉄板の裏にあるのだからどのみち自分では外せないのだけどね?」 「……っ!? くっ!!」 「こんな状況でどうやってその拘束から脱出するつもりなのかしら? ココは貴女がタネを仕込む事が出来るマジックの舞台でもないし、拘束椅子も私が用意した物で不備が無いかのチェックも私がしているのよ? どう考えたって無理でしょ♥」  手足を動かして可動域を確認しながら紅葉の煽る言葉を聞く綾香。手は手首を少し曲げる事しか出来ず横にある留め具のナットには小指すらも届かない。勿論足も、動かせるのは足首より下の部位だけで……穴の縁に這わせるように固定された手錠型の枷には足指すらも触れられない。そもそも足の枷は鉄板が張られているせいで綾香からは見えない……だからどんな風に拘束されているのかも確認できない為足を動かしても何をすればいいかも分からず途方に暮れるしかない。  そんな状態で拘束から逃れる事など……出来る筈もない。例え、いくつもの脱出イリュージョンを披露してきた綾香でも、“絶対に逃がさない”と意思を込めて用意された敵の拘束を解く事は叶わないのだ。  しかし、そんな状況にありながらも綾香は紅葉を睨む事をやめない。まるで脱出するのが当然だと言わんばかりに強気な言葉を返し紅葉を牽制する。 「もし私が……この拘束から抜け出せて、あんたの前に立てたなら……私との勝負を素直に受けると約束なさい!」   「フフフ♥ 出来もしない事を言うものではないわ。でも……まぁ、もしそれが出来たなら……考えてあげてもいいわよ? 出来るならば……だけどね♪」 「舐めないでもらえる? 私はこれでも今は“脱出の女王”と呼ばれているイリュージョニストよ! このくらいの拘束……絶対に抜け出して見せる!」 「脱出の女王? 初めて聞く言葉ね……昔の貴女は、カード捌きの女王……とか言われてなかったっけ?」 「フン! それは遥か昔の事よ。今の私はイリュージョニスト……」 「なぁ~~にがイリュージョニストよ……大袈裟な。貴女は“相方”が居ないと何もできない……ただの詐欺師じゃない……」 「……詐欺師?」 「貴女の相方……宮古夏姫ちゃんだったけ? ゴールドベガスから去った後一緒に組んでヤってんでしょ? 大きな舞台で……」 「……っ!? なんでその事を?」 「イリュージョンなんて“お遊び”をどこでヤっているのかは知らなかったけど……まさかこの近所のホテルでヤってたとはね? 灯台下暗しって言うのかしら? こういうの……」 「……イリュージョンを……お遊びですって?」 「そうよ。イリュージョンなんて……ただ舞台が大きくて派手なだけのお遊びじゃない。最近では舞台や客席や照明とかにも仕掛けを施して会社と一丸となって客を騙すって言うし……そんなもの、技術も何も持っていないど素人でも演じられる三流以下の見世物よ! 金を払わせてくだらない見世物を見せるだけの詐欺と同じよ! そう言うのをマジックや手品と同義に語られるのは不愉快だわ!」  さっきまで悠然と笑みを浮かべていた紅葉の顔は突然険しいものとなり、綾香に対して食って掛かる様に言葉を荒くさせた。綾香はその突然の彼女の変化に困惑の色を表情に浮かべるが、しかしそこでようやく記憶の中にモヤが掛かっていた紅葉という女性についての記憶が蘇ってきて思わず目を見開いてしまう。 「っ! その物言い……やっと思い出したわ。あんた、昔……“バトル・ザ・マジシャンズ”に出た事……あったわよね?」  綾香の指摘に紅葉の眉がピクリと持ち上がる。  バトル・ザ・マジシャンズ……それは10年ほど前に、ネット配信専用の番組としてカルトな人気を博していたマジシャン同士が対決する番組の一つだった。  自分の得意なマジックを見せ合い、そのタネを見破られれば負け……見破った者は次の放送にて続けて出演し挑戦者とまた対決をする。そして10連勝出来たマジシャンは“ピーク・オブ・マジシャン(マジシャンの頂点)”という称号を得て、地上波のTV出演権が約束されるという尖った番組だった。  綾香はその番組にカードマジシャンとして出場し、初出場から9連勝を叩き出すという記録を残していた。