『こうそく』違反 - 生徒会長の真実
Added 2023-06-16 15:00:00 +0000 UTC【前回までの『こうそく』違反】
とある学校に "少し変わった" 校則が存在した。
動機は "不明" だが、その校則を違反した園田 美緒(そのだ みお)は、 "拘束違反" に対する特別指導として、懲罰室での謹慎処分となった。
特別指導では全身を拘束され、その間は自分の意思では何も行えないため、生徒会がその世話役として充てられる。
今回、……ほとんどの機会にその役を買って出るのは、生徒会の中でも生徒会長であり、今年度は浅倉 文香(あさくら ふみか)がそれを担っていた。
特別指導最終日の放課後、文香が慣れた手つきで食事を与え、それと同じくらい慣れた様子で美緒は食事を摂っていた。
文香にとっては何度目かの世話役ではあったが、初めて特別指導を受ける美緒が同程度慣れているのは……おそらく『私と "同じだ" と文香は結論をつけた。
文香は最後に、残りの指導時間を『 "楽しむ" ように』と言い残して懲罰室を去った。
美緒の表情は見えなかったが、動機の核心に迫った文香の言葉にドキッとしたのは言うまでもないだろう。
【生徒会長の真実】
私の名前は浅倉 文香。
この学校で生徒会長をやっている。
この学校の生徒会は教師の代わりに校則(拘束)違反の特別指導を任され、特に生徒会長が主として行なっているが、生徒会に任された仕事はこれだけでは無い。
その仕事の一つとして、他の生徒会の子も "普段から" 世話役を担っている。
しかし、その対象は……違反者では無いのだ。
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歴代校長の写真が飾られているのを見たことがあるだろう。
その功績を讃えられ、功労者として学校の歴史の一部である校長は代々その姿を写真という形で残している。
その点で言えば、歴代生徒会長も功績…この学校で言うならば世話役と在籍中の拘束遵守…を讃えられるべきだし、飾られるべきで無いだろうか……そのように考えたのがこの学校の創設者だ。
また、単に飾ると言っても写真や絵である必要は無く、別の形もあるだろう。
現に創設者は銅像として学校の中庭に飾られているわけだし、偉人を称えて像を立てるのは昔からある習慣だ。
では、実際にどのような形で飾られているか……気になりますよね?
…私は生徒会長……飾られるのも生徒会長……もうお分かりですか?
ここからはその様子をお見せしましょう。
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「これより令和 XX 年度卒業式を開式致します。国歌斉唱」
「ん〜ん〜ん〜ん〜、ん〜ん〜ん〜。ん〜ん〜ん〜んん、ん〜ん〜ん〜ん〜。ん〜ん〜ん〜、ん〜ん〜ん〜。ん〜ん〜ん〜ん〜、ん〜んん〜。ん〜ん〜ん〜、ん〜ん〜ん〜ん〜ん〜んんん〜」
決してふざけているわけでも、鼻歌を歌っているわけでも無い。
むしろ真面目に本気で声を出そうと唸っているので、息継ぎも含めて結構キツい。
それでも生徒会長として卒業式で歌っているふりなどしたく無いし、これも最後だと思うとしっかりと歌っておきたいのだ。
「卒業証書授与」
担任から名前を呼ばれ、壇上に次々と登っていく卒業生。
この日に限っては手枷をつけている生徒は見られない。
左手を出し、右手を出して卒業証書を受け取り、一礼をして席に戻る。
何十人、何百人と繰り返され、卒業証書の授与は終わった。
「……以上336名」
卒業証書を受け取ったのは336名。
しかし、今年の卒業生は337名である。
本日欠席しているわけでも無いし、卒業できなかったわけでも無い……さらに言うと、間違いでも無い。
ちなみに受け取っていない1名とは私である。
『浅倉 文香』の名前は呼ばれなかったのだ。
私も卒業生ではあるが、他の卒業生とは異なると言うか……他の卒業生が学校を卒業すると言うなら、私は "人を" 卒業するのである。
そのため、他の卒業生が授与されている卒業証書は受け取っていないのだ……まぁそもそも受け取れはしないのだけれど……
その後、式辞や祝辞・祝電など長くつまらない時間が過ぎた。
「送辞。在校生代表〇〇さん、お願いします」
送辞は毎年、在校生代表として生徒会の副会長が読んでくれる。
また、この学校では副会長は次期生徒会長の座が決まっていて、卒業式が終われば自動的に生徒会長になるのだ。
つまり現生徒会長の私は昨年、副会長として送辞を読んだ……何とも感慨深く、とても懐かしい。
「記念品贈呈」
送辞に続いて行われたのは卒業記念品の贈呈である。
送辞の次は答辞が一般的であり、珍しいと言うか、このような学校は他に無いだろう。
そして記念品は毎年、生徒会長の像だと決まっている。