そしてその時、10勝目を賭けた挑戦者として名前が上がったのが……目の前にいる紅葉その人だったのである。 「あら、やっと思い出してくれた? 私の事……」  当時紅葉は顔を隠して番組に出演していた為顔や背格好だけではそれが彼女だとすぐには一致しなかったが、その特徴的な声だけは記憶の隅に残っていた。対戦を行う前の放送で“次の対戦者の意気込み”を聞かされるというコーナーがあったが、そこで彼女の声を聞いたのを思い出したのだ。   「声だけ……聞いた覚えがある。確か……私が……あの番組を去る前に……」 「……番組を去る? 何よその言い方……。違うでしょ? 綾香ちゃんは“逃げ出した”のよ! 10連勝を目前にして……私との対戦を拒否して……ね!」 「ち、違っ! あ、あれは……別にあんたから逃げたんじゃなくて……事情があって……」 「フン! 嘘ばっかり! 貴女は私との対戦を約束しながら逃げたのよ! 私に……負けるのを恐れて!」 「違うって言っているでしょ! あの時は……番組のプロデューサーに次の対戦の“勝敗”について話そうって呼ばれて……」  バトル・ザ・マジシャンズは典型的なヤラセが支配する番組だった。それはそれに参加した全ての人間が理解している事であり、皆それを知りながら暗黙の了解でその番組に出演し続けていた。  誰が負け……誰が勝ち、そして誰が地上波のTV番組に出演できるか……それは、制作側のシナリオ通りに進行していた。どんな手品を披露して相手にどんな風に種明かしをされるか……そういう事も、決められた段取り通りに行われマジックの演出よりも番組のドラマチックさを優先して放送が成されていたのだ。  出来レースのマジック番組だとマジシャン界隈では揶揄されていたが、出演料も知名度も地上波のTV番組に劣らず高かったため……数十名ものマジシャンがそれを黙認して番組の顔として出演しており、互いに競い合う演技を番組のためにし合っていた。綾香も紅葉もその中の一人だった訳で…… 「それってヤラセの相談だったんでしょ? それが何? ヤラセがあった事なんてアレに出てた人間全員が知っていた事じゃない!」 「そ、そうだけど……でも……」 「あの時も“10連勝を目前にしたカード捌きの女王綾香嬢を新人の私が華麗に負かせる”っていうシナリオが裏で組まれていたって知っていた筈よ? 貴女はそのシナリオが気に食わなくて勝手に逃げたんじゃない!」 「違うってば! そうじゃない……。私も、そのシナリオを知っていたし……従うつもりでいたわよ! あの時までは……」 「貴女が逃げたおかげで、私の華々しいデビューは見送られたわ。“彗星の如く現れた期待の新人”って紹介される筈だったのに……」  綾香は紅葉のその言葉から……なぜ彼女が自分に恨みの感情を向けているかの理由をようやく察する事が出来た。  彼女は……綾香に勝つというシナリオを与えられ、その後に自分の知名度が上がる事を期待していたのだ。しかし、綾香は“とある事件”が原因でその番組からもマジシャンという過去からも逃げる事となる。その事件の事を綾香は思い出したくもないトラウマとして抱えているが、紅葉から見れば綾香は自分のチャンスを潰して逃げていった卑怯者にしか見えていない。それ故深い恨みを抱き続けた事にも納得が出来る……きっと、ディーラーになって自分の職場にまで就職してきた事も……恨みを晴らしたい一心で追いかけてきた事だろう想像がついてしまう。 「勝手に去ったのは……悪いと思ってる。でも、私にも事情があって……」  事情をちゃんと話してあげたいが……あの時のトラウマを思い起こして口にすれば、そのトラウマが原因で行ってきた自分の悪行の数々も思い出す事になり心の負担が許容量を超える事になると予想がつく。だからどうしても言い淀んでしまう。  出来ればもう……思い返したくない過去……。掘り返したくない自分の汚点であると綾香はそれを記憶の底に封印していた。  本当は……こういう“被害者”にこそ真摯に語らなくてはならないと……分かってはいるが…… 「事情なんてこっちは知ったこっちゃないのよ。とにかく貴女はあの時“逃げた”……私はそれがどうしても許せなかった!」  今の恨みに駆られた紅葉に何を言っても話を聞いて貰えないだろう。どんなに真摯に言葉を紡いでも……聞く耳すら持ってくれないだろうと分かる。 「……分かった。その件については……あんたの気が済むまで私を罰したら良い。私はそれをちゃんと受け止めて謝罪するつもりよ……」  だから、綾香は言葉を今尽くす事を諦めた。今はどんな言葉も言い訳程度にしか捉えて貰えないと分かっているのだから……まずは彼女が言う“罰”を受けてから話をしようと……そう考えた。  しかし紅葉は綾香の謝罪を受け入れるつもりは無いようで…… 「いいえ、そんな形だけの謝罪なんて要らないわ。私は貴女の苦しむ顔が見たいの……自分の罪に後悔し喘ぎ藻掻き苦しむ姿を私は見たいと思っているの……ただそれだけよ♥」  っと、そのように言ってニヤリと笑みを浮かべた。 「そう……。っで? 罰って……なに? 私に何をしようって言うの?」  綾香は紅葉の笑みを見て諦めの息を零す。それを見た紅葉は先程と同じようにクスクスと小さな笑いを口から零し、意地悪そうな目で綾香の顔を見上げた。 「それについてだけど……聞くところによると、綾香ちゃんって……何やら面白い“弱点”をお持ちのようじゃない?」  紅葉のその言葉を聞いてギクリと綾香の顔が強張る。 「私ってば……貴女の弱点を“二つ”知っているんだけど……今日はその二つの弱点を突いて綾香ちゃんを存分に苦しめてあげようって思っているの♥」 「二つの……弱点?」 「そっ♥ その情報を聞いた時は思わず笑ってしまったわ♪ 本当にそんな馬鹿みたいな事して綾香ちゃんを苦しめられるのかしら? って……疑ったくらいよ♥」 「うっ……ぐっ! 馬鹿みたいな事って……何の事よ? 私に……何をする気?」  綾香の言葉にニィっと歯を見せる笑いを見せた紅葉は、両手を顔の前に出して構えを取り指先を適当に動かしてその弱点に繋がる行為の示唆を行った。 「綾香ちゃん……コレに弱いんですってね?」  指先がそれぞれ曲がり、その曲がった指がウネウネと蠢くような動きをランダムに行って綾香に正解を促そうとする。 「そ、その手……やめて! 見てるだけでも……気色悪いっ!!」  紅葉の手の動きを見て綾香は顔を横に振りつつ目を閉じてしまう。見ているだけで身体の側面や足先に刺激を想像してしまい、鳥肌が立つほどの悪寒が体中に湧き上がってきてしまう。 「ウフフ♥ 綾香ちゃんって……ホントにこんな“可愛いコト”されるのが嫌なんだぁ? 面白いよねぇ?」  綾香に向けていた蠢く手を、今度は自分で確認するように目の前でやってみる紅葉……彼女はその自分の指の動きを見てニヒヒと意地悪そうな笑いを零して再び視線を綾香に戻した。 「まぁ、こういう拘束をされた時点で察しはついていたでしょうけどぉ……でも改めて、本当にヤられるんだって意識させられると寒気がしてきちゃうでしょ?」  そう言って紅葉は手の動きを少しずつ緩めていく。そして、ジトっとした目で綾香を見て口元をニヤつかせる。 「綾香ちゃんはぁ~~~く・す・ぐ・りぃ♥ 弱いんだってね?」  そのねっとりとした言葉の言い方に、綾香はビクリと背筋を震わせ顔を強張らせてしまう。 「うぐっ!? く、くすぐり!?」  拘束された時点で嫌な予感を察してはいたが、改めてハッキリとその言葉を聞かされると途端に2年前の“あの地獄”を思い起こされてしまい、体中に虫が這い回る様な気色の悪い感覚を思い出しムズムズと落ち着かない気分にさせられる。 「そっ♥ ワキとかぁ~足の裏とかをぉ~~コチョコチョ~って触られるのが大の苦手なんでしょ? その話ぃ……たっぷり聞かせて貰ったわぁ♥」 「だ、誰に……誰に聞いたのよっ!! そんな事っ!」 「フフフ♥ それは勿論……麗華ちゃん♪」 「れ、麗華っ! あ、あんた! 敵になに余計な事話してんのよっ!!」  麗華の名前が出た瞬間、綾香は殺気のこもった目で彼女を睨みつける。麗華はその視線に「ひっ!」