銅像ではなく…… "生徒会長を像にした" と言うべきその記念品は、壇上に運ばれてお披露目された。
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およそ一週間前、大理石で出来ている像の台座の上部には穴が空いており、その中はくり抜かれて空洞だった。
そこに両足を入れ、隙間にコンクリートを流し込むと、膝上辺りまでが埋まった。
コンクリートはちょうど卒業式当日に固まる予定であり、そうなれば私は台座に固定されることになる。
動かせるのは膝上…腿の辺りから上半身のみ。
しかし、全身をラバー製のスリープサックに包まれているため、腕を動かすことは出来ない。
そのため、全身を一つの塊として前後左右にうねることしか出来ないのだ。
もちろん頭を含む全身が包まれており、その入り口は足元にあるため、コンクリートが固まってしまえば破く意外の方法では脱ぐことは叶わない。
…糞尿の処理はどうするかって?……尿道にはカテーテルが挿入され、その先はお尻へと向かっている。
お尻にはカテーテルの他にプラグが挿入され、それにカテーテルが接続されていた。
私のおしっこは、私の意思とは無関係にお尻に浣腸される。
お尻のプラグはスープサックと溶接されており、スリープサックを着用したままでも排泄可能となっている。
しかし、プラグは常に開いているわけでなく、別のチューブと繋いでからコックを捻ることで開かれる。
おしっこの浣腸によって便秘になることは無いが、自由にうんちが出せるわけでも無いので、お腹が妊娠したように膨らむこともある。
この膨らみがおしっことうんちだと思うととても恥ずかしい。
排泄時は、チューブが挿入されているため括約筋を締めることも出来ず、うんちもまたおしっこと同様に私の意思とは無関係に流れ出るのだ。
さて、汚い話はこのくらいにしておいて……頭を含めて全身がスリープサックに包まれていると言ったが、これでは中身が誰だかわからない。
黒いのっぺらぼうとでも言った方が良い状態で、個性と言えるものは存在しない。
そのため、台座の銘板には『第34代 生徒会長 浅倉 文香』と彫られており、その上には私がこの学校で人だった時…生徒だった時の写真……学生証の証明写真が貼り付けられるのだ。
最後に、呼吸と食事のために唯一残された口には、必要な時を除いて栓のついた開口マスク……フェイスクラッチマスクが嵌められた。
特別指導と異なり、フェイスクラッチマスクなのは……。
そんな状態の私が、今年の卒業記念品である『生徒会長の像』なのだ。
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「答辞。卒業生代表 浅倉 文香さん、お願いします」
送辞が副会長であるならば、それに応える答辞は生徒会長が道理であろう。
しかし私はすでに卒業記念品であり、喋れない。
フェイスクラッチマスクをつけた私が、言葉にならない声を出して喘いでる姿を見て……股を濡らす人はいても、感動で涙を流す人はいないので……私が人だった時に録音しておいたテープが流される。
生徒会長として全校生徒の前で何度も話した私の言葉を直接聞くことは、今後一切ないだろう。
「校歌斉唱」
「………」
記念品として学校に寄贈された私は歌わなかった。
もし像が歌ったら、学校の七不思議になったかも知れない……なんてねっ!
「以上を持ちまして、令和 XX 年度卒業式を閉式致します。卒業生退場」
卒業生が去っていく、卒業記念品の私を残して。
卒業生が退場した後、生徒会の子たちが像の周りに集まってきた。
しかし、元生徒会長の私との別れを惜しむためでは無い。
……そもそも私はずっと学校に "ある" わけだから、今日ここで別れるわけでない。
もし別れがあるならこの子たちが無事卒業した時、私を残してこの子たちが旅立っていくのだ。
では何をしに来たのか……それは私を運びに来たのだ。
……突然ですが、皆さんは生徒会の仕事を覚えていますか?
生徒会長以外も普段から世話役を担っており、その対象が違反者ではないと……
私は第34代生徒会長として……第34代生徒会長の像として、その末席に加わった。
Comments
特別指導で美緒ちゃんのお世話をしていた時も、この時のことを考えていたらと思うと『私と同じ』と言うセリフに納得出来ますよね……そうは言っても誰でもなれるわけでは無いし、チャンスは一度で毎年一人だけしか生徒会長にはなれないから、このために努力した文香ちゃんには楽しんで貰いました。
macaroon(まかろん)
2023-06-17 17:55:03 +0000 UTC人間からの卒業って響きがいいですね。文香ちゃんも自分の人生終了するのを楽しんでるようでよかったです。
アパレルシティ
2023-06-17 14:55:54 +0000 UTC