と小さな悲鳴を上げて、申し訳なさそうに顔を横に向けて視線を逃がす。 「ウフフ♥ 彼女を責めないであげて? だって……借金の返済を待つ条件の一つに、ゴールドベガスがなぜ潰れる事になったのかを教えろって私が言っちゃったから仕方なく喋っただけなのよ?」  睨む綾香の視線に目を合わせられない麗華は、顔を横から下に向けなおして「ごめんなさい」という言葉を小さく繰り返す。それを見た綾香は再び「ハァ」と息を零して怒り顔から呆れ倒した顔に変化させる。 「いやぁ……まさか、あのクールで表情一つ変えないカッコいいイメージの綾香ちゃんの弱点が“くすぐり”だなんて……最初聞いた時は嘘じゃないかって疑ったくらいだったわ」 「くっ…………」 「だって……くすぐりよ? 子供たちが遊びでやり合うような……あのくすぐりよ? そんなのが弱点って言われても……いまいちピンとこないのは当たり前じゃない?」  紅葉はその様に言葉を続けながら綾香の椅子の真下まで歩みを進める。 「そんなお遊びみたいな事でどうやって綾香ちゃんを苦しめたのか……私は麗華ちゃんに詳しくその方法を聞かせて貰ったわ……」  椅子に近づいた紅葉は、自分の目の高さにある綾香の膝頭を見つめそこに無造作に右手を差し向けていった。 「そしたら……くすぐる時に“拘束していた”って事が分かってさ……そこでやっと合点がいったの♥」  膝頭をその手のひらで円を描くように撫で始める紅葉……その撫でる刺激に綾香は脚をビクンと動かして拒否反応を示し顔を横に振って嫌がる仕草を取った。 「成程……逃げられないように拘束した身体をくすぐられるのは……確かに苦しくて辛い罰になるかもしれないわね……って♥」 「ちょ、やめて! 膝っ! 触らないでっ!!」  綾香の言葉に紅葉はクスリと笑みを浮かべ、今度は手を彼女の太腿の上に移動させ肌の上を摩る様に手のひらで撫で始めた。その刺激にも綾香はブルリと寒気が走る反応を身体にさせてしまい、面白がるように無遠慮に触る紅葉の顔を今まで以上に強く睨みつけた。 「実際……辛いんでしょ? こんな風に……ワキとか足の裏とかを丸出しにされた格好でくすぐられるのは……」  手は太腿を少し撫でると、今度は脚の付け根付近にある内太腿を撫でようと移動を開始する。綾香はその移動をブロックするように脚を閉じようとするが、肩幅に開かされた脚は綾香の力では閉じる事は出来ず紅葉の手の侵入を簡単に許してしまう。 「身体を反らして逃げる事も出来ない……。腕を降ろしたり足を振ったりして抵抗する事も出来ない……。刺激に弱い腋とか足の裏を無防備に晒された状態でヤられる“くすぐり”は……さぞかしくすぐったく感じるものなのでしょうね?」 「ふくっ!? くっっ!! し、知りたければ……経験してみると良いわ! どんなに辛いかなんて……すぐに分かるから!」 「ウフフ♥ 遠慮しとく♪ だって……想像しただけでこそばゆくなっちゃうもん♥ こんな風に拘束されて好き勝手くすぐられたらって考えると……思わず身体を捩って悶えたくなっちゃう♥」  紅葉の手が綾香の内太腿をコソコソとくすぐる様に刺激していく。綾香はその刺激に声を漏らすまいと口を固く閉ざして唸り声だけを零している。 「私でさえそう思うんだから……くすぐりに弱い綾香ちゃんからしてみたらきっと地獄なんでしょうね? 私のこの“愛撫”程度の刺激でも……耐えられずに目を瞑ってしまってるし、この手の刺激に相当弱いんだろうなってヤる前から分かっちゃうわ♥」  綾香の反応を見て満足したのか、紅葉は内太腿の奥へと入れる前にその手を肌から離して戻していった。綾香は刺激が無くなるとドッと疲れを吐き出すかのように口元に溜め込んでいた息を大きく吐き、力の入っていた肩を脱力させた。 「こんな感じに拘束を施して自由を奪った状態でくすぐって罰を与える事を……くすぐり私刑(リンチ)とかくすぐり責めって言うんでしょ? 弱点を剥き出しにされた格好で拘束されてその弱点を徹底的にくすぐられて無理やり笑わされ苦しめられる……そういう罰が昔は存在していたみたいじゃない?」  綾香は肩を震わせながら呼吸を繰り返し紅葉を強く睨む。  紅葉はその顔を優越感に浸る様な恍惚とした顔で眺め、いつの間にか隣に立った牡丹の背中をポンと叩く。 「その“くすぐり私刑”を……牡丹さんが再現してくれるそうよ♥ 彼女はね……こう見えて、かなりのテクニシャンだから……油断しない方が身の為よ?」  紅葉がそのように言うと綾香はギクリと顔を青ざめさせる。その顔を見た牡丹は手を前に組んで上品そうな立ち振る舞いを見せながらも、一歩前へ歩み出して挨拶するようにペコリと頭を下げる。 「私……昔、整体師の資格を取った事がありまして……。女性の身体を弄るコトへの心得は、多少は有る方だと自負しております♥」  牡丹の静かなその言葉に綾香は青ざめた顔を更に深い藍色に染め直していく。  自分の手足を拘束する為に触れたあの冷たい手が体中に這い回るという想像が湧きたつと、身体は勝手に身震いを起こし不安を過らせてしまう。 「まぁそんな訳だから、綾香ちゃん……敵ながら応援するわ♥ せいぜい頑張ってね♪」  紅葉の他人事なその言葉に、綾香は牡丹の視線から逃れる様に紅葉を睨み直す。  すると紅葉は何かを思い出したかのように両手をパンと叩いて言葉を続けた。 「あ、でもね? 最初っからは本気でくすぐる予定じゃないから……そこだけは安心してもいいかもよ?」 「……最初は本気じゃない? それはどういう意味よ?」 「フフフ……最初はね、さっき言った通り“余興”からスタートする予定なの♪」 「……余興??」 「そっ♥ この余興では、綾香ちゃんのもう一つの弱点を突こうと思っているわ♪」 「もう一つの弱点? そういえば……あんた私に弱点が二つあるとかなんとか言ってたわね?」 「そう。こっちの弱点の方が……貴女には効くんじゃないかとも思っているわ♥」 「な、何の事よ! 弱点って……ワキとか足の裏の事じゃなかったの?」 「ううん……“くすぐりに弱い”という弱点は言うなれば肉体的な弱点になるだろうけど……もう一つの弱点は肉体的ではなくて“精神的”な弱点になると私は思ってる♥」 「精神的? なに? それはどういう意味……?」 「言うよりも見て貰った方が早いかな……。牡丹さん? 彼女に“アレ”を見せてあげて頂戴?」  紅葉がその様に促すと、牡丹は「はい」と返事を返し着物の帯に挟んでいたあの“リモコン”を再び取り出してボタンを操作し始める。  牡丹がリモコンから指示を送ると綾香の目の前の床に入っていた丸い切れ目がウィーンと音を立てて左右に開き、その下から1台のPC用モニターが1本脚の背の高い丸テーブルに乗せられて姿を現した。 「なに……これ?」  目の前に現れたモニターは何の特徴もない普通のPC用のモニターに見えた。そのモニターはいつまで続いているのか分からない程長い脚のテーブルに固定されていて、綾香の目線の高さまでモニターを運ぶまで脚を延ばし続けて来る。やがて綾香と高さが合うとその動きはピタリと止まり、彼女の前に何も映っていない黒い画面を見せつける。 「……モニター?」  画面と向かい合う形となった綾香は、その何も映っていない画面を覗き込んで訝しそうに顔を横に傾ける。すると、暫くしてそのモニターは自動的に画面を映す動作を行い……綾香に衝撃の画像を見せ始める事となる。 「……? 人? 椅子に……人が……」  ボヤ~っと映し出されたその画面にはモゾモゾと動いている人のような姿が、モザイクが掛けられたように不鮮明に映し出された。しかし、そのモザイクめいた画面の不鮮明さも少し時間が経てばすぐに晴れていき……そして…… 「……ッっ!?!? な……」  画面の中に綾香と同じように椅子に拘束された女性の姿がハッキリと映し出され、綾香は思わず叫んでしまう。 「な、夏姫っ!? 何で夏姫が画面にっっ!?」  画面に映し出されたのは、夏姫だった。  昨夜、所在が分からなくなった……宮古夏姫……その人だったのだ。


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